(2) 静岡県に生息しているヒダサンショウウオは、暗黒色をした個体がほとんどらしいです(前に調べました)。分布域が重なるアカイシサンショウウオも、暗黒色をしています。一見すると同じように見えるのですが、このように分布域や体色・体形などが同じ、もしくは似ているサンショウウオの研究者は、どのように種類を分類しているのでしょうか?(2016年4月2日)
(1) キタサンショウウオが日本では釧路湿原にしか生息していないという不思議な事実は、昔から色々と考察の対象になっています。一説には「氷河期以降の気温の上昇で、冷涼な釧路湿原に遺存した」という考えがありますが、その後の後氷期海進(縄文海進)で釧路湿原が内湾の海になった(両生類は海には棲めない)ことから、この説には疑問が呈されています(羽角・神田, 1998)。また別の説では「エゾサンショウウオの幼生とキタサンショウウオの幼生を一緒にすると、エゾサンショウウオがキタサンショウウオを捕食してしまうから、両者が同じ場所に生息することはない」という考えがありますが、これも推測の域を出ません。このご質問に関しては、明確な答えが今だに出ていないのが現状だと思います。
(2) 形態や体色が似ていて、分布域が重なる2種類のサンショウウオを識別するために、様々な方法が考案されて来ました。日本では、1980年代から1990年代に掛けて、筋や血液の酵素タンパク(アイソザイム、またはアロザイム)を電気泳動に掛ける、生化学的なデータ分析が主流でした。電気泳動のバンドの違いを読み取って、種を分けていたわけです。これが2000年代に入ると、DNAの塩基配列を基に遺伝子データを比較する作業が始まり、現在では、母系遺伝をするミトコンドリアDNAの遺伝子解析が主流になっています(母から子への母系遺伝なので、遺伝子が必ず子孫に伝わり、その結果、種間で遺伝子が異なるという点に着目したものです)。
(補足): 諸般の事情で更新が遅れたが、これは2016年3月13日付の回答である。
・羽角正人・神田房行 (1998) 別寒辺牛湿原の両生類相. 環境教育研究 1(1): 165-169.
Thank you for your queries about Salamandrella keyserlingii. I am not sure what you feel questionable, but I guess two possibilities: (1) all embryos in each "egg sac" (but not "egg bag") died during development before hatching; and (2) all females died during spawning behavior before depositing their egg sacs. That is, are your queries about "embryonic development" or "egg sac deposition"? First of all, please clarify your queries.
If the former possibility is favored, one explanation is that insemination by males failed, and all eggs were unfertilized. Another explanation is that hybridization of embryos occurred between either sex of this species and that of other species (i.e., Salamandrella tridactyla), and all embryos died during early development.
(補足): 諸般の事情で更新が遅れたが、これは2015年12月7日付の回答である。
