■2005年6月号

今月の潮流
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今月のできごと


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バイオジャーナル

ニュース


●クローン
イタリアで優勝馬の体細胞クローン誕生

 英国BBC放送が伝えたところによると、4月14日、イタリア・クレモナのスパランツァーニ畜産研究所が、耐久レースに優勝したアラブ種の馬の体細胞クローンを作成したと発表した。2003年には世界で初めて競走馬のクローン「プロメテア」を誕生させている。また、英国政府は4月2日、研究目的でのクローン馬の作成を認めている。 〔共同通信 2005/4/15〕

●省庁動向
厚労省の新研究所オープン

 2005年4月、厚労省が1995年から進めてきた国立試験研究所の組織再編によって、大阪府茨木市彩都地区に新たに独立行政法人医薬基盤研究所が発足した。職員数は95 名、予算規模は一般会計で116億円にのぼる。国立医薬品食品衛生研究所大阪支所をベースとして、そこに各地の研究所の基盤的研究部門が移ってくる。主なところでは、国立感染症研究所から遺伝子バンク・実験動物開発・医学実験用霊長類センターの3部門、国立医薬品食品衛生研究所から細胞バンク・薬用植物栽培試験場の2部門が移管する。今後、産官学の連携を強め、創薬の基盤的研究とともに、細胞・遺伝子の収集などを進めていくという。


●遺伝子組み換え作物
未承認GMイネが中国で栽培・流通


 違法GMイネ発覚
 さる4月13日、グリーンピース・インターナショナルは北京で記者会見を開き、中国で未承認のGMイネが栽培され、流通していたこと、日本など国外に輸出されていた可能性もあることを発表した。グリーンピースは中国政府に対して、ただちにイネを回収し、流通した原因や汚染の実態を調査するよう求めた。
 最終的に中国政府は、2001年5月23日に同国国務院が発布した「農業遺伝子組み換え生物安全条例」に基づいて調査を行うことを約束した。中国ではこの条例に基づいて、2002年1月5日に「農業遺伝子組み換え生物安全審査管理指針」「同輸入安全管理指針」「同表示管理指針」の3つの指針を制定し、同年3月20日から施行している。
 違法GMイネは、インターネットの検索から見つかった。グリーンピース中国が、「害虫対策」をキーワードに関連するイネを探していったところ、Shanyou63という気になる品種が湖北省で販売されていた。早速、湖北省農業促進部に出向き、Shanyou63の種子を購入したが、遺伝子組み換えイネをあらわす表示はどこにも見られず、GMイネであることを明らかにしないまま、農家に販売していた。農業促進部は政府管轄で、日本の農協
に当たる組織である。
 グリーンピースは農家からも種子を購入し、それらの種子をドイツの検査会社ジーン・スキャンに送り分析した。 検査の結果、25検体中19検体から組み換えDNAが検出された。その内2検体のタンパク質の特定検査をしたところ、殺虫毒素Cry1Acが検出され、Btイネであることが判明した。

 日本へ輸出された可能性
 GMイネ種子の販売者、農業生産者に聞き取り調査をしたところ、すでに過去2年間にわたって種子が販売されていた。また農業促進部の情報を基に、種子の販売状況、コメの出来具合などを参考に算出すると、昨年は950〜1200トンがコメ市場に流出したと見積られる。
 中国は世界最大のコメの生産国であるとともに、コメの主要輸出国である。中国農務省の2003年の貿易統計によると、輸出相手国は、コートジボアールをトップに、ロシア、パプア・ニューギニア、インドネシアで、つづく第5位の日本には12万1721トン輸出している。輸出用のコメはインディカ米(長粒種)で、日本で普通に食べられているジャポニカ米(短粒種)ではないため、加工食品用に輸入されている可能性がある。
 農水省は、日本に輸入されるコメには湖北省で収穫されたものは含まれないとしてGMイネの混入の可能性は低いとする見解を発表した。グリーンピースによれば、日本へ輸出している隣接の省でも栽培されている可能性があり、この指摘は当たらないとしている。また農水省は、中国から輸入されたコメのタンパク質検査に組み換え遺伝子が検出されなかったため、日本には入っていないと発表した。まだ精確な遺伝子情報が得られていないため、日本に入っている可能性を否定できるものではない。

 問題点の多いBtイネ
 Btイネは、湖北省武漢農業大学の研究者によって開発された、害虫に対する抵抗力を持たせた品種である。Shanyou63は、同大学で開発したBtイネMinghui63系統から作り出したハイブリッド系統で、おもにサンカメイガとコブノメイガに対して効果があるとされる。
 Btイネが産生する毒素(Cry1Ac)は、アレルギー性疾患を引き起こす可能性があり、生態系への影響や食品としての安全性に関しても評価されていない。また、殺虫毒素は、害虫だけでなく、蜜蜂やテントウムシのような益虫にも悪い影響をおよぼす。そして土壌中に分泌される殺虫毒素が土壌微生物に悪い影響をあたえ、長期間栽培されれば回復困難な土壌汚染が起きる可能性もある。

 生物多様性への影響
 イネは中国南部の雲南省のあたりから、ラオス、タイの北部、インドのアッサム地方に遺伝子中心をもっている。遺伝子中心とは、もともとその生物があった地域のことで、この地域はイネの野生種の宝庫でもある。
 メキシコ南部オアハカ州にあるトウモロコシの原生種が、GMトウモロコシに組み込まれた遺伝子に汚染され、多様性が奪われる危険にさらされている。そして、GM イネによって、中国のイネの原生種がGM汚染の危機にさらされる可能性が出てきた。