黒部五郎岳(くろべごろうだけ)    88座目

(2,840m、 富山県・岐阜県)


三俣蓮華岳から見た黒部五郎岳

登頂歴
(2)太郎平〜黒部五郎岳〜鷲羽岳〜水晶岳〜赤牛岳〜黒部湖縦走・・2006.8.1

(1)新穂高温泉〜双六岳〜黒部五郎岳〜鷲羽岳〜水晶岳縦走・・2001.8.5


(1)新穂高温泉〜双六岳〜黒部五郎岳〜鷲羽岳〜水晶岳縦走

2001年8月5日(日)   《1日目:新穂高温泉〜鏡平山荘》

相模原410−相模湖IC−松本IC−815新穂高温泉840〜鏡平山荘(泊)

 黒部五郎岳と水晶岳は、いずれも若い頃から登りたいと思いながらも、つい登りそこねてしまった山である。
 特に黒部五郎岳は、薬師岳から縦走する予定で太郎平小屋を出発したが、道を間違えて薬師沢へ下ってしまったという曰くつきの山であり、水晶岳は裏銀座縦走の時、水晶小屋から往復する予定だったが、台風の接近で断念した。

 そんな曰くつきの山を今回は何としても登ってやろうと思った。
 朝4時10分に車で家を出た。相模湖を過ぎた頃からポツポツと雨が降り出し、高速に乗った頃は本降りになってしまった。
「初日から雨とはついていないな〜」とボヤいていたが、その雨も双葉サービスエリア付近で止んだ。そして、雲の中から時々南アルプスが顔を出すようになって来た。

 松本インターで降りて沢渡(さわんど)を過ぎると青空が広がり、栃尾温泉からは北アルプスの岩稜がクッキリと見えるようになった。
 新穂高温泉8時15分着。無料駐車場へ車を止め、8時40分に出発。

 新穂高温泉のバスターミナルから、正面に笠ケ岳の岩稜が並び立って見えた。



(無料駐車場は広い・バスターミナルより手前にある)

(バスターミナルからの笠ヶ岳の稜線)

 笠ケ岳の登山口にある水場で休憩し、ペットボトルを満タンにした。しかし、ワサビ平小屋の前にあった沢水の方が冷たくて旨かったのでペッドボドルの水を入れ替えた。

 林道をしばらく歩き、河原へ下る所で崖崩れがあり迂回させられた。左手の4、50メートル上部から、ひと抱えもありそうな石が雷のような音をたててゴロゴロと崩れ落ちていた。
 下って来る人から、「凄い音がしているが本当に通れますか?」と何回も聞かれる。

 それにしても今日は暑くてしんどい。水を飲むとそれが全部汗になってしまう。しかし、風は冷たくて気持ちがいい。

 鏡平に近づくと、右手に槍穂高連峰が顔を出してきた。振り返ると焼ケ岳も見えた。



(槍が見えて来た!)

(西穂高も・・・)

(背後には焼ヶ岳も・・・)

 登るにしたがって西穂高の岩稜がそそり立って見えるようになってきた。山はこうでなくちゃあ・・・!

 鏡池に着いた瞬間、目の前に槍穂の大パノラマが広がった。思わずザックを放り出した。

 やや左に槍ケ岳がそそり立ち、大喰岳、南岳、大キレットと続き、さらに北穂、涸沢岳、奥穂、西穂と岩稜が続く。私は思わずバンザーイと歓声を上げながら何枚も写真を撮った。

 私はこの池に三度立ったが、初めて槍穂を見ることが出来た。ここから見る槍穂は信州側から見る山容と違い、そそり立った絶壁が、まるで地獄の山のように見えた。


(鏡池からの槍ヶ岳)

(穂高岳)

 槍穂が投影する池畔に座り、心ゆくまで景観を楽しんだ後は、冷たい生ビールが待っていた。鏡平山荘の食堂で槍穂を見ながら飲む生ビールは最高だった。


8月6日(月)   《2日目:鏡平山荘〜黒部五郎小舎》

鏡平山荘530〜640弓折分岐〜810双六小屋〜1000双六岳〜三俣蓮華岳1240〜1410黒部五郎小舎(泊)

