■2003年7月号

今月の潮流
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今月のできごと


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バイオジャーナル

ニュース


●遺伝子組み換え作物
米国とカナダの小麦にGM混入

 米国産小麦に遺伝子組み換え作物が混入していることが、穀物業界の複数の関係者により明らかになった。
 英国最大の製粉業者のランク・ホービス社のピーター・ジョーン小麦部長は、米国から輸入する小麦には、日常的に大豆やトウモロコシが混入しており、製粉前はもちろん、製粉後にも検出されている。米国ではGM作物の作付け割合が高いので、混入作物の中にGMのものも相当含まれていると思われる、と述べた。
 カナダ産小麦にGMナタネやトウモロコシが含まれている可能性がある、と指摘したカナダ小麦委員会は、モンサント社に対して北米でのGM小麦の申請を取り下げるように要請した。米国やカナダでは消費者のGM作物に対する拒否反応が高まっており、北米小麦の輸出競争力が低下するのを恐れたためである。
〔ロイター 2003/6/2ほか〕

GMパパイヤの審査は食品安全委員会で

 厚生労働省薬事・食品衛生審議会の食品衛生バイオテクノロジー部会は、5月16日、2つの作物と2つの食品添加物を「安全」とする報告をまとめ、同審議会が承認し流通する見込みとなった。
 2作物は、日本モンサント社申請のジャガイモとテンサイ、2食品添加物は、ノボザイム・ジャパン社申請のリパーゼ、野沢組申請のキモシンである。モンサント社のジャガイモは、未承認にもかかわらず、ハウス食品のポテト菓子「オーザック」などへの混入が発覚し、大きな問題となった「ニューリーフY」(殺虫性とウイルス抵抗性をもつもの)である。テンサイは除草剤(ラウンドアップ)耐性である。
 初の生食用GM作物として焦点だったパパイヤは、継続審査となった。追加資料が提出されていないためと説明されたが、アレルギー誘発性に関する新たな問題が指摘されたことが影響したと考えられる。これをもって厚生労働省が行ってきた安全性審査は、7月から内閣府に設置される食品安全委員会に移行する。

中国のGM大豆規制が再々延期

 中国国務院は、遺伝子組み換え生物に関して規制をともなった管理規則をつくり、2002年3月20日から運用を始めた。これに対して大豆輸出国の米国が、GM大豆の輸入を制限するものだとして圧力をかけ、暫定認可という形式でGM大豆の輸入を継続させてきた(本誌2002年6月号)。
 2002年12月15日に期限切れとなった暫定認可を、米国は2003年9月20日まで延長させた(本誌2002年12月号)。ところが、米国はさらに2004年4月20日まで再々延長させていたことがこのほど明らかになった。繰り返される暫定認可の延長によって、中国のGM規制は実質的に効力を失っている。

モンサント社がブラジルで対抗措置

 ブラジルでは、アルゼンチンからモンサント社の除草剤(ラウンドアップ)耐性大豆の種子を不法に購入して栽培する農家が増えている。GM大豆の作付け面積は340万haに広がり、今年は国内大豆生産量の12%に相当する600万tに達すると見られている。そのため下院議会は、作付けは禁止したまま、販売だけを認める一時的な措置をとった。
 GM作物を本格的に解禁しないブラジルに業を煮やしたモンサント社は、対抗措置を取ることを決定した。同社のカール・カサーレ北米農業事業担当副社長は、基準を超えるGM大豆が含まれている場合、輸出入にかかわる業者はモンサント社に特許使用料を支払うこと、違反者には法的措置を取ることを明らかにした。
〔アメリカ大豆協会週報 2003/6/2〕

インドのBt綿がもたらす不安

 インドでは昨年、7つの州5万5000の農家が、Bt綿を作付けした。これは全インド綿の2%に当たる。今年、その綿の収穫が始まり、成果をめぐり賛否両論がある。農薬散布回数が減ったというプラスの評価がある一方、モンサント社によるインド農民の収奪が進み、自立が奪われているというマイナスの評価が広がっている。
 否定的見解が増えている原因は、種子の価格が4倍もするのに、販売価格は通常の品種より低くなってしまうのではないか、という不安が高まっているためである。というのも、インドでは綿実油が日常的に調理に使われているため、GM食品の安全性に対する不安が大きい現状では、価格が抑えられる可能性があるからである。
〔The Guardian Weekly 2003/5/8〕

●企業動向
丸紅がGM稲開発ベルギー企業の代理店に

 ベルギーのクロップデザイン社は、収量増加などを目的とした新しい遺伝子組み換え作物の品種を36種類開発したと発表した。そのうち稲に関しては今年中に圃場での実験に入ると述べた。場所は明らかにしなかったものの、過去に中国で実施した(本誌2002年10月号)ことから、中国などアジア諸国で行われる可能性が高い。
 同社の技術で注目されるのは、植物ゲノムから品種改良や医薬品開発に役立つ有用遺伝子を拾いだすスクリーニング・システム「Trait Mill」で、日本企業でもこの技術を利用する動きがあり、丸紅が同社の代理店になることが決定している。 〔日経バイオテク 2003/5/26〕

三菱化学が稲事業から全面撤退


 三菱化学のアグリバイオ部門である植物工学研究所は、これまでプロトプラスト培養技術を用いて「夢ごごち」などの稲を開発し、販売してきた。その権利を滋賀県の中島美雄商店に譲渡し、稲開発から全面撤退することになった。同社は、すでにGM稲の開発に関しては、消費者が受け入れないということで中止していた。
 これまで稲を開発してきた民間企業のうち、日本たばこ産業、キリンビールがすでに撤退し、このほど三菱化学が撤退したため、残るは三井化学一社になった。その三井化学も、ハイブリッド品種の開発や販売が中心で、GM稲開発は中断している。そのため日本でのGM稲の開発は、かつての農水省の研究機関(現在は独立法人)と、岩手県だけになった。


●遺伝子組み換え動物

GMニワトリ開発へ


 4月末、メキシコ・カンクンで開かれた国際組織、ヒトゲノム機構(HUGO)の定例会合で、ニワトリ・ゲノムの解析に関する発表があった。それによると、今年中にその概略が発表される見通しで、ニワトリの産卵能力と肥満に関わる遺伝子を見つけだす作業も進んでいることが明らかになった。スウェーデン・ウプサラ大学のLeif Anderssonらにより、2つの遺伝子のおおよその位置が特定されたという。 〔Nature news 2003/5/9〕


ことば
*リパーゼ
 中性脂肪を加水分解して、脂肪酸とグリセロールに分解する反応を触媒する酵素のこと。油脂改良などに使われる。

*キモシン
 タンパク質分解酵素の一つ。若い反芻動物の胃液中に存在する。凝乳作用が強いので、チーズの製造の際に使われる。

*プロトプラスト
 細胞壁をのぞいた細胞内容全体のこと。動物細胞には細胞壁が存在しないので、プロトプラストと細胞の区別がない。植物では、細胞壁をのぞくと突然変異が起きやすくなり、品質の改良に用いられる。