R・A・ハインライン

3人の中でもっともストーリーテラーとして有名なのがハインライン。とにかく読者をいやおうなしに引きずり込み、最後まであきさせないことでは定評があります。着想がすばらしく、ぐいぐいとひっぱっていく力強さが大好きでした。
ハインラインの作品は骨太。アイデアとダイナミックさにあふれる前期の作品群とふっきれた奔流のような後期の作品群にわかれます。





月は無慈悲な夜の女王 ★★★★★(ハヤカワ文庫)

革命は、マニーとマイクが出会ったことから始まる。テクノロジー無しでは生きられない厳しい月世界植民地で、流刑者の子孫として生き抜くマニーはコンピューター技術者、そしてマイクは・・・張りめぐらされたコンピューター網をつかさどる巨大コンピューターに芽生えた自意識だった! だが月世界植民地は、武器はおろか地球政府に対抗する手段を何一つ持たない。あるのは地球に資源を送り出す無人射出機(カタパルト)だけ。彼らの出した答えとは・・? 後期のハインラインを代表する最高傑作。

ハインラインの最高傑作は人によって違うでしょうが、私にとってはこの「月は無慈悲な夜の女王」が最高傑作です(^^) 永遠に輝きを失わず、読み出したら止まらないこの作品に下手な感想など不要。ラストにおけるマニーの独白に、いまなお胸が迫ります。



異星の客 ★★★★★(創元SF文庫)

”火星から来た男”ことヴァレンタイン・マイケル・スミスは、火星に到着後消息を絶った、第一次火星探検船乗組員のただ一人の遺児であり、その存在が知られると同時に世界連邦の頭痛の種になった。法律アクロバットにより火星は彼のものなのである。 だが火星人に育てられ、火星人の力を持つ彼はただの台風の目ではなかった・・・。

これまた後期ハインライン作品群に属する傑作。1960年代の匂いを持つこの作品は、破天荒な内容ながらも風刺に富み、SF作品というよりは寓話に近い性質を持っています。ともすれば保守的な傾向を取り沙汰されるハインラインですが、それだけではない一面がここにあります。



宇宙の呼び声 ★★★★★(創元SF文庫)

ユニーク(!)な家族ばかりが集まっているとして名高いストーン家。その中でも15歳になるカスターとポルックスの双子の評判たるや大変なもの。その双子がこともあろうに自分たちで宇宙船を買い、貿易で大儲けするのだという。父親のストーン氏は猛反対したが、双子をうわまわるヘイゼルお祖母ちゃんまでその気になり、味方されてはあえなく陥落。どうせならと家族全員乗り込み、ストーン一家は宇宙へと旅立つ・・・。

私はハインラインの最良の部分は、しばしばジュブナイル(児童もの)で力を発揮するのではないかと思っています。ハインラインのストーリーテリングは、時に重いイデオロギーや危険なテーマさえ楽々とこなしてしまう・・・。前期にかかれた大部分のジュブナイルが愛され、人気を失わないのは、困難に遭いながらもひるむことなく、自ら運命を切り開いていく主人公達の前向きな姿勢がなんともいえず魅力的だからではないでしょうか。この作品がジュブナイルだなんて関係ない。傑作です♪



ラモックス ★★★★★(創元SF文庫)

ひいおじいちゃんが宇宙探検からつれて帰ってきた地球外生物ラモックス。ラモックスはジョニーにとっては大事なペットというより家族の一員だった。たとえラモックスが困ったことをしでかしたとしても、ジョニーは全世界を相手にラモックスをまもるために闘うだろう。はて今回は何が??

これまたジュブナイルの傑作です。ラモックスをめぐる騒動のハチャメチャな楽しさと、気のいいジョニーを振り回す魅力的なヒロイン”2人”(読むとわかります♪)が大のお気に入り。



銀河市民 ★★★★★(ハヤカワ文庫)

人類が星々に進出した遥かな未来。公然と奴隷売買が行われている惑星サーゴンでまたひとり少年が売られた。少年の名はソービー。哀れなソービーを買った男バスリムには秘密があり、彼が死の直前託したメッセージによってソービーの運命は大きく変わる・・・。

ジュブナイルの幅は結構あります。主人公が対象の読者層に合わせた年齢設定になっているとすれば、この作品は上の年齢層むけかもしれません。さまざまな経験を積んで主人公が成長していく、いわゆる”成長もの”と呼ばれるジャンルはハインラインの得意とするところ。理不尽な事柄とは妥協せず、納得できるまで努力し、闘うソービーに、自分を重ねあわせてみてください♪



スターマン・ジョーンズ ★★★★★(ハヤカワ文庫)

