石の森 第 110 号     石の声(10)  書評 ページ  /2002.7

 石の声

奥野祐子


▼倉尾勉さんが亡くなった。今年四月のことらしい。私がそれを知ったのは。いただいた金井 雄二氏の個人詩誌「独合点」の誌上であった。その号が倉尾さんの追悼号になっていたのだ。 むさぼるようにして詩誌を読んだ。
 倉尾さんとちゃんとお会いしたのは、八王子のカフェで行われた瀬沼孝彰氏の追悼朗読会一 度きりだ。自分自身がそうなので、「詩人という人は厚かましくて、エゴイストで屈折した想 いを一杯抱えている人」と、つい思ってしまうのだが、倉尾さんだけは様子が違った。瀬沼氏 の死を心から悼んでいた。その嘆きが余りにも深いために、自分自身の心すら蝕まれてしまう んじゃないかと思うほど、彼は悲しみつづけていた。とても繊細ではりつめたピアノ線のよう な人・・・そんな印象をもった。いつもの倉尾さんはそんな人じゃないかもしれない。でも、 あの時はそう感じた。それから時折手紙のやり取りをし、入院されたこと、故郷に戻られたこ ともお便りで知っていた。だけどまさか亡くなるなんて。彼の訃報は私にとって突然のことだっ た。
▼倉尾さんは印刷関係の仕事をされていたのか。そういえば、小柄でやさしそうな顔と対照的 にインクで汚れた武骨な指をしておられた。書かれる詩もどこか一途な激しさをもっていた。 流れ始めると、中途半端にたゆたうことが許せない。条理であれ不条理であれ、自分の感性の いくつくところまでつきつめてしまう。そんな危うさ、妖しさも感じた。倉尾さん、私は川に たとえてあなたのために詩を書きました。でも、やっぱりあなたは川ではなく、飛滝なのかも しれない。あなたに一喝されたような気がします。詩人ならばいい加減なコトバではなく、心 をちぎりながら引き裂きながら、書き続けていけ!と。


 次へ↓ ・ 詩↑