■2023年8月号

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バイオジャーナル

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●培養肉
●培養肉原料を目指しES細胞・iPS細胞の開発進む

 培養肉に用いる原料の細胞開発を目指して、ES細胞やiPS細胞の開発が進んでいる。これらの細胞は、あらゆる細胞に分化する能力を持つことから、万能細胞と呼ばれている。それらから筋肉や血管、脂肪などの細胞を分化させ、組み合わせてステーキ肉などを作成しようというのである。これまで主にマウスで樹立されてきたが、牛などでも樹立が進んでいる。

ハイペリオン・フードテック(Hyperion FoodTech:奈良市)社はこのほど、国産牛の受精卵からウシES細胞を樹立した。今後は、他社との共同による培養肉開発や、ES細胞そのものの有償提供を行う方針だという。
京都大学と畜産草地研究所などは共同で、牛の体細胞からiPS細胞を樹立した。北海道立総合研究機構農業研究本部 畜産試験場も牛のES細胞を樹立し、その細胞から子どもを誕生させている。〔Hyperion FoodTech 2023/7/3ほか〕

●ゲノム編集
●ゲノム編集技術の安全性が揺らぐ「染色体破砕」

 先月号で、ゲノム編集作物に染色体破砕が起きていたことを示す研究の一報を掲載したが、その詳細がわかった。この研究を行ったのはイスラエルのワイツマン科学研究所のアビバ・サマックらの研究チームで、ゲノム編集トマトなどを用い、これまで調べられてこなかった、植物での染色体破砕を調べたものである。米国コールド・スプリング・ハーバー研究所の「bioRxiv」に掲載されたこの論文は、まだ査読を経ていない。

ゲノム編集技術はDNAを切断して遺伝子を壊すが、予期しない箇所を切断して壊す「オフターゲット」が起きやすく、切断した後は自然修復にゆだねるため、切断箇所で染色体が大きく崩れたり、入れ替わる等の現象が起きる危険性がある。その後者の現象についての研究である。

ドイツの研究者がトマトを用いてゲノム編集でDNAを切断する際に何が起きるかを見る方法を確立した。その方法を用いて、複数の植物で、ゲノム編集でDNAを切断する際に何が起きるかを観察した。ゲノム編集では染色体を切断した後、自然修復にゆだねる。しかし、二本鎖のDNAをぶつ切りにするため、切断箇所を修復する際にのりしろを作り出す必要があり、DNAを削り取らなければならない。その切除によって、そこにある遺伝子は壊れるが、切除はコントロール不能であり、何が起きるかわからない。研究では、実際に切断した後に染色体に何が起きるのかを観察した。

それによると、染色体を切断後、小さな欠失はもちろん、染色体全体の欠失もみられたという。染色体の大きな断片の喪失、逆位、転座といった染色体の再配列もみられた。これらはすべて、ゲノム編集のDNAの切断−融合―架橋という一連の流れの中で起きていた。これまで動物では起きやすいことがわかっていたが、植物では起き難いとされていた現象で、植物でも起きやすいことが実際に示されたのである。この現象は、数百の遺伝的変化が同時に起こる染色体破砕(クロモスリプシス、Chromothripsis)になぞらえて、クリスパスリプシス(CRISPRthripsis)と名付けられている。〔ioRxiv 2023/5/22〕