■2004年7月号

今月の潮流
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今月のできごと


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バイオジャーナル

ニュース


●特許
シュマイザー裁判最高裁判決出る

 5月21日、カナダ連邦最高裁判所は、シュマイザー裁判で判決を下した。サスカチュワン州の農家シュマイザーさんがモンサント社のGMナタネを許可なく栽培したとして特許権侵害で訴えられた裁判で、一審・二審ともにモンサント社勝訴、シュマイザーさんに賠償支払を命じる判決が出され、争いの場は最高裁に持ち込まれていた。
 最高裁での最大の争点は、モンサント社のもつ遺伝子と細胞にかかわる特許権が植物個体にまで及ぶのか、だった。最高裁の判断は2つに割れ、5対4の僅差で特許権は認められた。2002年12月に、同最高裁は動物の特許は認めないという判断を下しているため、植物と動物では異なる判断となった。
 この僅差の判定によってモンサント社は勝訴したが、一審・二審で出された賠償支払命令については、シュマイザーさんに利益はなかったとして却下された。「特許権を侵害したが、賠償は不要」となったため、モンサント社の特許権侵害を口実にした農家への脅迫は、実効性のないものになりそうだ。

●BSE
英国のBSE、予想以上に人へ感染か

 BSEの人間への感染が原因だと見られている変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の感染者数が、予想以上に多いことがわかった。これまで感染が確認されたのは英国で145人(昨年末)である。インペリアル・カレッジ(ロンドン)の研究者によって、vCJDの感染者数は潜伏期間にある人も含めて最大540 人程度とする研究が発表されるなど、被害は予想に反して少ないというのが、一般的な見解になりつつあった。
 しかし、それを覆す研究結果が発表された。プリマス・デリフォード病院のデビッド・ヒルトンと英国CJDサーベイランス・ユニットのジェイムズ・アンロンサイドは、虫垂と扁桃のサンプル調査を行い、3800人とする推定と、症状が出ない感染者もいるという研究結果をまとめ、「病理学ジャーナル(Journal of Pathology)」に発表した。両氏は、手術や輸血によって、症状が出ない感染者から感染する恐れがある、と指摘している。  〔Independent News 2004/5/21〕


●移植
臓器移植法改悪反対集会


 5月23日、「『臓器移植法』の改悪に反対する市民集会」(主催・日本消費者連盟ほか19団体と個人)が、品川の国民生活センターで開かれた。近藤誠(慶応大学医学部)の基調講演のあと、各主催団体からの報告と質疑が行われた。自民党調査会臓器移植法改正案は、@臓器移植の条件として、提供者の意思がはっきりしていない場合も提供可能、A脳死判定の条件として、本人の書面による意思表示も家族の承諾も不要、B 15 歳未満の臓器移植も遺族の承諾があれば可能、C小児に脳死判定を拡大……など重大な問題をはらんでいる。
 法改悪によりやみくもにドナーを増やそうとするまえに、すでに行われた28 例について人権侵害がなかったか詳細に検討し情報公開すべきとの声があがった。自民党案には、日本医師会はじめ反対も多く、今後どのようにまとまるかは不透明であるものの、当面の課題として移植法改悪阻止にむけて広く活動することが確認された。


●ヒト胚
総合科学技術会議、ヒト胚審議の結論延期


 生命倫理専門調査会のヒト胚審議が混沌としてきた。人クローン規制法の施行から3年後の2004年6月までに結論を出すはずだったが、委員の間で大きく意見が分かれ、結論が出せるようなところまでいっていない。
 争点は大きく2つあり、クローン胚の作製を認めるか否か、研究目的の受精卵の作製を認めるか否か、となっている。ただ、そもそも調査会はヒト胚の包括的議論をする場であり、議論がすり替わったという感は否めない。これまで、当初の目的である包括的議論はされていない。6月8日の会合で薬師寺泰蔵会長は、争点について最終的に「多数決にせざるを得ない」とし、7月に開催される本会議までに最終報告をまとめるという。


●個人情報保護
文科、厚労が遺伝情報の取扱い検討委員会設置


 4月2日、個人情報の保護に関する基本方針が閣議決定された。それを受け、文科省では生命倫理・安全部会の下に「ライフサイエンス研究におけるヒト遺伝情報の取扱いに関する小委員会」、厚労省では科学技術部会の下に「医学研究における個人情報の取扱いの在り方に関する専門委員会」の設置をそれぞれ決めた。ヒトゲノム解読後、個人の遺伝情報と診療情報を大量に収集し、SNP (一塩基多型)などの解析が行われるようになったことが設置の背景にある。また、2003年10月にユネスコで「ヒト遺伝情報に関する国際宣言」が採択されたという国際状況もある。2005年4月1日の個人情報保護法の全面施行までに、個別法を作るための一定の方向性が示されるという。


●ES細胞
文科省、ヒトES細胞の組み換え実験承認


 5月28日、第19回特定胚及びヒトES細胞研究専門委員会(文科相諮問機関、科学技術・学術審議会)が開かれ、京都大学再生医科学研究所が申請していた2件のヒトES 細胞使用計画が承認された。
 計画には同研究所が樹立したヒトES細胞が用いられ、一つは新しい培養技術の開発、もう一つは遺伝子組み換え技術を応用して、ヒトES細胞に複数の外来遺伝子の導入を試みる。京大使用計画概要によれば、ヒトES細胞を医療応用する上では「各種の遺伝子操作技術の確立は不可欠である」という。つまり、将来的には遺伝子操作した細胞を増殖させ、人体への投与を目的としている。ヒトES細胞に対する組み換え実験は、国内では2002年10月に承認された慶応大学医学部に次いで2例目となる(本誌2002年12月号参照)。