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(1) 民事裁判手続IT化への取組 (2) 裁判情報処理システムの構想と始動 (3) システム化の前提要件 (4) 今一つの効率化ソフト (5) パーソナルなデータベース(別稿) (6) 民事交通訴訟事件とIT化 (7) 民事裁判IT化の未来 (8) 民事裁判手続のIT化と民事裁判のIT化 (9) チャットGPT時代の訴状作成自動化ソフト (10) 貼用印紙額の簡便計算法は民事裁判IT化に役立つか すぐ使えるWordによる貼用印紙額計算マクロ (11) 訴状1枚目(当事者目録等)自動作成ソフトの案内 |
2022/2/9 (1) 民事裁判手続IT化への取組 今,「民事裁判手続のIT化」が進められていますが,基本的なことは,見たい書類,資料がすぐ読める,すぐ分かる仕組み作りが重要です。 紙の資料をペラペラめくるのではなく,必要な資料が項目別に整理されており,必要な情報が素早く検索され,関係者に直ちにその情報が共有化され,法的判断の方向性が見通せるのでなければなりません。 「IT化」と言われていますが,現代では,一般に「通信」に重きを置き,ICT(Information and Communication Technology)化と呼ばれる方が多くなっているようです。裁判の基本にあるコミュニケーションと情報の共有化を,紙ベースでなく,電子的な仕組みで,どう実現していくかが問われています。 今は,裁判所と弁護士等とでWebを通じた会議や書面の交換システムの基幹構築の段階にあるようですが,基本は,1人1人の担い手がパソコンをどう使って法律的な電子情報処理をどう効率的に処理できるかにかかっていると思います。電子書面の交換が実現できた先で,依然として,紙にプリントアウトしたり,パソコン画面に眼をこらして電卓をはじいたりするようでは,最終フェーズの到来は望むベくもありません。 「情報交換システムができてからどうするか」ではなく,将来を見据えて何が必要な情報か,どう整理して,どう効率的な処理を図るか,情報交換の先にある,電子システムを利用した生産的な情報処理と活用の仕方も考えていかなければなりません。情報活用の考え方やコンセンサス,内部的な情報処理をさばけるサブシステムやツールができていないと,有効に機能しません。電子的な処理を見据えた,1人1人の情報の迅速な検索と情報処理(読み・書き・算盤)の仕組み作りは,今,もう始まっています。 民事訴訟の三本の矢(法苑188号) (整理,計画,協働) (実務の友管理人) |
2022/4/4 (2) 裁判情報処理システムの構想と始動 民事裁判手続のIT化については,既に拙著『コートマネージャーとしての裁判所書記官』(風媒社・2019年)で触れ,下図(同書302頁)を掲載し,その計画と問題点,今後の課題等について書きました。 この民事裁判手続のIT化の計画は,ITを活用して,裁判所に「事件管理システム」を構築・稼働させ,@オンライン利用による訴状,準備書面等の提出(e-Filing),Aウェブ会議利用による審理(e-Court),B 電子データによる事件の進行管理・期日調整・判決発出(e-Cace Management)等,民事裁判手続の「3e」の実現を図るものです。 新聞・TV報道によれば,2022年2月14日に法制審議会が,民事裁判手続の全面的IT化の改正要綱を取りまとめ法務大臣に答申したということです。2025年度中の全面実施を目指し法整備され,今年度からオンラインを利用して「3e」が部分的に先行実施され,本格的に動き出すようです。 民事裁判手続は,裁判情報処理システムの観点からみれば,上図のとおり,訴状等の申立内容を「入力」し,裁判所で「審理処理」され,最後は処理結果が判決として「出力」される手続です。 現在の取組は,当事者(代理人弁護士)と裁判所間の入力部と出力部において,裁判情報の電子的な交換と連携,共有を図り,審理の充実・促進を図ろうとするものと言えます。 そのシステム自体は,現在のIT技術力によれば,それほどの困難はなく実現できると思います。そのシステムの入力部と出力部では,紙に印刷する手間は省け,人は動かずして机上の電子機器の操作だけで済みますから,時間的,経済的な負担は大幅に軽減されて便利この上なく,情報交換も円滑に,敏速に行われるようになります。 しかし,いいことずくめなのかは,また別に考えておかなければならないと思います。 |