もう我慢できない!! 『 母さんの面倒を見ておくれ 』 それが父の遺言だったからこそ、マックスは航宙士を夢見ながらも農場を耕しつつ継母の面倒をみていたのだ。その継母が突然結婚したいけすかない男は農場を売り、伯父の形見の航宙法手引書まで売るという。マックスは故郷を捨て、彼を跡継ぎに指名するという亡き伯父の言葉を頼りに夢に向かって旅立った・・・。

これまた”成長もの”の王道をいくサクセスストーリーです。次々と降りかかる試練を努力と才能で乗り越え、一歩一歩階段を上がっていくマックス。単なるご都合主義のドラマにならないのは、ハインラインのストーリーテリングの賜物です。



ポディの宇宙旅行  ★★★★★(創元SF文庫)

ポディは火星生まれ。火星暦で8歳とちょっとの(地球で言えば16歳ぐらい)の花開く乙女。元気いっぱい、夢もいっぱい。ポディは大好きな大叔父と悪名高い弟(恐るべき天才)とのはじめての本格的な宇宙旅行に胸をふくらませていた。行く手に何が待ち受けているとも知らず・・・。

今は”天翔る少女”と改題されていますが、私にはこちらの題名でなつかしい本です。主人公のポディが女の子だったという事もあって愛読書でした。現在読み返してみると、時代もあるのでしょうが、いささかハインラインの【女性はかくあるべし】のような保守的傾向が読み取れ、苦笑します。ですが読む人によっては関係ないでしょう。私自身欠点とは関係無しにお気に入りなので二重マル。



夏への扉 ★★★★★(ハヤカワ文庫)

もしも友人に裏切られ、すべてを失い、愛するひとの言葉さえ嘘だったとしたら?冬のように凍てついたぼくの心が、夏への扉を捜したとしても不思議はないだろう。ぼくが選んだ夏への扉は”冷凍睡眠(コールドスリープ)”だった・・・。  SFオールタイムベストが編まれるとき、必ずベスト10入りするというので名高い作品。

この作品は昔から名作の誉れ高く、手に入れたときは喜び勇んで読んだものです。結果は・・?悪くはないけど・・?というものでした。”月は無慈悲な夜の女王”に先に巡り合ってしまっていたんです。失望するとまではいきませんでしたが、もっと早く巡りあえてたらなぁと思い、その後はお蔵入り。 しかし今回リスト作りで読み返した結果は、「え、何だ、こんなに面白かったの?!」(笑)  眠っている本をたまには読み返してみませんか? 



宇宙の戦士 ★★★★★(ハヤカワ文庫)

ジョニーが地球連邦軍に志願したのは、たいした理由があったからではない。だがそんなうわついた心のジョニーが配属されたのは機動歩兵。宇宙最強といわれる機動歩兵だが、一人前となるためには過酷な訓練をくぐりぬけねばならなかった・・・。  愛国心が強いハインラインの保守的傾向を最も現しているとして、毀誉褒貶の激しい問題作。

この作品ついてはいつも頭を悩ませています。組織は常に成長しようとするが、硬直・肥大化した組織は腐敗する。私は軍隊ほど柔軟性のない組織はないと思っているので、賛美できません。 にもかかわらず、この作品は読んでいる間【だけ】嫌悪する私をねじ伏せます(^^;;  おそるべきストーリーテリング・・・。 



愛に時間を(1・2・3) ★★★★★(ハヤカワ文庫)

長命人種として知られるハワード・ファミリー。ファミリーの最長老であるラザルス・ロングは長すぎる生に疲れ果て、死を選ぼうとしたが、子孫達はそれを許さない。ならば自分が一度も体験したことのない出来事を見つけてくれ、そうすれば死を思いとどまる、とラザルスは子孫達に告げる。自らの長い長い人生を語りはじめながら・・・。

この作品は後期作品群の中でも、分厚いといえます。 題名からもわかるように、タブーをかなぐり捨てたハインラインの面目躍如といったところ。分厚いからといってだれる事がないのはさすがです。



ルナ・ゲートの彼方 ★★★★★(創元SF文庫)

ロッドが選択している上級サバイバル講座の最終試験は、命を落とすこともめずらしくない過酷なテストとして知られている。だが憧れの外世界でキャリアを積むには、上級サバイバルは必須の単位なのだ。なんとしても合格してみせる!ロッドは勇んでゲートをくぐったが・・・。

この作品は年齢的にはジュブナイルの範囲内ですが、なかなかどうしてどうして。よくあるサバイバルものの王道を行っていると見せかけ、最後のキツイパンチといったら・・・たまりません(笑) 



栄光のスペース・アカデミー ★★★★(ハヤカワ文庫)

