旅立ち

 初寿紀は、退院しました。一番考えたくなかった形での退院です。
まず、私たちは初寿紀を連れて私の実家へ向かいました。大阪の病院からは、私の実家が一番近かったし、
いろんなところに連れて行ってあげたかったから。
 私の実家について、初寿紀にミルクをあげました。初めて自分の哺乳瓶で飲むミルクです。
一息つく間もなく、はづちちのお父さんから電話が・・・「今どこにいてる!早く帰って来い!」
もっと、ゆっくりしてたかったのですが再三の電話に、すぐに移動することになりました。
私の両親と妹夫婦は後から行くとのこと。

 車の中でも電話が掛かってきます。「葬式はいつするねん?明後日が友引やから、今日お通夜して明日葬儀にするか?」
はづちちは、言いにくそうに「どうする?」と聞いてきました。
やっと、かえって来れてすぐにお通夜で・・・なんて、ひどいことは考えられませんでした。
折角帰って来れたのに、次の日には葬儀なんてことになれば、最後の初寿紀との約束の「3人で一緒に寝る」が出来ません。
私は、「そんなことできへん・・・嫌や・・・」と答えて、はづちちのお父さんに断ってもらいました。
はづちちは、「どっかいこうか・・・」と言ってくれました。私もすぐに帰る気にはなりません。
初めてのお外を初寿紀に満喫させてあげたかったからです。

 しかし、また、はづちちのお父さんからの電話・・・「早く帰って来い」とのこと・・・
仕方なく、奈良の家に急ぎました。途中、ガソリンスタンドで給油してもらい、洗車もしました。
車に乗ったまま、洗車機をかけてもらいました。これが唯一3人でしたお出かけになりました。

 家に帰ると、お寺さんと葬儀屋さんが来ていました。正直、驚きでした。そんな話聞いてなかったのですから・・・
すぐに、スヌーピーのベットに寝かしお経を上げてもらいました。
話を聞くと、仏前の装飾などほとんど決まってました。私は、何がどうなってるのか全くわからなくなっていました。
はづちちも、もう一回自分達で決めると言って、私たち2人で決める事にしました。
しばらくして、私の両親と妹夫婦が来てくれました。 
葬儀屋さんは、初寿紀の周りにドライアイスを置きました。そして、「もう、ださないで下さい。抱っこもしないで下さい。
葬儀まで長いので明日またドライアイスを入れ替えに来ます」と言って、帰っていきました。
 私はとてもショックでした。最後の約束も破ってしまったのです。
今まで、「退院したら一緒に買い物行こうね〜」「次の手術が成功したらおもちゃ買ってあげるね〜」と、色々約束をしていました。
結局何も約束を果たしてやる事は出来ませんでした。せめて、最後の約束・・・「一緒に寝ようね・・・」その約束も
果たす事が出来ないなんて・・・「初寿紀、約束守られへんかったな・・・ゴメンな・・・」そのことで頭が一杯になりました。
たくさんの人が、初寿紀に会いに来てくれました。初寿紀は自分のベットでたくさんのぬいぐるみに囲まれて寝ています。
私は、病院で仲良くしてくれたお母さんたちや、初寿紀のことを応援してくれた人たちに、天使になった事とお礼を連絡しました。
 その晩、私とはづちちが起きていました。私とはづちちは、初寿紀を抱っこしました。
そして、「ごめんね・・・初寿紀と過ごした日楽しかったよ・・・ありがとうネ・・・」そんな事を何回も何回も話し掛けていました。

 次の日も、私は初寿紀につきっきりでした。そして、前日同様、たくさんの人が初寿紀に会いに来てくれました。
お通夜と葬儀は親族だけですることになっていたので、どうしても初寿紀に会いたいと言ってくれた私の友達も来てくれました。
そして、初寿紀が淋しくないように来てくれた人の寄せ書きも始めました。
ドライアイスの交換の時、私はずっと初寿紀を抱っこしていました。このまま、離したくない・・・と思いながら・・・
でも、そういう訳にはいかないので庭に出て、写真をとったり、ソファーに座って撮ったりたくさん写真を撮りました。
そして、初寿紀の棺に入れるものを色々準備しました。はづちちと私の写真、私の服、初寿紀の服、靴や靴下・・・
「今、もし初寿紀が目を開けてくれたら・・・」なんてことを考えながら・・・

 次の日、お通夜です。最後に、もう一度体を拭いて、ピンク色のドレスに着替えさせました。
そして納棺・・・小さい子の骨は残らないかもしれないと言う事で、初寿紀の爪と髪の毛を少し残す事にしました。
そして、少しでも骨が残るように、たくさんのぬいぐるみや洋服、絵本、千羽鶴、私の妹からの手紙、私が書いた手紙を入れてあげました。
棺に初寿紀が入らなくなるくらい、たくさんのものに囲まれてました。
やっぱりこの日も、私は初寿紀のそばについててあげました。今までの分を取り返すように・・・ 

 最後の日、葬儀の日です。私は、朝からバタバタとして気を紛らわそうとしましたがやっぱり、初寿紀のことが気になります。
葬儀が始まり、ずっと泣きっ放しでした。ちゃんと、送ってあげなきゃいけないのに・・・
最後のお別れのとき、たくさんの花に囲まれた初寿紀は、本当に天使に見えました。
小さな小さな天使です。私は、「ありがとう・・・初寿紀・・・」最後にキスをしてあげました。
斎場に着き、最後のお経を上げてもらい棺は炉の中に・・・私は、手を振って見送りました。
 お骨拾いの時、私は泣かずに斎場まで歩いていきました。お骨が残ってるかどうか・・・私は気になっていました。
思っていたより、たくさんのお骨が残りました。大きなお骨入れにも小さなお骨入れにも入れました。
そして、はづちちと私が抱っこして家に帰りました。
すぐに、初七日もしてもらいました。
初寿紀は、たくさんのぬいぐるみとたくさんのお土産とたくさんのお花に囲まれて、
安らかな寝顔で天に旅立っていきました。

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はづにっき