【眠森談義 座談会編 第10回】
「はい、皆様こんにちは。お元気でしたでしょうか八重垣悟です。街はもうすっりクリスマス一色って感じで、眠森本放映もあと2回を残すのみとなりました。最後まで気を抜かずに頑張っていきたいと思います。」
「どーもども、木村智子でぇす。相変わらず仕事が忙しくて死んでますが、人間不思議なものでね、やろうと思えば時間のやりくりは何とかなってしまったりして、…乾坤一擲、日々是新也、金は天下の猿回し。とまぁこういった訳です、わっはっはっ。」
「…疲れ溜ってませんか? いつにも増してワケわかんないですね。」
「判らないから人生は面白いんさ。さぁさぁそれではいってみましょうじゃありゃんせんか眠森談議、…せーのぉ、」
「「座談会編・第10回――――!」」
「いやぁーきれいにハモッた。#が4つくらい付いてたね今ね!」
■直巳の診療所■
「『ルックライク山んば』には笑わせてもらったけど、相変わらずおさらい編がくっつくねぇ。必要なのかねこれって。」
「必要なんじゃありませんか? 唐突に『次の瞬間』から入るより判りやすいですよ。見てる人全員がビデオに録ってるってもんでもないでしょうし。」
「ああそれはそうか。しかし森田家も大騒ぎの家だったんだね。上の娘は駆け落ちする気だは、下の娘は実の父が引き取りに来るは、あげくの果てに殺人犯は来るはで、三隣亡(さんりんぼう)とはまさにこのこと。」
「いや違うでしょう三隣亡は。」
「『今夜泊まっていくんだろう』ってパパのセリフ、男と女の間だったら実に意味シンな言葉だよねこれね。」
「そうですね。つまりはそういう意味ですから。」
「直季の部屋って、今でも2階に、いつ帰ってきてもいいようになってんのかなぁ…。布団とか、パパがちゃんと干してんのかしらん。」
「得意の『些細な疑問点』ですね。」
「…これさ、いきなり違う話していい? 思い出しちゃったよ笑い話。」
「面白い話ですか? だったらいいですけど。」
「あのね、ウチの会社のOさんて人…39歳の独身男なんだけどね、この人お父さんと2人暮らしでさ、既にもうケッコンは諦めの彼方に霞んでるって奴でね。この人の上司の部長が、ある日Oさんに聞いたのよ。
『そういやOさんちは、親父がひとりでいるンかい。メシの支度とかそういうの、誰がやってんの。』
『親父ですよ。』
『親父さんがやってんのか? 手伝いのおばさんが来るとかそういうんじゃなくて?』
『そういうんじゃないです。親父が全部やってます。』
『ふーん…。じゃあ親父が、昼間うちン中のこと全部やって、それでOさんが夜帰ると、親父がメシの支度して待ってるんかい。』
『ええ。』
『へーぇ…。』
―――って感心してね、その後まるで吐き捨てるように、『やだねー!』って言ったんだ。聞くともなしに聞いてたフロア中が大爆笑! だって部長の言い方、なんかさもキタナイもんでも見るみたいにさ、顔しかめて苦笑いして、『やだねー!』だよ? Oさんムッとして、『別に嫌じゃありませんよ。』とか言ってたけど。」
「やっぱり、ちょっと変ですよね、父親と息子の2人暮らしっていうのは…。」
「なんかさ、母と娘、っていうのと違って…妙にその…侘しいというか何というか、ハッキリ言ってみじめくささがあんだよねー。もっともこの直巳パパはなかなかダンディでカッコいいけどさ。このパパだったら私、後妻になってもいいな。」
「そう…ですか?」
「直季ってさ、パパが30の時の子なんだよね。実の息子なら、だけど。」
「今なら30なんて普通ですけど…直季の生まれた時だから25年前か、当時にすればやっぱり少し遅いんですかね。」
「かもね。」
■リビングルーム・実那子の独白■
「ここさぁ…またまた実那子の無神経炸裂。ッたく気にくわねーセリフぅ。」
「ちょっ… 辛口だったらまた隣の部屋いきますか?」