2022/4/5 (3) システム化の前提要件 「3e」化により裁判所利用の利便性と迅速性は向上し,利用者はその便益を享受できますが,問題は,その入力と出力の間にある内部的な処理過程,そこでの情報処理力です。 「3e」が実現していけば,裁判所には,入力面で,オンラインによって,多方面から,大量の事件ごとに,それぞれに内容や書き方の違った電子ファイルが,大量に送り込まれることになります。あふれる電子情報を,どのようにして遅滞なく,適切に捌いて処理するか。「裁き」の前に「情報捌き」が問題になります。この捌きには,不正アクセス防止,セキュリティを確保しつつ,法的要件,要件事実該当性の具備,正確な表記のチェック等が必要になります。 そこでは,電子情報をパソコン画面を見て,紙に印刷することなく、必要な情報を読み取り,複雑な内容を整理し理解しなければなりません。ウェブ会議等を利用するにしても,釈明をし争点を整理し,電子情報化された証拠と対照精査し,適正に法律的な要件充足性等の判断処理を下し(内部処理),判決書を出力していくことは,そう簡単なこととは思えません。 従来のように,常に印刷物として提供された主張と証拠書類に基づいて,内容をチェックし精査していくのとでは,大きな違いがあるように思われます。この電子情報受取り後の反論等、訴訟対応時の問題は,裁判所だけでなく,代理人弁護士の立場でも,同様と思います。 電子情報はPDFファイルで提供されるようですが,それだけでは,紙に書かれた情報が電子画面に置き換えられて表示されるだけですから,さらに電子的な書面を基に,これを「読み」、「書く」知的な作業を効率的に行うためには、その情報処理の効率的な仕組みを工夫する必要が高くなります。 交通事故訴訟を例にとって考えてみると,現状では,分厚い紙ファイルから該当の縦横一覧表を検出し,そこから求める数値を拾い出し,電卓をたたいて計算し,その結果をパソコン画面のワープロに打ち込んで,分かりやすい書式で書類を作成する分野もあります。 「3e」化が進んでも,なおこのような面倒な手作業をしていたのでは,電子情報化,ペーパーレスの実現とは言えません。情報処理力は,紛争解決力に直結します。 「3e」が実現された先には,これまでの紙ベースの情報交換とは違った面での情報処理の方法や技術,情報リテラシーが求められます。既に検討されているとは思いますが,「3e」が実現される前に,検討しておかなければならない問題が大きいと思います。紙ベースを前提とした実務処理の仕組みをどう変えていくか,電子情報を基に,効率的な情報整理と自動処理の方法,分担と協働の態勢等,新たな仕組みと態勢の組織開発に力を入れていかなければなりません。これは,裁判所内部の課題となりますが,利用者(法律事務所等)の課題でもあります。その取組がなければ,内部的な情報処理力は伸びず,適正迅速な裁判の実現は望むべくもありません。 今人気の朝の連続ドラマを見ていたところ,古いタイプの時代劇の老役者から,「日々鍛錬し,いつ来るともわからぬ機会に備えよ」という言葉が聞かれました。 システム開発とは違いがあるでしょうが,何か共通項も感じます。いつ必要とされるかもわからぬ機会に,どのようにも対応できるように,将来のあるべき姿を描き,その効果的な実現をめざし,日々鍛錬してその思考と技術を磨き,組織的な能力開発,事務改善に備えなければならないと思います。 |
2022/4/6 (4) 今一つの効率化ソフト 「3e」実現の事件管理システムは,裁判所組織を中心とした大規模な裁判情報処理システムで,これは前述のとおり,当事者と裁判所間の情報の交換と共有を入出力関係で効率化するものですが,「入力→情報処理→出力」の処理場面では,裁判官なり弁護士なりが,必ず個々人において「読み・書き・算盤(計算)」の種々の情報処理をして,その作業の連鎖で組織的な情報処理が成り立っていきます。 ここでの情報処理が,今後どのように合目的的,効果的に活用,工夫されて結果を出していくかが,司法全体としての情報処理力(紛争解決力)につながっていきます。 ここで,交通事故訴訟の場合を例に,効率的なソフトの紹介をしたいと思います。ここでは,ソフトの宣伝や抽象論の提示というより,IT時代におけるシステム的な考え方と実務的な実践例を提示するところに重点があります。 交通事故訴訟において,当事者双方にそれぞれ123万4567円,65万4321円の損害が生じ,それぞれの過失割合が20:80の場合の各自の請求額(負担額)はどうなる,30:70の場合はどうかなど,各場合に応じて素早く計算ができれば,判決結果の予測もでき,和解の見通しもつきます。これを電卓を利用して計算していたのでは,時間もかかり面倒な作業となります。