ペットロスの解説

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日本ペットロス協会 

1.はじめに

 伴侶動物を愛する人にとって、その別れは近親者を亡くすくらいにつらいことです。愛する子に先立たれて、わが身の不幸を嘆かない人がいるでしょうか。涙をこぼしながらどうしてよいのかわからず途方に暮れるのが、伴侶動物を失った飼い主さんの偽ることのない真実の姿ではないでしょうか。

 しかし、このつらさは、わからない人には、まったくといっていいほどわかってもらえません。この世間の人々との乖離(かいり)のなかで、ペットロス体験者は周りを気にしながら悲しみに耐えていることが多いのです。このような現状を変えていくには、ペットが好きな人にも嫌いな人にもペットロスについてよく知ってもらうことが大切となります。これからも、皆さんとともにペットロスの哀しみを理解しあえる社会であり、人と動物が幸せに暮らせる社会をつくっていくことができればと切に願っています。

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2.ペットロスという言葉

 ペットロスという言葉は、米国で1970年代の半ばにペットとの死別の問題に関心を持つ一部の専門者らが集まってある会合を開いたときに、出席していた人々が、「ペットの喪失」(loss of pet)の意味合いとして用いたことに始まるとされています。
 しかし、この言葉は当初、学術用語としてしっかり定義をおこなったうえで使われたわけではなかったので、その後米国をはじめとしてこの用語を用いる臨床家や研究者によってその意味するところにやや違いが生じていきました。

 その相違の要点は、ペット(伴侶動物)との別れによって起こる悲嘆反応のなかで、とくに病理性の強い重いものをペットロスと称する人と、通常反応(ごく普通に起こっている病理性のない自然反応)のものを指してペットロスと呼ぶ人が現れたことです。前者は、米国では主に精神科医や精神分析家・臨床心理士など重い症例をあつかう臨床家の人たちのなかに多く、後者は、動物専門者や獣医療関係者らに多くいます。

 しかしここで留意していただきたいのは、この言葉の用い方の違いはペットロスの実態が正常であるとか、異常(病気)であるとかの見解の相違で分かれているのではなく、単に病的なペットロスをペットロスと言うか、正常なペットロスをペットロスと言うかの違いによる言語習慣的な呼称であることをお断りしておかねばなりません。したがって、これはどちらが正しいということではなく、ペットロスという用語の概念規定の問題です。

 日本ペットロス協会では、ペットロスを定義するにあたり、この言葉が使われた当初の原意と、精神分析学派らによって究明されてきた対象喪失論(object loss)や、世界保健機関(WHO)の提言するスピリチュアル・ケアの知見などを参考にして次のようにしています。

愛するペット動物を失うことと、その別れにともなう心理的、身体的、社会的、スピリチュアル(霊的)な体験過程に対する総称的な用語。

 すなわち、ペットロスとは、ペット動物との別離を原因とするあらゆる喪失体験に対する包括的な呼称であり、その体験が正常か、正常ではないか、あるいは良好か、病的かのいずれかに限定されるものではなく、ペットとの分離体験(心理学・医学分野では、別離のことを分離といいます)の全体を含む総称名として用いるのが良いと考えています。

 しかし、わが国では一般的な使われ方として、ペットとの死別によってはなはだしく落ち込んで立ち直れなくなっているような重い状態を指してペットロスと称している場合が多いようです。このような意味での用い方も、まったくの間違いというわけではありませんが、ペットロスについての誤解も生じやすい用い方ではありますね。

 ですので、ペットロスに関する話を人と進める場合など、現状においては混乱を避けるためにも、自他ともにどのような意味合いで用いているかを確認しあってから相手と会話をする必要があるでしょう。なかには、「ペットロスになる」「ペットロスに罹(かか)る」「ペットロスまではいかなかった」などの言い方をする人もよくいます。ペット愛好家は、概して重い悲嘆をペットロスと称していることが、ここからも見て取れます。

