Clap SS 06

「権現と凶王のあまり普通じゃないロマンス」最終章(後)の後日談

「で? カタはついたってことでいいのか?」

 翌日、与えられた客間で休んでいた政宗は、家康の訪問を受けた。詳細は語られなかったものの、丸く収まったと報告を受けて、政宗はやれやれと苦笑する。

「穏便に収まったんなら、それでいいさ。……悪ぃが、しばらく厄介になるぜ。充分休養を取ってからじゃねえと、奥州に戻れねえんでな」

「もちろんかまわないとも、独眼竜。好きなだけゆっくりしていってくれ」

 家康はうなずくと、小十郎を振り返り、

「必要なものは遠慮なく言ってくれ。不自由のないように取り計らおう」

「かたじけない」

「なんだったら、独眼竜、いっそこの城で産んでから奥州に戻るのでもかまわないぞ。……そうだ! 独眼竜に姫が生まれたら、徳川の嫁にもらいたい。伊達と徳川を結ぶ絆となって、長く太平を支えるのを助けてくれたら、こんなに心強いことはない!」

 唐突に叫ぶ家康に、政宗はにやりと不敵に微笑む。

「相手が徳川なら、伊達の家門に恥じねえ嫁入り先だ。考えさせてもらうぜ」

「政宗様!!」

 驚いた小十郎が、思わず割って入る。

「徳川に嫁ぐとなれば、こちらで生活することになりましょう。よほどのことでもない限り、会いにも来られぬ距離ですぞ」

「そりゃ、奥州とここじゃ、そうなるな」

「気がかりがあっても、会うこともできぬ場所に嫁に出すなど……」

 言いかけた小十郎の眉間を、政宗はびしりと指ではじく。

「言っておくが、小十郎。腹の子が出てくるのはまだしばらく先だぜ。しかも、娘が生まれるとも決まってねえ。いまからガタガタ騒いでんじゃねえよ」

「しかし、政宗様……」

「片倉殿。確かに距離はあるが、互いにまったく知らない家じゃない。ワシも三成もいる。独眼竜の姫をワシらが粗末に扱うはずがないだろう?」

「じゃあ、てめえは石田が産んだ娘がいるとして、その娘が伊達に嫁ぐとなっても、笑顔で送り出せるんだな?」

「えっ…!? あ、いや……。……そうか、それは難しい質問だな……」

 ぎろりと眼光鋭い小十郎に尋ねられて、家康は答えに詰まる。つまり、思い切り嫌がる自信があるということだ。

 ほらみろ、と言わんばかりの小十郎と、あー…うー…と唸りながら困る家康を眺めながら、政宗はつぶやいた。

「とりあえず、遠方じゃなければ、嫁に出すのに異存はねえのか?」

「もちろんあるぞ、独眼竜!」

「この小十郎が認める男であれば、考えなくもございませぬが」

 嫁になどやるものかという決意が眼の奥に光っている二人を見て、政宗は「こいつら本気だ……」と呆れる。

「おまえら、娘が〝行き遅れ〟になったら責任取れよ…?」

「〝行き遅れ〟? ワシと三成の間の姫だぞ、引く手数多でそんなことになるわけがない」

「政宗様の娘ですぞ。お伽話の輝夜姫も斯くやというほど、求婚する男が列を作るに決まっておりましょう」

「I see……好きにしてくれ」

 きっぱりと言い切る家康と小十郎に、政宗はものすごく遠い眼をしながら答えた。


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