これをパソコンを利用して,過失割合に応じてシミュレーションとして一覧表ができれば,訴訟や和解の有益な検討資料になり,当事者,保険会社等の事前検討も容易になります。 交通事故損害賠償請求事件の負担割合計算ソフトの紹介とフローチャート,操作案内(このソフトは、現在、ダウンロード終了ですが、同様の機能は、後述の「JC数式計算機(交通事故計算拡大版)」で実現しています。) このソフトは,Wordのソフト1本の利用により,瞬時に,@過失割合による負担割合額の計算,A過失割合ごとの一覧表の作成,B和解条項としての文章作成を自動的に実行してくれるものです。これは一例ですが,1回の入力だけで面倒な計算と文章作成の多様な処理が自動化され、敏速に一括処理される効果を得ることができます。 こうした発想と仕事のシステム化により,裁判結果の予測と時短の可能性が高められ,裁判実務の効率化と審理の充実,質的向上が図られていくものと考えられます。 IT化は,単に紙媒体の情報が電子化に置き換わるものではなく,煩瑣な,あるいは反復の処理が電子化により一括・自動処理され,時間・労力の節減効果が審理の充実と質的向上に向けられていくものでなければなりません。 これからの時代は,組織的な事件管理システムの適切な運用とともに,ウェブ会議等による口頭議論の活発化,個々人の情報リテラシーの向上を図りつつ,こうしたいわば小間物のソフト(ITツール)の開発・利用により,民事裁判の一層の適正・迅速化を図っていく必要が増大していくものと考えられます。 |
2022/10/24 (5) パーソナルなデータベース 1 法律学のための知的「データベース」の構築(判例データベース) (判例データベースと法律実務家のための法律情報処理機) 2 JP リーガル・データベース - 判例・法情報の快速収録・検索・活用ソフト - |
2023/2/20 (6) 民事交通訴訟事件とIT化 昨年(2022年)5月には、簡裁裁判官の経験に基づき、初心者向きに『簡易裁判所における 交通事故訴訟と和解の実務』(新日本法規出版・2022年5月)を出版しました。 この交通事故訴訟は損害額の分担をめぐる争い事であり、「計算」により結果が導かれる面が大きい。事故の過失割合と損害額の算定等では、判定の基準が示され、これまでの実績により全体として定型化、定額化が進んでおり、事案の過失割合、損害額が定まれば、判決結果も数値の計算結果で見通せる場合が多いと思います。この点では、IT化に適した訴訟類型といえます。 しかし、「計算結果で見通せる」といっても、いざ計算するとなると、判例や資料本を探し出し、あちこちに掲載された過失割合の算定表や慰謝料算出の数値表等を見て、データや数値を調べ読み取って、適正と考える金額をパソコンに打ち出して算出するわけですが、これには手間と時間がかかります。 ライプニッツ係数を自動算出し「逸失利益」を簡単に算出する計算機は、「実務の友」でも早くから取り組んできましたが、上記の本を執筆するに際しては、傷害慰謝料(入通院慰謝料)を計算する仕組みを調べ、これをパソコンで計算できるように考えてみました。過失割合による損害賠償の負担金額の計算も、損害額がほぼ確定すれば、シミュレーション的に一覧表に出力し、和解交渉の手元資料とすることもできるように考えました。 パソコンで計算できるようにすれば、必要なデータを打ち込めば自動的に計算結果を出してくれるのですが、法律実務では、計算結果が分かればいいというものではありません。どのような計算根拠に基づき、どのような計算方法により、その計算結果が得られるのか、これを明らかにする必要があります。交通事故訴訟の訴状なり準備書面、判決に至っても、証拠とともに、その論理過程(計算式)を明確にしなければなりません。 上記の拙著でも、できるだけ、その計算方法と計算式を明らかにしましたが、同時に、それをアプリ(ソフト)としてプログラム化したらどうなるのかも、考えてみました。その内容を紙ベースの書籍の中でDVD付きで明らかにすることはできませんでしたが、これを「JC数式計算機(交通事故計算拡大版)」(ソフト流通サイト=Vector「JC数式計算機(交通事故計算拡大版)」)の中で公開して、使用できるようにしています。 逸失利益なり傷害慰謝料の「計算式」が目に見えて分かれば、弁護士は、依頼者に対して説明しやすくなるでしょうし、裁判所に提出する書面に、その計算式をコピー&ペーストすれば、これまでより迅速に、書面作成ができるようになります。 民事裁判手続のIT化は、面倒な計算や作業を能率化するだけでなく、デジタル化により自動化することで、人間の作業負担を軽減するものでなければなりません。 民事裁判のIT化は、紙に書かれた基準や数値データがそのままの形でデジタル化されるのではなく、その電子情報を基に、機械に任せられる部分は機械で自動処理されるようにならなければならないと思います。 ライプニッツ係数の生みの親・17世紀の哲学者ライプニッツは、自ら自動計算機を製作し、「立派な人間が計算などという誰にでもできることに時間をとられるのは無駄だ。」と述べています(拙著前記「交通事故訴訟と和解の実務」222頁「コラム ライプニッツ係数の由来」)。 |
