■200年月号

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バイオジャーナル

ニュース


●ES細胞
京都大、都立科技大でES細胞操作

 京都大学付属病院探索医療チームの高橋政代助教授らのチームは、カニクイザルのES細胞から目のレンズをつくりだした。ES細胞とは、あらゆる組織や臓器に分化する可能性があることから万能細胞と呼ばれている。
 また、都立科学技術大学の宮本寛治教授らは、人間の胎盤の細胞を用いてサルのES細胞を培養する方法を開発した。従来はネズミの胎児の繊維芽細胞を用いていた。そのためネズミがもつウイルスなどの感染が懸念されていた。 〔日本経済新聞 2003/4/14ほか〕
 また米仏の研究グループはマウスのES細胞から卵をつくり出した。 〔サイエンス 2003/5/2〕

●BSE
プリオン仮説、立証される

 BSE(狂牛病)は、正常なプリオンタンパク質が変形して起きるが、感染に関してはウイルスやバクテリアが媒介するのではなく、プリオン自体が感染能力をもつとする「プリオン仮説」が有力視されてきた。
 スイス・チューリッヒ大学病院のアドリアーノ・アグッチらはこのほど、遺伝子組み換えマウスを用いた実験で、羊のスクレイピーにかかわるタンパク質を注入し、異常プリオンが正常プリオンにくっつく現場をとらえるのに成功した。 〔Nature science オンライン版 2003/4/8〕


●ヒトゲノム
30万人遺伝子バンク計画で議論紛糾

 2003年度から、文科省が200億円をつぎ込む「30万人遺伝子バンク計画」がスタートした(本誌2003年5月号参照)。この計画の倫理面を検討するため、5月6日に生命倫理・安全部会(文科相諮問機関、科学技術・学術審議会)が招集された。委員の間からは、先に予算をつけて既成事実化し、その上で倫理面の検討を依頼してくる文科省の姿勢に非難が集中した。京大大学院教授・位田隆一は、「そもそもプロセスがおかしい。30万人という大規模な研究をやるのなら、本来は事前に議論を尽くすべき。イギリスでもアイスランドでも、それをやっている」と批判した。最終的に、@プロジェクト推進委員会のなかに、インフォームド・コンセントが適正に行われているかなどの倫理面をチェックするグループを設ける、A今後、同様の研究を実施する場合は事前に倫理面を検討する、という2点を文科省に了承させた。

ポスト・ヒトゲノムでENCODE計画始動

 4月14日、日米英独仏中6カ国共同で取り組んできたヒトゲノム解析計画が、このほどDNAの塩基配列読み取り(構造解析)終了を宣言した。28億6000塩基の配列のうち、技術的に解析不能な約1%を除いたすべての塩基配列を読み終わった。従来、10万程度あると予想されていた遺伝子の数は、約3万2000個であることがわかった。
 米国政府は、ポスト・ヒトゲノム計画として、すべての遺伝子の機能を解明する「ENCODE計画」を準備している。計画では、最初の3年間で試験計画を進め、1%ほどの領域の機能解析に当て、その成果を基に本格的なプロジェクトを始める。医薬品開発や特許の取得が目的である。
 計画には、公的研究機関だけでなく民間企業も参加している。3月7日に開かれた会議には、イラク戦争に反対した国の研究者は招かれず、日本、スペイン、イスラエル、カナダ、イギリス、スイスの研究者が参加した。日本からは理化学研究所の林崎良英らが参加したが、計画に日本が参加するかどうかは未定である。7月1日には分担などが示され、9月1日から試験計画が始まる。       
〔日経バイオテク 2003/4/28ほか〕

●遺伝子組み換え動物
GMマウス、生産・販売認可される


 4月3日農水省は、トランスジェニックラット(日本エスエルシー株式会社)が実験小動物として『農林水産分野等における組み換え体の利用のための指針』に適合と発表した。このラットはクマネズミ属Sprague-Dawley系統。ベクターはpCAGGS。導入遺伝子はラットレギュカルチン遺伝子である。これは、情報伝達に関与する遺伝子で、安定的に遺伝するという。実験動物としての生産と販売を目的としている。
 1989年以来、同指針に適合とされた組み換え体利用計画件数は233件(2003年4月28日現在)にのぼり、そのうち約8割が植物を対象としたもので、小動物は、マウスを中心に27件目である。他に細菌類は26件ある。


ことば
*繊維芽細胞
 繊維状の細長い細胞で、増殖性が高い。繊維芽細胞の核からクローン牛をつくるなど、生物工学に使われる。

*スクレイピー
 羊にみられる病気で、脳がスポンジ状になり、死に至る。治療法はない。病原体は異常型プリオンタンパク質。 異常型プリオンタンパク質の起こす病気は、牛ではBSE(狂牛病)、ヒトではクロイツフェルトヤコブ病がある。