作成:2008/5 更新:2016/6

関東大震災の跡と痕を訪ねて

番号 : 三浦市 MU-01_1

三浦市 --- 剱﨑、盗人狩など(三浦半島先端の隆起地形その1) ---

  • 地形:波食台・海食崖
  • 成因:侵食・海水準の変動・地殻変動
  • 交通:最寄駅 京浜急行久里浜線三浦海岸駅
  • 三浦海岸駅→バスで15分で松崎バス停 ここから宮川町バス停までが「関東ふれあいの道」の1つのコース「三浦・岩礁のみち」であり、みどころとして東側より間口漁港、剱崎(つるぎざき)、江奈湾、毘沙門湾、白浜毘沙門天、盗人狩(ぬすっとがり)などがあります。(コースには車道を含みます)
三浦半島南端 盗人狩附近の波食台と海食崖

写真1 波食台と海食崖 盗人狩附近の海岸


盗人狩附近の奇岩

写真2 盗人狩附近の奇岩


波食台と海食崖

写真3 波食台と海食崖


剱崎灯台附近の海食崖

写真4 剱崎灯台附近の海食崖


三浦半島南端 三崎層

写真5 三崎層(海食崖の縞模様)"


剱崎の由来

写真6 剱崎の説明版

撮影:2008/4


三浦半島南端 三崎層

寫眞第三十一
剱崎灯台の被害(資料1より)


剱崎、盗人狩付近の地形と地質

三崎面と地形

三浦半島南部には、最終間氷期極相期(12~13万年前の海進時期)以後に形成された3段の海成段丘面が分布し、古い順に引橋面、小原台面、三崎面と呼ばれています。これらの段丘面は、海面が一進一退を繰り返しながら最終氷期最盛期に向かって海退が進行する過程で形成された当時の侵食面や堆積面に相当し、その後の海水準の変動や地盤の上昇によって現在では台地に変わっています。三崎面は三浦半島南部に比較的広く分布する段丘面で、形成時代が新しいことから平坦な地形が比較的よく残されています。剱崎や盗人狩付近では台地の縁は海食崖で海岸に接しています。

関東大震災と地盤の上昇

三浦半島先端部では1923年の関東地震によって1.5m程度隆起しました。また、1703年の元禄地震でも同程度の隆起があったとされています。写真の海面より少し高い平坦低面は関東地震や元禄地震などで隆起した波食台です。

平坦面に続く崖は海食崖で、波食台が隆起して海面上に顔を出す(離水する)までは波浪が激しく打ち砕ける侵食最前線でした。海食崖にはかって波浪による侵食によって形成された海食洞を見ることができます。

地質

波食台や海食崖を形成しているのは三浦層群の三崎層と呼ばれる地層で、約1200~400万年前の新生代 新第三紀 中新世~鮮新世の深い海に堆積した地層が起源です。写真に写っているように、白ぽい泥岩と黒っぽい火山起源の砂岩が交互に重なり合ってできた縞模様が特徴的です。この付近では白っぽい泥岩が占める率が高く、明るくて縞模様が美しい景観が広がっています。

プレートテクトニクスによる説明によると、三崎層は当時の海溝(トラフ)の海側斜面に堆積した地層が起源であり、プレートに載った堆積物が海溝で沈み込む際にはぎ取られて陸側に付加した付加体で、最も新しい付加体であるとされています。

白っぽい泥岩と黒っぽい砂岩の岩質の違いが侵食に対する抵抗力の違いとなり、黒っぽい砂岩が侵食されにくいために出っ張っています。平坦な波食台とは言っても、地層の傾斜が大きい箇所では特に凹凸が激しくなっています。

関東地震による剱崎灯台の被害

写真4には海食崖の上に立つ剱埼灯台が見えています。剱崎灯台は関東大震災で破損し、大正15年に再建されました。

資料1によると、次のように記されています。

三浦半島に於ける本燈臺はその高僅に7.6米(25尺)にして壁厚1.3米(4.3尺)以上の石造且その構造も堅固に築造され明治四年竣功せるものなれど九月一日の地震のため大損害を蒙れり。即ち積石は諸所脱出して大破崩壊に瀕し燈籠玻璃板を壊し燈籠全體定位置より0.45米(1.5尺)脱出異動し燈器は殆ど全壊し官舎は倒壊するに至れり。(寫眞三十一参照)又地震と同時に約6米(20尺)の津浪を生じたり。……以下省略

(文中に「寫眞三十一参照」とある写真を左の最下段に転写した)


燈台は高さは低くて壁の厚さが1.3mもある石造りの堅牢な建物でしたが、大破して崩壊に瀕するような被害となり、翌年1月15日の余震(M7.3の丹沢地震)で更に被害が拡大しました。

三浦半島先端部に位置する観音埼灯台・剱崎灯台は大きく破損し、城ヶ島灯台は倒壊しました。関東地震はこの付近で地盤が約1.5m上昇するという地変を起し、重要構造物である燈台さえ大被害を受けるほどの震動を発生させました。




参考資料

神奈川の自然をたずねて編集委員会(2003)[改訂版]日曜の地学20 神奈川の自然をたずねて,築地書館,269p

地盤工学会関東支部神奈川県グループ(2010)大いなる神奈川の地盤 その生い立ちと街づくり,技報堂出版,214p

北中康文/写真 斎藤眞・下司信夫・渡辺真人/解説(2012)日本の地形・地質 見てみたい大地の風景116,文一総合出版,287p

横須賀市教育情報センター ホームページ 三浦半島の地層・地質 http://www.edu.city.yokosuka.kanagawa.jp/chisou/index.html

資料1 土木学会(1984)大正十二年関東大地震震害調査報告,第1巻,河川・灌漑・砂防・運河・港湾之部,187p