2023/3/5 (7) 民事裁判IT化の未来 今、民事裁判手続のIT化が進んでいます。 今は、パソコン・ワープロ等で作成した訴訟書類を電子的にオンラインでやり取りするだけの「相互交換」のレベルのように思われますが、いずれ訴訟書類は全て電子化されということです。そのときには、訴状も判決も、逐次文字を打ち込んで「書く」というより、機械システムで必要な文を組み立て「作成」し、電子的な情報に「検索」したり「加工」したり「計算」したりなどのデジタル情報処理を行ったりする時代になっていくのではないでしょうか。 弁護士の仕事も、裁判官の仕事も、その仕事内容は、大きく言って「作業事務」と「判断事務」に分けられますが、2,30年以上前からも、今も、作業事務の方に手間と時間が取られすぎているように思えます。その典型例は交通事故訴訟に見られると思いますが、今でこそネット検索で管轄裁判所を確認し、裁判手数料一覧表から請求額に応じた貼用印紙額を読み取り、専門書籍の「縦横の計算表」から電卓片手に慰謝料を算出し、年齢を調べ、所定のライプニッツ係数表から数値を読み取り、また電卓で計算し、それらの結果をワープロソフトで文章化して訴訟書類を作成するという複雑な検索・判断と計算の作業事務が欠かせません。しかし、情報検索と複雑煩瑣な計算、ここには、パソコンにより自動化が可能な部分が多くあります。 民事裁判のIT化と審理の充実には、訴状や準備書の電子書類の相互交換、事件管理や期日管理等の組織的な基幹システムの構築が重要となりますが、依然として、紙ベースの表や、これをそのまま電子化した表にしただけのデータや情報を見ながら、電卓をはじいて計算して、それをまたパソコンに打ち直すような仕事の実態が変わらないとしたら、ペーパーレス実現のIT化の夢は遠くなってしまいます。 弁護士や裁判官等は、高度な教育により法的な知識と考え方、問題処理能力は身についていると思いますが、日々の問題処理を的確にこなしていくには、判例・学説等の情報検索と学習のほか、間違いない計算をする計算力、問題処理力が必要になります。これにはIT時代にふさわしいツールが求められます。これからの時代は、個人の知的能力以外にITツールの開発と活用力が重視されるのは確実と思われます。原状では、それが少なすぎる。そこが日本の法曹IT化が遅れている問題だと思います。 実務の友では、裁判申立に必要なものとして、20年以上前からパソコンソフトとして、裁判手数料計算機、管轄裁判所検索機、当事者目録自動作成機、交通事故に関係する逸失利益計算機、慰謝料計算機等を作成し、公開してきましたが、仕事は、一連の作業連関の中で相互に必要となるものですので、民事裁判のIT化という大きな組織的な取組の時代には、個人作成の、単体の計算機、情報検索機が作られても、それほど役に立つものではありません。それらは、パーソナルな場面で、細かな有用な情報処理機として使えるものに限られてくると思われます。 実務の友として、もう最後の取組課題になると思いますが、当事者目録等自動整形ソフトを発展させて、訴状1枚目の自動作成ソフトの開発に取り組んでみました。 このソフトは、今現在はプロトタイプのものですが、限定的ながら実用的なものができたかと思いますので、今後のIT化の現実の姿を想像していただくために、3月中には、そのソフトを公開したいと思います。日本初?の訴状自動作成ソフトになるかもしれませんし、否、既に開発されているかもしれませんが、仮にそうだとしても、試用期間限定ながら、無料で体感できるところに大きな違い?があるかもしれません。 IT化の未来には百の議論も大事ですが、その現実の仕事ぶりの変容を考えるには、パーソナルな面で、目に見える具体的な法務用ソフトの実践的な工夫と開発競争、積極的な活用と評価が大切ではないかと思います。 |
