Clap SS 05

 小十郎が政宗の部屋に行くと、政宗は高坏を前にして座っていた。

「政宗様」

「Wow, nice timing. 小十郎」

 ちょいちょいと手招きされ、小十郎は政宗の左前に座る。近くで見ると、高坏には黒い小枝のような棒が山積みになっていた。枝にしては、節も瘤もなく、とてもきれいに整っているが……

「これはいったい?」

「元親の差し入れだ。異国の菓子だとよ」

「菓子、ですか。これが…?」

 麦せんべいによく似た色合いの棒に、なにか黒いものが塗ってある。最初は気付かなかったが、甘く香ばしい香りを放っているから、食べ物であることは間違いないようだが。

「異国人の食い物の感覚ってよくわからねえよな」

 面白そうに笑う政宗につられて、小十郎も「まったくですな」と苦笑する。

 政宗は1本つまみあげると、にやりと小十郎を見た。

「チカが言うには、これでやる遊びがあるらしいぜ。Pocky Gameって言うらしい」

「ぽきげえむ、ですか」

「That’s right. やってみようぜ」

 遊びの名前を聞いても、どんな遊びかさっぱり想像がつかず、小十郎は困惑した顔でうなずいた。

「いったい、どうやるのですか?」

「これを咥えて、互いに両端から食ってくんだ。途中で折らねえで食いきった方の勝ち」

「互いに両端から食べきるのですな」

「Right.」

 政宗の手にある黒い棒菓子は、楽しげに振り回されている。小十郎はくるくると動くその先端を見つめて、政宗の説明をもう一度頭の中で反芻する。

 そして。

 ……この人は、いまの説明の意味をわかっているんだろうか。

 具体的な情景が思い浮かんだ小十郎は、この遊びの真意をつかみ、眉間に小さく皺を寄せた。

 この手のことに疎い政宗が、わかっていてやりたがっているのだとは、思いにくいのだが。

 渋い表情になる小十郎に気付かず、政宗はわくわくと菓子を持っている。

「本当によろしいのですか?」

「Of course. What is wrong?」

 からっと答えて首を傾げる政宗に、小十郎はそれならと割り切ると、政宗の向かいににじり寄り、楽しそうに揺れている右手首をつかんだ。その手が持つ菓子を己の口元に運び、小十郎はぱくりと咥える。

「政宗様」

 そう促すと、政宗は「ようやくその気になったか」と反対端にかじりつく。

 そして、さあ始めようと視線を上げ、小十郎を見て……

 そのとき初めて、政宗はこの距離の意味に気付いた。

「え……こじゅ、ろ?」

「始めましょうか」

 驚いてきょとんとしている政宗に、今度は小十郎がにやりと笑う。

「ちょ……Wait?」

 焦って後ずさろうとする政宗の肩を掴み、小十郎はにっこりと微笑んだ。

「やってみたかったのでしょう?」

 この遊びの勝敗がどうなったのかは、言うまでもない。


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