■2012年10月号

今月の潮流
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バイオジャーナル

今月の潮流●遺伝子を細かく制御する、新しい遺伝子操作技術


 8月20日、徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部三戸太郎の研究グループと、広島大学大学院理学研究科山本卓の研究グループが共同で、新しい遺伝子操作技術を用いて色素のない「白いコオロギ」を作りだした、と発表した。論文は、8月22日付「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載された。新しい遺伝子操作技術とは、「人工制限酵素」を用いた「ゲノム編集技術」と呼ばれるものである。

 最近研究者の間で、「人工制限酵素」を用いた遺伝子操作が盛んに行われている。方法には「ZFN法」と「TALEN法」があり、いずれも人工的に合成した制限酵素(DNAを切断する酵素)を用いて、自在に特定の狙った箇所のDNAを切断する技術である。しかも切断箇所を自在に変えることができるように設計してある。

 今回作製された白いコオロギは、コオロギの表皮に黒い色素をもたらす遺伝子を切断し、その働きを止めた。このように遺伝子の働きを止めることを「ノックアウト」という。ノックアウト技術は、遺伝子の働きを調べるのに用いられてきた。

 人工制限酵素は、DNAを切断する部位とともに修復する部位も併せ持っている。そのため、切断した後修復が行われるが、その際に一定の割合で、今回のような遺伝子の欠失が起きる。また、修復の際に、その位置に遺伝子を運ぶベクター(遺伝子の運び屋)を用いて、遺伝子を挿入することもできる。そのため、これまでの遺伝子組み換え技術ではできなかった、特定の箇所の遺伝子の働きを止めて新たな遺伝子を挿入する、文字通りの遺伝子の入れ換えが可能になり、細かな遺伝子操作ができる。そういったことから、この技術を「ゲノム編集技術」という。

 これまでの、どこに遺伝子が入るかわからない粗っぽい遺伝子組み換え技術から、きめ細かいゲノム編集技術へと、研究の方法が変わることになる。

 白いコオロギを作製した研究者は、この技術は「遺伝子組み換え技術」ではないため、カルタヘナ法(遺伝子組み換え生物が野生動植物などへ影響を与えないよう管理するための法律)の規制の対象外であると考えているようである。また、今回のような遺伝子の働きを止めたケースでは、操作した痕跡がわかり難くなるため、安易な遺伝子操作が広がる危険性もある。