以下の資料は、次の作品の一部として収録されていたものです。
シナリオ「四つの神殿の谷」ボブ・ヘギー/訳:中山てい子
クトゥルフ・コンパニオン ブック2 "Fragments of Fear"収録(1985 Chaosium Inc. / 1987 Hobby Japan Co.)
この巨大な石の建物は、コケとつる植物でおおわれています。四つの神殿は(中略)外から見たところでは四つともまったく同じ建物です。ピラミッドの頂上に四角い箱を載せたような形をしています。ピラミッドの正面に、丸い穴になった入り口があり、地面からこの入り口までは斜道で上っていくようになっています。各ピラミッドの土台になっている四角い部分には、奇妙な象形文字がびっしり彫り込まれていますが、はびこったつる植物やシダのために見えなくなってしまっています。(後略)
見取り図説明:
四つの神殿の内部の平面図は全て同じです。
(ただし、南の神殿には像がありません)
数値の単位はm、Sは秘密の部屋のドアです。
註釈:これらの四つの神殿は、太古の時代に「イスの偉大なる種族」が四柱の旧支配者を祀るために建てたものです。それらはかつて、現在のコンゴの奥地にあった「偉大なる種族」の都市を囲むように配置されていました。その都市自体は現在「盲目のもの」に破壊された廃虚となって大きな湖の底に眠っており、ただその頂上部分だけがわずかに水面からのぞいています。
「偉大なる種族」は時間旅行者にして知識の収集者ですから、当然外なる神グロスの事は知っていたと考えられます。彼らが四つの神殿を建てた理由はシナリオ中でも明らかにはなりません(交流、礼拝、学習、実験等が推測されています)。しかし興味深い事に他の三柱がクトゥルフ・クトゥグァ・ハスターのグレート・オールド・ワンであるのに対して、グロスだけが外なる神です。「イスの偉大なる種族」とグロス崇拝との間にいかなる関係があったのかという事は、キーパーにとって非常に魅力的な謎かも知れません。
([角括弧]内の文は「西の神殿」の項における記述)
この建物は、まだ人間には知られていないある旧支配者に捧げられている神殿です。神殿の内部は暗くて、息がつまりそうです。外の陽光がたっぷりと中に入り込んでいるときでも、中はうす暗くて、閉所恐怖症的な気分にさせられるのです。どんな明りをこの神殿の中に持ち込んでも、不思議なことに光が弱まって、ほんのわずかしか照らしてくれません。ぼんやりと見える壁や祭壇は、くすんだ焦げ茶色をしているようです。他の3つの神殿とは違って、ここでは祭壇の後ろに彫像はありません。多分、ずっと以前に壊されたのか、持ち去られてしまったのでしょう。
[祭壇はちょっと見たところでは一枚岩でできているように見えます。触ってみても最初はそんな感じがするのですが、2、3秒の間強く押していると、突然柔らかくなって、指で押しただけでへこみ、はなすと戻るような材質であることがわかります。この柔軟性のために、この祭壇はどんな力をもってしても壊すことはできません。(後略)
探索者がこの祭壇を逆時計回り方向に回そうとすると(そのためには合計60ポイントのSIZが必要です)、柔軟性のある祭壇はゆっくりとしないます。そして四つの秘密のドアが開きます。(後略)]
祭壇を30秒間以上押していると、神殿の後ろの壁のところから怪物が出てきます。怪物は人間の存在を察知すれば襲ってきます。(後略)
この怪物は、キメの荒い皮でできた袋のような姿をしています。だらんとしたしまりのない袋で、大きく口を開けていて、ヨダレをたらしています。節こぶのある腕が1本だけついていて、その腕を使って体を引きずって前進するのです。(後略)
怪物が移動すると、その通った道にはヨダレの跡が残ります。ヨダレの跡が完全に乾くには数日もかかり、ヨダレに触れた植物はすべて枯れて死んでしまいます。探索者がヨダレに触れた場合には、ヨダレの毒の効力である8に対して、自分のCONで抵抗しなければなりません。抵抗表の戦いに敗れた場合には、8ポイントのダメージを受けます。抵抗表の戦いに勝てば、受けるダメージは1ポイントだけで済みます。探索者が防水してあるブーツでヨダレの上を踏み、後でブーツを脱ぐために手を使ったときに濡れたところに触ったような場合でも、やはり上記のような毒のダメージを受けます。
