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特集●遺伝子組み換えイネをめぐって
アベンティス社、LLライスの実用化を申請
アレルギーを起こす可能性の高い遺伝子組み換えトウモロコシ「スターリンク」を開発した欧州系多国籍企業アベンティス社は、現在遺伝子組み換えイネLLライス(Liberty Link Rice)を開発し、各国で申請の手続きを行っている。LLライスは除草剤バスタに対する耐性を持たせたイネで、飼料や加工食品に用いられる。バスタの成分、グルホシネートには神経毒などの障害作用が知られており、開発反対の声があがっている。〔Pesticedes News No 42〕
米民間財団アグバイオワールド(AgBioWorld)が、米テキサス州で試験用につくられたLLライス500万ポンド(2,268トン)を途上国援助に使ったらどうかと提案した。途上国の人に“毒”を食べさせようというこの考えに批判が集まり、アベンティス社はこのLLライスを廃棄した。〔Houston Chronicle 2001/5/21〕
フィリピン農民、BBライス屋外試験に抗議
遺伝子組み換えイネBBライス(Bacterial Bright rice)の屋外試験が、フィリピンの国際イネ研究所(IRRI)で行われ、同国全土の農民が抗議運動を展開している。フィリピンで最初の遺伝子組み換えイネの屋外試験であり、開発にはノバルティス社やアベンティス社などの多国籍企業や、日本の多くの研究機関もかかわっている。
このイネに導入された遺伝子(Xa-21)は、台風などで傷ついたイネにしばしば発生する白葉枯病に対する抵抗性をもつものだが、白葉枯病の原因となるすべてのバクテリアに抵抗性を示すわけではない。そのため、BBライスの有効性に疑問がもたれているだけでなく、生態系でバクテリアバランスが崩壊する危険性も指摘されている。
〔BB rice; IRRI's first transgenic field test 2000〕
モンサント社、本命はコシヒカリか?
モンサント社は、愛知県農業試験場と共同でジャポニカ種「祭り晴」の除草剤耐性イネを開発している。同社の除草剤ラウンドアップが水田では効果が薄いため、乾田直播の愛知方式が適しているのが、その理由のようだ。しかし最近、愛知県では「祭り晴」の作付けが減少し、コシヒカリが増えている。モンサント社は、次の手として、コシヒカリに着手すると見られる。すでに米国で除草剤耐性コシヒカリを開発したベンチャー企業アグラシータス社を買収しているからだ。
ゴールデンライスへ高まる批判
遺伝子組み換えによるβ-カロチン生産イネ、ゴールデンライスが途上国の批判にさらされている。スイスのシンジェンタ社が開発し、英アストラ・ゼネカ社が発売予定だが、最近では途上国への無償援助の方針も打ち出された。批判の先頭に立つのが、インドの在野科学者ヴァンダナ・シバ(Vandana Shiva)で、緑の革命で深刻な打撃を受けた途上国の女性農民の立場から、生物多様性を取り戻すことが真の解決になる、と指摘している。
〔SUHAY 2000/2/14〕
β-カロチンは体内でビタミンAとなるが、ゴールデンライスの開発をめぐる論争が展開される中、子どものビタミンA不足による失明をなくすためには、一人あたり毎日27杯のご飯を食べなければならないという計算(Post Dispach誌のTina Hesmanによる)もあり、ビタミンA不足解消の実効性に疑いがもたれている。
新しいイネ開発の国家計画
農水省の民活機関である生物系特定産業技術研究推進機構(生研機構)は、2000年9月、農水省生物資源研、三和化学研究所、三菱化学の植物工学研究所、全農、日本製紙が進める、機能性組み換え作物の研究に資金を投じることを決定した。花粉症対策のペプチド含有イネ(農水省生物資源研)、血糖をコントロールするペプチド含有イネ(三和化学研究所)、肥満対策の脂肪酸含有量変更イネ(三菱化学)、ヒト・ラクトフェリン遺伝子導入イネ(全農が中心)がその対象である。
ここで注目されるのが、日本製紙が開発した「MAT(Multi-Auto-Transformation)ベクター・システム」である。このシステムは、遺伝子組み換えの際に抗生物質耐性遺伝子をマーカー遺伝子として用いないことから、細胞の負担が軽いため、効率よく組み換え体が得られ、しかもマーカー遺伝子領域を作物から除去できるため、安全性が高くなるというのが売り文句である。しかし、ベクターの一部にトウモロコシのトランスポゾンを用いるため、目的遺伝子が組み換え後に脱落するなど不安定要因をもち、何が起きるか分からないという致命的欠陥を抱えている。 |
ことば |
*白葉枯病
葉に多数の白い斑点が生じて広がり、枯れる病害。主に細菌の寄生による。
*ラクトフェリン
哺乳動物の乳中に含まれるタンパク質で、細菌感染を防ぐ働きがある。
*MATベクター・システム
植物の腫瘍細菌(アグロバクテリウム)のTiプラスミドとトウモロコシ由来トランスポゾンからなる
ベクターで、マーカーとして植物ホルモンのひとつ、サイトカイニン合成酵素の遺伝子を用いている。
細胞分裂にともないマーカー酵素の働きによって多芽の異常形態をつくることから、目視で遺伝子
組み換えの成否を見分けることができる。マーカー遺伝子は、醤油酵母の部位特異的組み換え因子など
を用いることで除去でき、その後は正常に成育するという。
*トランスポゾン
動く遺伝子のこと。通常の遺伝子は染色体上の位置が決まっているが、トランスポゾンは染色体上を転移する性質がある。 |
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