「いや、ひとことだけだからいいっしょ。―――何だよこの『結婚前夜に言って”あげたい”』つうのは。どういう視点に立てばこの『あげたい』って下一段動詞を使えるかねぇ…。『言ってあげたい』じゃなくて『伝えたい』だろ? 耳障りだなぁ…。自分をナニサマだと思ってるんだろ。」
「はい、はいそこまでそこまで! ここではそこまでにしときましょう。」
■直季と敬太〜春絵の店■
「あのさあのさ、八重垣くん『張り込み』って映画見た?」
「ええ見ました。あれ面白かったですよね。」
「面白かったよねー! あのさ、ほら、あの張り込んでるターゲットの女、彼女から『会いたいの』みたいな電話もらっちゃった主人公の刑事がさ、いい感じで話してる最中に、『彼女の部屋の電話には俺が盗聴器しかけたんだ!』って気づいて、盗聴してる仲間ごまかすために、いっきなりゲホゲホ咳こむじゃない。あそこなんかもぉ最高!」
「うん、あれはおかしかったですね。今ビデオ出てるんじゃないですか?」
「これはお勧めだね。レンタルで是非、皆さん見てみて下さい。…ってものすごい違う話してるようちら。」
「でも野沢さんあたり、あれは見てると思いますけどね。」
「かもねー。このさ、今回のお面かぶりの会話なんか、あの『張り込み』の雰囲気出そうとしてないか?って感じだし。」
「ああ、そういうことも言えるかなぁ…。
「ああいう小じゃれた作品てのは、日本映画には無理なのかなやっぱ。ライトでリズミカルなコメディ映画。」
「また話がズレてません?」
「おお失敬。んーとね、この春絵のお兄さん、密かに人気急上昇と見たね。チョイ役なのに出番が多いぞ。」
「春絵の態度、妙に明るいんですけど…国府はこっそり帰ってきてるのかな。」
「帰って…はきてなくても、連絡はよこすんだよ多分。だから安心してるんだね。」
「これ、あれですよね、国府も15年辛かったのは判るけど、180度考え方を変えて、春絵と結婚して真面目に生活したら、それなりに幸せだったかも知れませんよね。…なぁんて、人ごとだからこう言えるんだとは判ってますけど。」
「いや、確かにそうだよ。俺様クレイジーマンじゃないけど、人生は究極自分のためにあるんだから。…でもま、国府の行動は、人間の悲しさってヤツかも知れないね。」
「ずいぶんしんみりしましたね。…あ、そうだ、このシーンのラストの2人のセリフは面白かったですね。」
「『いつまでかぶってんだよ』ってヤツ? これさこれさ、私、考えたんだけどさ、敬太のセリフ、『もうかぶってねぇよ』じゃなくて『気に入ったんだよ』にしても笑えると思わない? 直季の冗談に冗談で返すの。」
「駄目ですよ人の脚本書き直しちゃ(笑)」
「ままま、お目こぼしを! お遊びだってお遊び!」
■式の打ち合わせ■
「船上結婚式って、雨とか雪とか、急に天候が悪くなったら中止だよねやっぱね。そういうとこリスク大きくないのかな。まさか台風の時期とかにはやらないんだろうけど、冬の太平洋はそれなりに荒れるぜ? 披露宴で船酔いしちゃあ、人生の門出も何もあったもんじゃない。」
「…どうも現実的ですよね、ウチで取り上げる話題は。」
「しょーがねーやん牡牛座なんだから。けどラストに船をもってきたってことは、最終回のいっちゃん最後、何か『海』にかかわるシチュエーションが用意されてると思っていいのかな。」
「じゃないですか? わざわざそういう設定にしてるんだし。」
「『TK』も海だったんだけどね、ラスト。」
「関係ないでしょう。」
「関係ねっか。」
■面接を受ける国府■
「このシーンで思ったこと! 国府はさ、考えてみりゃスーツが似合う訳ないのよ。大学時代に刑が決まって15年間ムショ暮らし。サラリーマン経験なんてないはずだよね。」
「ここで国府が言ってる経歴は、多分今ホームレスやってるタカハシって人のもの、なわけでしょう?」
