この記述には、かなり舌足らずな印象を受けます。私はカエルの研究室の出身で、トノサマガエルもトウキョウダルマガエルも調査していますが、研究室では「ナゴヤダルマガエルとは異なり、どちらの種にも背中線は存在するが、背中の斑紋が線状に流れているのがトノサマガエルで、背中の斑紋が丸く独立しているのがトウキョウダルマガエル」というように区別していました。
確かに、トノサマガエルよりトウキョウダルマガエルのほうが、後肢は短いです。でも、私たちがカエル類の調査をするとき、両種が同所的に生息する地域は少なく、脚の長さを比較する対象が存在しないケースがほとんどだと思います。しかも、脚の長さは、捕獲しないと分からないことのほうが多い。その点、捕獲しないで目視だけで判断できるのが、背中の斑紋です。
トノサマガエルとトウキョウダルマガエルが自然交雑した場合、斑紋だけでなく、背中の隆条も後肢の長さも、両種を区別する決め手にはなりませんね。それに、トノサマガエルには、高田型(tb型)と呼ばれる、斑紋が流れないで独立したタイプも存在しますしね。
それと、新潟県内では両種の分布は重なっている地域が多く、自然交雑も確認されていますが、岩手県内では両種の分布は微妙に重なっていなかったように記憶しています。交雑は、分布の境界領域あたりでしょうか?
渋谷区は地理的に不案内ですので確かなことは言えませんが、ヒキガエルは他のカエル類と比べて乾燥に強く、ちょっとした民家の軒先きや縁の下でも生息することが出来ます。○○さんがヒキガエルを目撃されている場所がビル街なら話は別ですが、一軒家が少しでも立ち並んでいるのであれば、それらの何れかで庭先に小さな池くらい掘られているはずです。おそらく、そういった池がヒキガエルの産卵場所になっているのでしょう。変態・上陸後の幼体(1cmくらいの小さなカエル)が目撃されているようですので、今度は春先にでも、その周辺で池を探してみて下さい。きっと彼らの産卵場所が見つかると思います。
ヒキガエルと言えば、オスが何10匹も集まって1匹のメスを奪い合う「カエル合戦」のイメージが強いと思いますが、基本的にはオスとメスが1匹ずつ居れば、ほんの僅かな水たまりでも繁殖が可能なわけです。大都会の真ん中では、たった数匹の個体で細々と生命の営みを続けていたとしても、決して不思議ではありません。
一般的に、ヒキガエルの親(成体)の行動圏は「春先に繁殖する池を中心に、半径500mくらい」と言われています。繁殖期が終了すると、成体は池の近くの土の中で春眠に入ることが知られていますので、季節によって居る場所が違って来ます。成り立て(変態・上陸直後)の幼体の中には、池の周辺に留まる個体もいますが、池の周辺から徐々に移動・分散して行動範囲を広げて行くのが普通ですので、彼らを見つけた場所の近くにヒキガエルが繁殖できる池が存在するかどうかは微妙なところです。
また、大変、申し上げ難いのですが、ヒキガエルの幼体は跳ねないと思います。アズマヒキガエルの幼体(変態・上陸直後)は何百匹も観ていますが、私には「彼らが跳ねていた」という記憶がありません。カエルを表す英語には2種類あって(frogs & toads)、ヒキガエル(toads)は、確か「這うカエル」という意味だったと思います(違ったら、ごめんなさい)。ずんぐりむっくりの体形に小さな手足が付いていますので、他のカエル類(frogs)のように、ピョンピョンと飛び跳ねることが出来ない構造になっています。
北米産のヒキガエルの中には、歩くのと跳ねるのと両方の動きをする種がいるようですが(「跳ねる」と言っても、三段跳びの「hop, step, jump」の「hop」程度の跳躍です)、日本産のヒキガエルが跳ねるという話は、聞いたことがありません。もしかしたら「跳ねる」というイメージが、お互いに異なっているのかもしれませんが、もし本当に跳ねていたのだとすれば、他のカエル類(例えば、ニホンアカガエル)の幼体かもしれませんね。
