2.3 その他の海溝型地震(地震調査研究推進本部)
D 相模トラフ沿いの地震活動の長期評価
平成16年 2004/8/23 地震調査委員会発表
長期評価として地震発生確率が発表された地震は、発生領域、地震の型や特徴などから次のように区分されています。
@ 大正型関東地震(1923年の関東大地震の再来型)
A 元禄型関東地震(1703年の元禄地震の再来型)
B その他の南関東で発生するM7程度の地震
【地震の区分と名称など】
相模トラフ沿いでは関東地方を載せた陸のプレートの下にフィリッピン海プレートと太平洋プレートの2つの海洋プレートが沈み込んでおり、プレートの三重構造のような複雑な形になっています。また、フィリッピン海プレートに載った伊豆半島はプレートとともに沈み込むことはできず陸のプレートに衝突しています。
このような状況から、海溝型地震のうちで分かることとわからないことが整理され、相模トラフ沿いのM8程度の地震(表@大正型関東地震、表A元禄型関東地震)と表Bその他の南関東の地震についての長期評価が公表されました。
表Aの元禄型関東地震は房総半島南〜南東沖の領域の地震が表@の大正型関東地震と連動したものと考えられています。
表Bのその他の南関東の地震としては、震源の深さの範囲が30〜80kmで地震のタイプは次のように区分されています。
(イ)陸のプレートとフィリッピン海プレートの境界付近で発生するプレート間地震
(ロ)フィリッピン海プレート内部で発生するプレート内地震
(ハ)フィリッピン海プレートと太平洋プレートの境界付近で発生するプレート間地震
(ニ)太平洋プレート内部で発生するプレート内地震
この区分に該当する地震は地震震源の情報が信頼できる1885年以降で5つの地震があり、5つの地震から計算される平均発生頻度は表Bに示すように28.3年となっています。これは特定された領域のない評価対象域全体としての発生頻度です。
5つの地震の発生地域名と発生年月日は次の表の通りです。
地域名 |
マグニチュード |
発生年月日 |
死者 |
東京湾付近(東京地震) |
7.0 |
1894/6/20 |
31 |
茨城県南部 |
7.2 |
1895/1/18 |
9 |
茨城県南部 |
7.0 |
1921/12/8 |
0 |
浦賀水道付近 |
6.8 |
1922/4/26 |
2 |
千葉県東方沖 |
6.7 |
1987/12/17 |
2 |
【特徴・過去の被害など】
大正型関東地震も元禄型関東地震も陸側プレートとフィリッピン海プレートの境界面で発生する地震であり、過去に2つの大被害が発生しています。(M8クラスの地震はこの2つしか知られていません。)
1923年(大正12年)の関東地震での死者行方不明者は105,000余人。
1703年(元禄16年)の元禄地震での死者は10,000人以上。
両者とも発生周期に時間的余裕があり、近いうちに再来する可能性は少ないとされています。
プレート間の地震において、ある程度の切迫性が指摘されているのは南関東で発生するM7程度の地震です。
この地震では震源の深さが信頼できる1885年以降の地震が検討対象となっています。この中での最大の被害地震は1894年(明治27年)の東京地震(M7)であり、この地震での死者は31名です。
安政江戸地震(1855年)はM6.9死者7,444人ですが、震源の深さが明確でないことから検討対象に含まれていません。
マグニチュードが小さくても人口の集中している都心部で発生すると大被害が予想されます。
中央防災会議の被害想定によれば、東京湾北部地震(M7.3)では震度6弱以上の区域が都県を越えて広域に拡大すると予想されます。
震源域の形態 |
陸側のプレートとフリッピン海プレートの境界面。
低角逆断層型 |
前回発生年月日 |
1923/9/1(関東大地震)
死者行方不明者105,000余名 |
発生間隔等 |
前回から評価時点までの経過時間:85.3年
平均発生間隔:200〜400年 |
|
項 目 |
将来の地震発生確率 |
今後10年以内 |
ほぼ0%〜0.09% |
今後30年以内 |
ほぼ0%〜1% |
今後50年以内 |
ほぼ0%〜6% |
地震の規模 |
M7.9程度 |
評価時点 |
2009年1月1日現在 |
|
震源域の形態 |
@相模湾〜房総半島西部
陸のプレートとフィリッピン海プレートの境界面。
低角逆断層型。
A房総半島南沖。低角逆断層
B房総半島南東沖。低角度断層。 |
前回発生年月日 |
1703年/12/31(元禄地震)
地震動や津波により死者は10,000名以上 |
発生間隔等 |
前回から評価時点までの経過時間:305.0年
平均発生間隔:2300年程度 |
|
項 目 |
将来の地震発生確率 |
今後10年以内 |
ほぼ0% |
今後30年以内 |
ほぼ0% |
今後50年以内 |
ほぼ0% |
地震の規模 |
M8.1程度 |
評価時点 |
2009年1月1日現在 |
|
地震の発生場所 |
深さおよそ30〜60kmの領域
陸のプレートとフィリッピン海プレートの境界付近およびフィリッピン海プレートの内部。
深さおよそ60〜80kmの領域
フィリッピン海プレートと太平洋プレートの境界付近および太平洋プレートの内部。
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被害地震例 |
1894年(明治27年)東京地震:東京で死24、川崎・横浜で死7 |
発生間隔等 |
平均発生頻度:23.8年に1回 |
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項 目 |
将来の地震発生確率 |
今後10年以内 |
30%程度 |
今後30年以内 |
70%程度 |
今後50年以内 |
90%程度 |
地震の規模 |
M6.7〜7.2程度 |
評価時点 |
ポアッソン過程のため評価時点による確率の変化はない |
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東京湾北部地震の震度分布 中央防災会議
黄色の領域が震度6弱で、橙色の領域が震度6強 |
*南関東で発生するM7程度の地震:評価領域(想定する地域)は千葉県全域・茨城県南部・東京都の西部を除いた大部分・神奈川県のほぼ全域・静岡県の西端部を合わせた広い範囲になります。この広い地域のどこで発生するかは特定されていませんが全体として考えると切迫性のある地震であり、東京都心部で発生するならば大きな被害になろうと懸念されています。
このような地震に相当するものとして、中央防災会議は東京湾北部地震を挙げて被害状況を想定しており、震度6弱以上の区域は都県を越えて広域に拡大するとしています。(右図参照)
なお、神奈川県西部ではM7程度の被害地震が繰り返して発生していますが、固有の地震活動であるか明確でないという理由で評価対象にはなっていません。神奈川県西部の情報は不明確であり、いつどこで発生するか分からないといった状況です。
地震調査研究推進本部の「海溝型地震の長期評価」にリンクします。
http://www.jishin.go.jp/main/p_hyoka02_kaiko.htm
参考資料
相模トラフ沿いの地震活動の長期評価について 地震調査研究推進本部 地震調査委員会 2004/8