折々これは聴く話であるが、深山の谷で奥の行止まりになっているところは無事であるが、嶺が開けて背面の方へ通じている沢は、夜中に必ず怪事がある。素人は魔所などといえば、往来不可能の谷底のように考えるけれども、事実はかえって正反対であるという。
あるいはまた山の高みの草茅の茂みの中に、かすかに路らしいものの痕跡を見ることがあると、老功な山稼人は避けて小屋をかけなかった。すなわち山男山女の通路の衝なることを知るからである。 柳田國男「山の人生」
定家たどりし熊野道