ツチガエルの腹の色の違いはともかくとして「オスの鳴き方が違えば、そのオスをメスが同種と認識できず、メスが近くに寄って来ない」ということはあると思います。ですから「佐渡にツチガエルがいて、それ以外に鳴き方の違うツチガエルの仲間がいる」という同所的種分化が生じているのであれば、新種と考えても間違いではないでしょう。
しかし、今回のケースは(もし新種であれば)異所的種分化に相当するもので、進化のメカニズムからすれば、極めて稀なことと考えられるでしょう。アカハライモリでも、篠山種族と呼ばれる地域個体群では、オスがメスに示す求愛行動が他の個体群とは著しく異なっています。それでも、地理的変異のひとつに過ぎません。ですから、○○さんの「素朴な疑問」というのは、的を射てると思います。
東京都内ですと、移入種の可能性が高く、調査をするにしても難しいものがありますね。「アズマヒキガエルか、ニホンヒキガエルか?」は、成体を捕獲できれば、ある程度の判断は外部形態から可能です。
一般に「鼓膜の大きさ(長径)が、体長の6%以上あればアズマヒキガエル、6%未満ならニホンヒキガエル」と言われています。また、眼と鼓膜の間が近ければアズマヒキガエル、鼓膜一個分くらい離れていればニホンヒキガエルです。但し、これらの判別法はかなりあやふやなもので、交雑個体かどうかの判断は、鼓膜の大きさや眼と鼓膜の間の距離といった形態的特徴からは不可能です。繁殖期ですと、水中に適応したアズマヒキガエルのオスの背中の皮膚はすべすべになりますが、ニホンヒキガエルではイボイボが残るという特徴がありますので、これらも判断材料になります。
「卵紐(egg-string)で、アズマヒキガエルとニホンヒキガエルを判別する方法」というのは、そういう方法があれば確かに楽だとは思いますが、私も寡聞にして知りません。「卵塊での判別」という言い方からすると「卵塊の形状から、ヒキガエル類と他のアカガエル類との判別が可能である」ということを、単に述べただけのものかもしれませんね。
申し訳ないですが、オタマジャクシの体色に関しては、よく分かりません。青黒いオタマというのは、ヤマアカガエルでは見たことがありません。オタマの体色変異には、脳下垂体中葉ホルモンの「Melanophore Stimulating Hormone (MSH)」が深く関わっていますが、MSHが欠如した場合は黒色素胞が拡散できませんので、体色は白っぽくなり「表皮が透けて見える」ということはないはずです。市松模様の紙を下に敷いた実験で、オタマの体色が外部環境に合わせて変化することを述べた論文があったと思いますが、それとも違うようです。現在のところ、有効な回答を差し上げることは出来ませんので、悪しからずご了承下さい。
サンショウウオは、アマガエルのように外部環境に合わせて体色を変化させることは出来ませんから、体色の成り立ち自体、両者は全くの別物と考えたほうが無難だと思います。また、具体的な物質名は分かりませんが、黄色素胞には「黄色い脂肪粒」が含まれているようです。従って、エタノール液浸標本では、この脂肪性の黄色素胞がエタノールに溶け出し、青いアマガエルが出来上がります(よく見ると、以前の回答と同じことの繰り返しになってしまいました)。
アマガエルの体色が変化するのは、皮膚に三層の色素細胞があり(表層から順に黄色素胞、グアニン細胞、黒色素胞)、それぞれが反射板の役割を果たしているからです(よく調べられている現象のひとつです)。この黄色素胞を欠く個体の皮膚が、青色に見えるわけです。また普通の緑色をした個体でも、エタノール液浸標本では青色になります。これは、一種の脂肪細胞である黄色素胞が、アルコールに溶けるからです。同様に、黒色素胞を欠く個体ではメラニンが形成されないので、黄色や白色のアルビノになります(アルビノで目が赤いのは、毛細血管が透けて見えるからです)。
