第2次世界大戦末期、敗色濃厚な日本軍は最後の戦果をあげるために狂気のインパール作戦を遂行した。
この世界の戦史にも稀に見るばかげた作戦を強行したのはビルマ第15軍の牟田口中将(佐賀県出身)であった。
当時従軍記者としてビルマに派遣されていた高木俊朗氏は戦後戦争責任とは何かと言う問いを胸にこの陰惨なインパール作戦の実相
を書き続けた。文春文庫の『インパール』は第13刷を数える戦記文学の名作であるが、私がこの本を最初に読んだのは1999年3月にミャ
ンマーに行くことが決まった98年の冬だった。ミャンマーについての予備知識が全くなかった。それで竹山道雄の『ビルマの竪琴』を読ん
でみたが、これは子供向けに書かれたお話であることを始めて知った。より実態に近いだろうと思って手にしたのが『インパール』だった。
読んですっかりはまってしまい、その続編である『抗命』『全滅』『憤死』(いずれも文春文庫)を立て続けに幾く晩か徹夜をして読破してしまった。従って今回は再読である。
第15軍司令官牟田口廉也中将はインド征服の夢を見て、功名に焦り、東条英機大本営参謀総長(兼総理大臣兼陸軍大臣)の支持
うけて、ほとんど後方兵站計画も持たないまま数十万の兵士を、熱帯雨林のアラカン山脈を越えインパールへむけ進軍させた。
十分な重火器も携行しなかった日本軍は、周到に構え、空挺部隊による補給体制万全な英印軍陣地にたいして蟷螂の斧を振るった。
ほとんど神がかりだった牟田口は繰り返し進軍を催促し、無駄な死体の山をつくった。作戦中止が決まったのは開始から
5ヵ月後だったが、その敗走は悲惨を極めた。俗にインパールへの道が「白骨街道」と呼ばれるのはここからきている。
「インパール」は大きく3軍に分かれて進軍したうちの第33師団(通称弓)の壮絶な敗戦を描いている。弓の師団長柳田中将は元来この
作戦には反対であった。がゆえに最前線を任された。本書は弓師団歩兵第214連隊の作間大佐、第215連隊の笹原大佐の部隊を中心に
愚かな司令官の下で戦う兵士の悲憤と戦場で見られる人間の本性を描いている。
第2次世界大戦末期、ビルマでは33万の日本軍が無条件降伏の時には13万人になっていた。その20万の戦死者の大半はこのイン
パール作戦であった。戦後牟田口はマスコミで「我が作戦に誤りなし」を繰り返したが、「恥を知れ」と『インパール』の読者は怒り
に身が震えるであろう。
1999年3月に『インパール』にも出てくるミャンマー・シャン州のヘホ空港に降り立った時、小説に描かれたのとは全く異なった赤茶けた大地の姿に驚いた。
ミャンマーの大地はこの20年ほどで熱帯雨林を切り尽くし、乾期にはわずかな降雨でもガリーが発生するような不毛の大地に変身していた。
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■田中宇「仕組まれた9.11−アメリカは戦争を欲していた」
(2002.5)
9.11は世界の流れを大きく変えた。冷戦構造から対テロ構造へと。
しかし,これはアメリカの自作自演であったというのが田中宇(たなかさかい)氏の解釈である。9.11の事態をアメリカの首脳部は
事前に知っていた可能性があるのに放置していた。
犯人の捜査をするFBIには捜査を押さえようとする圧力がかかっている。マスコミも大政翼賛的になった。
ビンラディン一族とブッシュ一族は同じく石油ビジネスに関わっており,軍事産業投資会社「カーライル」に共同出資している可能性がある。
エンロン事件はアメリカの政官癒着構造そのものであり,自由主義経済をゆがめている。などなど。
田中宇氏は時事通信社勤務の後,マイクロソフトに勤めMSNジャーナルの発行人になった後,フリージャーナリストとなり,
現在メールマガジンを通じて発言している。最近『タリバン』の著者として有名になった。
興味を持たれた方はhttp://tanakanews.com/にアクセスしてください。
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□小塩隆士「高校生のための経済学入門」
(2002.4)
高等学校で教わる政経では経済はトピックス的なことしか教えていない。受験の中では軽視されている。
経済学部に来る学生ですら,経済の予備知識はない。理系の学生が生物,物理,科学,地学などを高等学校で学ぶのに比べても遙かに低い水準にある。
そこで著者や高校生にわかりやすく経済学を説くのである。最近この手の経済学入門書が大流行。漫画もたくさん出ている。
でもこの本のおもしろいところは,あとがきにある。そこでは筆者のジレンマが・・・・。
高校生への経済学入門書を書きながら高校生は経済学を学ぶ必要はないとおっしゃっています。
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■奥村宏「倒産はこわくない」
岩波アクティブ新書,2002年,700円 (2002.3)
倒産はますますこれから増える傾向にある。倒産を会社革命の起点にし,倒産を統合・合併で問題先送りをするのではなく,
大企業を分割し,共同決定方式の導入や従業員による労働者協同組合やNPOによる新事業展開を提案する。倒産とは何か,株式会社の本質は何かをわかりやすく説く。
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□八幡正則「人は他人仲 稲は田中(ひとはひとなか たはたなか)」
薩摩の傑人・八幡正則さんの自分史
■池宮彰一郎「島津奔る」
□海音寺潮五郎「二本の銀杏」
■田中哲二「キルギス大統領顧問日記」中公新書
□木村晋介「遺言状を書いてみる」ちくま新書