第5話:なにが飛び出す?軍艦島【3】
「諸君、喜べ!ついに、ついに完成した!」
「何がだよ…?」
「それはもちろん、我々7匹が乗る船の…」
ところが、誰もが船ができたと勘違い。喜んで駆けて行ってしまう。
「んもう、違うのです。そうじゃなくて…完成したのは船の…」
「何?設計図!?」
「…です。ご覧なさい、我輩の英知の全てをかけたこの見事な設計図、これについて何かご質問は?」
「ありません!」
「すげえなあ、ガクシャって本当に学者だね…」
「え?いえいえ、そんなことは完成したあかつきに…でもって、船を作る材料はここに揃えてあるし
諸君には、頭を使わない肉体労働を主にしてもらいたい。つまり、みんなでドラム缶を然るべき場所まで運んで欲しい」
と、言うことになりガンバ達はドラム缶を必死に押して運び始めた。
しかし、ガンバ達の必死の努力でドラム缶は少しづつ目的の場所に向かって進んではいたが、空腹に疲労
灼熱の太陽の下の軍艦は、異常な程の暑さ…日が暮れるまで奮闘しても目的地までの半分も進んでいない…
しかしガクシャだけは、異常にハイテンション。仲間達が泣き言を言っても、独り張り切るので彼らは呆れながらも
付いて行かざるを得なかった。
夜、仲間達が疲れ果て誰もがご馳走を目の前にした夢を見て寝言を言っている中、ガクシャは独りひたすら完成に向かって
突き進もうと「完成図」を確認していた。自分も疲労と空腹で、メガネの下の顔は落ち窪んでいても…
翌朝、ガクシャは仲間を叩き起こし再びドラム缶運びを始める。そして…
「やった、目的地が見えるよー!しかも、ここを登りきれば後はほとんど下りだけだよー」
目的地を確認して、ますますテンションを上げるガクシャ。しかし、この坂が最大の難所だった。
下から持ち上げるのは危険なので、ロープで引き上げる方法を取ったのだが、彼らは踏ん張りがかない。ドラム缶の重さに負けて
ロープが切れたり、バランスを崩したり…ドラム缶は容易に上にあがってくれない。
それでも、ガクシャは憑り付かれたかのようにロープを持ち仲間のもとに這って行く。仲間も自分も限界に来ていると言うのに…
「おいヨイショ、おまえ動けっか?」
ガンバが、突然ヨイショに声をかけた。
「ああ、少しくれぇならな…」
「じゃ、俺にいい考えがあるんだ。付いて来てくれよ」
「何だい、そのいい考えって…?」
「来て見りゃ、分かるよ…」
ガンバがやってきたのは、例のカンヅメが沈んでいる場所だった。
「何!オトリ…?」
「そうよ、俺が囮になってハタを外海に誘き出す。その隙に、ヨイショはカンヅメを取ってくる…」
「バカッ!そんなことしたら、おまえはどうなる!?」
今にも飛び込もうとするガンバを、ヨイショが力づくで止める。
「何とかなるよ!こういうことには、ガンバ様は慣れてんだい!」
すると、彼らの背後でサイコロが転がった。
「へっ、冗談。こういうカッコいい役回りはこのイカサマだって、相場が決まってんでぇ!」
言うが早いが、イカサマは海に飛び込んだ。ガンバも、ヨイショの手を振り解いて追いかける。
「バ…バカ!戻ってこーい!」
ヨイショの絶叫も空しく、彼らは外海へ。しかも例のハタが、彼らを追いかける!
「こらー、ハターッ!そいつらより俺の方がうめえぞーっ!」
ガンバ達を救おうと、ヨイショも海へ飛び込んでハタの気を引こうとする。
「イカサマよぉ…」
「アア…?」
「夕陽の海ってのも、すごくきれいだね」
「ヘッ、シッポにじん、とくらぁ…」
やがて、静かにハタが近づき彼らに襲いかかる!もうダメだ…と、思った瞬間!
「……!」
突然、ウミネコの大群がハタ目掛けて襲いかかった。ハタもまた、ウミネコを襲っている。
「そうか、飢えていたのは俺たちだけじゃなかったんだ…ウミネコも、ハタも飢えていたんだ。
助かった…ガンバもイカサマも助かったぞー!」
そして夕暮れの海には、ハタと多くのウミネコの死骸が、浮かんでいた…
そして、ガクシャ設計の「ドラム缶潜水艦」も無事、完成。ガクシャも。その出来に御満悦。
吊り上げた潜水艦のロープを、ガンバとイカサマが「齧り切って」進水式も終わり…と、思ったら
設計図では横になるはずの潜水艦は、何故か(?)縦に浮いてしまう。明らかな失敗に、ガクシャは大慌て。
「あ、でもほらこうして見れば、設計図通り…」
無理やり、首をまげた格好で見て「こじつけ」るガクシャに、さすがのヨイショも
「この、いい加減!」
と、ポカリ。
かくして、ガンバ達は再び大海原への冒険を続けるのであった。
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