  鏡平山荘、5時30分発。
 朝から雲が多く、ボンヤリと見えた槍穂の稜線も、小屋を出てしばらくすると見えなくなった。

 弓折岳との分岐へ6時40分着。槍穂は完全にガスの中に消えてしまったが、南側の笠ケ岳の方は青空が広がっていた。このまま青空が広がってくれるといいのだが……。

 分岐点にはお花がいっぱい咲いていた。白いハクサンイチゲや黄色いシナノキンバイ、ハクサンフウロ、シオガマなどが咲き乱れていた。

 ここから双六(すごろく)へ向かう道にも花がいっぱい咲いていた。クルマユリやトリカブトなども咲いていた。花の写真を撮りながら歩いていると、いっこうに前へ進まない。ここがこんなに花が多いとは知らなかった。


(鏡平小屋を出発)

(ハクサンイチゲ)

(クルマユリ)

(トリカブト)

(そして雪渓を越えると・・・)

(双六小屋が見えて来た)

 ガスの中から鷲羽(わしば)岳と双六岳が姿を見せた。信州側は依然ガスっているが双六岳の上空には青空が広がってきた。そして、双六小屋の手前まで来た時、頭上にも青空が広がってきた。双六小屋着、8時10分。

 さっそく双六小屋自慢の双六コーヒーを注文し、正面に見える鷲羽岳を眺めながらコーヒータイム。今日はここから双六岳(2,860m)と三俣蓮華岳(2,481m)を登って黒部五郎小舎までなので時間はたっぷりある。

 小屋から双六岳までの急登を登り切ると、鷲羽岳と水晶岳、三俣蓮華岳が並び立って見えた。左手には待望の笠ケ岳が見え、背後にはガスの中から槍ケ岳が穂先を見せた。
 双六岳、10時着。山頂からは目指す黒部五郎岳が見えた。しかし、すでに高度が高いせいか、あまり迫力は感じない。


(槍を背に双六へ)

(登山者で賑わう双六山頂)

(双六からの黒部五郎岳)

(双六からの薬師岳)

 三俣蓮華岳までの稜線は、まさに北アルプスの展望コースだった。槍穂はまだ完全に雲から姿を出したわけではないが、鷲羽や水晶、黒部五郎、遠くには薬師岳まで見えた。

 三俣蓮華岳との鞍部まで下ると、黒部五郎が一段と迫力を増してきた。カールへ続く縦走路が見えた。明日はあの道を登るのかと思うと嬉しかった。そして、明日もぜひこんな天気であってほしいと願った。

 三俣蓮華への登りの途中で昼食にした。私の前にいた29人の団体さんが山頂で昼食にするというので、私は少し手前で昼食にしたのである。鷲羽や水晶、槍穂を見ながら、のんびりと湯を沸かしてラーメンを食べ、熱いコーヒーを飲んだ。

 三俣蓮華岳は長野と富山、岐阜の県境にある。その山頂は、団体さんを含めて50人以上もいた。穂高はまだ部分的にしか見えないが、槍は完全に姿を出した。北鎌尾根の岩稜が、一つ一つ手にとるように見えた。

 ここは北アルプスのど真ん中で、展望は抜群である。右手(東側)には水晶から鷲羽、槍・穂高が連なり、正面から左(西側)にかけては黒部五郎から笠まで見える。かつて、若い頃、アラキ君と薬師から雲ノ平を通ってここへ立ったことがあるが、 その時はガスで何も見えなかった。この素晴らしい展望を彼に見せてやりたいと思った。

【三俣蓮華からの展望。拡大してご覧ください】

(鷲羽岳)

(槍ケ岳)

(黒部五郎岳)

(笠ケ岳)

 ここから見る鷲羽岳は、鷲が飛び立つように見えることから名付けられたというが、はたしてあなたは鷲が飛び立つように見えるだろうか。

 三俣蓮華岳、12時40分発。ここからは黒部五郎小舎を目指して行った。稜線にはチングルマの群落があり、ルンルン気分だったが、途中から右の沢を下るようになると、大きな石がゴロゴロした歩きにくい道になった。雨が降ったら沢になってしまうだろう、と思った。

 小舎着14時10分。
 外のベンチで黒部五郎岳を見上げながらビールを飲んだ。黒部五郎とはまるで人の名前のようだが、大きな石がゴロゴロしている所をゴーロといい、それが五郎になったという。近くに野口五郎という山があるが、その野口五郎と区別するために、黒部の源流にある五郎を黒部五郎と呼ぶようになったという。