「だよね。…まぁこれも現実的なツッコミだけど、人事担当者の目ってそんなに甘くないよ。スーツが体にぴったり付いてるか付いてないか、ちらっと見ただけで判るけどね。」
「でもこれはドラマなんですから、そこまで求めなくていいんじゃないですか。」
「もちもち。それはそう。だからこれはこれでいいと思う。ただ私がぼんやり考えたコトさ。スーツって一種の制服だからね。そのへん歩いてる就職活動中の大学生、もしくは4月早々電車に乗ってる会社員1年生。一目で判るのはさ、なんかスーツが着こなせてないせいじゃん。」
「ああ、あれはすぐに判りますね確かに。なんかこう…スーツに着られちゃってるっていうか。」
「高田純次さんっているやん? あの人、元サラリーマンやん? やっぱ違うもんね。スーツ着るとカタギの匂いがする。芸能人の着る『衣装としてのスーツ』じゃなくて、『制服』なのね彼のスーツはね。面白いもんだなあって思うよ。」
「SMAPでスーツが似合うのって誰だと思います。」
「スタイルとしては吾郎。制服としては慎吾だね。」
「え、どう違うんですか。」
「うん…。『衣装』としての雰囲気を持って、エリートっぽくビシッと決まるのは吾郎で、ふつーのサラリーマンの味わいを感じるのは慎吾なのよ。あとは…拓哉の場合は超一流のおミズだし、中居さんは衣装の1つって感じ。つよぽんの場合不思議と『お洒落着』ってイメージになるね。慎吾はさ、あのまんまオフィスにいて電話かけてても全然違和感ない。意外なくらいサラリーマンの『背広』として着こなしてるね彼はね。」
「ふーん…。そんなもんですか…。」
■春絵の店を見張る敬太■
「煙草吸うのにケースをこう、パンパンって叩くのがいいですね。多分…ハイライトですか?」
「ブルーの箱だったよね。」
「春絵はそういえば敬太の顔は知ってるんだ。前に直季と2人で国府のこと聞きにきてますから。」
「そうそう。地獄がどうとかって直季に聞かせてる。」
「敬太に電話かけてきたの…やっぱり輝一郎ですか?」
「そうじゃない? 敬太の口調からしてそんな雰囲気だよね。
■オーキッド・スクエア 直巳の訪問■
「親子なんだよねー、この2人…。夏八木さんさすが。押さえた表情に、えもいえぬ想いを感じるねぇ。」
「2人とも蘭が好きなんですね。蘭つながりだ。象徴してたんですね物語的にも。」
「そうだね。あるよね実際こういうの。同じものが好きなの。で、それが偶然とは思えない…。」
「血のつながりって、重たいですね。」
「重たいよ。よく中居さんが言うじゃん、恋人とも親友とも違うって。死ぬまで”姉弟”なんだからって。」
■サンタを追う直季〜工場■
「なんかさ。文句ばっか言ってんだけどね、私。―――」
「今さら改めて何を言ってるんですか。今始まったことじゃないですよ。」
「そっか(笑)…いやね、この子供たちなんだけど。イマドキの神奈川チルドレンが、こんな、落語に出てくる長屋の子みたいに無邪気なのかしらん。」
「さあどうでしょう…。判らないです。」
「しかもこれさ、サンタのかっこで歩いてたら目立つぜ? ドラマなんだから別にいいけどね(笑)あとで刑事の聞き込みとかは楽そう。目撃者なんてゴロゴロ出そうだよね。」
「このサンタ、輝一郎だと思いますか?」
「そうでしょ? 敬太かなって気もするけどね。もし敬太なら、病院に直季運ぶ最中とかに、フィルム抜けると思うのよね。自分の顔が映されたフィルムでしょ? 何よりもまずこれは取り返すでしょお! 敬太にならそのチャンスはいくらでもあった。逆にカメラが残ってた以上、このサンタは敬太じゃねーべ。」
「工場のシーンで木村拓哉、ケガしたとか書いてありましたよね。」