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3.ペットロス症候群とは

 ペットとの死別後、急性期症状(ペットを失った直後からしばらくの間の容態)のみが病的に強く表われているが、悲嘆を重くしている原因が死別反応のほかに見あたらない場合をペットロス症候群(または、ペット喪失症候群、略称PLS)といいます。

 現在、ペット死別により激しく悲嘆する患者さんに対して医師が医療カルテに「ペットロス症候群」と診断記載し、抗不安薬や睡眠導入剤などの薬物を処方するケースが増えてきたように思います。このことに関する確かな実証的データは今のところありませんが、日本ペットロス協会に照会・問い合わせをする医師や看護師、あるいは病院ソーシャルワーカー・病院カウンセラーや作業療法士さんなどパラメディカルの人々からの情報と、ご相談に来られるクライエントさんが病院で医師や臨床心理士からそう告げられたという陳述などからそのように感じています。

 この場合、医師が医学的診断を下す「ペットロス症候群」とは、合併症を含まない(複雑でない)急性悲嘆のなかでも非常に重いもの、すなわち急性ペットロス症あるいは、それに準ずる程度のエピソード症状を示す状態を指すのであって、通常悲嘆(ごく普通の自然反応としての悲嘆)を示すペットロスでないことはいうまでもありません。正常な自然反応の範囲であれば、一般に薬物治療や悲嘆療法や治療的カウンセリングの必要はありません。

 しかし、病院等に治療や援助を求めていかれるペットロス悲嘆者の方々は、自己回復力(自然回復力といってもよいでしょう)が低下し、すでに自助努力がきかなくなった一定以上の困難さや重さをかかえた病的水準に達していることがよくあります(もちろん、来院する方がすべて病的悲嘆とは限りません、念のため)。

 したがって、今もって一部に言われ続けている「ペットロスは病気ではないからぺットロス症候群という言い方はおかしい」とか、「ペットロスは異常ではないからペ ットロス症候群は存在しない」等の、ねじれた見解は修正されねばなりません。

 このような発言は、いまだに獣医療関係者などからときおり耳にしますが、これはひとえに、ペットロスのすべてが正常悲嘆だと思ってしまっているところからくる誤りです。これは動物専門者が、ルーチンワークで接触するペットロス悲嘆者はごく普通のいずれ回復してゆく通常反応の人々が大多数を占めているという事情も関係しているのでしょう。

 しかし、精神保健の分野では、重く困難なペットロスの方がよく来られるため臨床実務としてはそのケアが主体となります。すなわち、悲嘆から回復できずにいると思っている方(この場合、ご本人やご家族など周囲の方がそのように思われているだけで、実際には通常反応のこともあります)や、眠れないとか、朝起きられないとか、つらくて会社・学校に行けないなど日常生活に支障が出てしまい困っている方が支援を求めてくるのです。そして、もうひとつはペットが死亡する直前や直後の危機介入です。いずれも、ひとりで悲しみや困難を乗り越えられる方や、周囲の誰かに話して苦しみが解決できるレベルの人は治療やカウンセリングの必要はないために医療機関やカウンセラーのところに行くことはありません。

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4.悲嘆症候群としてのペットロス

 ペットロスとペットロス症候群は混同されやすいのですが、両者は同じではありません。ペットロスという大きな枠組みのなかの一部分にペットロス症候群(PLS)が含まれていると考えてください。先に述べたような誤認が起こる一半の責任は、悲嘆の研究者や臨床家の従来からの言葉の使い方にもあるように思います。

 グリーフ(喪失による悲嘆体験の総称。英語のgrief)の精神医学や悲嘆心理学の分野では、悲嘆時に表われるさまざまな容態やエピソード(できごと)の呼称として伝統的に「症状」や「症候」(いずれも英語のsymptom)という医学用語、さらにはっきり言えば病理用語を用いてきました。これはグリーフの臨床がフロイトをはじめとする精神分析医や、戦中戦後からなされてきた悲嘆研究と臨床が、リンデマンやボウルビィ、パークスらに代表されるように主として精神科医師によって推し進められたこととおおいに関係があります。