トノサマガエルにもトウキョウダルマガエルにも、背中線は普通あります。背中線が途中で切れているという特徴で、両種を見分けるのは至難の業でしょう。一般的な見分け方としては、背中の斑紋の違いを基準にします。トノサマガエルでは斑紋が流れて互いにくっ付いているのに対して、トウキョウダルマガエルでは斑紋がひとつひとつ独立しています(ダルマガエルとは異なり、どちらの種にも背中線は存在しますが「背中の斑紋が線状に流れているのがトノサマガエルで、背中の斑紋が丸く独立しているのがトウキョウダルマガエル」という認識で良いと思います)。またトノサマガエルでは、背中に数多くの小さな隆条(ぼこっとした盛り上がり)が発達しています。トウキョウダルマガエルでは、この小隆条が目立ちません。これらの特徴で普通は区別できますが、問題は両種に自然交雑が起こる可能性があるということです。
ちょっと細かい、専門的なことで恐縮です。無尾両生類(カエル類)の場合、繁殖水域に産出された卵塊では、発生が進んだ卵から胚が孵化して「幼生(larva: いわゆるオタマジャクシ)」となって泳ぎだしますが、変態上陸後の個体は「幼体(juvenile)」と呼びます。図鑑などでも誤って記述されていることが多いのですが、一般に「亜成体(subadult)」とは、性成熟直前の(季節で言えば秋口辺りの)個体を指します。また、専門用語というわけではないのですが、仔ガエル(froglet)という呼び方も、覚えておいて損はないでしょう。
超ローカルな話題ですね。ここは毎年、春の祭りが近づくと地元の人が、産出されたアズマヒキガエルの卵紐を池から汲み出すのが恒例行事となっていました。「そのうち資源が枯渇するだろうな」とは思っていたのですが、今年(2001年)が、その時期に当たるのかもしれませんね。
「新潟県内にナガレタゴガエルが生息しているらしい」という話は、以前から聞いたことがあります。私は確かめていませんが、藤野忠男著「雪国の動物たち(1977年3月発行)」の「不思議なコノハカエル」という項目に、小千谷市大湯温泉で捕獲したカエルのことが記載されているらしいです(アニマ1982年6月号)。群馬県でもナガレタゴガエルが発見されているので、新潟県で発見されてもおかしくはないでしょう。但し、彼らを「本格的に」探すには、潜水服を着て冷たい川の流れに身を投じる必要があります。学名(Rana sakuraii)は、桜井淳史さんが、そのようにして発見した新種です。
[追記]
これは1999年2月26日付の回答である。その後、ナガレタゴガエルの新潟県内初の生息地(新潟県西頚城郡青海町青海川支流金山谷)を、下山(2002)が報告している。
・下山良平. 2002. 新潟県西部からのナガレタゴガエルの記録. 爬虫両棲類学会報 2002(1): 6-7.
一般にナガレタゴガエルを含めた両生類の場合、繁殖期に水中で皮膚がぶよぶよになるのは「皮膚呼吸のために、皮膚の表面積を広げているからだ」と考えられています。実際、カエルもサンショウウオも繁殖期に水中にいるときは、皮膚呼吸で水中の溶存酸素を取り込んでいるので、余り息継ぎ(肺呼吸)をしません。また、クロサンショウウオのオスの皮膚も繁殖期には水中で膨潤しますが、頭が膨れるのはサンショウウオ科だけの特徴なので、これには皮膚呼吸以外の要因(例えば、オス間闘争など)が絡んでいるようです。
エゾアカガエルの卵塊は、繁殖水域の水表面近くで草や藻に付いています。水深50cm以上の比較的深い水域で、水表面近くに産卵するメリットは、繁殖期に水底や水辺が凍結し、その近辺の水温が低いという気象条件のせいだと思います。だから私は、水深10cm毎に水温を測りました(羽角・神田, 1998)。産卵をおこなうのが難しい場所でも、他に適当な産卵形態がないのではないでしょうか?
・羽角正人・神田房行. 1998. 別寒辺牛湿原の両生類相. 環境教育研究 1(1): 165-169.