■2002年2月号

今月の潮流
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今月のできごと


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バイオジャーナル

 


ニュース


●遺伝子組み換え食品
GM食品新たな承認へ


 2001年12月17日、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会の食品衛生バイオテクノロジー部会(部会長・首藤紘一・国立医薬品食品衛生研究所所長)が、新しく殺虫性トウモロコシ1種類と、添加物2種類を承認した。対象は、日本モンサント社が申請した殺虫性トウモロコシ(MON863系統)、ノボザイムズ・ジャパン社が申請したプルラナーゼとα-アミラーゼである。モンサント社の殺虫性トウモロコシは、米国で未承認、しかも土壌昆虫を殺す新しい殺虫毒素が用いられている。
 また、プルラナーゼには、ノボザイムズ・ジャパン社が申請した資料によると、3つの抗生物質耐性遺伝子が用いられている。
 抗生物質耐性遺伝子の乱用が、抗生物質耐性菌の増大を招く危険性があることは、かねてから指摘されている。多数の抗生物質を用いれば、多剤耐性菌の出現を促し、社会的リスクを増大させる可能性が高い。

●遺伝子汚染
カナダでは深刻な遺伝子汚染

 カナダでは、遺伝子組み換えナタネの割合が50%に達した。その結果、遺伝子組み換えナタネの種子や花粉が広範囲に飛散し、深刻な遺伝子汚染が起きたため、この汚染を受けずに在来品種の作付けを進めることが、事実上、難しくなってきた。カナダ農務省サスカトーン研究センターのHuge Beckieは、各国は、カナダのこの状況に注目すべきだと述べている。カナダでは、系統品種を栽培する際には安全距離を100m、食用油種では175mとることになっているが、花粉は800m拡散する(800mで0.07%受粉)という実験結果がある。〔New Scientist, The GE Food Alert Campaign Center 2001/11/24〕


●第三世界
フィリピンで殺虫性トウモロコシ反対運動広がる

 フィリピンでは、かねてからモンサント社がBTトウモロコシの作付けを目的に、試験栽培を行っていることから、それに反対する農民の運動が広がっている。それと並行して同国イサベラ州では、イラガン司教区のSergio Utleg司教が率いるローマカトリック教会の指導者らが、「万人に与えられた生命の恵みを否定するものだ」として反対の姿勢を強めている。同司教らは、現在、BTトウモロコシの試験栽培を法的に禁止するよう議会に働きかけている。 〔Philippine Daily Inquirer 2001/11/20〕

インドでBT綿の違法栽培発見

 インド西部グジャラート州で、遺伝子組み換え綿の大規模な違法栽培が見つかった。インドでは、以前から「試験栽培」として商業作付けが進められ、問題になっていた。今回は、栽培面積が1万ヘクタールを超える大規模なものだったことから、インド政府は10月19日、収穫物を廃棄するよう指示した。しかし今後も、試験栽培の名のもとに大規模な作付けが進む事態が頻発するものと考えられる。


●ヒト胚
生命倫理専門調査会でヒト胚の議論始まる


 ヒト胚の取扱いについての議論が、2001年11月6日に開かれた第9回生命倫理専門調査会(首相諮問機関、総合科学技術会議)で始まった。すでに生殖補助医療部会(厚労相諮問機関、厚生科学審議会)において、精子や卵子の提供、代理母などの基準作りは進められているが、検討の範囲はあくまでも生殖補助医療に限定されている。したがって、今回の議論は公的には日本初である。
 しかし、果たしてこの議論が意味のあるものになるのかどうか、疑問を抱かざるを得ない。そもそもクローン技術規制法、ヒトES細胞や特定胚の指針を作る前にやっておくべきだったものを、やっと今になって始めたのである。ヒト胚の取扱いという基本がないまま、新しい技術の登場に伴って、それらを進めるために旧科学技術庁が中心となって法律や指針を整備してしまったのだ。第10回会合では今後の検討スケジュールが話し合われたが、今さら何をどう議論すればいいのか、「(この委員会が)いったい何をやろうとしているのかがよく分からない」と、委員ですら戸惑っているようだった。


●バイオビジネス
米国、ターミネーター種子ビジネスへ

 本誌2001年10月号で報告したように、2001年8月、米国農務省(USDA)は、遺伝子組み換え技術を応用したターミネーター種子の開発と推進へ向けて、デルタ&パインランド社(D&PL)と協力すると発表した。
 ターミネーター技術は、3つの主要穀物―大豆、米、小麦の生産を調節するために導入され、2002年12月に商品化される見込みである。ターミネーター技術を禁止せよというアピールが、今夏、ローマで開催される世界食糧サミットで展開される予定だ。国際農村開発基金(RAFI)のオブザーバーは、米国は地球温暖化や生物兵器に関する国際条約の立場と同様に、ターミネーターにおいても、一国主義をとり孤立化の様相を呈し始めたと述べている。〔Earth Island Journal 2001/12/12〕


ことば
*プルラナーゼ
デンプンを分解する酵素。添加物として、デンプン糖製造工程でブドウ糖や異性化糖製造に用いたり、蒸留アルコール製造工程で補助剤として用いられる。

*3つの抗生物質耐性遺伝子
3種の抗生物質(クロラムフェニコール、ネオマイシン、アンピシリン)の耐性遺伝子が用いられている。

*BTトウモロコシ
BTとは枯草菌の一種バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringensis)の略称。この菌の作る毒素タンパク質の遺伝子を組み込んだ殺虫性トウモロコシのこと。蛾の幼虫がこのBTトウモロコシの葉を食べると毒素の効果により死に至る。

*ターミネーター技術
次世代の種子が発芽とともに枯れる(自殺する)ように、遺伝子組み換えで操作する技術のこと。種子独占につながる技術として批判を浴び、開発者は凍結を宣言したが、最近この性質を逆手にとって、組み換え遺伝子の環境中への伝搬を阻止できる環境保護のための技術と言い始めている。