「みたいだね。大したことはないらしいけどさ。体が資本なんだから気をつけないと。特に彼は今、天中殺の真っ最中。普段にも増して注意せなぁいかんのだ。」
「智子さんて、昔、顔4針縫ったとか言ってませんでした?」
「ああ、そうなのそうなの。ほらここんとこ。今でもアトあるでしょお。」
「いや、言われなきゃ判んないですけど…。」
「おんやま。ちゃ〜んと気を使ってくれてありがとね。さすがフェミニストだなヤエガキ。」
「いえそうやって面と向かって褒められると何か変なんですけど(笑)」
「これはねぇ…中学の…2年か。学校の廊下で、ふざけて走ってきた男子とぶつかって、ほっぺたの肉が裂けてさぁ。顔ってすごく血が出るんだよね。もぉもぉダラダラ状態でそれはそれはアナタ。」
「4針っていったらかなり大きな傷ですよ。」
「うん。そばにいたクラスメートの方が焦っちゃって、『保健室保健室!』って廊下の逆方向行こうとするから、『いやそっちじゃなくてコッチだよ』って、怪我人のくせに落ち着いてる事。ブラウスの衿が真っ赤になるほどの流血なのにさ。」
「うーん…。女性は血には強いって言いますけど、それはちょっと…。」
「そんな痛そうな顔しないでよぉ。飛んでった校医さんの病院で、糸のはじっこ蝶々結びにしてもらったんだから。」
「何ですそれ(笑)」
「ヒョーキンな先生だったんだね。縫う時は麻酔効いてるから痛くも何ともなかったけどね。最初、保健室行ったとたんにさ、黄色い消毒薬…あるやん? 膝とかすりむいた時に塗るヤツ。あれをガーゼにべっちゃべちゃに浸して、それをビチャッ!て傷口に押しつけられてさぁ…。あん時はさすがに痛かったねぇ。目から涙が勝手に出てきた。」
「うっわ…。ちょっと、もうよしましょう。聞いてるだけで痛いです。」
■病院〜直季の部屋■
「これさ、なんで直季は病院抜け出す必要があったんだ。いまいちソレが判んないんだけどもね。」
「まぁ、名前も身元も敬太が記入しちゃっただろうし、逃げる必要はないんですけどね。」
「伏線かな?とは思うけどね。直季と実那子が姉弟じゃないとしたら、直季は直巳の実の息子じゃない訳でしょ。ならば直季はこのあと何かを思い出さなきゃならない。としたらこの頭打ったショックが、何かの引き金になるんじゃないの。」
「そうですよね。手も痺れてるみたいだし。」
「けどさ。―――ちょっと八重垣くん、ここで隣の部屋行こう。」
「え、またですか?」
「いや実は好評なんだ、前回の『辛口は別室で』モード。色の違う『こちら』をクリックしない人がいったい何人いるんだ、ってH・Kさんに言われたけどね。気は心、気は心。」
「はいはい判りました。では皆様申し訳ございません。このシーンについての辛口モード、聞いてもいいなと思う方はこちらをクリックして下さい。」
■ドアの前〜直季の部屋■
「この場面で実那子は焦ったろうなぁ…。美穂さんの演技、ベリグだね。」
「珍しく褒めますね(笑)」
「いや、いいものはいいよ。そんな、全部が全部気に食わないって訳じゃない。」
「でも不用心ですよね、ドアにカギもかけないで。」
「ヤローの1人暮らしってそんなもんじゃないの?」
「いえ僕はかけますよ。知ってます? 何か犯罪があった時、ドアにカギがかかってたかかかってなかったかで、多少は罪が違うんですよ。」
「ああソレ聞いたことあるな。かかってなかったばっかりに、出来心に火がついたって解釈ね。」
「そうです。だから気をつけなきゃいけないんです。」
「あたしじゃなくて直季に言いなよぉ。」
「…だから気をつけようね、直季くん。」
「ひゃっはっはっはっ、八重垣おもれー!」
「やらせといて笑わないで下さいよ!」
■オーキッド・スクエア■
「このシーンの『入り方』。前の、直季の部屋で振り向く由理とかぶせて切り替わりますよね。このドラマこういう演出多いですけど、これは上手いと思うな。」
