■2001年10月号

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バイオジャーナル




ニュース・クローズアップ

ネイチャー誌、野外実験の批判論文を却下

 英国の科学誌ネイチャー(Nature)が、遺伝子組み換え作物の野外実験に関する論文を不採用とした。それに対し、9月1日、メイ・ワン・ホーが主宰するISIS(Institute of Science in Society)は、抗議声明を出した。
 ネイチャー誌は、遺伝子組み換えの議論を、科学者と環境団体及び有機農業運動の対立と捉えている。しかし、科学者の中にも遺伝子組み換えの野外放出に否定的な意見がある。理由の1つは、遺伝子組み換え体は遺伝学的に不安定であること、もう1つは、組み換え遺伝子の水平移動により、予期せぬ問題が生じることである。
 遺伝学的な不安定性として、遺伝子組み換え作物の収量が下がる、不発芽種子が生じる、新規の病害による被害の報告が見られることをあげている。遺伝子組み換え体から微生物への水平移動や、動物の腸内での移行の危険性が指摘されており、科学的に安定性は証明されていない。〔I-SIS-Mailing List 2001/9/1〕


除草剤ラウンドアップに抵抗を増す雑草類

 ミズーリコロンビア大学のレイド・スメダは、ミズーリ州とイリノイ州のウォータ・ヘンプ(麻の仲間の雑草)の中に、わずかな割合でラウンドアップ散布後も枯れないものを見つけた。両地域とも、農家ではラウンドアップを25年間使用していたが、5年前に遺伝子組み換えされたラウンドアップ・レディー作物が登場し、状況が変化した。それ以前のように複数の除草剤を組み合わせる必要がなくなったからである。
 米デラウェア州では雑草研究者のマーク・ファンゲッセルが、ヒメムカシヨモギがラウンドアップに抵抗を示すことを明らかにしている。1999年に見いだしていたが、彼はこのことを軽視していたと自ら認めている。
 科学者たちが、現状のままでは、ラウンドアップに依存した除草ができなくなるだろうと考えている。
 マレーシアではオヒシバに、オーストラリアではライグラスに同種の傾向が見られるという。〔The Kansas City Star, 2001/8/21〕


モンサント社、小麦に照準
 米モンサント社が開発した除草剤耐性小麦の作付け実験が、北海道農業研究センターの圃場で行われている。農林水産先端技術産業振興センターが加わり共同研究で進められている品種はMON71800系統で、春まき小麦だ。
 モンサント米国本社は、6月4日、小麦商業化のための委員会を設置した。同委員会は、主に小麦関連企業で構成され、遺伝子組み換え小麦売り込みの準備態勢が着々と固められている。


王子製紙の植林戦略

 7月に独ボンで開かれた気候変動枠組み条約第6回締約国会議(COP6)で、日本が中心になってまとめ提案した、森林が吸収する二酸化炭素を温暖化ガス削減に参入する新方式が合意された。これによって、海外植林も自国の温暖化ガス排出削減と見なされることになり、遺伝子組み換え樹木の植林が進められる恐れがある。
 いま日本の製紙企業は、活発に海外植林を進めており、中でも王子製紙は、以前からベトナムでパルプの原料となるユーカリなどを植林してきた。さらに現在は、遺伝子組み換え技術を用いてリグニンの合成を押さえたユーカリを開発し、ベトナムで野外実験を始めた。


大阪高槻JT訴訟で不当判決、住民側控訴

 1995年以来、JT医薬総合研究所をめぐって高槻市を相手取り情報公開請求訴訟が争われてきた。これは、日本たばこ産業(JT)が、住宅地の真ん中にバイオ研究施設建設を計画し、高槻市と安全協定を締結した際に住民を排除したことから、安全な暮らしを求めて住民が起こしたものだ。裁判の過程では、病原微生物や放射性物質などの有害物質が漏れ出る可能性が示された。また昨年12月20日には、同社社員が放射性物質を含む研究材料を持ち出し、JR高槻駅でばらまくという事件が発生し、危険性が現実となった。
 6月29日大阪地裁は、住民の請求を棄却する判決を下した。7月12日、住民は大阪高裁に控訴した。


胚性幹(ES)細胞規制緩和の動向

 6月に施行されたクローン技術規制法に続いて、人の受精卵(胚)に関する指針が年内に相次いで告示される。文部科学省の総合科学技術会議は同生命倫理専門調査会が検討していた「ヒトES細胞の樹立及び仕様に関する指針について」を30日に了承した。
 同調査会下部組織でも「特定胚などの取り扱いに関する指針」を12月告示に向けて検討している。
 ヒト胚性幹(ES)細胞、特定胚などは人の受精卵、胚を使うことから、一連の研究容認の流れに対し、市民グループは、「受精卵、胚をモノとして研究に用い、産業資源化するものだ」と強く反発している。


文部科学省による指針統一の危惧

 文部省と科学技術庁が個別に運用していた、遺伝子組み換え実験指針を、両省が合体したため統一することになり、文科省科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会・組換えDNA技術等専門委員会は7月25日に「統一案」をまとめ、大幅な実験手続きの簡素化が図られた。
 さらに「教育目的組換えDNA実験」が新設され、高等学校で遺伝子組み換え実験を行うことを認めた。本来、生命の大切さを教えるべき時期に、生命を「モノとして扱う」実験を行う方針が打ち出されたことになる。



ことば
*水平移動
親から子へのDNAの移動を垂直移動といい、異種間を含めた個体間のDNAの移動を水平移動という。

*ラウンドアップ
グリホサートを主成分とし、界面活性剤などを含む除草剤。モンサント社製造販売。

*リグニン
植物の細胞間に蓄積する成分。これにより、細胞が木質化する。

*特定胚
ヒト胚分割胚、ヒト胚核移植胚、ヒト・クローン胚、ヒト集合胚、ヒト動物交雑胚、ヒト性融合胚などを指す。