2023/3/11 (8) 民事裁判手続のIT化と民事裁判のIT化 現在は「民事裁判手続のIT化」の検討が進んでいるようですが、「民事裁判手続のIT化」であって、「裁判のIT化」ではないのですね。しかし、手続のIT化が進めば、いずれは、手続のみならず、裁判の判断処理の面でも、論理的な法的判断と文書の自動作成等の電子支援システムの開発、高度化が進んでいくものと思います。 そこではAIの活用があると思われますが、法律実務は合理性と納得性が求められる分野です。それがどのような場面でどの程度に可能なのか、具体的な法律事実と法的処理をする中で、機械(コンピュータ)に委ねられる部分と人間が判断すべき範囲を明確に区別して検討しておかなければ、「できたらいいな」の夢物語に終わってしまいます。その前の段階で、法律的な要件事実に従った法的判断につき、その論理構造の分析と実践的な支援システム化を具体化していかなければならないと思います。いきなり便利なAIが実現するとは思えません。 さて、今現在できあがっているプロトタイプの「訴状1枚目の自動作成ソフト」は、マイクロソフト社Wordに内蔵されているVBA(プログラミング言語・Visual Basic for Applications)を利用したものです。マクロとも呼ばれることがありますが、マクロは単発的な操作手順を命令語で記録化した機能であり、VBAはプログラミング言語で、一定の目的を持ち、複雑な操作手順を命令語の組み合わせで自動処理できるようにしたものです。いずれもExcel等のOfficeソフトに内蔵されており、利用しようと思えば、いつでも利用可能なものです。 このVBAの利用により、Wordは、文書作成・浄書機としてだけでなく、データ処理や計算処理もできます。その利用の仕方により、繰り返し行われる事務作業、複雑煩瑣な作業も自動化することができ、しかも文書作成機能に直結して、その事務の自動化、軽減化、効率化にかなり役立つものとなります。 金銭債務の和解や和解に変わる決定、調停等では、「いつからいつまでの間、いくらずつを、いつまでに支払う」というような分割返済の約束条項が作成されるのですが、これをVBAを利用して条項作成の自動化ソフトを自作して自分限りの仕事に利用したところ、時間・労力は軽減され、約3分の1で済むように実感したことがあります。 これは、「民事裁判手続のIT化」というより、「民事裁判のIT化」の場面と考えた方がよいかもしれません。 今回は、訴状1枚目の記載事項や当事者目録をWordのVBAで作成してみたわけですが、実務経験に基づき、こんなソフトにしたら便利だろうとアレコレ考えて作っていったところ、VBAでは限界のある膨大なものになってしまった感があります。思い描いたようなソフトに仕上げるには、幾度も失敗し、プログラムを組み直し、大分時間を要し、苦労したというのが実情です。 書店にはExcelVBAに関する本は数多並んでいるのですが、Word・VBAでプログラムの組み方を解説した本は、現在のところ皆無といえる状況です。 Word・VBAに関する本では、次のようなものが出版されていますが、いずれも10年以上前に出版されたものばかり、今書店で見い出すことはできません。
WordでVBAによりプログラムを組む場合、文書作成部分を除けば、Excel・VBAと共通した部分が大部分なので、多くはExcel・VBAを参考にしてプログラムを組むことができます。しかし、法律実務のプログラムとなると、参考になるものは極めて少なく、自分で考え出すしかない場合が多くあります。 プログラムをどう組めば望む結果が得られるか、アルゴリズム(解法)を考案して試行錯誤を重ねていきます。プログラムを組めば、すぐできあがるというものでもなく、何度も点検、修正を繰り返さなければならなかったり、半日かけてようやくできたと思いきや、最初から全部作り直さなければならなかったりすることもあります。 こうしたことにもめげず、VBAの命令語を駆使し、if〜then(もしAであれば○、そうでなければ×と、条件分岐処理のif文)、for〜next(数値、文字列処理を図る繰り返し処理文)、変数の扱いと計算処理等が自在にできるようにならないと、目的を効果的に実現できるプログラムにはなりません。法律関係の実務処理に役立つソフトで、しかも操作しやすいプログラム(ソフト)を作ろうとすると、相当複雑なプログラムになります。自分で言うのも何ですが、苦労に苦労を重ねてできたソフトです。 このソフトの名称は、「Word Tailor」としました。洋服(スーツsuit)の仕立屋さんが、客の要求に応じ、登場舞台を思い描いて、最上の生地(ここではWord)を選択し、目的にふさわしく型紙で裁断し、技を駆使して一挙に縫い上げて仕立て上げる、というイメージです。詳しいことは分かりませんが、英語で、「law suit」には、訴訟、訴状の意味があるようです。 |
