■2002年2月号

今月の潮流
News
News2
今月のできごと


今号の目次へ戻る
ジャーナル目次へ戻る






































































































バイオジャーナル



ニュース


●遺伝子治療
遺伝子治療の対象疾患拡大

 公的機関の承認を得て正式に遺伝子治療が行われたのは、アメリカでは1990年、日本では1995年のことで、ともに対象疾患はアデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症である。当初、遺伝子治療の対象は重い遺伝病に限られていたが、ヒトゲノム解析が急速に進んだことにより、遺伝病以外でも何らかの形で遺伝子が関係しているものが多いことがわかってきたため、対象疾患が一気に拡大していった。しかし、遺伝子治療が人間の遺伝子を操作する技術であることから、90年代中頃までは、がんやエイズといった致死性の疾患に限定されていた。
 しかし、今やその歯止めは完全になくなってしまった。米国立衛生研究所(NIH)が承認した遺伝子治療実施計画(2001年10月8日現在)の対象疾患は、感染症37件、単一遺伝性疾患52件、その他の病気や障害51件、がん303件となっている(Human Gene Therapy 2001/11/1)。やはり最も多い対象はがんに対するものだが、その他の病気や障害の内訳は次のようになっている。末梢動脈疾患16件、慢性関節リウマチ2件、動脈硬化性疾患3件、肘管症候群1件、冠状動脈性心疾患19件、アルツハイマー病1件、潰瘍3件、骨折1件、腎臓病2件、抹消神経障害1件、パーキンソン病1件、黄斑変性病1件。
 日本では、今までに政府に承認された遺伝子治療実施計画は、感染症1件(実施前に中止)、単一遺伝性疾患1件、その他の病気や障害1件、がん9件となっている。

●BSE
異常プリオン、尿・血液から検出

 スイスのプリオニクス社社長でチューリッヒ大学教授のブルーノ・ウーシュは、「牛の尿中からのプリオン測定方法を確立した」と非公式に話した。血液からの検査が可能になったことも、東北大大学院の北本哲之教授らのグループによって報告されている。尿や血液で検査できるようになれば、生きた牛の検査が可能になるが、反面、尿や血液中に異常プリオンが存在すること、異常プリオンが環境を汚染し、乳にも肉にも含まれることを意味する。現在の検査技術では、延髄の閂(かんぬき)と呼ばれる部分に、かなり異常プリオンが凝集した場合のみ検出される。検査技術が進み、より精度が高くなれば、さらに多数の感染牛が検出されることになる。


●バイオ予算
膨れつづけるイネゲノム関連予算

 農水省は、省全体の予算が削減される中で、バイオ関連予算に12%増の205億円を概算要求した。中でも際立った伸びを示しているのがイネゲノム解析(イネの全遺伝子解読)予算で、10億円増の約63億円を要求し、さらに補正予算で7億円を上乗せしている。イネゲノム解析は、スイス・シンジェンタ社に遅れをとっているが、遺伝子組み換えイネの開発や他の作物の開発に結びつく基本情報を提供することになるため、多額の予算を求めたと思われる。


●遺伝子組み換え作物
スイスでGM麦の野外実験拒否

 スイス連邦環境農林局は2001年11月20日、遺伝子組み換え麦の野外実験の許可を求めるチューリッヒのスイス連邦技術研究所(ETH)の申請を拒否した。同研究所が求めていたのは、遺伝子組み換え麦の黒穂病耐性実験だったが、土壌生態や環境への影響などで疑問が残るとして認められなかった。同国で野外実験の申請が認められなかったのは3回目である。〔Environment Daily, BBC Monitoring Europe, Plant Ark 2001/11/20〕


●環境汚染
BT毒素に汚染されたカナダの河川

 ボルドー大学の毒性学教授ジャン・フランソワ・ナルボーンは、パリのパスツール研究所で開かれたシンポジウム「遺伝子組み換え作物と栄養―健康に利益はあるか」で、BTトウモロコシのBT毒素が、河川の沈殿物に濃縮していると報告した。カナダのケベック州のコーンベルト、セント・ローレンス川南岸地帯の沈殿物を、サンローラン環境センターの科学者らが調査したところ、近くの農地の灌漑設備の排水や沈殿物の5倍の濃度のBT毒素が検出されたという。作物から分泌されたBT毒素が、高濃度に残留・蓄積する疑いが強まり、環境へのリスクがあらためて問題となりそうだ。〔Le Devor 2001/12/18〕


●政府動向
遺伝子治療指針が大幅に緩和

  遺伝子治療を規制する指針は現在、一般の医療機関を対象にした厚労省のものと、国立大学などの研究機関を対象にした文科省のものの2つがある。これを1本化し、さらに大幅な緩和が行われようとしている。最大のポイントは審査の簡略化である。新指針では、以前に行われたことのある計画は簡単な手続きで実施できるようになり、新規の計画に限り厚生科学審議会(厚労相諮問機関)での審査が行われる。1月17日にパブリックコメントが締め切られ、早ければ2月中にも告示される。先に改定された文科省の「組み換えDNA実験指針」と類似した手順である(本誌2001年1月号参照)。


●バイオビジネス
トウモロコシでヘルペス治療薬

 米サンディエゴにあるベンチャー企業エピサイト社は、植物細胞工場の開発を進めている。すでに、抗精子抗体をつくるトウモロコシを開発して、物議を醸した。その後、ヘルペス治療用として同ウイルスへの抗体「HX8」を作るトウモロコシも開発した。さらにエイズの治療用抗体開発にも着手している。いずれも作付けされた際に、花粉の飛散が起き、どのような影響が出るか予測がつかない問題点を抱えている。
〔本誌2001年11月号参照、New Scientist 2001/10/3〕


ことば
*アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症
生まれつき体内でADAという酵素を作れないために起こる重症複合免疫不全症の一種。

*黒穂病
黒穂菌が感染することによりひき起こされる病害。黒穂菌の胞子が胚の組織に入り、麦の生長とともに発育して、穂が形成されると黒い穂になり、大きな減収をもたらす。明治時代には麦の最重要病害とされていたが、その後の防除対策により、現在ではほとんど被害がみられない。裸黒穂病、なまぐさ黒線病、堅黒穂病などがある。

*植物細胞工場
植物の細胞に、医薬品などの有用物質を生産させるシステム。植物の細胞が工場の役割を果たすことからこの名前がつけられた。