マットの望みは試験に合格し、宇宙士官候補生となること。そしてゆくゆくは人々の尊敬をあつめる惑星間パトロール隊士官になるのだ。夢と希望で胸をふくらませ、マットは士官学校の門をくぐったが、想像もつかないほどの厳しい訓練が待ち受けていた・・・。

いかにもジュブナイルらしい、と太鼓判をもって推せる作品です。科学的にはいささか古めかしいところもあり、この作品の11年後に書かれた「宇宙の戦士」とくらべると、ずいぶん素直でおとなしい作品かもしれません。ですがそれだけで判断してはかわいそうかも。それにしても時代は変わる・・・。



宇宙に旅立つ時 ★★★★(創元SF文庫)

テレパスであることを見出された双子の兄弟トムとパット。稀有なその才能を生かすのに、最もふさわしいとして彼らに提供されたのは、片方が地球上に残り、もう片方が外宇宙探査船に乗り込むという特殊通信員の仕事だった。宇宙にいけるのはただひとり。パットの不運なスキー事故により宇宙へ行くくじを引いたのはトムだったが・・・。

主人公のトム。なぜだか常に負け犬となる運命の彼には、当初いらいらさせられました。ところが外宇宙に出て、さまざまな経験をするにつれ彼は魅力的になっていくのです(^^) なおこの作品はわかりにくいウラシマ効果を見事に使い、その皮肉さにも一考をめぐらした秀作と言えます。



スターファイター ★★★★(創元SF文庫)

宇宙飛行士にあこがれるぼくが懸賞でひきあてたのは中古の宇宙服。宇宙を夢見つつも現実には当てのないぼくは、気分だけでもと宇宙服を修理し、整備に励んだ。夏休みが終われば進路という冷たい現実がやってくる。ぼくは憧れに別れをつげるべく、宇宙服を着こんで最後の散歩に出かけた。 と・・・・!

スピーディなジェットコースターのように、テンポよく小気味のいい作品。 パロディかと思うくらい悪玉宇宙人に銀河連合、美少女(!)に悪漢がいりみだれ、それでいてどことなくのほほんとしているのは、主人公が気のいい青年だからでしょう。 主人公のタイプとしてはマッチョでパワフルなタイプよりこっちのほうが好き♪



宇宙船ガリレオ号 ★★★★(創元SF文庫)

月へ行くのには、なにも大会社や政府でなくたっていいさ。ぼくらはきっと月に一番乗りするんだ・・・! 原子物理学博士である叔父の指揮のもと、アート、ロス、モーリーの、仲のよい3人組は月をめざしてロケット建造に励んでいた。 なぜかしら支障がつきまとう建造をのりこえ、月へ向かって飛び立った彼らを待ち受けていたものとは・・・。

この作品はハインラインの長編第一作として知られています。50年以上経った現在、技術的細部は合わない部分もありますが、物語をささえる情熱は色褪せていません。主人公たちを阻む敵役あたりに、ちょっぴり当時の時代背景が出ているかも。



レッド・プラネット ★★★★(創元SF文庫)

開発途上の火星は厳しい世界だ。 誇りを持って入植者たちは開拓に励んでいるが、自然には逆らえず、過酷な冬には居住可能な地方へと移動する権利を持っている。だが定期的に莫大な費用がかかる移動計画を、開発当局の火星カンパニーは快く思っていなかった・・・。

アメリカ人にとって自由と独立は特別好まれるテーマのようで、特に圧政に立ち向かう植民地、といったストーリーはハインラインに限らずよく書かれます。しかし現実のアメリカは、最近当初の精神を失いかけているような気がするのですが・・・。



メトセラの子ら ★★★★(ハヤカワ文庫)

人間が最も恐れ、誰もまぬがれることができないものは死。 その「死」と、生まれながらに無縁の者たちがいるとしたら、人々はその幸運を祝福するだろうか? 否、否。 不死の遺伝子を持つ長命族が、ハワード・ファミリーとしてその存在を明らかにしたとき、待っていたのは激しい憎悪と迫害だった・・・。

未来史シリーズのように設定がクロスする場合、どこかで違う作品の登場人物が顔を出すのは楽しいものですが、同一主人公となると意外に少ないものです。 その点で、ラザルス・ロングがハインラインのお気に入りではないかというのはよく言われることです。 ジュブナイルではない、ハインラインの主人公として典型的なタイプかも。



人形つかい ★★★★(ハヤカワ文庫)

アイオワ州で空飛ぶ円盤(UFO)着陸! その報道はすぐにジョークだったと訂正され、ほとんどローカルなニュースとして消えるはずだった。調査に派遣された捜査官たちが次々と消息不明になり、情報機関の注意をひくまでは。 局長の指揮のもと、再調査に向かった秘密調査官サムが見たものとは・・・。

