■2003年2月号

今月の潮流
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今月のできごと


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バイオジャーナル

ニュース


●分子農業
米企業の実験場になったプエルトリコ

 米国の遺伝子組み換え食品に反対する市民運動の連合体であるGEフード・アラートによると、分子農業の実験場は主に4つで、米国内ではネブラスカ州、ウィスコンシン州、ハワイ州にあるが、プエルトリコでも大規模に行われているという。
 プエルトリコではすでに、米農務省が承認した2296件(2001年1月)の野外実験が行われている。また、モンサント社の除草剤耐性大豆などを商業栽培してきたが、主に種子を生産するための栽培である。1年に4回も収穫できる気候条件が種子生産地として拡大した理由のようだ。
 同国には、遺伝子組み換え作物を規制する法律も規則もなく、野外実験や商業栽培に介入したり調査する権利もないことが、米企業にねらわれたと思われる。
〔I-SIS 2002/12/3〕

スギ花粉アレルゲンをもつGM稲開発

 東京慈恵会医科大学と東北大学の研究グループは、スギ花粉のアレルゲンをもつ遺伝子組み換え稲を開発した。この米をマウスに経口投与したところ、スギ花粉に対する減感作療法に有効という結果が得られたとして、12月に開かれた日本免疫学会で発表した。
 しかし、米には新しいアレルゲンをもたらす可能性があり、遺伝子汚染によってアレルゲンが他の作物に拡大することも考えられ、安全性評価の試験がこれから行われることになる。同様の花粉症対策の稲の開発は、農業生物資源研究所でも行われている。
〔日経バイオテク 2002/12/16〕

米国バイオ業界が自主指針

 先月号の「今月の潮流」で紹介した、医薬品製造の作物がもたらす遺伝子汚染対策に動きが見られた。下痢止め経口ワクチン製造用トウモロコシが大豆と一緒に収穫されてしまった事件を受けて、米食品医薬品局と農務省は、医薬品製造の組み換え作物を作付けする際のガイドラインを2002年9月6日につくり、パブリックコメントを求めた。それに対応して米国のバイオテクノロジー企業の団体であるバイオ産業協会(BIO)は、10月22日に栽培地域を自主規制する指針を発表した。
 それによると、他家受粉作物に関しては、同じ種類の食用作物がまったくまたはほとんど栽培されていない地域だけで栽培する、としている。しかし、稲や大豆などの自家受粉作物は、規制の対象から除外された。
〔農水省海外情報HP〕

●情報公開
高槻JTバイオ訴訟で市民勝訴

 2002年12月24日、大阪高裁は、JT医薬総合研究所の周辺住民が起こした訴訟で、高槻市に対して情報公開を求める判決を下した。住民はバイオ施設で行われる遺伝子組み換え実験などには安全性に問題があるとして、JTが市に提出した建物設計図などの情報の公開を求めていた。昨年6月の大阪地裁は訴えを棄却したが、高裁では住民の逆転勝訴となった。バイオ研究所で行われる事業活動が生命や健康を害する可能性があることを認め、情報公開によって被害を回避する可能性があるとした、画期的な判決内容である。


●省庁動向
厚労省、ヒト幹細胞指針まとまらず


 2002年12月26日、再生医療の臨床応用に際しての指針作りを進めている、「ヒト幹細胞を用いた臨床研究の在り方に関する専門委員会」(厚労相諮問機関、厚生科学審議会)の第10回会合が開かれた。当初の予定では、この会合までに指針案を取りまとめ、2003年の年明け早々にパブリックコメントを募集して3月には完成させることになっていた。しかし、人工妊娠中絶で生じた死亡胎児からの細胞採取について委員の間で意見が分かれ、指針案を取りまとめることはできなかった。とりあえず死亡胎児の細胞利用は認めたが、それをどのような形で指針に盛り込むかで調整がつかず、結局、継続審議となった。

医薬品をつくる作物をめぐる状況

 遺伝子組み換え植物を用いて生産した薬品で、すでに実用化されているものに、米シグマ社が販売しているトウモロコシ生産のアビジンとβ-グルクロニダーゼがある。いずれもプロディジーン社が開発したものである。同社は、パイオニア・ハイブレッド社から分かれてできた企業である。これらの薬品は実験用試薬であり、市場規模は小さい。
 同社が次に市場化を狙っている医薬品が、トウモロコシ生産のトリプシンである。また国立衛生研究所(NIH)と共同開発している、トウモロコシ生産の「下痢止め経口ワクチン」も市場化が近い。
 仏メリステム社などが開発している胃リパーゼもまた、市場化が近いと見られている。
 日本でも稲やジャガイモに生産させる医薬品開発が進められている。

表 主な医薬品産生遺伝子組み換え作物の開発状況

【市場化されているもの】

開発者 作物の種類
米プロディジーン社など β-グルクロニダーゼ産生トウモロコシ
米プロディジーン社など アビジン産生トウモロコシ

【市場化が近いもの】

開発者 作物の種類
米プロディジーン社など トリプシン産生トウモロコシ
米プロディジーン社など 下痢止め経口ワクチン産生トウモロコシ
仏メリステム社など 胃リパーゼ産生トウモロコシ

【開発中のもの】

開発者 作物の種類
農業生物資源研・全農・日本製紙 ヒトラクトフェリン遺伝子導入稲
農業生物資源研・三和化学 インスリン分泌ホルモン遺伝子導入稲
東京理科大学 B型肝炎ワクチン産生稲
北海道グリーンバイオ研など α-インターフェロン産生ジャガイモ
北海道グリーンバイオ研 牛の下痢予防ワクチン産生ジャガイモ
米モンサント社 医薬品産生用トウモロコシの開発
米H・B・A・エンタープライズ社 医薬品産生用トウモロコシの開発
米プロディジーン社など アプロチニン産生トウモロコシ
米ダウケミカル社など 治療用抗体産生トウモロコシ
米ラージスケール・バイオロジー社 α-ガラクトシダーゼ産生植物
米エピサイト社など ヘルペスウイルス抗体産生植物

解説
*分子農業

 分子農業とは、植物に、人間など他の生物の遺伝子を導入して、その遺伝子がつくり出すタンパク質を植物内でつくらせ、抽出・精製して医薬品をつくること。植物医薬品工場、植物細胞工場ともいう。遺伝子組み換え食品が消費者の反発を受けたことから、植物バイオ企業は分子農業へと方向転換を始めている。

 米ヴァージニア大学の研究チームが、クロップテック社と共同で、タバコを用いて人間の遺伝子を発現させ、タンパク質をつくり出す研究が、この分野の先駆けとなった。
 「工場」として用いる植物は、大量にタンパク質をつくり出すものでなければ効率が悪い。そのため、タバコとトウモロコシが最初の候補となった。タバコは葉にタンパク質を蓄積させるため、葉を収穫して分離・精製する。トウモロコシは種子にタンパク質を蓄積する。その後、稲やジャガイモなどさまざまな作物で開発が行われている。組み換え体をつくるだけでなく、効率よく生産させるための栽培条件や、密集栽培が研究されている。

 日本でも、農水省とアレルゲンフリー・テクノロジー(AFT)研究所のグループが、人間の乳腺から取り出した、ヒトラクトフェリン生産遺伝子を、トマト「秋玉」に入れて発現させた。
 AFTでは、すでに稲にヒトラクトフェリン遺伝子を導入して発現させ、この研究は現在全農が受け継いでいる。この米は、通常の稲の約2倍の鉄分を含むため、機能性食品としての販売を目指している。また、抗生物質耐性遺伝子を用いない方法の開発が、全農と農業生物資源研究所、日本製紙で進められている。