地震・防災関連用語集

カテゴリ:災害

火災旋風

火災旋風(絵)

火災旋風

絵は現在の大都市に火災旋風が発生した場合の想像図です。(パソコンで描画)

旋風(塵旋風)はつむじ風とも呼ばれる渦巻状の風です。渦巻状の風としては竜巻を連想しますが、竜巻は積乱雲や積雲に伴って発生するものを指す気象用語であり、旋風とは区別されています。

旋風は地表近くの不安定な空気が上昇することによって発生するものであり、竜巻と違って雲のない状況下でも発生します。よく見かける旋風としては、公園の枯葉が渦巻いていたり、校庭で砂埃が舞っているのを見かけることがあります。これが旋風です。旋風は竜巻と比べて規模が小さいとされています。

火災旋風は大火災ならば常に発生するとは限りませんが、関東大地震の際は東京に限らず、横浜や小田原にも発生しました。特に注目されるのが本所の陸軍被服廠跡であり、火災旋風に襲われて44,040人*1の人が焼死または窒息死しました。この想像を絶する惨事は関東大地震を象徴する出来事であり、昭和5年にこの地(現在の墨田区横網町公園)に慰霊堂が建立されました。

関東大地震の直後に実施された調査によると火災旋風という用語が用いられましたが、陸軍被服廠跡を襲ったのが旋風だったのか竜巻であったのかは、現象がかなり解明された段階で決めてよいこととして竜巻という用語を用いる研究者*2もいます。

関東大震災の火災旋風の調査を担当した寺田寅彦は、

  1. 今回の旋風は火災の進行しつつある場所付近にのみ起こり、その現象は普通の旋風または塵旋風と同型のものである、
  2. 旋風の起こりやすいあるいは襲われやすい場所があるらしく見える*3とし、風の強さについては通常の暴風雨と違うような驚くべき風が吹いたということは疑わしく、研究者によって1秒間に70、80m~100m程度であろうと推定されている*4

といっています。

この風速を現在用いられている竜巻の強さに当てはめると、F(藤田)スケール*5でF3(住家が倒潰し、列車が転覆するような被害)からF4(住家がバラバラになって辺りに飛散し、列車は吹き飛ばされるような被害)程度になります。アメリカでは最大F5クラスの竜巻が発生しますが、日本では最大がF3クラス(茂原1990、豊橋1999、北海道佐呂間町2006)*6です。このことから、関東大震災で発生した火災旋風の強さは日本で発生する最大級の竜巻と同程度かそれ以上であろうと思われます。この旋風は火の粉や火炎、あるいは一酸化炭素を包み込んだ強烈な渦巻きであり、条件が揃うと火災旋風という恐るべき現象が生じるようです。

参考資料

*1 中村清二 「大地震ニヨル東京火災調査報告」 震災予防調査会報告、第100号戊 1925

*2 相馬清二 「大火災に伴う竜巻」 防災科学技術総合研究報告 1973

*3 寺田寅彦 「大正十二年九月一日ノ旋風ニ於イテ」 震災予防調査会報告、第100号戊 1925

*4 「旋風について」 寺田寅彦全集第15巻 岩波書店 1998

*5 Fスケール 米シカゴ大の藤田哲也博士が考案した竜巻の強さを示す国際的な指標で、F0~F5までの6段階に分類される。

*6 「建築物の強風被害」 建築研究所 BRI NEWS Vol.37 「建築物の強風被害」2007
   読売新聞 解説スペシャル (竜巻)発生のメカニズム 2012/5/8