「で? カタはついたってことでいいのか?」
翌日、与えられた客間で休んでいた政宗は、家康の訪問を受けた。詳細は語られなかったものの、丸く収まったと報告を受けて、政宗はやれやれと苦笑する。
「穏便に収まったんなら、それでいいさ。……悪ぃが、しばらく厄介になるぜ。充分休養を取ってからじゃねえと、奥州に戻れねえんでな」
「もちろんかまわないとも、独眼竜。好きなだけゆっくりしていってくれ」
家康はうなずくと、小十郎を振り返り、
「必要なものは遠慮なく言ってくれ。不自由のないように取り計らおう」
「かたじけない」
「なんだったら、独眼竜、いっそこの城で産んでから奥州に戻るのでもかまわないぞ。……そうだ! 独眼竜に姫が生まれたら、徳川の嫁にもらいたい。伊達と徳川を結ぶ絆となって、長く太平を支えるのを助けてくれたら、こんなに心強いことはない!」
唐突に叫ぶ家康に、政宗はにやりと不敵に微笑む。
「相手が徳川なら、伊達の家門に恥じねえ嫁入り先だ。考えさせてもらうぜ」
「政宗様!!」
驚いた小十郎が、思わず割って入る。
「徳川に嫁ぐとなれば、こちらで生活することになりましょう。よほどのことでもない限り、会いにも来られぬ距離ですぞ」
「そりゃ、奥州とここじゃ、そうなるな」
「気がかりがあっても、会うこともできぬ場所に嫁に出すなど……」
言いかけた小十郎の眉間を、政宗はびしりと指ではじく。
「言っておくが、小十郎。腹の子が出てくるのはまだしばらく先だぜ。しかも、娘が生まれるとも決まってねえ。いまからガタガタ騒いでんじゃねえよ」
「しかし、政宗様……」
「片倉殿。確かに距離はあるが、互いにまったく知らない家じゃない。ワシも三成もいる。独眼竜の姫をワシらが粗末に扱うはずがないだろう?」
「じゃあ、てめえは石田が産んだ娘がいるとして、その娘が伊達に嫁ぐとなっても、笑顔で送り出せるんだな?」
「えっ…!? あ、いや……。……そうか、それは難しい質問だな……」
ぎろりと眼光鋭い小十郎に尋ねられて、家康は答えに詰まる。つまり、思い切り嫌がる自信があるということだ。
ほらみろ、と言わんばかりの小十郎と、あー…うー…と唸りながら困る家康を眺めながら、政宗はつぶやいた。
「とりあえず、遠方じゃなければ、嫁に出すのに異存はねえのか?」
「もちろんあるぞ、独眼竜!」
「この小十郎が認める男であれば、考えなくもございませぬが」
嫁になどやるものかという決意が眼の奥に光っている二人を見て、政宗は「こいつら本気だ……」と呆れる。
「おまえら、娘が〝行き遅れ〟になったら責任取れよ…?」
「〝行き遅れ〟? ワシと三成の間の姫だぞ、引く手数多でそんなことになるわけがない」
「政宗様の娘ですぞ。お伽話の輝夜姫も斯くやというほど、求婚する男が列を作るに決まっておりましょう」
「I see……好きにしてくれ」
きっぱりと言い切る家康と小十郎に、政宗はものすごく遠い眼をしながら答えた。