■2001年12月号

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バイオジャーナル





ニュース・クローズアップ


特定胚指針大筋承認、12月告示へ

 11月6日、総合科学技術会議生命倫理専門調査会の第9回会合が開かれた。議事の中心は「特定胚の取扱いに関する指針」の答申案である。この指針は、今年6月に施行されたクローン技術規制法に、その制定が明記されている。同法は、ヒトクローン個体などが産み出されるのを防ぐことを目的につくられた。だが、禁止の対象となるのは、あくまでもクローン技術などを用いて加工した胚の人や動物の胎内への移植である。胎内移植しない胚の加工については別途指針を定めるとしている。
 特定胚の指針の作成にあたっては、作業部会(特定胚プロジェクト)が設けられ、「我が国ではヒト胚全体について議論が尽くされておらず、(中略)当面は基本的に動物胚であると考えられる動物性集合胚に限り作成を認めることとした」と、結論づけた答申案をまとめた。動物性集合胚以外の胚についてはすべてモラトリアムをかけるという。この答申案が今回の会合に上げられ、数人の委員から批判的な意見があったものの、大筋で承認された。指針は、実務を担当する文部科学省から12月初旬には告示される。

米BTトウモロコシの認可延長へ

 米EPA(環境保護局)は、殺虫性(BT)トウモロコシの作付および販売の認可を7年間延長した。同局は、環境や人体への影響を調査する必要があるとして、2001年末までの期限を切った認可をしていた。
 この間、コーネル大学が行ったオオカバマダラ蝶を用いた実験(Nature 1999/5/20)で、幼虫が44%死ぬなど、いくつかの実験で害虫以外の生物への影響が指摘され、スターリンク事件が起きたこともあり、EPAの出方が注目されていた。しかし、認可が7年間延長されたことで、作付けと販売は継続となった。再び期限がつけられたことで、無条件で認可されていないことが確認された。


大量の遺伝子組み換え種子発覚

 10月19日、ストップ遺伝子組み換え汚染種子ネットが、国内栽培用に輸入されたアメリカ産飼料用トウモロコシ種子からスターリンクが検出されたと発表した。
 検査した12種子中4種子、さらにそのうち3種子からは2種類の組み換え遺伝子(GM)が同時に検出された。国内での栽培認可品種はMonGA21のみで、CBH351SL(=商品名スターリンク、アベンティス社)などは国内栽培未認可品種である。しかも日本では、あくまで単独での組み換え体の栽培流通が認可されているのである。「種子の取り扱いにおける純度管理の厳しさを考えれば、2種類以上の混入は栽培現場での汚染、即ち花粉による汚染と考えるのが妥当」と名古屋大学の河田昌東はいう。

表2 アメリカ産トウモロコシ種子の遺伝子組み換え体
混入実態検査(検出したもののみ)
種子名
検出された
GM品種
割合
認可状況
ゴールデント
(KD721)RM122
Mon810YG
MonGA21RR
0.1%未満
0.1%未満
未認可
98年認可
スノーデント
123(DK697)
MonGA21RR 0.1%未満 未認可
スノーデント
110(DK567)
T14
T25?
NK-BT11
0.1%未満
 
0.1%未満
未認可
 
未認可
ロイヤルデントネオ
120
Mon810YG
CBH351SL
 
0.1%未満
未認可
未認可


 農水省は、指摘を受けて、公的機関での追試を決め、種苗会社にはスターリンク検出の1種子のみ製品回収を行政指導した。
 なお、農水生産局飼料課は、未認可のものについては「現段階では問題になる量ではない」と不問に付すようだ。