 ここから見上げる黒部五郎は高度感があり、明日はかなり手強そうである。

 私がビールを飲んでいると、中年の3人が周りに座ってビールを飲みだした。私の隣に座った人が「山口喜弘」という画家兼建築家で、この黒部五郎小舎を設計したと云い、今、双六小屋で個展を開いているという。帰りに双六小屋へ立ち寄って見て行くことを約束した。


8月7日(火)   《3日目:黒部五郎小舎〜黒部五郎岳往復〜三俣山荘》

黒部五郎小舎530〜747分岐〜803黒部五郎岳〜黒部五郎小舎1155〜三俣山荘(泊)

 夜中に大雨が降った。トタン屋根に穴が明いてしまうのではないかと思うような豪雨だった。
 3時起床。夜中ほどではないが本降りの雨だった。
 4時朝食。小屋の人が、「今日は一日中雨だろう」というので行動を諦めた人もいたようだが、私はアタックザックを背負い傘をさして5時30分に出発した。

 小屋を出て、しばらくは樹林帯の中を行くが、すぐに広々とした高原のような所へ出た。そこで下って来るオジさんに会った。そのオジさんは「どうせ何も見えないから諦めた」と言って下って行った。
 雨は時々強く降ることがあるが、朝方よりは小降りになったような気がする。視界もかなり利くようになって来た。

 後ろから若い単独行が追いついて来て、「軽装ですね……。道に迷わないで下さいね……」と言い残して行った。普通は「お先に」とか、「お気をつけて」などと言うものだが、「道に迷わないで下さい」と言われたのは初めてだった。ここはそんなに迷いやすい所なのだろうか。それとも心もとないオジさんに見られたのだろうか。

 ここは、昔、氷河が削り取って出来たと言われるカール状(圏谷)になっており、お花が多いこともあって誰もが憧れる所である。しかし、そのカールは、昨夜からの雨でいたる所が沢のようになっていた。すでに靴も靴下もグジャグジャだ。

 カールの上部には雪渓があった。その雪渓の手前から右側の尾根に取り付いて、一気の登りになった。この道もお花がいっぱい咲いていた。

 傘をさして急登を登り、稜線へ出ると左右に道があったので驚いた。良く見ると私の足元の石にペンキで「×」の印が付いていた。「何だこれは!」と思わず声を上げてしまった。私は正規なコースではない所を登って来てしまったのだろうか。とにかく左手の道を登って行くと、すぐに標識が立った分岐点へ出た。そこにザックが一つデポしてあった。分岐点7時47分着。

 分岐から山頂を目指して行った。稜線は風が強く傘をさすのがやっとだった。途中で下って来た若者3人に会った。山頂近くなると、ゴーロの名の通り大きな石がゴロゴロしている。

 憧れの山頂へ8時3分に着いた。誰もいない雨の山頂だった。カメラを出して傘をさしながら山頂の写真を撮った。ここは標識もなく、ただ、石を1メートルほど積み上げたケルンに、「黒部五郎岳」と書いた板切れが2枚あるだけだった。
 風雨の山頂に長くはいられず、すぐに下ることにした。

 分岐点へ戻り、登って来た「×」が付いた道を見送って真っ直ぐ進んで行くと、5分ほどでカールへ下る道があった。これが本当の縦走路だったようで、道幅も広く歩きやすかった。登って来た時のように岩場を両手を使って登るような所もなかった。

 五郎小舎へ戻って自炊室でラーメンを作って食べた。そして、ひと休みしてから三俣山荘へ向かった。11時55分発。
 小舎を出て間もなく雨は止んだ。そして薄日が差すようになってきた。

 40分ほどで稜線へ出た。背後に今登って来たばかりの黒部五郎岳がカールのすぐ上まで見えた。
 黒部五郎小舎から三俣山荘までは、巻道で2時間のコースであるがなかなか着かない。私が1時間50分も歩いて来た時、すれ違った単独のご夫人から、「小舎まであと30分ぐらいで着きますか」と聞かれ、私は「もう2時間近くも歩いている」とはとても恥ずかしくて言えず、ただ首を左右に振った。

 巻道もお花がいっぱい咲いていた。お花があり、ハイマツがあり、残雪がある。やっぱりアルプスはいいなあ、と思った。

鷲羽岳〜水晶岳へ続く