2023/3/22 (9) チャットGPT時代の訴状作成自動化ソフト これまで書きましたように、現在、訴状1枚目(当事者目録等)自動作成ソフトを、アプリケーションソフトWordに内蔵されているVBA(プログラミング言語・Visual Basic for Applications)を利用して制作しているところです。 Wordで、データを扱う場合には、そのテキストデータを外部ファイルに保存し、読み込んで使うわけですが、個人情報を多く含む裁判実務データでは、ファイル管理、個人情報管理(当事者情報、事件内容)に関するセキュリティ対策が重要になります。この関係では、3月に入って、二重ロックのセキュリティシステムを考案しましたが、これが正確に動くようになるまでには、ずいぶんと試行錯誤を繰り返し、苦労してきました。 前回、この欄で、民事裁判のIT化、AI化の将来について、
この3月15日前後から、新聞、テレビ等で、AI(人工知能)を試用した対話型の質疑応答システムが開発されたとのニュースが報じられました。米国・オープンAIの「チャットGPT4」、グーグルの「バード」、中国・百度の「文心一言」などが、話題となっています。いずれも、文字を入力して質問をすれば、これに対し、蓄積された知識・情報によりAIにより文章化した回答が得られるという仕組みのようです。GPT4は、無料で使用でき、日本語、画像での質問・回答もでき、その回答の正確性の精度も飛躍的に向上したということです。 こうなれば、日本の法律実務にいう「要件事実」論や「判例」も、すべてデータベース化され、法律の試験問題を入力すれば、簡単に正解を出してくれる日も近いように思えます。 こういう時代に至ったことを考えると、今ここで述べている自作の訴状1枚目の自動作成ソフトなど、実に、ちっぽけで陳腐なものに思えてしまいますが、AIは既知の一般的な言語表現や知識、情報、データを基にして、質問と回答に関係するものを分析・検索し、推論した限りで文章化するものと考えられます。個別具体的な事案、事実に基づいて訴状まで自動生成するのは、まだまだ先のことのように考えられます。 長年簡裁の裁判で判決を書きながら、趣味として実務ソフトを考えてきたアマのプログラマーにとって、どれだけの自動化ソフトが制作できるか、3月中に、一応予告どおり公開したいと思います。試用期限がありますが、興味のある方にご覧いただければ嬉しく思います。 |
2023/3/24 (10) 貼用印紙額の簡便計算法は民事裁判IT化に役立つか(Wordマクロ付き) 公開予定の「訴状1枚目(当事者目録等)自動作成ソフト」では、訴額を入力すれば、ボタン1つで直ぐ貼用印紙額を自動算出し、請求の趣旨に同額の請求額を表示できるようにしています。 この貼用印紙額は、現行では「民事訴訟費用等に関する法律」第3条の別表第一の1項により計算するのですが、初学者にとっては、条文を読んでも簡単に正確な計算ができるものでもないようです。 もし計算方法が分からなければ適正な印紙が納付できず、裁判所書記官から指摘を受け、正されなければ補正命令を受け、補正しなければ訴状却下の憂き目にもあうということで(民訴法137条)、神経を使う場面といってよいでしょう。 (1) 貼用印紙額の計算は難しくない? 1968年(昭和43年)当時、判例時報のコラムに、不承げに「ヤメ検弁護士」と自称する弁護士の開業時の苦労話が掲載されていましたが、印紙額の計算については、「たいして難しいものではない」として、価額1234万5678円の場合の印紙額の計算式を、次のように示していました(木宮高彦「検事と弁護士」判例時報523号14頁。同524号12頁で計算式を訂正)。
(2) 貼用印紙額の簡便計算法 これに対し、数学好きだった故倉田卓次(東京地裁判事)は、同年、訴額1万円未満を切り上げてx万円としたときの第1審訴状の貼用印紙額について、次のような簡便な計算法を紹介しました(判例時報527号46頁「貼用印紙額の簡便計算法」)。
その後、1071年(昭和46年)には、前記印紙法は「民事訴訟費用等に関する法律」に改正され、倉田判事からは「新しい訴状印紙額の簡便計算法」が発表されました(判例時報628号23頁)。 これに対しては、栗原淳弁護士から、さらに、次のような別の「新しい訴状印紙額の簡便計算法」が発表されました(切上額をx万円とする。)。具体的な事務処理方法の提示です(この例の「30≦」は正確には「30<」と思います。)。
