初詣の参拝客でごった返す境内で、政宗は小十郎に抱き寄せられて歩いていた。
これだけの人がいれば、はぐれることもあるし、そうでなくてもぶつかったりすることもある。人波から守れるよう、できるだけ寄り添って……ということらしい。
しっかりと抱き寄せる小十郎の腕が頼もしくて、政宗はぴったりと小十郎に寄り添って歩く。すでに参拝は済ませて、出店を物色しているところだが、正直、小十郎とこうして歩いていられるなら、出店はどうでもよかった。
出店がどうでもよくはないのは、同行者の方だ。
「あ、これ美味い」
「某、リンゴ飴を買ってまいり申す」
「旦那、はぐれるから一人で行っちゃだめだって」
ケバブサンドにかぶりついた慶次がつぶやく横で、幸村が見かけたリンゴ飴の屋台に向かっていく。その背中を佐助が追いかけて行った。
「正月早々、うるさい駒共よ」
「そう言うなよ。いいじゃねえか、にぎやかで」
政宗たちの左側でそれを見送り、ため息とともに吐き捨てたのは元就。横から甘酒を差し出しつつ元就をなだめるのは元親だ。
「三成、わた飴があるぞ。それとも、チョコバナナがいいか?」
「どちらも私は食いきれん、貴様の好きにしろ」
政宗の右側には、制服姿の家康と三成がいる。家康はあれこれと三成にすすめるが、三成は素気無く断る。関ヶ原の頃からこの図式は変わらない。
「なんでこんなに大所帯になったんだ?」
「いつのまにか、増えましたな」
あきれ顔で同行者をふりかえる政宗に、小十郎は苦笑いしてうなずいた。
初詣に行かないかと誘ってきた慶次に、小十郎と一緒でもいいならと返事したのは政宗だ。合流するのは慶次と幸村だけだと思っていたら、待ち合わせ場所で待っていたのは2人ではなく佐助も加えた3人だった。佐助は現世では甲斐商事で働く会社員だったが、小十郎と仕事で顔を合わせることも多く、当たり前のように5人で初詣に出かけることになった。
途中、交差点の信号待ちで行き合わせたのが、元親と元就の通称『大学院コンビ』である。元親と元就も、前世の記憶を持ったまま、政宗たちが通う大学の大学院で、それぞれ機械工学と太陽光学を専攻している。
寺の山門でばったり出会ったのが家康と三成だ。二人は政宗たちが通う大学の附属高校に通っている。学生服の家康は、政宗たちに出くわすと、セーラー服姿の三成の手を引っ張って駆け寄ってきた。
斯くして、総勢9名での初詣となったわけだ。
「あ」
「なんだ、慶次?」
「謙信とかすがちゃん見つけた」
「正月なんだから、邪魔しねえでやれよ」
伸び上るようにして人波の向こうを見る慶次のポニーテールを引っ張り、政宗は慶次を引き戻す。
哲学科の教授である謙信とそのゼミ生であるかすがはつきあっている。初詣デートを邪魔するのは野暮というものだ。
「さてと。てめえら、このあとどうする? ウチに来るなら、雑煮くらい出すぜ」
一行を見回して政宗が言うと、もれなく全員が反応した。政宗の料理上手は前世から有名だ。手料理の雑煮ときたら、食べない手はない。しかも、政宗が作るのは仙台雑煮と呼ばれる豪華なお雑煮だ。
「OK. Here we go!」
転生してからはめったに使わなくなった前世の決め台詞を叫んで、政宗は参道の石畳を足取り軽く進みだした。