小十郎が政宗の部屋に行くと、政宗は高坏を前にして座っていた。
「政宗様」
「Wow, nice timing. 小十郎」
ちょいちょいと手招きされ、小十郎は政宗の左前に座る。近くで見ると、高坏には黒い小枝のような棒が山積みになっていた。枝にしては、節も瘤もなく、とてもきれいに整っているが……
「これはいったい?」
「元親の差し入れだ。異国の菓子だとよ」
「菓子、ですか。これが…?」
麦せんべいによく似た色合いの棒に、なにか黒いものが塗ってある。最初は気付かなかったが、甘く香ばしい香りを放っているから、食べ物であることは間違いないようだが。
「異国人の食い物の感覚ってよくわからねえよな」
面白そうに笑う政宗につられて、小十郎も「まったくですな」と苦笑する。
政宗は1本つまみあげると、にやりと小十郎を見た。
「チカが言うには、これでやる遊びがあるらしいぜ。Pocky Gameって言うらしい」
「ぽきげえむ、ですか」
「That’s right. やってみようぜ」
遊びの名前を聞いても、どんな遊びかさっぱり想像がつかず、小十郎は困惑した顔でうなずいた。
「いったい、どうやるのですか?」
「これを咥えて、互いに両端から食ってくんだ。途中で折らねえで食いきった方の勝ち」
「互いに両端から食べきるのですな」
「Right.」
政宗の手にある黒い棒菓子は、楽しげに振り回されている。小十郎はくるくると動くその先端を見つめて、政宗の説明をもう一度頭の中で反芻する。
そして。
……この人は、いまの説明の意味をわかっているんだろうか。
具体的な情景が思い浮かんだ小十郎は、この遊びの真意をつかみ、眉間に小さく皺を寄せた。
この手のことに疎い政宗が、わかっていてやりたがっているのだとは、思いにくいのだが。
渋い表情になる小十郎に気付かず、政宗はわくわくと菓子を持っている。
「本当によろしいのですか?」
「Of course. What is wrong?」
からっと答えて首を傾げる政宗に、小十郎はそれならと割り切ると、政宗の向かいににじり寄り、楽しそうに揺れている右手首をつかんだ。その手が持つ菓子を己の口元に運び、小十郎はぱくりと咥える。
「政宗様」
そう促すと、政宗は「ようやくその気になったか」と反対端にかじりつく。
そして、さあ始めようと視線を上げ、小十郎を見て……
そのとき初めて、政宗はこの距離の意味に気付いた。
「え……こじゅ、ろ?」
「始めましょうか」
驚いてきょとんとしている政宗に、今度は小十郎がにやりと笑う。
「ちょ……Wait?」
焦って後ずさろうとする政宗の肩を掴み、小十郎はにっこりと微笑んだ。
「やってみたかったのでしょう?」
この遊びの勝敗がどうなったのかは、言うまでもない。