■2001年12月号

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バイオジャーナル





特集●クローン牛の現在


謎の死産、生後直死続く家畜クローン

 10月31日農水省は、「家畜クローン研究の現状について」を発表した。9月30日現在で、受精卵クローン牛は604頭、体細胞クローン牛は260頭に達している。受精卵クローン牛、体細胞クローン牛ともに死産と生後直死が多いが、とくに体細胞クローン牛の場合約30%と通常(5%)の6倍である。このことは、クローン(とくに体細胞クローン)技術が未完成の技術であることを浮き彫りにしている。特徴的なのは体重で、誕生時60キロ(平均は30キロ)のものもあったという。
 体細胞クローン牛については、ホルスタイン種の斑紋が同じにならない、ミトコンドリア遺伝子、テロメア長などでも不明な点が多い。

表1 クローン牛の概要

(単位:頭)

  受精卵クローン牛 体細胞クローン牛
出生 604 260
育成・試験中 119 124
死産 60 42
生後直死 30 38
その他(病死など) 136 56
売却済み 259
 うち食肉 170
受胎中 42 56

家畜クローン、食用への道探る厚労省

  クローン技術の問題点が顕著となるなか、水面下では、大量に創り出したクローン牛の食用への道を模索する動きがある。
 受精卵クローン牛については、1993年から出荷されていたことが判明し、社会問題となった。2000年からは農水省の指導により、任意表示(通称「Cビーフ」、「受精卵クローン牛」)で、複数の地域で食肉として販売されている。乳は、分別と表示に費用がかかるため、出荷されることなく処分されている。
 一方、体細胞クローン牛については、現在成体およびその生産物(肉、生乳など)の出荷は自粛するよう農水省により指導されている。なお死産など136頭の処分方法については、とくに指導はなく、一部肉骨粉にされている可能性もあると吉武農水省課長補佐は述べている。
 クローン牛の食品としての安全性については、1999年、2000年に厚生省による熊谷進東大教授への委託研究の結果、「受精卵クローン牛や体細胞クローン牛に特有な、食品としての安全性を懸念する科学的根拠はない。しかし今後さらに、クローン牛について、生理的・機能的データ、乳肉に関するデータをとることによって安全性の裏づけを得ることが望まれる」との結論を得た。これをもとに、「クローン技術を利用した動物性食品の安全性」(厚労省)に関する研究班が2002年に報告書をまとめ、公表の予定だ。
 安価で良質な食肉提供という開発目的からすれば、体細胞クローン牛を直接食するには、費用対効果が悪いので、まずは、良質な精子、卵を提供するための体細胞クローン牛を作成し、人工受精、出産、肥育を経て市場に出すことになるという見方が有力だ。



ことば
*受精卵クローン
一つの受精卵をもとにして作った複数のクローン個体のこと。

*体細胞クローン
成体の精子、卵子以外の細胞をもとにして作ったクローン個体。

*ミトコンドリア遺伝子
動物、植物などの細胞内には、エネルギー代謝に関わるミトコンドリアという小器官が複数あり、DNAが存在する。

*テロメア
染色体の末端にテロメア構造とよばれる部分があり、細胞分裂のたびに短くなり、老化の指標になるという仮説がある。