日持ちトマトの安全性評価試験に疑問

 米カルジーン社が開発し、世界で最初に発売された遺伝子組み換え作物「フレーバーセイバー」(日持ちトマト)は、厳しい安全性評価試験を行ったとされてきた。その試験の中身をチェックした英科学者アーパド・プシュタイは、ラットの急性毒性試験に関して、実験開始時でのラットの体重に許容範囲を超えたバラツキがあり、実験は無効であると評価した。また腹部解剖で、フレーバーセイバーを食べさせたメスには20匹中7匹に軽度ないし中程度の侵食性ないし壊死性病斑が見られたが、腸の組織学的検証が行われていない。また、フレーバーセイバーを食べさせたラットの40匹中7匹が2週間以内に死んでいるのに死因が述べられていない。このように試験は粗雑であり、とても安全だと結論づけることはできないと述べている。


除草剤耐性大豆の安全性評価試験に疑問

 モンサント社が開発し製造販売している除草剤耐性大豆に関する飼料価値や毒性可能性試験に関して、アーパド・プシュタイは次のような問題点を指摘している。
 飼料価値に関する試験で、通常の大豆と遺伝子組み換え大豆は実質的に同等であると結論づけているが、個々の餌摂取量や、体重または臓器重量などが示されておらず、脾臓の定性顕微鏡検査が若干行われている以外は組織学的検証は一切行われていない。さらに2種類の除草剤耐性大豆で試験を行っているが、両者の間でラットやナマズの成長や牛乳の生産量や乳汁の分泌で有意差があるなど、きわめて粗雑な試験であり、実質的同等であるとはとても言えないと述べている。
 また、毒性可能性に関する試験では、実験動物が飢餓状態に置かれ、通常1日に体重が5〜8グラム増えるはずが、0.3グラムしか増えておらず、有効な結論を出す状況にない、と述べている。


アグリ・バイオ4大メーカー時代に

 10月2日、独バイエル社が仏アベンティス・クロップサイエンス社を買収することで正式に合意し、バイエル・クロップサイエンス社が設立されることになった。これにより、スイス・ノバルティス社と英アストラ・ゼネカ社が設立したシンジェンタ社とともに、ヨーロッパで2大アグリ・バイオ企業が誕生し、米モンサント社、デュポン社と合わせた4大メーカー時代に入った。
 今回の買収の際に最大の懸案となったのが、スターリンクの扱いであったが、最終的に買収の対象から取り除かれ、本家アベンティス社が引き継ぐことになった。


厚労省が動物実験開始

 厚労省は、厚生科学研究事業のひとつとして、遺伝子組み換え食品を動物に投与する実験を行う。名古屋市立大学医学部の白井智之教授のチームが担当。同省医薬局食品保健部監視安全課によると、「実験は安全性評価の方法の確立と、実際に安全かどうかを見ることの、二つの意味がある」「安全性評価は、亜急性毒性を評価するもので、慢性毒性の評価ではない」という。実験に用いる作物は、アベンティス社の除草剤耐性トウモロコシである。


市民団体がバイオテロで声明

  バイオハザード予防市民センターが、今回の炭疽菌を用いたバイオテロに関して、日本ではバイオ施設が無法状態にあり、盗難対策は事実上不可能、しかも日常的にも環境汚染の危険があり、バイオ施設規制の立法化を行うべきだ、という声明をだした。



ことば
*総合科学技術会議
科学技術政策の方向性を決めるため、内閣府に設置された首相の諮問機関。

*特定胚
クローン技術規制法では、現在の技術で作成可能な胚を洗いざらいピックアップし、次の10種類に整理している。@ヒト受精胚、Aヒト胚分割胚、Bヒト胚核移植胚、Cヒトクローン胚、Dヒト集合胚、Eヒト動物交雑胚、Fヒト性融合胚、Gヒト性集合胚、H動物性融合胚、I動物性集合胚。同法は@を除く9種類を「特定胚」と定義している。@のヒト受精胚とは、いわゆる体外受精胚である。CEFGの4種類の胎内移植は同法で禁止している。その他(Iを除く)はモラトリアム。

*動物性集合胚
動物の胚に人の細胞を注入してつくった胚。動物の細胞の量が多いので「動物性」という。