第4話:嵐にやられてメッタメタ【3】

「あの時、ボーボさんがいてくれなかったら、僕はネズミ捕りの中で…」
「我輩も、さっきからあらゆる場合を計算したんだが、出てきた答えはどれも思わしくない…」
「ガンバ、辛いだろうが諦めるんだな…」
「…皮肉だぜボーボ、折角おめぇの好きな半目がでたってのにな」
サイを無造作に投げたイカサマが呟く。そして、懐からいかさまの小道具であった王冠を出してそれを海に捨てた。
「こいつは、おめぇに返すぜ…こんなことなら、いかさま使うんじゃなかった…」
ガンバの脳裏に、ボーボと過ごした日々が甦る。あれは、パチンコ屋の天井裏にいた頃…
***************
ふたりして、景品交換所に忍び込みそこにあったお菓子を失敬したものだ。時には、お菓子を取り損なって、積んだあった景品を
崩してしまい、慌てて逃げるところを見つかったこともあった。
そして、屋根の上で失敬したお菓子を頬張りながら、ガンバは自分の夢をボーボに話す。
「なあボーボ、海を見に行かないか?死んだ親父が良く話しをしていたんだ。海ってすばらしいところらしいぜ。
俺は、前から決めているんだ、海に行くって」
「ねえガンバ、その海には美味しいものがあるのかな?」
「あるなんてもんじゃないぜ。めざしの刺し身だって、鯨の丸焼きだって、何でも食べ放題らしいぜ。なあ、海を見に行かないか?」
「ねぇガンバ、海へ行こうよ」
「そうさ、海へ行こう、海へ…!」
***************
その海で、こんなことになるなんて。だが、全ては自分が悪いのだ。自分が誘わなきゃ、ボーボは…
「…許してくれ、ボーボ」

誰も、ガンバにかける言葉がなく、重い空気が彼らを支配していた。と…
「何だい、ありゃあ?」
イカサマが、波間にプカプカと浮くものを発見した。
「あの船にあった、リンゴ箱のようだね」
シジンの言葉に、イカサマは狂喜する。きょとんとする仲間に、これで食料の心配はなくなったあっちの箱に移ろうと言う。
確かに、イカサマの言う通りだ。彼らは次々と、リンゴ箱の方へ。
「さあ、ガンバ…リンゴだ。あっちに移ろうぜ」
最後に、肩を落としたまま動こうとしないガンバを、ヨイショが襟首を掴んで連れていった。ところが…先に行った仲間達は
顔を見合わせている。箱の中から、妙な物音が聞こえるのだ。
「よおし、見てみよう。」
ヨイショが、箱の一部を力づくで壊して開けてみると…
「…本当だよ、本当に海の中にリンゴがあるんだ…それで、プカプカ浮いてて、美味しいんだよ…」
仲間達は、中から聞こえてきた聞き覚えのある声にハッとした。ガンバが慌てて駆け寄ると…そこには齧りかけのリンゴを手に
うわ言を言うボーボの姿が!
「ボーボ!ボーボ!」
ガンバに揺り起こされ目が覚めたボーボは感激のあまり泣き付くガンバに、きょとんとした顔で
「ねえ…何で泣いてるの?」
「バカヤロー、おまえ少しは自分のこと心配しろよ…ボーボ、おまえ生きてんだぜ!」
その言葉に、我に返ったボーボは突然、大声を出す。
「あーっ!ふ、船は…船はどうなったの?」
これには、さすがのヨイショ達も思わず呆れ顔。
「しょうがねぇなあ、いい加減にしろよなあ」
「一体、どうしたっていうんだよ?」
尋ねられてボーボが言うには…
「僕、怖くなって…どうせ死ぬなら、食べ物のあるところで死にたいと思って、引き返して リンゴ箱の中に…
そしたら、水がいっぱい入ってきて、その後はわかんないよ…」
これには、さすがのガクシャも理解を超えたらしい。
「そうだ、ボーボの奇跡と名づけましょう」
シジンのしゃれっ気のある言葉に、一同は大笑い。仲間も揃って、食料もあるし旅を続けようと意気込んだのは良いのだが…
「で、どちらへ?」
シジンの、冷静な一言にヨイショ達は沈黙してしまう。そう、彼らは大海原の真っ只中にポツンと取り残されたに過ぎないのだ。
ノロイ島への方角すら、今の彼らには分からない…
「チェッ、ここまで来てノロイ島に行けないなんて…」
ガックリする彼らに、ボーボが呟く。
「そうだよねぇ、海はつながっているのに…」
それを聞いて、ガンバは何かに気付いた。そして、突然大声で笑い始めた。
「おい、みんな出発だよ!」
怪訝そうな顔をする仲間たちに、ガンバは大声を出した。
「そうだよ、海はつながってんだ、この海のどこかに、間違いなくノロイ島はあるんだぜ!さあみんな、シッポを立てんだい!」

こうして、一度は失望し諦めかかったノロイへ島の旅だが、ガンバの言葉に励まされリンゴ箱は大海原への旅を続けた。

第4話の冒頭へ

第5話に進む