■2003年12月号

今月の潮流
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今月のできごと


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バイオジャーナル

ニュース


●海外事情
英国の保険会社がGMO作付け農家の加入拒否

 英国の大手保険会社が、遺伝子組み換え作物の潜在的な危険性を理由として、GM作物を取り扱う農家の保険加入を拒否する方針をとっていることが明らかになった。かつて奇跡の薬として販売されたサリドマイドや、肺癌を多発させたアスベストの二の舞いになるのを恐れたためで、GM農家の間で大規模な健康障害が起きるのを危惧してのことである。別の保険会社も、GM作物を扱う農家に対して、建物を含むあらゆる保険の加入を拒否すると発表した。
 また、農民団体が行った調査によれば、花粉によるGM汚染で訴訟を起こされた農家に対して、補償を提供する保険会社は皆無だった。GM作物の作付けは経済的なリスクが大きいものになりつつある。〔This is London 2003/10/7〕

ブラジルGM大豆解禁の波紋

 9月25日、ブラジルのルラ・ダ・シルバ大統領が米国、キューバ、メキシコを訪問中に、ホセ・アレンカール副大統領は、遺伝子組み換え作物栽培禁止令を解除する命令に署名した。本来は大統領が行うべき署名だが、GM推進を打ち出している大統領が直接署名すると、さらに批判が強まることが予想されるため、それを和らげるのが目的と思われる。
 今回の命令は一時的な解禁で、期限は1年でかつブラジル第3位の大豆生産地である南部のリオ・グランデ・ド・スール州のみに適用される。アルゼンチンに隣接する同州は、すでに80%近くの大豆がモンサント社の除草剤耐性であると見られており、現状を追認したことになる。
 GMO導入をめぐっては、大統領と農相がGM推進の姿勢をとっているが、環境相が反対、法務相も今回の大統領令の無効を最高裁に要請するなど、政府内は分裂の様相を呈している。
 この大統領令に対しては、市民団体や農民団体が取り消しを求めて訴訟を起こしている。ブラジル第1位の大豆生産地であるマット・グロッソ州では、知事がGM大豆作付けを禁止すると発表した。また第2位の生産地パラナ州知事は、2006年12月31日までGM大豆作付けを禁止する州法に署名した。〔Economist 2003/10/9、Agriculture onlineNews 03/10/22ほか〕

GM企業の違反115件公表

 10月17日、米国農務省・動植物健康検査局(APHIS)は、1990〜2001年の間に行われた遺伝子組み換え作物の試験栽培で、違反が115件にのぼることを公表した。とくに殺虫毒素耐性害虫の増大を防ぐために必要な、殺虫性作物の退避ゾーンを設けなかったケースが多く、なかでもモンサント社関係は44件(40%)と最多だった。APHISは、監視を一層強化する必要があるとしている。 〔UCGA News 2003/10/7〕

ビル・ゲイツ財団、GM企業を支援

 マイクロソフト社のビル・ゲイツが設立したビル&メリンダ・ゲイツ財団(メリンダはビルの妻の名)は、途上国の人々を救うためと称して、ビタミン増強や高収量をもたらす農作物の研究をしているプロジェクトに2500万ドル(27億5000万円)寄付することを決めた。財団は、ここ数年で65億ドル以上を寄付している。
 プロジェクトは国際熱帯農業研究センター(CIAT)と国際食料研究所(IFPRI)が中心となり、米国農務省、米国食料援助計画のほか、モンサント社など主要バイテク企業も参加している。財団はモンサント社の科学者を主要ポストに迎え入れており、慈善団体、農民団体、欧州の科学者たちは、途上国にGM作物を売り込むための寄付である、と批判している。 〔Citizens Intelligence Watch 2003/10/17〕

モンサント社、欧州穀物事業撤退

 10月14日、モンサント社はヨーロッパでの穀物ビジネスからの撤退を明らかにした。同社はヨーロッパで遺伝子組み換え小麦の種子を販売するため、1998年ユニリバー社傘下の種子会社を買収したが、販売の目途が立たないため、買収した英国ケンブリッジシャーにある欧州穀物部門を閉鎖した。
 しかし、欧州でのナタネ事業や、仏・独・チェコにある研究施設がどうなるかは未定である。撤退の背景には、米モンサント社が第4半期で損失が増大したことがあげ
られている。8月31日までの3カ月間で、純損失が2700万ドルから1億8800万ドルに増大した。さらに米国アラバマでのPCB汚染訴訟の賠償3億9600万ドルが加わる。 〔Financial Times 2003/10/15〕

英国でGMフリー自治体決議相次ぐ

 9月25日、英国ブライトン、ホーブの両市議会が、遺伝子組み換え作物の栽培をせず、学校給食に使用しない等の、GMフリーを決議した。これまで同様の決議をあげた自治体に、先月号で報告したブリストル市議会をはじめ、コーンウォール、カンブリア、デボン、ドーセット、ランカシャー、ウォリックシャー、シュロップシャー、サマーセット、南グロスターシャー、湖水地方国立公園、ウェールズ国民議会などがある。〔Friend of Earth 2003/9/25〕

●クローン
米国でクローン牛の安全宣言

 米国食品医薬品局(FDA)は、体細胞クローン牛の肉や乳を安全だとする報告書をまとめ、概要を発表した。まもなく報告書の全文が発表される。米国では昨年8月、全米科学アカデミーによって体細胞クローン牛を安全とする報告がまとめられていたが、今回の報告で、食品として流通する可能性が強まった。
 日本では、受精卵クローン牛肉はすでに食品として流通している。昨年8月に農水省が、今年4月には厚労省が、相次いで体細胞クローン牛を安全とする報告書をまとめており、最終評価機関である食品安全委員会に諮られる可能性が強まった。 〔ロイター 2003/10/30〕


ことば
*体細胞クローン牛/受精卵クローン牛
 クローン動物とは遺伝的に同一の動物のことをいう。受精卵の卵分割技術を応用して人為的に作られた、遺伝的に同一の兄弟姉妹を受精卵クローン牛という。これに対し、生殖細胞以外の体の一部分の細胞(=体細胞)から核を取り出し、他の牛の卵細胞を利用して作出するクローンを体細胞クローン牛という。この場合、体細胞提供牛と作出された牛とがクローンの関係となる。