大崩山−4/4

 ヒョウはいつの間にか止んだ。
 ここは和久塚コースとは違い、ササの中の急斜面を下って行く。木の枝や根っこ、ササなどに掴まりながら下って行くと、眼下に小積ダキの岩峰が見え、人が立っているのが見えた。


(写真を撮った時は人影は見えませんでした)

 りんどうが丘分岐を過ぎると、左手に今朝登って来た和久塚コースの岩峰群が見えて来た。ここから見ると迫力を感じる。一枚岩の絶壁だ!

 小積ダキの分岐まで来ると、昨夜、大崩の茶屋で一緒になった女性4人と男性1人のパーティーがいた。このパーティーは、和久塚コースから山頂へは行かずに坊主尾根を下って来たという。どうりで途中で会わなかった訳だ。

「象岩が見える」というので、ザックを置いて登って行った。正面に確かに象さんのような岩が見えた。しかし、これからあの象岩の直下をトラバースしながら下って行くとは知らなかった。


(象に見えますか。その直下にある登山道が見えますか?)

 分岐へ戻ると5人連れはすでに出かけていた。雨がパラパラ落ちて来たが、山頂で飲もうと思って持ってきた缶コーヒーでコーヒータイム。
 空を見ると長く降る雨でもなさそうなので、雨具を着ずにそのまま出発した。

 途中で音を立てて雨が降ってきた。雨具を出しているうちに小降りになったので、そのままザックの一番上に入れていく。
 しばらくするとカミナリが鳴り出した。ヤバイかも・・・?

 カミナリが連続して鳴り響く。梯子を下っている時にザ−と降られてはまずいので、急いで雨具を着ていると、朝から追いつ追われつのカメラマンが下って来た。そして、「雨具を着た方がいいですかねぇ?」と訊く。
私が、「梯子を下っている時にザーと降られるとヤバイから・・・」というと、
「じゃあ、先輩の言うことを聞こう」、と言って雨具を着込む。カメラマンの方が私より2つ3つ年上だと思うのだが・・・。

 ここからも梯子、ロープの連続で一時も気が抜けない。

 一枚岩をロープで下り(写真左)、象岩直下の岩場をトラーパース(写真右)しながら下って行く。
  
 さらに下って行くと、突然、正面に大きな岩が現れ、そこに太いロープがぶらさがっていた。「え、これを登るの〜!」と、驚きと溜息がでる。

 しかし、これが縦走路なら仕方がない。気合を入れて登ってみると反対側には梯子もロープもない。
「おい、おい、どうなってんだあ〜」とぼやいていると、後ろにいたカメラマンが、岩の基部の右側を指差しながら、「こっちにリボンがありますねぇ・・・」と言った。なるほど縦走路はこの岩を右手から巻いていた。ちなみに、この岩は「見返りの塔」だったようだ。

 坊主岩(イルカ岩ともいう)を巻きながら下って行くと、雨は止み、陽が差して来た。


(坊主とイルカどっちに似てる?手前でカメラマンが雨具を脱いでいる)

 ここはとにかく半端な下りではない。梯子やロープの連チャンである。木の根っこなどに掴まりながら下って行く。
 雨がまたパラパラと落ちてきた。もうメモをとったり写真を撮っている余裕はない。とにかく注意しながら慎重に下って行った。


(徒渉点1)

(徒渉点2)
 大崩山荘手前の徒渉点は、心配するほどのことはなかった。大雨が降った後や日没を過ぎない限り特に問題はないと思った。

 大崩山荘前へ16時15分着。そのまま駐車場まで下った。登山口16時37分着。

 一旦、大崩の茶屋へ戻り、それから美人の湯へ行った。露天風呂で昨夜一緒だった福岡から来たというカメラマンさんと女性4人、男性1人のパーティーの男性(当然です)と一緒になった。皆さんも連泊だという。

 大崩の茶屋へ戻ってビールを一気に飲んだ。
「グビグビグビ〜プア〜、ビールがうまい! それに大崩はいい山だったなぁ〜、女将さん、ビールもう1本!」

 翌朝は6時に宿を出発して宮崎空港へ向かった。

【エプローグ】

 この山は本当にいい山だった。日本百名山どころか日本50名山に選ばれてもおかしくない。とにかくこの山は、「厳しさ」と「美しさ」と「品格」を持っている。
 日本百名山の著者、深田久弥さんはこの山へ登っていなかったのではないか、と思っている。登っていれば絶対に選に漏れることはなかっただろう。

 私は今回初めて登って感じたことは、この山の本当の良さを知るには3回位登らないと分からないのではないか、ということだった。
 今回はただ歓声を上げるばかりで、岩峰の1つ1つをじっくり見ている余裕はなかった。2回目になれば岩峰や岩の1つ1つを確認しながら登れるのではないか。
 そして3回目にして、やっとこの山の本当の魅力を味わうことが出来るような気がする。近い将来、必ずもう一度行こうと思っている。

 この山を初めて登ろうという方のために、写真をふんだんに入れたので、概ねどんな山かお分り頂けると思う。たとえ巻道をしても決して容易ではない。梯子やロープの連チャンである。3点確保はもとより、木の枝や根っこに捉まる場合も確認してから掴むような慎重さが必要だろう。一時も気を緩めずに登れば、きっと震えるような感動が待っているに違いない。