研究室が......


今年に入ってから立て続けに「あなたの指導の下で博士号を取りたい」とか「あなたの研究室で国際協力機構=ジャイカ(JICA: Japan International Cooperation Agency)のプログラムによるトレーニングを希望している」とかいった電子メールをもらい、非常に困惑している。

これらの依頼は、それぞれ対応した順に、バングラディシュの大学助手、インドネシアの大学院生、ブラジルの大学生からのものである。いずれも「旧メールアドレス(mhasumi@sc.niigata-u.ac.jp)(1)」宛てに送られており、専門の国際誌に掲載された学術論文を読んで、私に接触してきたものと思われる(2)。

私のように研究室を持たない「研究生」の立場では、結局、これらの依頼を断るしかないのだが、断りの文句は多種多様である。参考までに、その骨子となる文章をあげておこう。



Hello there,

Thank you so much for your great interest in my studies on Behavioral and Physiological Ecology. I'm very sorry to say that unfortunately I have not yet had a real laboratory and therefore cannot accept any students. This is where matters stand now in Japan. Please see my web page below, and understand my circumstances.

Best wishes,

Masato

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Masato Hasumi, Dr. Sci.
Biological Institute
Faculty of Science
Niigata University
Niigata 950-2181, Japan
Tel: +81-25-262-7949
E-mail: mhasumi@bio.sc.niigata-u.ac.jp
URL: http://www5d.biglobe.ne.jp/~hasumi/
----Publish or perish?----
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ブラジルの大学生との数回にわたるメールのやりとりで、彼が書いてきた英語の文章は、母国語がポルトガル語にもかかわらず、全く違和感のないものであった。彼は日系三世で「将来はアマゾンの多雨林に生息するヤドクガエル(Dendrobates spp.)を対象とした研究をおこないたい」と希望しており、体外受精をするサンショウウオ科の種で私が手掛けている繁殖生態学・行動生態学の研究が、そのための「完璧なモデルになり得る」と考えての、私への依頼であった。ここまで心酔されたのでは「なんとかしてやらなければ、男がすたる」というものである。関連のメーリングリストで彼を受け入れてもらえる研究室を探すことにし、複数の研究者から快諾していただいたときは、ホッと胸をなで下ろしたものであった。

その一方で、インドネシアの大学院生から受け取ったメール数通は「これで、よく留学したいなんて思うなあ」と呆れるくらい、読むに耐えない英語のオンパレードであり、彼には研究上のアドバイスをおこなった上で、即刻、お引きとり願った。また、バングラディシュの大学では博士号を授与する制度がなく、大学の助手は博士号を持っていないのが普通である。その助手が博士号を取得するために寄こしたメールは、私のことを教授だと勘違いした一方的なものであったが、私がバングラディシュ人の留学生に好印象を持っていないせいもあって、さすがに彼を知り合いの研究者に紹介する気にはならなかった。

いずれにしても、以上のような断りのメールが増えてきて「自分の研究室を早く持たないと、いつまで経っても国際社会への貢献は出来ないなあ!!」との感嘆を、あらわにする日々が最近、続いている。

[脚注]
(1) 旧メールアドレス宛てには、英語やドイツ語のスパムメールが、なぜかヨーロッパ方面から頻繁に届き、非常に迷惑している。理学部のメールサーバ管理者にお願いし、このアドレスを2003年10月1日をもって無効にしていただいた(1)。
(2) これら各国の大学生・大学院生・大学助手は、私が書いた学術論文を読み、その内容に純粋に感動してメールを送ってくれるのだが、不思議なことに、どうも私のホームページをみたことがないようである。

[脚注の脚注]
(1) 旧メールアドレスを無効にしたおかげで、つい最近、判明したことがある。10月27日、米国にある爬虫両棲類関係の国際学会の事務局から航空便で手紙が届き、そこには「某雑誌の9月号を、手違いで航空便と船便の両方で発送してしまったので、2番目の雑誌が到着したら返送して欲しい」と書かれてあった。「郵送費用は事務局で負担し、チェックを送る」という話なので「それは経済的でないから、例えば郵送費用を来年の学会費の一部に回すことは出来ないのか?」と尋ね、ついでに「手紙は80セントかかっていて、これも経済的ではない。なぜ私に電子メールを送らないのか?」と聞いてやった。すると「その件で、あなたへは電子メールを2度も送ったのだが、2度とも戻ってきた。それで仕方がないんで、航空便で手紙を送ったんだ」と書いて寄こしたのである。私のメールアドレスは、2001年12月17日に、新しいものへと変更になった。その学会へは、2002年の会員を更新するための封筒に、既に分かっている新メールアドレスを書き、その封筒に国際郵便為替を学会費として入れ、2001年12月7日付けで郵送している。また、2003年の更新のときにも、同様のことをおこなっている。それが、その学会のデータベースが、ずっと旧メールアドレスのままであったことが、今頃になって判明したのである。こうしてみると、どうも他の学会も、同じく危ないような気がしてならない。


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