STR 34 CON 50 SIZ 40 INT 2 POW 20 DEX 7
移動 6 耐久力 45
武器:腕 70%、5D6ダメージ
装甲:シワの寄った皮膚 8ポイント
SAN:1/1D10
註釈:この怪物は、シナリオ中に登場する「イスの偉大なる種族」が探索者達に同行している場合は襲ってこないという事になっています。それ故この怪物がグロスの眷属なのか、それとも「偉大なる種族」によって創り出されたものなのかは不明という事になります。
ちなみに他の神殿では、クトゥルフ=身体のあちこちから長い触手を生やしたイカとヒキガエルの合いの子の様な怪物、クトゥグァ=宙に浮かんだ「生きている炎」(「炎の精」とは異なる)、ハスター=ビヤーキー四体(それぞれ彫像の状態で祭壇の背後に据え置かれています)、という状況です。
[「A」という表示のある部屋は、部屋の隅に小さな石のテーブルが1つ置いてある以外は空っぽです。(後略)]
この部屋にあるテーブルの上には、直径約1インチ、長さ18インチくらいのベージュ色の細長い筒が1本置いてあります。この筒をつかみ上げた者は、手にヒリヒリする痛みを感じ、見ているうちに筒に触れたあたりから皮膚の色が変わって、くすんだ黒色になっていきます。地球の黒人の皮膚の色とはかなり違う色で、この変色には苦痛はまったくありません。筒をすぐ手から放せば、変色はとまります。1度変色した皮膚は、外科手術で皮膚移植をする以外には元へは戻りません。いったん手放した筒をもう一度つかむようなことがあれば、前に変色がストップしたところから、また続きが始まります。この変色の過程が髪の毛にまで及ぶと、髪の毛はぬけ落ちてしまいます。こうして手に筒を持っている者は、最後には丸坊主になり、体全体がビロードのような黒色になってしまいます。この過程が完全に完了するのには丸一日かかります。完了すると、彼は2、3分の間気を失います。気がついたときには、STR、CON、INT、POW、DEX、APPからそれぞれ1ポイントずつ失われています。
また、筒を持っているときには、彼は次のような魔力を使うことができます。
上記のような力を獲得した後は、毎週SANロールを振らなければなりません。失敗すれば、SANを1ポイント失います。SANが0に達すると、彼は病気になり、昏睡状態に陥ります。間もなく、彼の腕と足がしなびてきて、胴体から落ちてしまいます。目玉もしなびてきます。それから1年ぐらいたつと、変身が完了して、巨大なイモムシに変わってしまいます。
キャラクター当人には、前もってこのことは知らせないでおくべきです。
註釈:各神殿のこの部屋に置かれている神器は、いずれもその神性に即した魔力を使用者に与えつつ、最終的にはその者を神の奴隷にしてしまうような類の物です。それ故この筒を使用する事によって得られる魔力は、グロスの持つ特性のいくばくかを反映しているとも考えられます。また使用者が最終的に変身してしまうイモムシは、グロスの奉仕種族の一種である可能性もあります。
入手出来る神器:クトゥルフの貌を模した仮面
神器の魔力(一部):水中呼吸、「深きもの」及び「クトゥルフの落とし子」との接触
使用者の末路:変身はしないが、クトゥルフの心霊的命令に従う奴隷と化す
入手出来る神器:つかのない刀剣
神器の魔力(一部):刃を白熱させて攻撃力を上昇、「炎の精」の召喚と交信
使用者の末路:自らを生贄に捧げて「炎の精」に変身する
入手出来る神器:青灰色のホイッスル
神器の魔力(一部):真空に対する耐性、ビヤーキーの召喚と交信、空中飛行
使用者の末路:骨のない突起物の手足と鱗でおおわれた身体を持つ怪物に変身する