これにより、印紙額の簡便な計算法は、訴状を提出する弁護士のみならず、訴状受付の裁判所にとっても、実務上大変重宝されたものと思います。 (3) 現在の貼用印紙額の計算法 その後、印紙額計算方法の金額が引き上げられ、「民事訴訟費用等に関する法律」の現行規定に至っているわけですが、これを前記の計算法にならって書けば、次のような計算方法になります。
右側の計算式は、100x,50x、40x、30x・・・とシンプルな数字が並び、端数も10億円までは、順次倍数が並び、覚えやすくなっています。この簡便な計算法をメモしておけば、すぐに計算は可能となります。 (4) 簡便な計算方法の功罪 1980年(昭和55年)代になると、パソコン、ポケットコンピュータ(ポケコン)の利用が広まり、裁判所書記官等も簡単なプログラムを組み、簡単に正確な計算結果が得られるようになりました。しかし、プログラムを読める人、書ける人は極々少数にとどまり、ソフトのプログラムは公開されることが少なく、多くの人がプログラムの仕組みを知り、法曹・法律実務家全体としてコンピュータリテラシーが向上するには至りませんでした。 現在では、仕事上、パソコンを1人1台使用できるのが当たり前の時代になっていて、この「実務の友」でも貼用印紙計算のソフトを備えるようになりました。ところが、法曹・法律実務界で、こうしたソフトのプログラム作成法の教育に力を入れることは少なく、ソフトを作っても、その後の維持・修正をすべき担当者の確保やソフト購入の予算面で困難があったりして、管理者から積極的な支援がない場合が多くあり、法律実務のプログラム開発は広がりませんでした。こうした諸般の事情により、裁判実務では、上記の簡便な計算方法と、訴額に応じた手数料早見表を見れば足りるとの思考が幅をきかせてきたのではないかと想像します。 しかし、上記の簡便な計算法や早見表の利用は簡便ではありますが、現行の「民事訴訟費用等に関する法律」第3条の別表第一1項の規定と読み比べてみると、なぜ、そのような計算方法が導かれるのか、条文を読んで直ちに理解できる人は多くはいないと思います。 法曹、法律実務家は、法律の条文規定に従って実務処理をしなければなりませんが、今、印紙計算の法条文のみ示されて「1234万5678円の場合の印紙額を計算せよ」との試験問題が出たとしたら、正解者はどれほどいるのでしょうか。 法条文の文言に当たることもなく、どう計算したらよいのかを考えることもなく、簡便な計算法や早見表、出来合いのソフトに漫然と依存して実務処理をしている実情があったとしたら、それ以上の工夫や改善努力の必要は生まれず、この一事が象徴するように、全体として裁判のIT化を遅らせた要因だと言えなくもありません。パソコンを文書や資料の作成・編集機としてだけでなく、IT化対応の事務改善ツールとみれば、問題は大きく変わってきたと思います。 もしこうした簡便な方法で事足りるとする要因や思考態度が現在でもあるとしたら、今後裁判のIT化が進んでも、法条文解釈の基礎的な法的知識や思考力を欠くため、システムエンジニアとの連携が不足したり、より良いシステム化の創造的思考や開発ができなかったりすることも心配されます。 まして、IT化を考える中心の指導層において、法条文の理解ができない、プログラム1つ書いたことがない、その仕組みが分からないという人が大半だとしたら、IT化の前途は覚束ないものとなってしまいます。IT化には、パソコンに仕事をさせる仕組みと工夫が必要です。情報機器の操作能力だけでなく、法解釈上どのようなプログラム、アルゴリズム(解法)で情報処理をするのがよいのかを考える姿勢と能力が必要になってきます。 (5) パソコン活用時代の計算法 先の簡便な計算法は、便利な計算機もない時代に、面倒な実務に直面し、頭脳をめぐらし、法条文にいう計算法の構造を十分分析、理解して、その時代に簡便な方法を編み出したものといえます。しかし、パソコンの1人1台利用が当たり前になって、裁判のIT化が直面する大きな課題になっている時代にあっては、この簡便な方法に頼っていては有害になります。パソコン時代には、パソコンを道具として、法条文に則して、それに最適な計算処理法を工夫しなければなりません。 これからは、新たな方法やツールが与えられるのを待つだけでなく、1人1人の法曹、実務家がみずから、パソコンソフトはどのようにして動くのか、実務の効率化に効果的なソフトを組むにはどうすべきかを、システム的に考えていくことが重要になります。パソコンに仕事をさせる、そのための新しい知恵と熱意が必要な時代です。 