発行年までに記載された両生類の全ての種が、以下の本に網羅されています。
・Frost, D. R. (ed.) 1985. Amphibian Species of the World: A Taxonomic and Geographical Reference. Allen Press, Lawrence, Kansas, U.S.A.
サンショウウオ科(family Hynobiidae)は、以下の点で原始的だと考えられているようですが、私もよく分かりません。化石種との比較なのでしょうか? ただ、この科のサンショウウオを専門に研究していて思うのは「あらゆる体制が魚類に似ている」ということです。
確かに、有尾両生類では「体内受精という受精様式は、体外受精から進化したものである。だから、体外受精をおこなうサンショウウオ科の種は原始的である」と考えられていることは事実です。しかしながら、ほとんどの種が体外受精をおこなう無尾両生類と比較した場合、必ずしも「体外受精=原始的」ではないのが、妙に悩ましいところです。
(1) 左右の鼻骨が前顎骨の突起で隔てられていない
(2) 角骨が前関節骨に癒合していない
(3) 第二上鰓骨が変態後も残る
該当する有尾両生類は、北米に生息するプレトドン科(family Plethodontidae)のサンショウウオですが「これらの種が、(爬虫類への?)進化の中間段階のものの子孫か」と問われても、私には答える術がありません。ただ、そのような種が現存することは確かです。
[追記] その後の新種発見で現存する有尾両生類の数は増え続け、2005年の段階で、およそ500種を超えるまでに至っている。ちなみに、プレトドン科の中で完全に陸生の種だけで構成されるのはプレトドン属であり、他の属には水中で繁殖する種も含まれている。更に近年の新種ラッシュで、2013年の時点では、有尾両生類の種数は650種を超えている。
成体でないイモリ(つまり幼体)は「eft(s)」と呼ばれ、陸上で暮らしています。これが性的に成熟して、第二次変態(second metamorphosis)を起こし、水生適応したものが「newt(s)」です(詳細はHasumi and Iwasawa, 1992のイントロを参照して下さい)。これらの用語は元々、北米産のブチイモリ(Notophthalmus viridescens)で使用されていたものですが、近年は、どうも用語本来の意味を勘違いして使っている人が多いように思います。
日本のサンショウウオで固有種でないものは、キタサンショウウオだけです。
正確に調べられていれば、これは面白い現象です。しかしクロサンショウウオの繁殖期間は、同じ繁殖水域でも年によって変動しますから、卵数の調査日が重要になってくると思います。一般に有尾両生類では「メスの頭胴長と卵数は比例する」と言われています。「現在のほうが多産である」ということは「以前よりメスの身体が大きくなった(栄養状態が良くなった)」と考えることができます。その一方で「身体の大きい個体のほうが早く冬眠から覚醒する」とも言われています。従って、今回の調査が繁殖期間の前半におこなわれたのであれば、卵嚢中の卵数が多いのは、当たり前のことかもしれません。
これは、間違いというより、オスにだけ当てはまる特徴だと思って下さい。「オスでは1-2肋褶分重なるが、メスでは指先がわずかに触れるか、1肋褶分離れる(メスのほうが胴長短肢: メスは産卵後に計測)」というのが正解です。前後肢間の肋褶数のデータを数値で示すと、次のようになります(Hasumi and Iwasawa, 1987)。
・オス(平均=-1.38、標準偏差=0.65、個体数=283、範囲=-3.5〜0.5)
・メス(平均=0.58、標準偏差=0.62、個体数=49、範囲=-0.5〜2.0)
これも、間違いというわけではありません。トウホクサンショウウオでは「11本の肋条を持つ個体が出現する割合の高い個体群が多いが、12本の肋条を持つ個体が出現する割合の高い個体群もある(例えば、秋田県大曲市、群馬県水上町など)」ということです。但し、肋条数の数え方には問題が多く、私の場合は、脇の下にある肋条(=脇条)を除いて数えた値です。また、肋条数は胴椎骨数と比例することが分かっています。
