小数点と位取り


日本では、数字の小数点を「.(ピリオド)」で、位取りを「,(コンマ)」で表す。

私たち日本人は、この表記法が当たり前だと信じて疑わないが、モンゴルでは逆である。小数点をコンマで、位取りをピリオド、または字間の開き(1字分のスペース)で表す。知り合いの研究者は「モンゴルは世界に取り残されているから、自分たちで勝手な表記法を作ってしまうんだ」と嘆いていたが、そうではない(1)。

ヨーロッパ先進諸国の中でもスペイン、ドイツ、フランスでは小数点をコンマで、位取りをピリオドで表すのが普通である。これに対し、小数点をピリオドで、位取りをコンマで表す国々は世界でも少数派らしい。その代表格と言えるのがアメリカ合衆国、イギリス、オーストラリアで、いずれも英語圏の国々である。日本人が小数点をピリオドで、位取りをコンマで表記しているのは、規格をイギリスに追随して来た結果に過ぎない(例えば「A4サイズ(2)」の用紙。元々はドイツの規格らしい)

こういった数字の表記法の違いで、困ったことが起きている。2006年1月5日〜6日に開催されたダルハディン湿地シンポジウムの際に、前年のシンポジウムのプロシーディング(2005年7月発行)が、漸く配付された。その中にある、モンゴル人が書いた英文の報告書に目を通したとき、数字の小数点がコンマで表されているものが、過半数を占めることに引っ掛かっていた。でも、私とは直接的には関係しないので、静観することにしていた。ところが、今回、モンゴル教育大学の共同研究者であるズラさんが提出して来た私との共著のプロシーディング原稿で、コンマとピリオドが逆に使われているだけなら未だしも、ごちゃ混ぜになって使われていたのである。彼女は混乱しているのかもしれないが、英文の報告書なのだから、数字の小数点にはピリオドを使用すべきである(3)。

こういった数字の表記法の違いを統一することを命題に、2003年10月13日〜17日にパリで国際度量衡総会が開催されたのだが、メートル法の「国際単位系(SI)」で使われる小数点に関しては、結局、統一されることはなかった。「小数点はピリオドかコンマのどちらかである」という、あやふやな結果になってしまったのである。英語圏の国々は「英語は国際標準語である」という圧力を懸けて、小数点のピリオドへの統一を迫ったのだが、非英語圏の国々の牙城は崩せなかったようである(4)。

[脚注]
(1) 2001年に「国際標準化機構(ISO)」と「国際電気標準会議(IEC)」が発表した「専門業務用指針」では「ISOやIECの規格では、記述言語によらず小数点にコンマを使う」と定めている。
(2) 私が書く英文はアメリカ英語なので、米国の国際専門誌から投稿原稿の査読を依頼されたときは、コメント用紙にレターサイズを使用し、日本人が審査したと悟られないように気を遣っていた。最近の電子媒体による査読の際も、こういった用紙の違いには注意するようにしている。
(3) ズラさんにメールを送るときは、調査道具の価格といった物の値段を表記するのに、いつも気を遣っている。例えば、25,000円と書いてしまうと、彼女の場合は本気で25円と間違える可能性が高い。かといって、日本人の習慣からすれば、25.000円と書くことも出来ない。仕様が無いので、コンマもピリオドも付けず、25000円と書くことになる。
(4) 国際度量衡総会の「小数点はピリオドかコンマのどちらかである」という決定を受け、位取りに関しては、ピリオドもコンマも使用してはいけないことになったようである。


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