 すなわちそれは、死別の悲しみの科学的アプローチ法として臨床医学の疾病モデルにもとづいて解釈する方法が主流を占めてきたからに他なりません。したがって、今日でも精神保健の専門者たちは、通常のグリーフ、つまり正常悲嘆の状態やエピソードに対しても「症状」あるいは「エピソードの症状」などといった呼び方を普通にしています。

 さらに、急性悲嘆に対しても同一文化圏では通例、幾つかの状態的変化、つまり複数の症状・症候(!)が群(むれ)のようにひとつのまとまりを持つ束(たば)となって出現するため医療従事者らは慣習的に「悲嘆症候群」(grief syndrome)とか、「死別症候群」(bereavement syndrome)とか、「喪失症候群」(loss syndrome)と言いあらわしてきました。

 ここでお断わりしておきますが、この急性悲嘆とは愛する対象と死別すれば誰でも起こる通常の悲嘆を指しているのであって、病的で異常な悲嘆ではありません。また、悲嘆症候群や死別症候群や喪失症候群という名称であっても、これらも病的で障害のある悲嘆や喪失のみを指しているわけではなく、通常悲嘆や通常の死別の症状がセットとなったまとまりに対しても用いています。

 よって、グリーフ研究におけるこのような慣例的な表現方法の文脈に則って、急性のペットロス症状を示す自然反応例(定型例ともいいます。誰でも起こす普通のペットロスという意味です)にペットロス症候群(あるいは、ペットロスの悲嘆症候群とか、ペット死別症候群)と症候群名を冠して呼称することもまったくの誤りというわけではありません。

 このことに関して欧米では、ペットロス・シンドロームという名称は使われていないではないかという人もおりますが、それはペットロスの症状が症候群であることが自明のことなので、わざわざそういっていないだけのことです。

 しかし、正常なペットロス体験のものをペットロス症候群と呼ぶことは、一般的感覚からみても奇異な感を持つことは否めませんし、人々に誤解も招きやすいので、わたしたちもその意味での使用にはもとより不同意です。

 ところが、今もって一部の動物関係者などのなかには、ペットロス体験は正常なのにペットロス症候群と称して病気扱いにして異常視するのはおかしいなどとはなはだ曲解している人がいるようですが、それは大きな誤りです。わたしたちは、精神医学的、臨床心理学的対象となるような病理性の強い急性悲嘆を示すペットロスについては、呼称がないために当初からその意味で用いるのであれば妥当だと考えてきましたし、その旨にそって従来から提唱してきました。現在、この見解は医療界・福祉・心理界をはじめ一般にも支持され広く浸透しています。

 かつてはわが国においても、ペットロスに関する正しい理解がもたらされていなかったため、ペットを亡くす悲しみが不自然なことに思われたり、異常視されることもよくありました。また、ペットを亡くした悲嘆者のなかには、自らの陥っている状態にひどく戸惑い、それがおかしく異常なこととして捉えてしまうことがありましたし、ご家族や周囲の人も同様にそう判断してしまうこともありました。例えば、「ペットが死んだくらいで、そんなに落ち込むなんておかしいよ」という反応などがそれです。

 確かに、悲嘆者がふだんとは打って変わってふさぎこんでうつ的になり、嘆き悲しんでいる姿は、どう見ても正常な状態には思えません。しかし、死別という特異な状況下では、このような反応を示すことが自然で通常の姿といえます。大切な愛着対象を亡くして落ち込むことは極めて自然な反応であり、むしろ悲しまないほうが理不尽で不健康とさえ思えます。悲嘆に暮れることは、心が弱いからではなく、むしろ情緒豊かで繊細な感性の表われといえるでしょう。

