■2002年11月号

今月の潮流
News
News2
今月のできごと


今号の目次へ戻る
ジャーナル目次へ戻る






































































































バイオジャーナル

ニュース


●遺伝子治療
信州大、厚労省に遺伝子治療計画を申請


 9月27日、科学技術部会(厚労相諮問機関、厚生科学審議会)が開かれ、信州大の遺伝子治療臨床実施計画が審査された。期間は3年間で、悪性黒色腫の患者5人の病巣に、β型インターフェロン遺伝子を注射し、腫瘍細胞の増殖を抑えようというものである。ベクターには、名古屋大学が作成したものをそのまま使う。形式的には学内研究の一環として行われるが、実質的には国産ベクター開発のための臨床試験である。

●ES細胞
ヒトES細胞使用計画書の開示される

  情報公開法に基づいて市民から請求が出されていた、信州大学医学部のヒトES細胞使用計画書と申請書類の開示を、9月30日に文科省が了承した。ES細胞の分配に関する契約内容など一部不開示もあるが、これまで指摘されていた学内倫理委員会のずさんさなどが明らかになった。
 再々審査の末に継続審議となった信州大の計画は、実質的には却下されたも同然の状態となっている。ヒトES細胞の使用計画については、続々と文科省に申請が出され、現在審査中のものは慶応大学医学部、東大医科学研究所、東大医学部付属病院の3件である。


●欧州の表示制度とトレーサビリティ
……欧州議会で新表示制度が可決されて……

  7月3日、欧州議会(第1特会)で欧州委員会の提案を受けた「遺伝子組み換え食品の表示」に関する投票が行われ、遺伝子組み換え食品と飼料の表示と、その表示を裏付けるトレーサビリティが244票対234票という僅差で可決された。この後、欧州理事会、欧州議会(第2特会)での審議と決定を経て、来年中には全食品・飼料の表示と、トレーサビリティの確立が図られることになる。
 この遺伝子組み換え食品の新しい表示制度に対応した、トレーサビリティをどのように具体的につくっていくかを見るため、市民バイオテクノロジー情報室とストップ遺伝子組み換えイネ生協ネットなどで構成するGM表示研究会は、イタリアと欧州本部のあるベルギーを訪れた。
 イタリア・ボローニャでは、コープ・イタリアの本部とエミリア・ロマーニュ州政府を訪れた後、実際にトレーサビリティを実践している、同州フォルリにあり、有機や低農薬農作物を扱っているアポフルーツの工場を見学した。
 ベルギーのブリュッセルでは、欧州機関へのロビー活動を行っている、英国小売協会、欧州消費者連合会、欧州農業協同組合などの各団体の他に、欧州議会議員のアシスタント、地球の友、グリーンピースなどの市民グループを訪問した。 ここでは、今回の欧州委員会提案、欧州議会決議に対する各団体のコメントを紹介する。

◆英国小売協会
 「欧州委員会の提案に賛成であり、今回のトレーサビリティに基づく全食品表示という提案を支持している。とくにトレーサビリティに賛成である。なぜなら私たちはすでにIPハンドリング(分離流通)システムに関するテクニカル・スタンダード(技術基準)を、FDF(食品製造業者の協会)と一緒につくっており、実践しているからだ。これは3〜4年前に、消費者の不安に応えるためにつくったもので、非組み換えを保証するためのアプローチと考えた。とりあえず自社ブランド製品から始めている。
 混入率を1%以下にすることも必要である。肉や卵などの遺伝子組み換え飼料を用いた家畜とその製品の表示は必要ない。というのはトレーサビリティが確立していないからだ」
〔ブレディン・ブニオール〕

◆欧州消費者連合会
 「欧州委員会の提案に賛成である。理由の1つは、消費者の知る権利を初めて認めた点にある。消費者は最終製品に遺伝子やタンパク質が残っていなくても、遺伝子組み換え作物からつくられたかどうかを知りたいのだ。表示は警告ではなく、選択する権利の問題である。そのためには正確な情報が表示されなければならず、その裏づけとしてトレーサビリティが必要である。
 賛成するもう1つの理由は、非意図的混入に対して閾値を設定する必要があり、1%を超えないことを求めてきたが、それが認められたからである」
〔ベアーテ・ケトリッツ〕

◆欧州農業協同組合
 「欧州委員会の提案で支持している点は、適切なトレーサビリティと適切な表示に関してで、消費者の信頼を得るために必要であり、農家にも必要である。
 失望したのは、種子に関してで、最初に種子に関する閾値や表示が設定されなければいけない。最終製品から遺伝子やタンパク質が検出されないものにまで表示を行うのも、問題の残る提案である。偽装表示が起きやすく、輸入品にも強制できないからだ。
 新しい閾値では、偶発的な混入によって出荷できないケースがでてくるため、農家に負担を求めることになる。そのため補助金が必要になってくると思う」
〔ロキナーゼ・フェラー〕

◆地球の友、グリーンピース
 「欧州委員会の提案で評価できる点は、@トレーサビリティが打ち出され、Aトレーサビリティに基づく表示が出され、B飼料の表示も出された点にある。批判すべき点は、@閾値を設け、そこに未承認の品種を入れていた点で、これに関しては、議会の決議で取り除かれたが。A遺伝子組み換え飼料を用いた家畜とその製品の表示がない点である。
 種子に関しては、閾値を設定するのではなく、混入をゼロとすべきである。欧州委員会は0.3〜0.4%程度を設定しようとしているが、われわれは0.1%以下を求めている。この数字は、種子においては混入ゼロしかあり得ないからだ。その他に、遺伝子汚染で有機農業を行っている農家が損失を受けた際の責任の明確化を求めている」 
〔ギールト・リッツマー、ロレンツォ・コンソリ〕


ことば
*悪性黒色腫
 黒色、黒褐色の腫瘍。きわめて悪性のがん。メラニン色素が存在する皮膚、眼球などの組織から発生する。増殖が早く、転移し再発しやすい。 

*閾値
 限界のこと。この場合は、たとえ混入しても(微量なので)混入していないと見なす「限界」の値。