この小学生が、どの文献を参考にしているのか不明ですが、Wikipediaには、確かに「(オオイタサンショウウオの)食性は動物食」と書いてあり、私も、これで間違いはないように思います。問題は「この小学生が、オオイタサンショウウオの食性をどうやって調べたのか?」ということです。私たち研究者が動物の食性を調べるとき、一般的には、その動物の『胃内容物』を調べます。カスミサンショウウオの胃内容物を調べた報告では「無脊椎動物(節足動物・環形動物・軟体動物・線形動物)が、総数の85%、総体積の93%を占めた(ただし、線虫類に関しては、サンショウウオの胃壁に寄生していた可能性あり)」とのことです。これら以外にも、枯れ葉や水草などの植物片、泥の固まりや小石、等々が検出されています。この場合、私たち研究者であれば「ここで検出された植物片は、サンショウウオが餌となる小動物を捕らえて飲み込むとき、一緒に胃の中に入って来たものである」と考えます。つまり、サンショウウオの胃内容物に植物片が見つかったとしても「動物以外に、植物も食べている」という結論は、導き出さないのが普通です。ただ「この小学生が、オオイタサンショウウオの胃内容物を調べている」とも考え難いので、もうひとつの可能性として「飼育していた個体(成体なのか、幼生なのか分かりませんが)の目の前で、たまたま植物を動かしてみせたら、食べてしまった」ということも考えられます。サンショウウオは、目の前で動く小さなものを餌として認識しますから、それが植物であっても、食べてしまうことは充分に考えられます。今回の『画期的な発見』の真相は、おそらく、こんなところではないかと思います。
(補足): 諸般の事情で更新が遅れたが、これは2015年7月7日付の回答である。
もしかしたらご存知なのかもしれませんが、ヒダサンショウウオ成体の体色の地理的変異(個体群内変異・個体群間変異)を調べた学術論文が出ております(Matsui et al., 2009)。この論文では体色の変異を4パターンに分けていて、◯◯さんご指摘のように、黄色味の強い個体は近畿地方の個体群で多く出現する傾向が強いようです。また、黄色い斑点がほとんどない個体は、関東地方から中部地方の東側の個体群で多く観察されるようです。
しかしながら、その要因に関しましては、充分には調べられていないものと思われます。◯◯さんが、もし「ヒダサンショウウオの生息環境の砂礫の色が、成体の体色の決定要因である」という作業仮説のもとに、幼生期の生息場所である川床の色や変態・上陸後の幼体が暮らす場所の土壌の色と、成体の体色との関係性に着目した研究を始められるのであれば、私は支持したいと思います。
それと、有尾両生類では「幼生の初期ステージの水温が、体色の変異に影響を及ぼす」という論文が出ておりますので、そちらも考慮する必要があるのかもしれません(Garcia et al., 2003)。
(補足): 諸般の事情で更新が遅れたが、これは2011年8月5日付の回答である。
・Matsui, M., Y. Misawa & K. Nishikawa (2009) Morphological variation in a Japanese salamander, Hynobius kimurae (Amphibia, Caudata). Zoological Science 26: 87-95.
・Garcia, T. S., R. Straus & A. Sih (2003) Temperature and ontogenetic effects on color change in the larval salamander species Ambystoma barbouri and Ambystoma texanum. Canadian Journal of Zoology 81: 710-715.
繁殖期にハコネサンショウウオの雌雄の体形が水生型に変化していることは、◯◯さんの幾つかの著書にある写真を見ても明らかだと思います。また、サンショウウオの「彷徨行動(wandering)」という現象は「水生適応のためのタイムラグ」と考えられていますので、どのサンショウウオにも見られる可能性が高いと思います。
(補足): 諸般の事情で更新が遅れたが、これは2009年4月18日付の回答である。
「(繁殖に参加しないで)産卵場から出て行く個体」が水の出入りを繰り返しているのであれば、◯◯さんが仰るように「彷徨行動」と考えて良いと思います。この個体が繁殖期間中に産卵場に戻らないようであれば、それは「temporary emigration」と呼ばれているスキップ現象と考えられます。
(補足): 諸般の事情で更新が遅れたが、これは2009年4月18日付の回答である。
ちょっと話が見えないのですが「産卵池からの距離と捕獲個体数との間に負の相関が見られない」ということは「産卵池から100 mの範囲内では、どの場所でも同程度に個体が捕獲される」ということでしょうか?それとも「負の相関の傾向はあるが、捕獲個体数が少ないため有意な相関が見られない」ということでしょうか?