 ペットロスに関するさまざまな誤解を解き、ペットとの別れの悲しみの社会的認知に向けてわたしたち日本ペットロス協会は活動を続けてきました。そして、現在も続けています。そのなかで、わたしたちが送り続けてきたもっとも大切なメッセージの一つは、ペットロスはおかしいことではなく、死別を悲しむことは容認されるべきだということです。そして、この広報活動や教育活動に動物専門者たちが少なからず貢献してきたことも、わたしたちは熟知しています。

 しかし、ここで動物専門者も伴侶動物を愛する人々も理解しておいていただきたいのは、すべてのペットロスが正常であるとはいえないということです。すなわち、ペットロスには、正常なペットロスと正常ではないペットロスの2種類があり、大多数はほどなく立ち直れる正常な(通常の)ペットロスなのですが、一部には正常とはいえないペットロスがあるということです。ペットロス問題が混乱した一因には、この二つが混同されてしまったことがありますので、両者は概念上、はっきり区別しておく必要があります。そして、通常ではないペットロスや、限りなく病的レベルに近い困難を極めるペットロスに関しては、精神医学的にも臨床心理学的にも臨床上の重要なテーマになってきています。

 では、なぜ重要になってきたのでしょうか、その答えは明瞭です。それは重いペットロス悲嘆者の方が増えたためです。その人々が苦しみやつらさを取り去ってもらおうと治療や援助をもとめて病院やカウンセラーのところへ訪れるようになったからです。

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5.伴侶動物の生と死を見つめる

 動物専門者は、今までペットの死と死に臨む問題に正面から問うことをあまりしてこなかったように思います。それには、幾つかの理由があるように思います。まずはペットロスに関する知識が不足していたために、どう取り組めばよいかがわからなかったということがあったかもしれません。また、死という微妙な問題がもたらす職場のイメージの低下を恐れて避けてきたのかもしれません。あるいは、このテーマを問えば、自らもつらくなるために意識して触れないようにしてきたのかもしれません。

 しかし、動物の専門者とは、動物の命を扱う専門者にほかなりません。動物の命を扱うとは、動物の生と死を見つめる人のはずです。伴侶動物の生と死についての深い見識と洞察を備えた人がペットの専門者といえるのではないでしょうか。ペット専門者は、動物の健康や美容や、QOL(生活の質)やアメニティ(快適さ)の向上など動物が生きることには向き合ってきましたが、動物が死ぬことについては向き合ってきたといえるでしょうか。老犬・老猫をはじめとする高齢動物の介護といいながら、その動物たちを見守る飼い主さんの複雑に揺れ動く胸の内に理解を示してきたでしょうか。動物専門者が、動物の死や別れの問題に強い関心を持ち、率先して向き合う姿勢を示さなくて、どうして飼い主さんは看取りや死別に立ち向かっていくことができるでしょうか。

 なお、ペット専門者や動物福祉の活動家などは、ペットロスの正常性を誇張しすぎる傾向があります。これは、欧米においても状況はおおよそ同じです。しかし、それゆえに一部に弊害も起こっています。それは、助けを求めにいった動物専門者らに「ペットロスは正常です。だれでもなります。軽くすることなんてできません。もっとしっかりしなさい」などと何度もいわれた結果、放置されつづけたためにひどく悪化したり、危険な状態に追いつめられていくケースが起こっているという問題です。憂慮すべきことです。自己治癒的回復が困難な方は、死別早期(できるのならば死別前からの予防的介入が好ましいといえます)からの悲嘆カウンセリングや悲嘆療法等の対人支援的介入が必要であり、時期を失すると悲嘆が長期化しやすくなります。

 したがって、動物専門者などがペットの生前からの飼い主さんへのペットロスの準備教育や、死別後のガイダンス(教育と指導)を行うときは、ペットロスの正常性と対処法(ペットを亡くして悲しむことは、おかしいことではありません。心配しないで、おおいに泣いていいんです。たくさん泣くことが回復につながるんです。悲しみを抑えないでくださいなど)だけを語るのではなく、あまりつらかったら我慢しないで病院やカウンセラーのところにすぐに行くようにと伝えておくことが大切です。