書面交換、事件・期日管理の裁判組織の基幹ソフトができあがれば、すべてペーパーレスが実現して効率的な司法運営システムが実現するというものではありません。上記の基幹システムができあがった時、デジタル文書の早見表を見ながら片手で電卓をはじいたり、その数値を改めてパソコンに打ち込むようでは漫画になってしまいます。パソコン画面の数値や文字を範囲指定すれば、すぐ求める計算、検索結果が得られるようにならなければいけません。そのような考えから、実務の友では、Word画面をなぞって検索、計算、文書編集ができるフリーソフト「Wordの友」を制作し、提供しています。 これからはまた、どれほど立派なシステムができても、1人1人に主体的な法解釈力と創造力、情報リテラシーが不足しているのでは、システム的な運用効果が上がるとは思えません。 パソコンのプログラムは数値計算と論理演算、システム工学で成り立っています。法律は合理的な論理思考を重視するものです。今後は、両者併せて、法律の条文解釈をパソコンの情報処理力とどう連携をとっていくかが重要になります。論理的、システム的な思考と創造的な問題解決力が求められる時代になっています。 (6) WordのVBA利用による貼用印紙額計算のプログラム ここで、貼用印紙額の計算方法について、法条文に基づいた実務処理をすることを基本に、パソコンでどういうプログラムを書けば、法解釈とプログラムの書き方の理解が同期的に進むかを考えてみたいと思います。 WordのVBA(プログラミング言語・Visual Basic for Applications)を使って、法条文の構成に沿ったプログラムを書けば、次のとおりとなります。これを見ると、プログラムの論理(スジ)を追っていけば、逆に、法条文(計算方法)の理解が進むのではないでしょうか。プログラムは複雑にみえても、プログラムの論理と記述さえ間違えていなければ、あとはパソコンが一瞬で処理してくれます。 一般にパソコンのプログラムでは、変数(値を入れて処理する器で、=の右の処理値を左の変数に「代入する」意味で使われる。)はアルファベットの記号や符号、数字を使うわけですが、中には、どのような計算処理なのか制作者以外には処理内容が分からないプログラムもあります。ここでは、初学者にもわかりやすいように、あえて変数に漢字を使い、必要最小限の命令語で、条文に則した「読めるマクロ(プログラム)」を書くように努めてみました。 このマクロを動かすには,(1)以下の枠内の記載を全部コピーし,(2)ワードのリボンから「開発」-「マクロ」を選択し,マクロの作成画面で「貼用印紙額計算」と名前を付けて「Sub 貼用印紙額計算」と「End Sub」との間に貼り付け,(3)ワード文面上の請求金額を範囲指定してマクロを実行します。 すると、たちどころに文字と記号だけのプログラムが命が吹き込まれたように、貼用印紙額を計算して計算結果を表示してくれます(ただし、10億円以下に対応)。変数の漢字部分をアルファベットに(例えば、訴額金をX、刻みをK、単価をT・・・などと)変更すれば、プログラム感が増します。 これはマクロというものですが、こうした部品(モジュール)をVBAにより多く連携してシステム化していけば、法律実務に役に立つ「ソフト」になっていきます。 「訴状1枚目自動作成ソフト」で、貼用印紙額自動計算というのは、こうしたプログラムを組み込んでいるということになります。 なお、貼用印紙額(民事手数料)計算に関しては、実務の友に、ソフト民事裁判手数料計算機(ベクターから入手)、Webサイト計算機民事裁判手数料計算機、スマホ用計算機民事裁判手数料計算機があります。
'●すぐ使えるWordによる貼用印紙額計算マクロ(10億円以下に対応)
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2023/4/1 (11) Wordによる訴状1枚目(当事者目録等)自動作成ソフトの案内 1 訴状1枚目自動仕立てソフト(WordTailor) 案内 2 Wordによる 訴状自動作成ソフト WordTailor このソフトには、3月末時点で入手した「郵便番号データ」をセットしていますので、郵便番号検索がすぐ行えます。 このソフトは、6月末までの間の任意の1か月間、無料で試用ができます。ご希望の方は、下記の連絡先に「WordTailor配布希望」と書いてメイールをお送りください。返信メールで、圧縮ファイルをお送りします。ご批評、ご要望等をお寄せいただければ、今後の参考にし、バージョンアップを図りたいと思います。 |