■2004年3月号

今月の潮流
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今月のできごと


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バイオジャーナル

ニュース


●自治体動向
茨城県が独自のGM栽培指針

 茨城県は、GM作物を野外で栽培する場合、近隣の農家の了解を得、他の農作物への交雑防止を求めるなど、規制する指針をつくり2月中に発表する。茨城県は名物水戸納豆の原料である大豆栽培が盛んだが、バイオ作物
懇話会によってGM大豆が作付けされたり、モンサント社や農水省の研究所・筑波大などの実験圃場があるため、
花粉の飛散による汚染が懸念されてきた。今回の指針は、一般圃場での交雑防止が目的で、日本で最初の都道府県レベルのGM作物栽培規制になる。

●省庁動向
厚労省、遺伝子治療で重大事態報告3件

 1月14日、科学技術部会(厚労相諮問機関、厚生科学審議会)が開かれ、現在遺伝子治療を行っている3医療機関からあがった、実施中に起こった突発事象を記載した「重大事態報告」が公表された。大阪大学医学部附属病院の慢性閉塞性動脈硬化症に対する10例目の遺伝子治療患者(66歳、男性)への白内障手術の実施。名古屋大学医学附属病院の悪性グリオーマに対する3例目の遺伝子治療患者(54歳、男性)の、遺伝子治療開始から2年2ヵ月後の死亡。東大医科学研究所附属病院の腎臓がんに対する3例目の遺伝子治療患者(61歳、女性)の、遺伝子治療開始から2年8ヵ月後の死亡である。阪大の患者は遺伝子治療以前から白内障の症状があり、直接因果関係はないといい、いずれのケースも遺伝子治療と因果関係はないとされた。あとの2つ、名大と東大医科研の患者は、それぞれ遺伝子治療の対象となっている疾患が悪化して亡くなったものであり、これは、遺伝子治療の効果がなかったことを意味する。

GM食品の新「安全性評価基準」承認される

 1月21日、食品安全委員会の遺伝子組換え食品等専門調査会で、従来、厚生労働省が作成し適用してきたGM食品の「安全性審査基準」に代わる、新しい「安全性評価基準案」が承認され、つづく1月29日、食品安全委員会で承認され、この新しい基準に基づいて審査が再開される。承認されたのは、「遺伝子組換え食品(種子植物) の安全性評価基準」と「遺伝子組換え植物の掛け合わせについての安全性評価の考え方」で、前号のクローズアップ欄で紹介したように多くの問題があり、これではGM食品の安全性が評価できないとして、多数の批判的な見解やコメントが寄せられたが、ほぼ原案通り承認された。

2種類の後代交配種が承認される

 2月6日、食品安全委員会の遺伝子組換え食品等専門調査会が開かれ、新安全性評価基準に基づく初めての審査で、2つの後代交配種(GM品種同士の掛け合わせ)がほとんど審査もされないまま承認された。1つはデュポン社が申請したGMトウモロコシで、鱗翅目害虫抵抗性(ダウケミカル)と除草剤耐性(モンサント)を掛け合わせた品種。もう1つは日本モンサント社が申請したGMトウモロコシで、鱗翅目害虫抵抗性と鞘翅目害虫抵抗性を掛け合わせた品種(いずれもモンサント)。GM作物の掛け合わせが認められているのは世界で日本だけであり、安全審査のずさんさが、改めて浮き彫りになった。


●遺伝子組み換え作物
GM作物は農薬使用量を増加させる

 除草剤耐性作物の収量減少を指摘した「ベンブルック報告」で知られる、チャールス・ベンブルック(元全米科学アカデミー農業部門の委員長、現在はアイダホ州の科学環境政策センター)の新しい報告がまとまった。それによると、GM作物は最初の3年間は農薬使用量の減少をもたらすが、その後は増えつづけていることが分かった。非GM作物に比べ、2001年には5.0%、2002年には7.9%、2003年には11.5%も多くの農薬が使われている。ことに除草剤耐性大豆における除草剤使用量増大が大きな要因だと指摘している。GM作物は農薬使用量を減らすことができるというモンサント社の主張を真っ向から否定する結果となった。 〔ガーディアン 2004/1/8〕

●GM汚染
全米科学アカデミーがGM封じ込めは困難と結論

 1月20日、全米科学アカデミーはGM作物が意図せざる影響を引き起こすのを完全に封じ込めるのは難しい、という報告書「遺伝子組み換え生物の生物学的封じ込め」を発表した。米農務省の要請を受けてウイスコンシン大学微生物学部のKent Kirk委員長のもとで検討を加えてきた。報告書では、最悪の事態を考慮した上で、封じ込めの手段として自殺遺伝子や不妊技術などが提案されているが、すべて未完成であるため、失敗しないために複数の方法を用いることも考えるべきだとしている。〔全米科学アカデミー・ニュース 2004/1/20〕

●遺伝子組み換え魚
魚の精子に遺伝子を組み込む

 福井県立大学の酒井良助教授らは、ゼブラフィッシュの精子に実験用の遺伝子を組み込み、卵子と受精させ、遺伝子組み換え魚を誕生させた。これまで精子への遺伝子組み換えは困難とされていたが、酒井らは精子になる前の未成熟な細胞を用い、成功させた。約100の受精卵をつくり90匹が成体になり、そのうち5匹から組み換え遺伝子が見つかった。 〔共同通信 2004/1/27〕

●医療
レトロウイルス使用の遺伝子治療再開


 厚労省の科学技術部会では、癌研究会附属病院が2000年2月に開始し、一時中止となっている乳がんに対する遺伝子治療の計画変更が承認された。フランスにおいてX連鎖重症複合免疫不全症に対する遺伝子治療で白血病の副作用が発生したことを受け、レトロウイルスを用いた遺伝子治療はすべて一時中止の措置がとられていた。それが計画を一部変更することによって再開することになった。すでに2003年10月に承認された北大附属病院と筑波大附属病院、今回も、いずれも同じ変更がなされている。変更点は、遺伝子治療実施後に白血病の検査を定期的に行う。もう1つがインフォームド・コンセントを得る際の説明文書に、副作用の危険性があることを加える。根本的な原因究明は何もなされないまま、レトロウイルス使用の遺伝子治療は再開が決まった。

中村祐輔東大教授、市民との対話を拒否

 2003年4月から、文科省が200億円の巨費を投じる「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」がスタートしている。そのプロジェクトの柱となるのが30万人遺伝子バンク計画だ。国内初の巨大遺伝子バンクの構築が社会に与える影響を市民の立場で考え、議論することを目的に、DNA問題研究会ほかの市民グループが公開市民シンポジウムを企画し、当初、プロジェクトリーダーの中村祐輔・東大医科学研究所教授の出席承諾を得ていた。しかし、開催1ヵ月前になって突如キャンセルの申し出があり、結果的にプロジェクト側と市民グループとの対話は実現しなかった。キャンセルの理由は、共同主催団体の通信に掲載された、プロジェクト事務局主催のシンポジウム傍聴記を読んで「他人の話を聞かない人たち」と判断したからだという。