「うん、そうだね。…ッとに惜しいよなぁ、これでキャラに求心力があればなぁ…。」
「はいはい判りました。」
■直季の部屋・敬太と■
「やられてて気づかなかったかね、直季は…。これは国府じゃないぞって。」
「殴られてる最中に、そんなこと思わないんじゃないですか普通。」
「そーかなぁ。写真撮らなかったら、サンタあのまま立ち去ってたぜぇ? なのにここで『俺を殺すためか』ってさ、『だぁかぁらぁ、殺そうとしなかったじゃねーかよっ!』って画面にツッコミ入れちった。」
「智子さんもしゃべりながら見てます? TV。」
「いや、ハマると黙るの私は。『ソムリエ』見てる時なんか、左手に持ったグラス、CMまでじーっとそのまんまでいるよ。」
「だいぶお気に入りみたいですね『ソムリエ』は。」
「だって面白いものぉ! コメディ仕立てで目立たないけど、細かいとこまで気ィ使ってるよ? アレ。」
「ま、その話はまた別の機会に。」
「はいはい、別の話ってコトでね。」
■写真屋さん■
「由理って、もの考えたりする時ちょっと口とがらすのね。これってば癖かな演出かな。」
「とがらせます?」
「うん。前回第9幕、敬太がタクシー待ってるとこに直季の現場を訪ねてきた由理ね? あのシーンで彼女、メモ見ながらちょっと口とがらせてるから。」
「よく覚えてますね。」
「リワインダー書くんで、何度も見るもんでねぇ…。」
「お疲れ様です。」
■直季の部屋・直巳の見舞い■
「このシーンはあたし大好きっ! 直巳パパ、さいこー! 血がつながってんだかないんだか、何を心配してんだかよく判んないけど、入ってくるなりわしっと頭つかむとこ、ほんといいやぁ。」
「え、何を心配って…直季の怪我じゃないんですか。」
「直接はそうだろうけど、もし直季が何らかの記憶障害を持ってるとしたらさ、さっきも言ったようにこの頭の怪我で思い出す可能性、高いじゃない。だからそっちを心配してさ。…直季が”思い出す”ことを。」
「ああ、そうかなるほどね…。」
「こういうさ、父親と息子の、どっかよそよそしいやりとりっていいよね。私が女だからそう思うだけかなぁ。父親と息子に独特のモンだよね。父と娘、母と娘、母と息子。どれもこうじゃないと思うよ。」
■実那子と輝一郎、マンションで夕食■
「ずいぶん豪華な食卓じゃありません? これ。いいなぁ、美味そう…。」
「ほーんと。こんなに松茸入れちゃってさ。これねぇ、多分輝一郎ボーナス出たんだね。ホラ直季の部屋で由理が寝ちゃったところで、ちゃんと腕時計映ったやん。あの日付、12月10日になってたでしょ。一般企業はたいていこの日がボーナス日。フジテレビさんもそうだったんじゃない?」
「またまた細かいな(笑)」
「だって、そうじゃなきゃ、普通の日にこんな豪華なもん食べないよ。誕生日でもないし、結婚式控えて何かと物入りだろうし。」
「ほんと、チェック細かいですね。」
■直季の部屋・由理から電話■
「東京タワーの隣に…映っとるんだよなぁNEC本社ビル! 別名スーパータワー! ニュースとか天気予報とかで東京タワー映るとさ、必ずといっていいくらい近くに入ってるよね。」
「そうですね。だいたいセットで映ってるっていうか…。真横から見るとあのビル、スペースシャトルのかっこしてるじゃないですか。」
「そうそう。あそこって希望すれば無料で中を見学させてくれるんだ―――って八重垣くんは一応SEって設定になってるんだから、知ってるかな。」
「ええ、行ったことありますよ僕も。一度だけですけど。」
「あのビル面白いよねー。階段の踊り場にさ、なぜかぶら下がり健康機があるからね。社員がみんなエレベータ使って、階段の上り下りをしないからっていうんでさ、『どうすれば階段を使いたくなるか』考えて、結果、付加価値があればいいんだっていう発想だよね。そういうの、実に自由で闊達で、いいなぁ。ちょっとアホくさいとこがまた何ともいえない。」
