地震・防災関連用語集

カテゴリ:地震

津波堆積物

津波による侵食・運搬・堆積の作用を経て形成された堆積物を津波堆積物といいます。津波堆積物は泥から津波石と呼ばれる巨大な石まで含みますが、調査研究対象としては保存状態が良好な湿地や湖沼に堆積した海起源の砂が用いられのが一般的です。堆積した時期は放射性炭素年代の測定、テフラ(火山灰)の同定などから絞り込んでいくことができますが、史料が残されている場合は年月日まで明らかになることがあります。

津波堆積物は静穏な通常時の堆積作用に対して津波という特殊な条件下で形成された堆積物であるのでイベント堆積物*とも呼ばれています。

津波堆積物が関係者の間で注目され始めたのは1990年代以降の最近のことですが、いままで巨大な津波の存在が知られていなかった北海道の十勝平野や釧路平野、東北の仙台平野などでも広範囲にわたって津波堆積物が分布していることが指摘れました。仙台平野の場合は史料にある貞観地震の津波堆積物が分布しており、3~4kmも内陸まで浸水していたことが分かりました。このような巨大な津波は数百年の単位で繰り返して発生しているとされましたが、この警告が社会に受け入られる前に東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)が発生し、想像を超える規模の津波に襲われました。メルトダウンに至った原発災害は警告が聞き入られなかったために発生しましたが、地震の発生が数年後であったなら状況は変っていたかも知れません。例えば、予備のバッテリーと発電機だけは高台に移そうというような話が出てもおかしくありません。人が納得して社会が変るのには年月もかかることが悔やまれました。

* イベント堆積物には大波、高潮、洪水などで形成された堆積物も含まれます。これらと津波堆積物を見分けるためには海生生物遺骸の観察、堆積物の粒度と堆積構造など熟練と専門性が必要であるといわれています。

参考資料

宍倉正展他 平安の人々が見た巨大津波を再現する -西暦869年貞観津波- AFERC NEWS No.16 2010

宍倉正展他 石巻平野における津波堆積物の分布と年代 活断層・古地震研究報告 No.7、p.31-46 2007

七山太他 北海道東部、十勝海岸南部における17世紀の津波痕跡とその遡上規模の評価 活断層・古地震研究報告 No.3,p.297-314 2003

七山太他 イベント堆積物を用いた千島海溝沿岸における先史~歴史津波の遡上規模の評価 -十勝海岸地域の調査結果と釧路海岸地域との広域比較- 活断層・古地震研究報告 No.2、p.209-222 2002

七山太他 イベント堆積物を用いた千島海溝沿岸における津波の遡上規模の評価 -根室長節湖、床潭沼、馬主来沼、キナシベツ湿原および湧洞沼における研究例- 活断層・古地震研究報告 No.1,p.251-272 2001