適倍ってなんだろう? 

天文台の望遠鏡って何倍くらいですかとよく聞かれます。
鹿角平天文台での観望会では、その天体にあった適倍で観望しています。

基本倍率

倍率は、アイピースを代えれば変わるので、何倍にもなり、レンズ(鏡)の焦点距離÷接眼レンズの焦点距離=倍率です。
またレンズ(鏡)の有効径(mm)に2〜3を掛けた値が有効最高倍率といわれているようです。
逆に有効最低倍率(口径mm÷7)もあります。見える範囲=実視野は、見掛視野X倍率 で計算できます。
(※接眼レンズの焦点距離や見掛視野は、接眼レンズに○○mm ○.○°と大抵は刻印されています)

実際の天体観測では、星雲などの比較的面積のある暗い天体は低倍率で、惑星などの明るく小さい天体は高倍率で見ます。
たとえば、倍率を50倍程度にすると、広範囲が見え淡い光芒も見やすく。星雲や銀河などを見るのには適しています。
また視界が明るくなります。低倍率は、視野が広く明るく収差・振動など難を隠します。小さな天体では細部が見にくいので倍率を上げてみますが、
倍率を上げると、視界も狭くなり、暗くなり(倍率が2倍になると明るさが1/4に減る)星雲などの淡く広 がった天体では返ってみづらくなるので、
せいぜい中倍率程度までです。一般に高倍率にするのは惑星や重星の観測など限られています。
高倍率は、収差・振動など悪い部分も拡大します。倍率を上げるほど、視野が狭くなり暗くボヤけていきます。

●適倍ってなんだろう? 

ここでいう適倍は適正な倍率ではなくテキトウな倍率です。実は適倍ってないんです。その時その時で変わってきます。個人的な嗜好もあります。
望遠鏡は接眼レンズを交換すると、見え方が全然変わってきますので、同じ天体でも色々楽しめるという事です。

一応、基本的な倍率は上記の倍率ですが、参考的な適倍は対象や天気、月明かりなどでちょっと変わってきます。
月なら簡単で、全体を見たいなら視野の広い低倍率。部分を見たいなら中倍率以上です。
惑星は高倍率ですが、シーイングなどの影響があるので、おのずとその日の倍率が決まってきます。
星団も割りと簡単で、星団らしく見える倍率です。あまり倍率をあげすぎると全体が見えなくなってしまいます。
密集した球状星団などは中倍率(100倍〜200倍程度)で見ます。低倍率だと見やすいですが対象の天体が小さく見えて星に分解しづらくなります。
かといって上げすぎると暗い星が見にくくなるので、その中間の倍率ということになります。

望遠鏡別の最低倍率での視野(ミニボーグ60mm×8 8.7°副鏡125mm×25 2.8°  主鏡350mm×52 1.3°接眼レンズSW40mm )

鹿角平天文台のドーム内の各望遠鏡の最低倍率で見たすばる

広い順に、ミニボーグ60mm 副鏡125mm 主鏡350mm。ミニボーグだと双眼鏡のような広視野で、星空の中のすばるを見るにはベストです。副鏡だと視野いっぱいにひろがるすばるが見事です。主鏡では一部分しか見えません。なお50mmファインダーの視野は7°です。
すばるなどは主鏡でははみだしてしまい、副鏡などで見ますが、必ず大きい望遠鏡で見ないんですかと聞かれます。実際に覗いてみると、わかりますが広視野が得にくい主鏡は星団の美しさを損ねています。それぞれの天体に適した機材や倍率があります。

ややこしいのが星雲(銀河・散光星雲・惑星状星雲)。基本は低倍率です。単位面積あたりの輝度が高い惑星状星雲などは中倍率くらいです。

基本倍率で、低倍率だと淡い光芒も見やすく。視界が明るくなります。と書きました。
月明かりがあると低倍率では視野が明るくなりすぎて、逆に淡い星雲が見えなくなることもあり、ちょっと高めの倍率で見ることもあります。
また低倍率だと対象が小さくみえます。低倍率で凝視して目を酷使するより、若干倍率をあげて見たほうが細部が良く見えます。もちろん倍率をあげれば暗くなりますので
ほどよい倍率、つまりテキトウな倍率で見たほうが目が楽で見やくなります。

星を見る時の基本の一つが「楽な」です。倍率に縛られることなくいろんな天体をいろんな倍率で見ていってください。

倍率と視野(主鏡350mm f:2100mm÷40mm=×52 1.3°主鏡÷21mm=×105 0.8°主鏡÷10.5mm=×200 0.3° )

おおぐま座にある、ふくろう星雲とM108銀河

最低倍率だと二つが同視野で面白い眺めです。ちょっと倍率をあげるて一つ一つを見ていくと、

ふくろう星雲はクッキリしていて丸い形がよく判ります。
倍率をあげて見ても単位面積あたりの輝度が高くため、割と薄れることなく細部が見えています。
中倍率(150倍程度)くらいで見たほうが、ふくろうの目にあたる部分よく判ります。

M108銀河の方はボーッとした淡い光芒で、輪郭もあやふやでたよりない感じです。
倍率を少しあげると芋のような形と光芒の中に濃淡が見えてきます。
この星雲(銀河)は倍率をあげるととたんに暗くなった分見づらくなってしまいました。
倍率を上げたメリットより
デメリットの方が大きいので、ごく普通の低倍率(70倍程度)がいいようです。


星雲の性質で、適倍も変わってきます。
倍率に固執することなく、接眼レンズをとっかえひっかえ見え方の違いを楽しんで見てください。

※ 倍率は鹿角平天文台主鏡の場合です。
  そのままの倍率を参考するとF数が暗くなり見づらくなりますので、
  お手持ちの望遠鏡の参考にするときは下記表を参照ください。

星空の歩き方に「倍率」戻る。

鹿角平天文台・参考用倍率

スケッチの倍率を(個人的嗜好で選んで)記入してありますが、星団雲は基本的に低倍率です。
低倍率以外で見てもらいたい天体は、文中に倍率域を明記してあります。
  大雑把な参考倍率です。参考にするときは、
倍率域と適した天体欄を参照ください。
  主鏡の倍率を参考するとF数が暗くなり見づらくなります。
基本倍率も一読ください。
  主鏡35センチが大口径、副鏡12.5センチが中口径、ミニボーグ6センチが小口径の参考になると思います。

倍率域

適した天体(主鏡・副鏡)

接眼レンズ焦点距離 主鏡35cm倍率 副鏡12.5cm倍率 ミニボーグ6cm倍率
最低倍率 大型の星雲・星団など 40mm〜30mm  ×52〜×70 ×25〜×33 ×8〜×10(星野散歩・特殊用途)

低倍率

星雲・星団・月全体 28mm〜21mm ×75〜×105  ×36〜×50 ×11〜×15(大型の星雲・星団)

中倍率

輝度の高い星雲・星団
月・重星・惑星(悪シーイング時)
15mm〜10.5mm ×140〜×200 ×66〜×95 ×21〜×30(星雲・星団)

高倍率

惑星・重星・月 7mm〜5.2mm ×300〜×400 
(良シーイング時)
×145〜×192 ×46〜×62(中倍率に相当・月.
輝度の高い星雲・星団・惑星・重星)
過剰倍率 惑星(火星)・極めて接近した重星 4mm〜2.5mm

不適

×250〜×400
(良シーイング時)
×81〜×130(100倍程度まで
が高倍率。惑星・重星・月)