「泥臭い会社ですからねN社は。I社と違って。」
「いえたねー。」
「でもあれですよ、東京タワーとセットになってる建物といえば、NEC本社ビル・スーパータワーの他にもう一ヵ所。」
「はいはい、芝の増上寺ね! 増上寺の本堂の後ろに、まぁたいい位置に入ってるんだ東京タワーが! あれはさ、奈良の薬師寺の東塔に匹敵すると思うね。」
「あのお寺にはすでに『なくてはならないもの』になってますね。あの紅白の鉄の塔が。」
「まったくだよ。ああも東京タワーの似合うお寺は、たとえインドの果てまで行ってもありゃあすまい。」
「インドに東京タワーはないですからねぇ…。」
「なんか滅茶苦茶ズレてるよ、話。」
「ほんとだ(笑)失礼いたしました。えーと…どのシーンでしたっけ今。」
「うんとね、由理が非常階段から電話してるとこ。」
「そうそうそこです。…このビルって、まさか輝一郎の会社、じゃないですよね。」
「どうかねぇ。あの時出てきたビルでしょ? 夜更けにママが、バニラの香りの花を持って―――って言っててあたし今『バニラさん』想像しちゃったよぉぉ!」
「バニラさんの匂い…(笑)なんか、柿のタネっぽいですよね。」
「あーあ、せっかく真面目なシーンで変なモン思い出しちゃったよ(笑)」
「ところでこのサンタ、輝一郎なんでしょうか。」
「うーん…。このあたりの各シーンがちゃんと時系列順に並んでるとしたら、この夜輝一郎は実那子と松茸ゴハン食べてる訳だから…違うってことになるよね。」
「とすると、敬太ですか。」
「まぁありえるセンだけどもねぇ。ボーナス出たばっかの輝一郎に幾らもらったとしても、果たして彼が由理を殺すかね。百歩譲って殺したとしても、…ちょっとねぇ、ひっかかるんだけど…。それは由理の死体のシーンだからアトで話す。」
「ここではH・Kさんも、何か指摘をしてきたとか言ってませんでした?」
「ああそうそう、そうなのよ。あのね、直季が言うじゃん。お前の前でちゃんと言いたいことがあるって。でも由理がそれだけで愛の告白と決めつけちゃうのはどーかと思う、つーのがH・Kさんの意見なのよ。…まぁ確かにね? 『ほんと?何かドキドキしちゃうな』とかって喜んでてさ、コレ、
『今ちょっとだけ言って。好き―――』
『いや、やっぱ別れてくれって言おうと思って…』
こんなだったら大馬鹿だと思わない?」
「(笑)確かに…。」
「あ、また思い出しちゃった。勘違いシリーズその2…ってなんか欽ドンみたいになってきたね。なつかしの『ああカンちがい』! ―――あのね、学生時代にバイトしてた時の話なんだけどね、ファミレスの洗い場やっててさ。私ともう1人の女の子がバイトだったの。厨房の、こんなでっかいシンクでお皿とか洗ってるじゃん。で、こっちがカウンターみたくなってて、ウェイターさんがグラスとかお皿とか下げてきて、こうやってここに置いてくわけよ。」
「ええ。」
「で、彼女が洗い場にいたらあるウェイターさんがね、紅茶のセットか何かを下げてきて、レモンスライスのお皿にお客さんが全然手つけてなかったのを、こうトレンチから下ろしてね、洗わなくても大丈夫だよって意味で『きれいだよ』って言ったんだって。そしたらその子さぁ! 自分のこと言われたのかと思ってドキドキしちゃったんだって―! かわいーと思わね?」
「可愛いです(笑)思わず『やだぁん! キャピッ!』とかなっちゃったんでしょうね。」
「いきなり『綺麗だ』って言われちゃねぇ。そら、びっくりするわな。お皿のことだったんだけども(笑)」
■正輝のアトリエ■
「ここでますます確実になった。輝一郎ママは現実の存在じゃないね。」
「これはもう間違いないでしょうね。消え方が”もののけ”ですよ。」