背色の件ですが、どれくらいの色があるのかは私にも分かりません。一般にカスミサンショウウオでは尾に黄色い条線が見られますが、ご質問は「これが背中にもある」ということでしょうか? また、ご質問の背色の違いは、遺伝的な要素以外では、生息場所の土壌の性質や食べている餌の違いが原因だとは思いますが、確かなことは分かりません。体色の色彩変異は、両生類では頻繁に見られる現象ですから、余り気にする必要はないのかもしれません。
越冬幼生は、英語で「overwintering larvae」と書きます。冬を越して、春先の繁殖期間中に見られるのが、越冬幼生です。でもサンショウウオの場合、秋口になっても変態しなければ、そのまま冬を越す可能性が高いので、それらの個体を「越冬幼生」と呼んでも間違いではないでしょう。
越冬幼生が出現するのは、変態できる条件が揃わなかったときです。両生類の変態を促進するのが、甲状腺ホルモンだということは、ご存知でしょう。このホルモンの分泌が水温に左右されるのは、充分に考えられることです。でも、これだけが変態できない要因ではなく、正直なところ、はっきりと「こうだ」と言えるものが、まだありません。また、飼育されている水温に問題はないと思います。トウホクサンショウウオの湧き水に産卵する個体群では、夏場の水温が12〜13℃でも、ちゃんと変態して上陸しますから、水温が低いということが、変態できない要因の全てではないはずです。但し、このような個体群では、越冬幼生の出現頻度は高いです。
これは、たぶん何かの間違いでしょう。有尾両生類では、腸に脂肪は付きません。有尾両生類の脂肪は、一般に黄色い「脂肪体(fat body)」として、生殖巣(卵巣や精巣)の内側に存在します。プレトドン科の尾を自切する種では、尾の付け根に脂肪組織(adipose tissue)を蓄えるものが存在し、脂肪のエネルギーが尾の再生に使われますが、それ以外に脂肪があるとすれば、新発見です。以前、某TV番組で、チュウゴクオオサンショウウオの尾全体に、脂肪組織が分布している画像がありました。これは、もしかしたら新発見かもしれませんし、飼育個体が栄養過多のため、尾に脂肪が付いてしまっただけなのかもしれません。
これが事実だとすれば、確かに面白いと思いますが、ヒダサンショウウオの越冬個体が「水温と地温のどちらが低いか?」という判断をすることは事実上困難だと思います。これは「どちらが低いか?」という問題ではなく、単に「地温が閾値を下回ったときに水の中へ移動する」と考えたほうが、スッキリすると思います。
これは、何とも言えません。私は学生時代の実習で、止水性のトウホクサンショウウオの一連の発生段階をスケッチしていますが「バランサー(平衡桿)は吸収されるのではなく、あるとき突然としてポロリと落ちる」のを観察しています。流水性のヒダサンショウウオの場合は、少し違うのかもしれませんね。
お目が高い。有尾両生類の名称は、以下のようになります。この名称は性成熟に達する年数によって異なり、短期間で性成熟する場合には、幼体と亜成体の区別は曖昧です。但し、有尾両生類で変態後の個体を亜成体と呼ぶことは、まず、あり得ません。性成熟までは、雄で3〜5年、雌で4〜6年を目安にして下さい(種や個体群によって異なります)。
(1) 幼生(larva (pl. larvae)): 変態前の個体
(2) 当年変態幼体(metamorph(s)): その年に変態した個体
(3) 幼体(juvenile(s)): 2年目以降の個体
(4) 亜成体(subadult(s)): 性成熟する前年の個体
(5) 成体(adult(s)): 性成熟した個体
*(2)と(3)を区別しないで、単に「幼体」と呼ぶ場合が多いようです。
オオサンショウウオに限らず、有尾両生類の肺は、確かに「断面積」で見れば小さいのですが、その代わり細長い造りをしており、喉元から後肢の付け根まで存在します。ですから、肺の「断面積」ではなく「表面積」を全体で比較する必要が、本当はあったのかもしれません。
「卵紐(egg string)」は「卵塊(egg clump)」に対して使用される、ヒキガエルのための用語です。御存知かと思いますが、他のカエルの卵が数多く集まって塊になっているのと違って、ヒキガエルでは、卵が紐状の袋に包まれています。それを「卵紐」と呼び、これには他に適当な用語がありません(「卵塊」と書いてある文献が多いのですが、正確な使い方ではありません)。一方、オオサンショウウオでは、卵が数珠つなぎになっています。この卵をつないでいる部分を「卵紐」と呼べば、ヒキガエルの「卵紐」と混同する人もいるでしょう。オオサンショウウオでは「卵紐」以外にも用語があるわけですから、別な用語を提唱されては如何でしょうか?