 また、死別直後の激しい悲嘆で非常に混乱しているときは、体験者の集会や自助グループなどの集団への参加は、無理であり時期尚早といえます。少なくとも死別後、1〜2週間(もしくはそれ以上)を経てからの参加が好ましいといえます。

 また、状態や症状がひどく重い方や、特異な死別体験(健康な子の安楽死や、自発的な生き別れ、暴力的な死や、短期間に死別が重なるなど)をされた方も、自然死(病死、老衰死)を中心とした一般のペットロス体験者のグループへの参加には向きません。かえって落ち込むことがあります。

 なお、うつ病などの精神障害の既往歴のある方や現在、通院中の方は、ペットロスがほぼまちがいなく重くなりますので、ご家族や友人・職場の人々あるいは、医療者、動物専門者、ペットの主治医、動物葬儀者等は細心の注意を払って見守ってほしいと思います。

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6.ペットロスと障害

 ペットロス体験が原因となるか、あるいは有力な引き金(トリガー)となって病的で困難な悲嘆にいたる場合、すなわちペットロスから起こる精神障害ですが、この総称名としてわたしたちは、「ペットロス障害」の名称を用いています。これはナイバーグらのいうdifficulty of pet lossとおおよそ同じ概念です。

 わたしたちはペットロス障害には、ペットロス症候群(重度の急性悲嘆)の他に、慢性ペットロス症(ペット喪失を原因とする遷延性(せんえんせい)悲嘆(長引く悲嘆))、仮面ペットロス症(ペット喪失を原因とする仮面悲嘆反応であり、不適応行動や身体症状に転換される悲嘆)、遅延性ペットロス症(ペット喪失を原因として遅れて出てくる時期はずれの悲嘆)、ペットロスうつ病(ペット喪失を原因とする抑うつ症)、ペットロス恐怖症(ペットの死恐怖症や喪失恐怖症、ペットは死ぬから二度と飼わないとかたくなにいう人、平素ペットとの別れを考えただけでひどく取り乱してパニックを起こす方など)、重度のペットロス予期悲嘆(ペットの高齢期や終末期に別れを予想してひどく悲しくなって混乱する)などが含まれると考えています。

 なお、ペットロスがこじれて重く複雑になる場合は、夫婦の家族関係に問題があるからだとか、精神障害の素因がもともとあるからだとか、ペットロス以外のところに原因をもとめようとする意見もときおり聞きます。これは、そのような面も見過ごしてはなりませんが、ペットロスの悲嘆が決定的な原因となったり、強い引き金(これもかなり大きな要因になります。銃は引き金【トリガー】を引かなければ弾は出ないのですから)となって病的悲嘆や障害性悲嘆を起こすことがあります。

 また、現在かかえている不調や障害の原因に未解決のペットロス悲嘆の問題が深くかかわっていることがあり、そのことにご本人も(医療者さえも)気づかないでいることがあります。ですので、どのようなペットロスであっても一応は注意を払っておく必要があります。悲嘆が通常範囲内にとどまって回復してくださるのであればそれはそれでよいのですが、すべての人がそうなっていくという保証はありません。

 そのような点からも、ペットロス悲嘆の衝撃とストレスをいたずらに恐れる必要はありませんが、軽く見てはいけません。なかには親の死よりもつらいと訴え重くなる方や、まれですが命にかかわる行動をとる人もいます。伴侶動物との死別だからこそ強い衝撃を被る人がおられるということは知っておいて下さい。

 一般的には、ペットロスでそんなにひどくなるはずがないという先入観をお持ちになると思いますが、ペット・伴侶動物が人間に及ぼすはかり知れない力−それは飼い主さんがときとしてペットの喪失時に示す自他への破壊的な力も含めて−がわからなければ、ペットロスもわからないかもしれません。