侵略物の古典として名高い作品です。ストーリーテラーのハインラインに語らせると、侵略者に対抗するために人類が取らざるを得なかった「上半身裸体計画」なども馬鹿馬鹿しく見えないからたいしたものです。



太陽系帝国の危機 ★★★★(創元推理文庫)

最近ちょっと不遇をかこっていた俳優ロレンゾ。 およそ政治とは縁のない彼が、借金取りから逃れるために切羽詰まってひきうけた仕事というのは、実は誘拐された重要人物の替え玉だった。 彼は否応無しに陰謀に巻き込まれていく・・・。

SF界でヒューゴー賞といえば最も古く、権威ある賞といって差しつかえないでしょう。ただこのヒューゴー賞、ファン投票であるためか、作家たちが選ぶネビュラ賞と違って微妙にエンターティメント寄りのようです。ハインラインは長いことこのヒューゴー賞を最も多く取った作家として知られていますが(最近ではタイ記録の作家も出現)、その年どしの作品の力関係もあり、ヒューゴー賞受賞作とはいえこの作品=ベストではないと思っています。



フライデイ ★★★★(ハヤカワ文庫)

あたし−フライデイは有能なる戦闘伝書使。危険でいっぱいのこの職業をこなせるのは、厳しい訓練のたまものばかりではなく、もちろん魅力的な容姿のせいでもない。あたしは遺伝子操作で生まれた人工人間なのだ。 常に危機が発生する世界で、あたしのようなコンバット・クーリエ(戦闘伝書使)の需要は高い。 だがひとたび仕事を離れ、1個人にもどったときあたしを受け入れてくれる場所はあるのだろうか・・・。

後期ハインラインに属する作品です。後期の特徴であるタブーをかなぐりすてた、あけすけな筆致で未来世界が描かれ、テーマもそつなくまとまっています。 魅力的なヒロインに二重マル。でもどことなく男性の考えたヒロインですね(笑)



悪徳なんかこわくない ★★★(ハヤカワ文庫)

脳移植手術を受け、老いさらばえた醜いからだから、若く美しい健康な肉体へと生まれかわったヨハン・セバスチャン・バッハ・スミス。目覚めた彼は知る、多大な犠牲をはらったことを。 そして「彼」ではなく「彼女」となったことを・・・。

同じく後期ハインライン。上下巻という分厚い分量にもかかわらずさらっと読めますが、実のところ男性ではない自分には、主人公の経験はいまいちピンときません(笑) ついでに言えば生まれ変わった彼女に密かに助言をする、もう一人の彼女にもさっぱりピンとこないのですが・・(^^;;



未知の地平線 ★★★(ハヤカワ文庫)

何世代にもわたる遺伝子操作の結果、悪しき要因を取り除き安定した社会を築き上げた人類。さらなる進化を求め、ゆるやかに遺伝子調整は続けられているが、その政策にあきたらず支配を我が手に、ともくろむ集団があった。 遺伝子血統エリートでありながら人生に倦怠を感じていたハミルトンはその陰謀を知り、もくろみをつぶそうと潜入したのだが・・・。

初期に書かれた作品です。成熟した社会のはずなのに武器携帯や決闘が認められていたり、進化イコール超人(超能力)というあたりが書かれた時代を感じさせ御愛嬌。 いや、武器携帯は現代でも続いてますね・・・。



宇宙の孤児 ★★★(ハヤカワ文庫)

AA



栄光の道 ★★★(ハヤカワ文庫)

AA



落日の彼方に向けて ★★★(ハヤカワ文庫)

AA



獣の数字 ★★★(ハヤカワ文庫)

AA



ウロボロス・サークル ★★★(ハヤカワ文庫)

AA



ヨブ ★★★(ハヤカワ文庫)

AA



自由未来 ★(ハヤカワ文庫)

第三次世界大戦の危機に備えて、地下にシェルターを作ったヒューバート・ファーナム。彼の予感は当たり、ある夜客を迎えた家族団欒のさなか戦争は始まった。ミサイルの直撃を耐え抜いた彼らが外に出て目にしたものとは・・・。

非常に低い★ですが、話自体は活き活きとしてて面白いのです。 しかし・・・なんというか、これほど共感できない話もめずらしい。行動力はあるが独裁かつ独善的な主人公も不愉快なら、主人公と対比させるために描かれた自己中心的な息子・妻も。もと使用人の変貌ぶりも不快なら、そうさせた世界の設定には吐き気がし、人種差別の匂いすら感じます。 ハインラインのもつ面のうち、もっとも共感できない部分に満ちあふれた作品です。 それでも本を処分しないのは、自分にもそうした面が潜んでいるから、反面教師として。



細々と(たまに)更新中・・・。

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