「もののけだよね。あのドレスは『風と共に去りぬ』のスカーレットにちょっと似てる。」
「麻紀子を殺したのはひょっとして、輝一郎と正輝かな…。じゃなきゃどっちかが手を下して、どっちかはそれを知ってるってとこじゃないですか?」
「だろうね。『許さないから』で、明らかに一旦言葉切ってるしね。」
「なんで殺さなきゃならなかったんでしょう。」
「そのへんに何かあるかもね。やっぱ直季の母親は麻紀子かなぁ。」
「いや、父親が正輝なんじゃないですか?」
「あ、そうも考えられるのか。」
「どのみち直季と輝一郎は兄弟ってことになりますよね。」
「うん。『引っかけ』かなって気もするけど、以前の輝一郎の、他人とは思えない発言もあるしね。」
「森田家も滅茶滅茶ですけど、濱崎家もぐちゃぐちゃですねこれ…。」
「うちらって平和かも知んないねぇ…。」
■実那子と輝一郎の寝室〜無言電話■
「ここで気づいた人は多いんじゃないですか? 輝一郎の左手の傷。」
「ああ、『あのサンタは輝一郎だ』と思わせる最大の理由ね。…工場でさ、鉄パイプ振り回しながらあのサンタ、いてっ、て感じで左手見てるんだよ。気がついた?」
「え、そんなとこありましたっけ。」
「うん。ほんの一瞬だから集中してないと見落とすかも知んない。…でね?八重垣くん。」
「はい?」
「申し訳ないんだけども、もう1回隣の部屋行っていい?」
「え、またですか? 今回2回めじゃないですか。」
「そうなんだけどさ。便利なんだもんこの隣室モード。」
「いい気になって多用しちゃ駄目ですよ。」
「大丈夫よ今度は実那子のことだから。」
「いやそういう問題じゃなくて…」
「んじゃ先、行ってんねー。」
「…ほんと申し訳ありません皆さん。辛口モードその2、おつきあい下さる方はこちらからお隣へどうぞ。」
■早朝・河原■
「私はここで初めて、由理を綺麗だと思ったぞ(笑)」
「あの左手…何を持ってたんでしょう。携帯かな。直季の声を届けてくれた。」
「ああ、そうかもねぇ。これさぁ…惜しいよなぁ。もっと前から由理に悲劇の匂いを植え付けてりゃ、ここでドーッと泣けたのにね。」
「ちょっとエキセントリックな役どころでしたからね由理は。」
「今回の最初の方にあった、実那子がハンガーのドレス見上げて失敬千万なエラソーな独白するシーンね。」
「はいはい(笑)」
「あそこ、あれじゃなくてさ、七面鳥のローストの作り方勉強してる由理…。本とかいっぱい買ってきて、『こうやって、こう…か』とか言いながら糸で縛るジェスチュアなんかしてる。そんなシーンがあればよかったのにね。直季が由理に惹かれた理由の、決定的なエピソードがないでしょ。由理っていえばあのヒステリックなジュリエットのシーン。あそこが一番印象強いもん。だから私、どうにも彼女を好きになれなくてさぁ。もったいないよなぁ…。必死に直季を追いかける一途な女性で、ようやく彼の心を手に入れたと思った矢先に殺されてしまう。こんな風に演出すればよかったのに…。」
「それって、何だかあれみたいですね。『真夏の夜の夢』のヘレナ。」
「そうそうあんな感じに。まぁヘレナは殺されないけどさ。大団円のハッピーエンドだけど。」
「あ、そういえば、由理を殺したのが敬太とは思えない理由って何ですか。後で言うとか、さっき言ってたじゃないですか。」
「ああはいはい。…それはね、この河原への捨て方なんだよねー。金に目がくらんで、かつ、可愛さ余って憎さ百倍。直季に渡すくらいなら俺が殺してやる…。いろいろ動機の説明はつくと思うのよ。でもねぇ。敬太だったらもう少し…死体の両手を胸のとこで組んでやるくらいは、するんじゃないかと思ってね。バッグの中は荒らしっぱなし。左手もああいうカッコでしょ? 好きな女殺して、死体をああいう捨て方するかね。例えばもみあってるうちに殺しちゃって、びっくりして逃げたって訳でもなさそうやん。わざわざ河原まで連れてきたか運んできたかしたんだろうし。」