 よって、ペットロスは近親者の死の軽い程度のものという理解はペットロスの本質を見誤る恐れがあります。先のように重くなる場合は、別に原因があるのだと言う人のなかには、ペットロスの深い悲しみをよく理解していないために過小評価をしているか、内心たかがペット、たかがペットロスと思って軽視していることがあります。注意すべきことです。

 では、ペット死別者のうち、どのくらいの人がペットロス障害、すなわち病的悲嘆を起こしているのでしょうか。人の死別の場合の各種データでは、病的悲嘆の罹患率は遺族のおおよそ10%〜15%というのが平均的なところでしょうか。これに対しペットロスに関しては、残念なことですが、その詳細はまだよくわかっていません。しかし、おそらく数%程度ではないかとわたしたちは推測しています。

 ペットフード協会の「全国犬猫飼育率調査」によれば、2010年推計で、日本には犬猫が合計2147万頭いるといいます。このうち、ひとりの飼い主さんは平均 約1.5頭(犬は約1.3頭、猫は約1.7頭)と暮らしているといいます。このデータから、犬猫の実際の飼い主さんは、1400万人ほどいることがわかりますが、この人々はいずれペットロ ス体験をしていくことになるわけです。

 そして、このなかの数%、仮に3%とすれば、42万人となりますが、この方々が今後、ペットロスによって精神障害を起こしていくことになります。いわば、ペットロス障害の予備軍です。通常のペットロスであれば、その悲しみを取り去ることはできませんので致し方ありませんが、この人々は味わわなくともよい著しい苦痛と困難をともなった悲嘆を強いられていくことになります。皆さんは、このことをどうお考えになりますか。

 しかも、この数には犬猫をご家族やご夫婦で共同所有している方は入っていません。また、犬猫以外のペットの飼育者も、ここには入っていません。飼われている全ペット数の3分の1弱が、犬猫以外のペット(小鳥、うさぎ、ハムスター、フェレット、は虫類、魚類など)で占められています。重篤なペットロスの持つ個人と社会への不利益と損失を考え、早急な対策が望まれます。

 なお、わが国におけるペットロス・ケアの発展からみて、ペットロス症候群に関するような不毛な恣意的見解が、一部でひとり歩きしたことは実に不幸なことと言わねばなりません。さまざまな事実誤認や、個人的なペットロス体験にもとづいた偏った見解などが生まれる背景には、ペットロス問題が想像以上に複雑で深い広がりを持つ現象であることがあげられます。しかし、そうであるにもかかわらず各領域の専門者も、これを正しく伝えなければならないはずのマスコミ関係者も、その全体像を見すえることなく各人の関心ある狭いテリトリーからしかこれを見てこなかったことがあげられるでしょう。

 現状では動物関係者、医療・福祉心理関係者、教育者、呪術宗教的職能者、動物葬儀者、ペットライター、評論家、ペット愛好家などがペットロスについて、それぞれに思い思いの意見を述べているにとどまっています。総じてまとまりがなく、したがって将来への見通しや方向性がなく混沌とした感すらあります。思うに、憶見と無知がペットロスの養父母です。その点、ペットロスは未だ無理解と偏見のなかにあると言えるかもしれません。

 ペットロス問題は、心理学、精神医学、社会福祉学、人間・動物関係学、獣医学、動物行動学、宗教学、民俗学などの広範な領域と密接にかかわって成り立っています。これらのどこか一、二と接点を持てば理解できるほど易しくはありません。それゆえ、この全貌はそうやすやすと、わたしたちの前に明かされることはないだろうと思います。

ペットロスに関する詳細は、日本ペットロス協会発行の「ペットロスQ&A 質疑応答集」、「ペットロス・カウンセリング講座・テキストファイル」等をご覧下さい。

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