(補足): 諸般の事情で更新が遅れたが、これは2009年3月18日付の回答である。
どれくらいの個体数が捕獲されているのか分かりませんが、今後も同じような傾向が続くようであれば、学問的に、かなり面白いデータになると思います。アセスの場合は守秘義務などの関係で論文にするのは難しいのかもしれませんが、もし可能であるのならば、純粋に科学として公表された論文でデータを見てみたいと思います。
(補足): 諸般の事情で更新が遅れたが、これは2009年3月19日付の回答である。
「何を目的にするか」にもよりますが、墜落缶(ピットフォール)だけでなく、ドリフトフェンスを併用したほうが、サンショウウオ個体の捕獲効率は良いと思います。
(補足): 諸般の事情で更新が遅れたが、これは2009年3月18日付の回答である。
私が使用しているPITタグは"Data Mars"というスイスのメーカーが作っているもので、挿入器具とタグ(マイクロチップ)が一体型のものです。そのため、価格は割高で、1個あたりの単価は1,500円です。100個のまとめ買いで1割、1,000個のまとめ買いだと3割くらいは引いてくれるようです。それと、名前は忘れましたが、京都のメーカーが作っている挿入型のタグは、1個あたり800円くらいだったと思います。
(補足): 諸般の事情で更新が遅れたが、これは2009年3月18日付の回答である。
カエル類ではゴム製の腰バンドを使って発信器を装着するケースが多いと思いますが、小型のサンショウウオ類では外科的手術で発信器を体内に埋め込むケースが殆どです(surgical implantation)。なぜ、このような方法が採られるのかと言えば、移動性のサンショウウオの非繁殖期の個体は、地下穴や朽ち木の透き間などの狭い場所に潜り込むことが多いからです。このような場所では、発信器を体外に装着すると、すぐに脱落してしまいます。
私が調べた釧路湿原のキタサンショウウオの平均的な体の大きさ(頭胴長: 吻端から総排出口後端までの距離)は、オスで57.95 mm(最大で71.52 mm, n = 356)、メスで62.02 mm(最大で72.33 mm, n = 160)です。ですから、頭胴長60 mm以上の大きい個体であれば、お知らせいただいた大きさの発信器(13.5×5.3×3 mm)を体内に埋め込むことは可能かと思った次第です。
ちなみに、PITタグ(13×2 mmの半導体マイクロチップ)を体内に埋め込むときは、頭胴長40 mm以上の個体にだけ使用するよう、明確な線引きをしています。
イラストマー(私たちは「VIEタグ」と呼びます)は余りにも小さすぎますので、(サンショウウオの幼生や幼体などの小さな個体に)麻酔をしないで埋め込むことは不可能です。その一方で、PITタグは、慣れた方であれば(成体などの大きな個体に)麻酔をしないで注入することは難しいことではありません。ちなみに、私の場合、PITタグは頭胴長(吻端から総排出口後端までの長さ)が40 mm以上の個体にだけ使用しております。
VIEタグは、通常4種類ほどの色が用意されておりますので、これらを組み合わせて使用します。多数の個体を識別するには、数カ所の埋め込み部位が必要となります。尾の付け根も良いとは思いますが、四肢の付け根(腹側)に埋め込むケースが多いようです。最近、販売されている小さいサイズのPITタグ(長さ8 mm程度)でしたら、かなり大きい個体には、尾の付け根に注入することは可能かもしれません。でも、一般的に小型サンショウウオの場合、PITタグは腹腔内に注入するケースが多いようです(腹腔内注入が、繁殖・産卵に影響するかどうかは不明です)。
今、手元に文献がないので(下宿に帰らないと)詳しいことは分からないのですが、下記の文献に◯◯さんの知りたいことは載っていたように思います。
このマーキング法の難点は、野外では(その場では)使えないことです。一旦、実験室に個体を持ち帰り、個体に麻酔をかけて、実体顕微鏡下でVIEタグを埋め込む必要があります。その理由は、肉眼で操作するにはVIEタグが余りにも小さすぎるからです(長さ1 mm、直径0.2 mm。液状の樹脂も利用可能。液状樹脂の詳細は、下記文献を参照)。でも、これさえクリアできれば、何より安価ですし(4000回のマーキングをおこなって240ドル)、多数の個体を標識することが可能なようです。
・Heemeyer, J. L., J. A. Homyack, and C. A. Haas. 2007. Retention and readability of visible implant elastomer marks in the eastern red-backed salamanders Plethodon cinereus. Herpetological Review 38 (4): 425-428.
・Hoffmann, K., McGarrity, M. E., and Johnson, S. A. 2008. Technology meets tradition: a combined VIE-C technique for individually marking anurans. Applied Herpetology 5: 265-280.
