自動車は研究の道具


自動車(くるま)、売ればいいじゃないですか!!

これは数年前に、私が所属する研究室の、博士後期課程の某大学院生から言われた言葉である。「私に金銭的余裕がなく、新しい物が何も買えない」という笑えない事実に対して、彼は「自分は自動車を持たないで頑張っている」ということを、彼なりに主張しているのであった。

でも、ちょっと考えて欲しい。彼の自動車に対するイメージは、あくまで「遊びのための道具(1)」ではないのだろうか?

私の場合、自動車はフィールドワークのための道具で、これまでもトウホクサンショウウオクロサンショウウオキタサンショウウオ、等々の調査・研究に活躍してきた。自動車がなければ、私の研究は成立しないのである。そして、ここが肝心なところなのだが、研究の道具として使用する自動車の維持費、及びガソリン代は、全て自費である。

一方、冒頭の言葉を浴びせた彼は、当時、脳下垂体にあるホルモン産生細胞の発生と分化を専門にしていた。抗体を使って免疫染色した細胞を、光学顕微鏡で観察するのが、彼の仕事であった。だから顕微鏡がなければ、彼の研究は成立しないのである。しかも彼の場合、私と違って、生活費の一部を研究のために投入する必要もない。暮らしの基盤が、同じではないのである。

この文脈で「顕微鏡、売ればいいじゃないですか!!(2)」と言われたときの、彼の心境を知りたいと思う。

[脚注]
(1) もちろん自動車は、遊び以外の用途にも役立っているので、あれば便利なことは疑いようがない。
(2) 実際には、顕微鏡は大学=国のものなので、個人の持ち物である自動車と同列に扱うことには無理がある。


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