燕岳・餓鬼岳縦走−4/5

 東沢乗越へ向って下りだすと、すぐに小さな雪渓があり、近くにハクサンイチゲやシナノキンバイなどが咲いていた。

 道は次第に涸沢沿いに下るようになった。ダケカンバの下にニッコウキスゲが咲いていた。

 また日差しが差してきたが、雨露で雨具は脱げない。木の葉や草が道を塞ぎ、いたる所にぬかるみがあった。こんな悪路は珍しい。日本100名山や200名山で、もともと登山道がなかった北海道の日高の山を除いては最悪ではないかと思った。

 やっと東沢乗越へ着いた。8時54分着。
 ここで一服していると、単独の青年が中房温泉から登って来た。中房川の徒渉は問題なかったという。
 その後すぐに5人のパーティーが到着。このパーティーはどうもツアーのようだった。

 薄日が差しているが、私は雨具のズボンを穿いたまま出発。
 登りだしてすぐに笹で濡れたが、すぐにシラビソの尾根になり道幅も広くなったので、雨具のズボンを脱いだ。

 しばらくすると下山者に会った。その下山者から「今日の餓鬼岳小屋は40人の団体さんが泊るそうですよ!」と、あまり嬉しくない情報が入る。3、40人しか泊れない小屋へ40人の団体様とは・・・、溜息が出た。

 乗越から50分ほど登り、やっとハイマツとシャクナゲの斜面へ出た。もう東沢岳は近いだろうと思ったが騙された。

 東沢岳直下の分岐へ10時10分着。ここへ荷物を置いて空身で東沢岳へ。山頂着10時13分。山頂には乗越で会った中房温泉から登って来たという青年が休んでいた。例の5人のツアーも登って来た。

 餓鬼岳方面(写真左)はまだガスっていたが、高瀬ダムが見えた。乗越の方を見ると、北燕岳の稜線からよくもあんなに下って登り返して来たものだと我ながら感心した。

 時間はまだ早いが、ここで昼食にすることにしてザックを置いた分岐へ戻り、小さな岩に腰をおろして昼食。食後の缶コーヒーがうまい。

 私が昼食を摂っている間に、5人のツアーが出かけて行った。私はのんびりとくつろぎ、10時55分に出発。
 ここからも岩尾根の稜線歩きとはならなかった。森林地帯の中を進んで行く。

 やっと稜線へ出ると、正面に岩峰群が立ちはだかるように見えた。いよいよ岩場になりアルペン的になって来た。大きな岩を右、左と巻いて行く。

 ついに剣吊、餓鬼岳が見えて来た。振り返って見ると今巻いてきた岩峰群が並び立ち、今年の5月に行った九州の大崩山の岩峰を思い出した。


大きな岩を巻いて行く

振り返って見た岩峰

剣吊(左奥)と餓鬼岳(右奥)

 見晴らしのいい岩尾根のピークで5人のツアーが休んでいた。私もここで一服しよう。

 私は剣吊などの岩峰群を眺めながら、信州山岳ガイドに餓鬼岳の名前について書いてあったのを思い出していた。
『ガギ岳という山名の由来は二つあり、一つは裏銀座から見ると目の下に見えて子供のようだから。もう一つは峻険で岩場や崖続きの山であることから、崖(がけ)岳が転訛したという説である』。私は絶対に後者であり、後者であってほしいと思った。

 私はツアーより一足早く出発した。剣吊の手前のぼってりした山を12時22分通過。ここから登山道を覆い隠すハイマツとシャクナゲの道を下って行った。


(正面に立ちふさがる剣吊。鞍部から左へ下って巻いて行く)

 サァ!いよいよ剣吊だ!と思ったら、左へ巻いて行く。そしてシラビソが茂る中をグングン下って行く。さっきツアーのガイドさんから「剣吊は左側を巻いて行く」とは聞いたが、こんなに下りながら巻いて行くとは・・・、ちょっと期待はずれだった。ピークを巻くにしても岩場をトラバースする程度かと思っていた。

(写真左:巻き道とはいっても楽ではない)

 大きな岩の下を巻いて少し下った所から、今度は一気の登りになった。シラビソが鬱蒼と茂った中では休むにも手ごろな所がない。やっと乾いた石を見つけて腰を下ろす。ここで水分を補給。汗をたっぷりかいたので脱水症になってしまう。すぐに5人のツアーも来て近くで休憩した。

 やっと樹林帯から抜け出すとハシゴがあった。そのハシゴを登り切って岩場を少し登った見晴らしのいい所でまた休憩。ここまで来ればもう餓鬼岳小屋へ着いたようなものだろう。
 ここから岩場に架かった木のハシゴが見えた。見るからに心細いハシゴだ。ツアーのガイドさんが「ここから小屋まで15分位」と言っていた。

 ここからは予想通り、朽ちかけた木のハシゴが続く。何と心細いハシゴだろう。架け替えはしないのだろうかと思っていると、途中に改修用の木材などがデポしてあった。

【拡大できます】

(岩場のハシゴを登る)

(登山者が見えますか?)

(ハシゴが見えますか?)

 ダケカンバとハイマツの中を下って行くと、やっと小屋の赤い屋根が見えて来た。小屋着15時10分。14時までには着くだろうと思っていたが少し甘かった。

 早速、宿泊手続きして缶ビールを買って山頂へ向かった。せっかく立った餓鬼岳はガスってしまい何も見えなかったが、山頂へ立っただけで満足だった。それにテッペンでの缶ビールは最高だった。


(餓鬼岳が大分近づいて来た)

(餓鬼岳小屋)

(餓鬼岳山頂)

 餓鬼岳にはコマクサが咲くと聞いていたので山頂の周りを探してみたが見つからず、諦めて下り出すと、なんと山頂から10mほど下の斜面にパラパラと咲いていた。登る時は足元ばかり見ていたので気付かなかったのだろう。コマクサを見ることが出来たのでもう心残りはない。

 小屋は大混雑するかと心配したが、ラッキーなことにプレハブの別棟だった。定員8人のところへ7人。
 夜の9時頃と明け方に雷が鳴り、ゲリラのような豪雨があった。