■2001年10月号

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バイオジャーナル




特集●食品の安全性をめぐって

米SAP、スターリンク禁止を求める答申

 米科学諮問委員会(SAP)は7月25日、遺伝子組み換えトウモロコシ「スターリンク」の食用としての使用を禁止するよう環境保護局(EPA)に答申した。
 先の6月14日に発表された食品医薬局(FDA)と疾病管理センター(CDC)の報告では、スターリンクがアレルゲンとなる証拠を見いだすことができないとしていた。しかしこの報告書については、「地球の友」のビル・フリーズ、名古屋大学の河田昌東、フロリダ大学の毒物学者スチーブン・ロバーツら多くの科学者が、スターリンクから抽出したCry9Cタンパク質ではなく、遺伝子組み換え大腸菌で作ったタンパク質を用いている点など、試験が実態を反映していないと指摘するコメント・論文をインターネット上で公開している。
 SAPの答申の中では、スターリンクのCry9Cタンパク質がヒトのアレルゲンとなる可能性があることを再確認し、食品への残留許容値を20ppb(10億分の20)とした。
 EPAは、スターリンクを飼料用及びエタノール用として認可したが、食用に関しては、健康に対する影響が未知であるとして認可していない。最近アベンティス・クロップサイエンス社の認可申請が出されていた。
 今回の答申により食用としての認可は却下されたが、科学的な調査が尽くされたとはいえず、多くの課題を残している。


スターリンク、日本は承認へ

 農水省農業資材審議会飼料分科会安全性部会は8月20日、スターリンクなど未承認作物の輸入を認める方針を打ち出した。その根拠は、社団法人日本科学飼料協会・科学飼料研究センターが行った「スターリンク給与試験」である。ブロイラー、採卵鶏、乳牛、肉豚にスターリンク配合飼料を給与した結果異常はなく、組み換えDNAやCry9Cの肉への移行も見られなかった、と結論づけたが、動物への影響を総合的に評価するに不十分である。


ニューリーフ・プラスとナタネRT200系統認可へ

 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食品衛生バイオテクノロジー部会は、8月8日、モンサント社の未承認遺伝子組み換えジャガイモ「ニューリーフ・プラス」とラウンドアップ・レディー・ナタネ「RT200系統」の国内販売を認める結論をまとめた。いずれも、先に回収騒ぎを起こした品種である。
 ニューリーフ・プラスは、5月24日にハウス食品の「オー・ザック」から検出されて以来、カルビーの「じゃがりこ」、ブルボンの「ポテルカ」、森永製菓の「森永ポテロング」「森永ポテロング・スモークチーズ味」、P&G社の「プリングルズ」から検出され、回収された。
 ナタネ「RT200系統」は、今春カナダで種子汚染事件を起こした品種である。4月25日にモンサント社は、カナダの種子企業2社と協議して、この種子の回収を行っている。
 日本政府がいわくつきの作物の承認を急ぐのには理由がある。輸入時の検査費用の節約である。未承認作物を早くなくすことで、輸入をスムーズに進めるという意図もある。政治的意図が優先されたといえる。


開発進むターミネーター技術

 農家の自家採種を阻止し、永続的な種子販売戦略のために開発されたターミネーター技術が復活しつつある。
 7月25日、シンジェンタ社は英バークシャー州ジャロッツヒル国際研究センターで野外実験を行うことを明らかにした。同社は前身のアストラ・ゼネカ社時代の1999年、ターミネーター技術の開発は行っておらず、今後も研究しない旨をカナダの環境NGO、国際農村発展基金(RAFI)に対し、明言していた。今回の実験はその約束を破るものだとして、RAFIは強く抗議している。
 一方、米農務省(USDA)は、8月1日デルタ&パインランド社(D&PL)に対し、ターミネーター技術を用いた作物の開発を認可をした。USDAはクリントン政権時代に諮問委員会を設置し、ターミネーター技術に関する論議を優先課題としていた。反対意見もあったが、最終的に条件付きで認可するよう答申した。
 条件とは、ターミネーター技術はエアールーム(古くから伝わる在来品種)の園芸花卉植物、野菜類、あるいは市場に出される植物の品種に対しては、2003年1月までは使用しない。安全性評価試験を終了した後に、規制を緩和する。USDAに発生する知的所有権は、広く公開して使用できるようにする、の3点だ。
 すでにUSDAとD&PL社はターミネーター技術の共同研究を行い、3つの関連特許を取得している。D&PL社は、ターミネーター種子を商品化する意志があることを公言する唯一の企業である。
 昨年の国連食糧農業機関(FAO)の諮問委員会では、ターミネーター技術は反倫理的であるという結論が下された。今年の11月9−15日には世界食糧サミットが開かれるが、ターミネーター技術をめぐる議論が、大きな議題になる模様である。



ことば
Cry9C
Bt菌の殺虫毒素タンパク質の名称。多数の殺虫毒素の中で、とくに人間に有害なタンパク質と考えられている。

種子汚染
植物の種子に、花粉を介して組み換え遺伝子が伝搬すること。

ターミネーター技術
次世代の種子が発芽とともに枯れる(自殺する)ように、遺伝子組み換えで操作する技術のこと。種子独占につながる技術として批判を浴び、開発者は凍結を宣言したが、最近この性質を逆手にとって、組み換え遺伝子の環境中への伝搬を阻止できる環境保護のための技術と言い始めている。