■2003年6月号

今月の潮流
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今月のできごと


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バイオジャーナル

ニュース


●クローン動物
厚労省研究班「クローン牛は安全」

 4月11日厚労省研究班は、体細胞クローン牛は「安全」である、とする報告書をまとめた。昨年8月13日に発表された畜産生物化学安全研究所が行った実験(2002年10月号参照)で、ラット等に体細胞クローン牛の肉や乳をエサとして投与しても異常がなかったことをふまえ、肉や乳の成分にかかわる論文等、国内外の文献を分析した結果、従来の牛と比較してタンパク質が新たな毒性や病原性をもたらす可能性はない、と結論づけた。報告書を受けて、食品として流通に踏み切ることが検討され始めた。

 5月6日、参議院の本会議で「食品安全基本法案」が可決成立した。同法に基づいて、7月には食品安全委員会が設立される。一方、4月19日には、市民の手による市民食品安全監視委員会(代表・神山美智子弁護士、事務局・日本消費者連盟)が設立された。
 安全委、安全監視委ともに体細胞クローン牛が、最初の大きなテーマになりそうだ。
●遺伝子組み換え作物
稲の遺伝子組み換えにMATベクター

 4月3日、日本育種学会での発表によれば、日本製紙は、農業生物資源研究所、三和化学研究所と共同で、インスリン分泌促進ペプチドホルモン(GLP-1)遺伝子を導入しGLP-1が稲中に高蓄積する稲を開発した。この遺伝子組み換え稲の特徴は、遺伝子導入の手段に、日本製紙開発のMATベクターを用いた点にある。このベクターは、選択マーカーに抗生物質耐性遺伝子を使わないことが大きな特徴だ。抗生物質耐性細菌が環境中へ広がることに対する懸念に応えたものであるが、しかし、選択マーカーとしての抗生物質耐性遺伝子には、遺伝子導入効率を高めるという役割もあり、MATベクターでは、遺伝子の導入効率が低くなるという欠点がある。今回は改良型MATベクターを用いており、抗生物質耐性遺伝子をベクターにつなげて遺伝子導入し、後に抗生物質耐性遺伝子を除去するという方法でGLP-1を高蓄積させた。

豪州でGMナタネ認可、州政府に反対の動き

 オーストラリア政府は4月初め、モンサント社とバイエル・クロップサイエンス社が申請していた遺伝子組み換えナタネの作付けについて、バイエル・クロップサイエンス社の品種のみを認可した。綿とカーネーションに次ぐものである。同国は、カナダに次ぐナタネやキャノーラ油の輸出国である。
 しかし政府の動きに反して、州政府の間では遺伝子組み換え作物を栽培禁止にするところが増え始めている。タスマニア州は2月27日、今年6月で終えるGM作物の暫定禁止措置を5年間延長することを決めた。西オーストラリア州は2月25日、GM作物の商業栽培禁止地区を設定できる州法の草案を発表した。南オーストラリア州は3月7日、農業相がGM作物の導入禁止を発表した。ニュー・サウス・ウェールズ州は3月上旬、州議会選挙を控え、与野党そろってGM作物の暫定禁止措置を公約した。     
〔New Zealand News 2003/4/2ほか〕

●遺伝子組み換え植物
テロ対策用GM植物の研究始まる

 米国防総省は、生物・化学兵器を早期に察知する遺伝子組み換え植物の研究を始める。同省国防高等研究計画庁が、ペンシルベニア大学の研究者に3年間で350万ドルを助成し、開発を進める。現在、候補植物にはシロイヌナズナがもっとも有力とされ、受容体型キナーゼと呼ばれる、細胞内の反応にかかわるタンパク質の遺伝子を用いて生物・化学兵器の感知に利用する計画という。
〔Hotwired japan 2003/4/5〕


●海外動向
サウジアラビアがGM食品表示義務


 サウジアラビア農業省は、遺伝子組み換え作物の輸入に関して政令を公布した。政令は輸入作物にタグをつけ、英語だけでなくアラビア語でも表示するよう規定している。しかも遺伝子組み換え作物として輸入が認められるのは、サウジアラビアの基準に従っていることはもちろん、生産国においても認可されているもの、としている。 〔MENAビジネス報告 2003/4/10〕

英国が食品等にDNAコード導入

 英国の公益法人・全国農業植物研究所(ケンブリッジ)は、遺伝子組み換え生物にDNAコードをつけ、当局が検査しやすくする技術の特許を申請した。ニューサイエンティスト誌は、英国政府が遺伝子組み換え作物にこのDNAコードを導入することを検討している、と報じている。 〔New Scientist 2003/2/12、農水省HP2003/4/14〕

ドイツでGM小麦阻止行動

 ドイツ政府は、スイス・シンジェンタ社から申請が出されていた遺伝子組み換え小麦の試験栽培を認可した。それに抗議してグリーンピースは4月9日、従来の小麦種子を試験栽培地に蒔き、試験栽培は事実上不可能になった。 〔ロイター 2003/4/9〕

バイオ企業に直接行動

 4月24日、モンサント社と並ぶ遺伝子組み換え作物開発の大手メーカー、バイエル・クロップサイエンス社(英国ケンブリッジ)の正門で、遺伝子組み換え作物に反対する活動家たちが、鎖で体をくくりつけるなどして封鎖した。不法侵入などの容疑で8人が逮捕された。
〔Financial Times 2003/4/25〕

テキサス州が医薬品生産用生物禁止へ


 米テキサス州議会に遺伝子組み換え規制法案が提出され、4月10日には下院公聴会も開かれ、まもなく成立する。この法律は、食品や飼料に用いられる作物や家畜に、遺伝子組み換え技術によって医薬品、工業薬品、非食品類素材を生産させることを禁止している。アイオワ州やネブラスカ州で起きた、医薬品生産用作物による汚染事件(本誌1,2月号参照)を教訓につくられたものである。
〔Consumer Report 2003/4/10ほか〕


ことば
*ペプチドホルモン
 ペプチドとは2個以上のアミノ酸が結合した小さなタンパク質のこと。ペプチドの中にはホルモンとしての働きを持つ物質があり、血糖値を下げるインシュリンはその代表。

*MATベクター
 植物の腫瘍細菌(アグロバクテリウム)のTiプラスミドとトウモロコシ由来のトランスポゾンから成るベクターで、マーカーとして植物ホルモンのひとつ、サイトカイニン合成酵素の遺伝子を用いている。細胞分裂にともないマーカー酵素の働きによって多芽の異常形態をつくることから、目視で遺伝子組み換えの成否を見分けることができる。マーカー遺伝子は、醤油酵母の部位特異的組み換え因子などを用いることで除去でき、その後は正常に成育するという。