「その点、犯人が輝一郎だったらあれでいいんですよね。」
「だと思うんだ。もしくは彼に頼まれたヤクザ系? または、笑いを取るんだったら中村園長とか。」
「またですか(笑)そのネタよっぽど気に入ってるんですね。」
「だって、犯人の意外性、っていったらこれ以上のものはないやね。クリスマスイブに日本中が驚く。」
「そのあとすぐに怒り出すと思いますよ。」
「ああ、そだそだもう1コあった。てゆーかこのシーンじゃなく先週の宿題ね。『森田邸15年間放置のナゾ』。」
「会社の専門家に聞いてくれました?」
「聞いた聞いた。不動産部の課長に聞いた。したらね、15年間放置してるってことは、書類上は持ち主がいて、所有権の移転と税金の支払いはちゃんとやってあるだろうってさ。」
「やっぱりそうですか。」
「うん。もし仮に誰も相続してないとしたら、5月に固定資産税の請求した時、『あれ?』ってことになって、納税課が知らん顔してないってさ。調査員が来て誰も住んでないって判ったら、登記たぐって法的措置取るって。該当の親族に相続するようはかって、税金払えって督促するって。」
「税金ですか…。大和朝廷の昔から、税の取り立ては厳しいですからね。」
「国庫最大の収入源は、絶対に取りこぼさないのが国税局だよ。アル・カポネだってアンタッチャブルの4人に尻尾つかまれたのはまず税金だもんね。」
「で…もし誰も相続しなかったらどうなるんです。」
「国有財産になるってさ。国が…正確には自治体の財務局が管轄になって、やがては競売か、もしくは区画整理とかがあれば壊されちゃうらしい。持ち主のいない家と土地を15年も放り出しとくほど、国税局はマヌケじゃないそうな。で、もっと詳しく知りたけりゃ財務局の前橋支部に電話してみろって、番号と担当者名教わったけどねぇ。なんぼ図々しい木村智子でも、まさかかけらんないからさ(笑)裁判所だったら顔パスなんだがな私は(笑)」
「顔パスって…何をやったんですかいったい…。」
「うわ、その聞き方やめてよ人聞きの悪い。犯罪者じゃあるまいし。」
「まぁ何でもいいですけど、じゃあつまり森田邸があのままなのは、誰か親戚が相続したからだと思っていい訳ですね。」
「らしいね。税金さえ払ってりゃ、国は何も言わないし。ただし防災上よくないってことになれば、今度は警察の領分になるって。でも隣は教会で、繁華街って訳でもないし…まぁまぁ今んとこ放ってあるんじゃないの。」
「なるほどねぇ。そういうことなんですか。―――さて、ということで、座談会第10回めをまとめたいと思います。今回はね、何だか別の話で盛り上がった面も多かったですが、まぁそれはそれで、ね(笑)」
「このコーナーもあと2回。最終回が終わったアトは、パーッと飲み会しようねぇ!」
「え? 『眠森言いたい放題』やる前にですか?」
「そ。全12回お疲れ様でしたの精進落としってことで、パーッと。」
「パーッと…。要は理由つけて飲みたいんですね。」
「決まってんじゃん。それが、酒飲みのサガってもんたい!」
「サガって…いくら健康診断で全Aだったからって、ほどほどにした方がいいですよ。…という訳で皆様も、何かと胃腸肝臓を酷使する季節だと思いますが、体には十分注意して頂いて、気持ちよく年末を乗りきって下さい。」
「おお上手い! 最近、強引にシメに持ってくねぇ!」
「慣れですよ。では皆様、また来週までご機嫌よう。パーソナリティーは私、八重垣悟と、」
「久しぶりに縫い物したら左手をイヤってほど針でブッ刺した木村智子でしたー! 眠りについたらどうしようかと思った(笑)」
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