仰るように、"scramble competition"は「オスが積極的にメスを探し回ることによって、限られた資源としてメスを獲得する婚姻形態」の意味で使用されるケースがほとんどだと思います。実は、Hasumi (1994)の中で"scramble competition"の使い方を限定したのには、ちゃんとした理由があります。ご存知のように、サンショウウオ科の"mating ball"を形成する種では、1匹のメスが産出する1対の卵嚢がメスの代わりになります。つまり、他の動物に見られる"scramble competition"とは異なり、オスが獲得する対象は「メス」ではなく「卵嚢」ということになります。そのため最初の文章中で、このことをきちんと断わった上で(ここが大事です)、"scramble competition"という用語を「"mating ball"形成中の卵嚢争奪競争」に限定的に使用したわけです。ところが、文章中で用語を定義するとき"scrambler"に対応する用語として"non-scrambler"を使用してしまったため、◯◯さんに要らぬ誤解や違和感を与えてしまったのだと思います。投稿原稿を審査した複数のレフェリーや担当の編集者の誰からも、そういった指摘がありませんでしたので、"non-scrambler"という用語がそのまま通ってしまいましたが、今思えば、別の用語を提唱すべきだったのかもしれませんね(その後の発展的論文[Hasumi, 2001]では、"non-scrambler"という用語は使用しておりませんので、誤解なきように......)。ちなみに、この論文は、爬虫両生類学の教科書(Pough et al., 2001)でも、体外受精をするサンショウウオ科の典型的な婚姻形態として肯定的に取り上げられておりますので、ある程度の評価は受けているのだろうと思います。
・Pough, F. H., R. M. Andrews, J. E. Cadle, M. L. Crump, A. H. Savitzky, and K. D. Wells. 2001. Herpetology, 2nd edition. Prentice-Hall, Upper Saddle River, New Jersey, USA.
You know, salamanders are a vertical climber. If a pitfall trap does not have this type of lip (overhang), trapped salamanders would climb up the surrounding wall of the pitfall and then would escape it away. I think the 3.75 cm lip is enough to prevent their escape.
No. We need not use satellite imagery both because oviposition sites of salamanders have been detected almost over the area of Japan and because water and vegetation have densely covered approximately 70% of Japan. Satellite imagery programs using infrared may be effective on searching for salamanders in a huge area of wetland like Darhadyn Wetland without adequate amounts of vegetation.
I have just looked through your questions carefully, but I do not understand an idea that amphibians including salamanders can smell some through their skin.
In general, migratory amphibians adopt olfaction as a navigational cue through the mucosa of their nose (e.g., alternately, nasolabial groove in plethodontids). For example, anosmic toads (Bufo japonicus), olfactory mucosa of which are damaged by the treatment with a 5% silver nitrate solution, rarely reach a breeding pond (Ishii et al., 1995); their olfactory cue originates from a route or area of immigration, but not from the pond. Also, homing salamanders seem to use local odor patterns for orientation (Sinsch, 1992).
If you imagine the pheromone delivery during courtship of salamanders that accomplish internal fertilization, they certainly use some glands (e.g., mental courtship gland on the chin, part of their skin) as a source of pheromones. Is this what you try to say?
・Ishii, S., K. Kubokawa, M. Kikuchi, and H. Nishio. 1995. Orientation of the toad, Bufo japonicus, toward the breeding pond. Zoological Science 12: 475-484.
・Sinsch, U. 1992. Amphibians. In: F. Papi (ed.), Animal Homing. Chapman and Hall, London, UK, pp. 213-233.
I was very impressed to see your interesting idea that some chemical things from salamanders piled up at the bottom of a breeding pond. I do not deny the possibility of this idea so that I recommend you to conduct an experiment for detecting chemical things, if any, as an inductive source for the female's ovulation or an attractive source for the male's behavior. I think, however, such chemical things are mostly composed of several small chains of peptides, and thus the peptides would be decomposed immediately after being deposited at the bottom of the pond. One possible explanation is that secretions emanated from the male's cloaca may directly induce the female's ovulation (Hasumi et al., 1990). As for endogenous factors that stimulate breeding immigration of salamanders to the water, please refer to Hasumi (2007).