[この部屋の床のほとんどを覆っているのは、床から生えてきている大きな半円形をした物です。この半円の物は、ガラスでできているように見えます。しかし、たとえライフルで撃っても、ガラスのように欠けたり、割れたりしません。半円の内部には黄色い霞のようなものが渦巻いています。半円の中をのぞき込み、精神を集中させて見入った者は、マジック・ポイントを1ポイント消費して、中に映像を見ることになります。]
君は宇宙のかなたにいて、目の前には白と青の美しい惑星が見えています。〈知識〉ロールに成功すれば、それが地球であることがわかります。君が見ているうちに、地球に向かって別の惑星が宇宙から転がるようにして近づいていきます。この惑星は地球より小さくて、恐ろしい赤い色をし、表面には髪の毛のように細くて黒いスジがヒビ割れのようにたくさんついています。惑星がさらに地球に近づいて行くのを見ていた君は、大きなショックを受けます。惑星の海が突然四方の陸地におおわれて閉じてしまったからです。君は真実を理解します。ソイツは、地球があまりに目の前に近づいたので、思わず目をつぶったのです!まさに悪夢の怪物です。悪夢がさらにさらに地球に近づいていき、君は気を失います。
〈クトゥルフ神話〉ロールに成功したとしても、ただ「この惑星怪物は今までにまだ知られていない旧支配者に違いない」ということがわかるだけです。
註釈:この惑星怪物こそが南の神殿の主にして外なる神の一柱、「前兆にして誘因」グロスです。この描写は小説におけるものとだいたい一致しています。同じように「目をつぶる」シーンもあります。しかし地球に近づいたので思わず……という理由でそうする事はないと思うのですが。また、"THE CREATURE COMPANION"のデータではグロスの大きさはN/A(該当せず)となっているのですが、こちらの記述を見ると地球よりは小さいようです。もっとも、アザトース等と同様に大きさは自在なのかも知れません。
この半円形はそれぞれの神性に関連する出来事を見せるものですが、他の三柱に関する映像がそれらの神性の他の惑星における活動か現在の状態についてのものであるのに対して、グロスに関するそれはいかにも予言的なものです。
[この部屋には高さ10フィートの土台が置いてあるだけで、あとは空っぽです。土台は探索者の背の高さより高いわけですが、何とかしてこの土台の上を見ることができる位置に行けば、土台の上に金でできているように見える円盤が1枚載っているのがわかるはずです。円盤の直径は6インチくらいで、厚さが1インチくらいあります。円盤の上には、星のような形の印が彫り込まれています(これは有効な〈旧き印〉です)。この円盤は重さが61/2ポンド、材料になっている金だけでもアメリカで2010ドルの価値があります。]
この部屋にある大きな土台の上には、大きな赤い球体をした像が載っています。球体の表面を、髪の毛ほどの細くて黒いスジがヒビ割れのように一面におおっています。また、目のように見える緑色の部分が2つあります。この球体の像はこの神殿のパワーの源泉です。この球体をどうにかして不活性化させることができれば(四方の壁すべてと、床と天井に《旧き印》を置けば、不活性化させることができるかも知れません)、魔法の筒は魔力を失い、中で霞のたなびく半円形は機能しなくなり、祭壇は異界の怪物を召喚する力を失います。
註釈:この説明によると、グロスの「海」は緑色のようです。しかし"THE CREATURE COMPANION"の挿し絵では、「海」即ち目は一つしか描かれていません。おそらく好きなだけ形成する事ができるのだとは思いますが。それに「目のように見える緑色の部分」も均等な大きさではない可能性もあります。
また、この像に関してのみ、それを見た場合に失われる正気度についての記述がありません。このシナリオが作成された時点では、まだグロス自身のデータが確立していなかったという事かも知れません。ちなみに他の彫像の正気度喪失は、クトゥルフが0/1D4、クトゥグァが0/1、ハスターが0/1D8です。