激突!蘇る宿敵たち!! ―破壊編―


  作:天戯恭介




 しにをさん作「しきりょーじょく」から繋がる天戯的「しきりょーじょく」の
完結編やっぱりこれで〆ます。

 さて、今回の「しきりょーじょく」は「激突!蘇る宿敵たち」をお贈りします。

 BGM OF 「ナイトライダーのテーマ」

 ちゃっちゃかちゃちゃっちゃかちゃっちゃか…♪

 ――フォンフォン…

 ナイトライダー

 …陰謀と破壊と、吸血鬼が渦巻く現代に蘇る正義の騎士…

 ドリームカー、KNIGHT2000を駆り、法の目を逃れる人外達を追う若
きヒロイン、「蒼崎志姫」

人は彼女を…「ナイトライダー」と呼ぶ…

 ちゃっちゃかちゃー、ちゃっちゃかちゃーかちゃかっちゃかちゃんちゃんちゃんー♪

 蒼崎青子(あおし)…蒼崎志姫の良き夫…

 ちゃっちゃかちゃー、ちゃっちゃかちゃーちゃんちゃんー♪

 久我峰留奈美(となみ)…FLAG日本支部代表!!
 乾一子(かずし)…志姫と青子の良き理解者…メカニックの天才!!

 ちゃっちゃかちゃかちゃか…ちゃらりら、ちゃらりら…

 巨大な悪に立ち向かう現代の騎士、KNIGHT RIDER…

 今日、彼らを待ちうける者は…果たして何か…?

 ちゃかちゃんちゃんちゃん♪


 *前作の『アゲハチョウ』をお読みでない方はまず、こちらをお先にどうぞ。
  余裕があれば、番外編の、こっちもどうぞ。


 /  全く人気のない公道を走る車がいる…  時刻は夜明け前…ほんのりと日が昇ろうとしている時刻――。  その一本道の公道を一台のトランザムらしき形をした車が走行している。  その車の色は紺色とシルバーのツートンカラーでフロントで左右に点灯してい るフラッシャーの色は橙色…  何故、らしき、と表現したか…  それは車の容貌と車内を見れば明らかである。  どのスポーツカーにもない魅力を兼ね備えた未来を意識したボディー  どれも目が痛くなるほどのさまざまなボタンが光を放ち配置されている。  ――明らかに普通の車ではない、と判断できる。  そして、その運転席で平然と乗りこなす青年も普通ではない  対向車も何もないからこの車の速度が分からないだろう  もし、ここをオーバースピードで走るランエボがいたとしてもこのトランザム らしき車はランエボをまるで止まっている車のように抜き去ることだろう  ――その車の車内 「気分はどうですか?KARR」  メガネをかけた青年は語りかけた  当然この車には一人しかいない…  青年は独り言を言ったのか?  答えは否―― 【最高だ…シエル】  ガルウイング型のステアリングの正面に位置するボイスインジゲーターが口を 開いた…  否、口を開くという表現は適切ではない橙色のボイスインジゲーターが発せら れた言葉に合わせて上下に動いたと表現しておこう。  この車は生きている…  車に搭載されたAI…まるでSFの世界だ…  誰もがこの車の存在を疑うことだろう…  だが現にこの車は搭乗者の質問に答えてみせたのだ。  こんどはそのAIから口を開いた。 【シエル…アルクェイドから通信だ】 「…繋いでください」 と、シエルと呼ばれた青年は通信回線を開くように命じる 【了解した】  KARRはそれだけ喋ると、右側のモニターにアルクェイドという若い青年を 映す。  金髪の美青年――赤い瞳を宿した神祖の王子。  名をアルクェイド・ブリュンスタッドと言う 『KARRの性能はどう?』 「最高だと本人は言っている」 『貴方的には?』 「……まだ何とも言えないな」 【……まだ私の力を信じられないのか】  KARRが不服そうに言う 「口先だけならどうとでも言えます…言葉で示すより行動で示しなさい…」 【……よかろう】  アクセルペダルのLEDが踏んでもいないのに点灯する。  カタカタカタカタ…(スピードメーターの上がる音)  急加速――もはやこの車、いやKARRに追いつくことは例えフルチューンさ れたスポーツカーでも無理だろう 「くっ…KARR!!」  急加速のGに耐えられずシエルの体が座席に押しつけられる。 『ちょうどいい…KARR…テストです、この先に障害物がある…自分で考え』  アルクェイドは1度言葉を切って 『突破せよ』 と宣言した 【了解だ…】  キュイイイイイン!! 「……KARR障害物を調べろ!!」  Gに耐えながらシエルは叫ぶ 【前方13キロメートル先にトレーラーが5台横並びに道を封鎖している。】 『……どう対処する?トレーラーの荷台…しかも5台を貫くのは難しいぞ』 【私を嘗めてもらっては困る…どこぞの車ではないのだ突っ込むだけが能ではない】  KARRはそう言いきると車をさらに加速させた。  シエルはステアリングを握ることさえ出来ずに自分の体を支えているだけで精 一杯だ。  車のコントロールはKARRが完全に支配していた。  前方には横並びで道を封鎖しているトレーラー(無論遠野家が用意させたもの だが。)  このシーンを見れば誰もが最悪の事故の瞬間を想像し、目を伏せることだろう…  だが  キュイイイイイイイン!!  トラックとの距離が狭まっていく!!  そして… 「ピ…」  短音を発し、ボイスインジゲーターの右辺に並ぶ内の一個のボタンが点灯した。  ―TURBO BOOST―  ブオオオオオオオン!!(エコー)  派手な音をだしてKARRは、トランザムが跳躍する!!  その運転席にいるシエルはといえば 「……………っぅ!!」  半ば、意識を失いかけていた。  KARRは信じられない時間放物線を描いて跳躍し、トレーラーの荷台5台分 を跳躍で回避…華麗な着地を見せて、数秒後には何事もなく走り始めた。 「…………(唖然)」 【どうかね?私のことを信じてもらえたかね?】 「……あ、ああ…まさかコレほどとは思わなかった…」  悪かったと、シエルはKARRに謝罪する。 『テストは成功か…じゃあ、二人とも遠野の屋敷に向かってくれ…』 「屋敷…ですか?あそこは…」 『建て直したんだそうだ…ある人物に手伝ってもらってね』  アルクェイドは含みのある笑みを零し、回線を切った。 「ある、人物…か」  シエルは綺麗に整った眉間に皺を寄せて、なにか考え込むようにステアリング を握ろうとした。  しかし、Gの衝撃が抜けきれないのか、その手は震えている。 【どうした?運転しないのか】  嘲笑うかのようなKARRの言葉 (AI風情が嘗めた口を…!!) と、シエルは内心吐き棄てる 「……KARR、運転を頼む」 【了解した】  人気はないが天下の公道を我が物顔で疾走するKARR…  KARR…「KNIGHT2000」のプロトタイプ…自分を守ることだけを 信条とする自己防衛心の塊はあっという間に姿を消してしまった。  新たな戦いが始まろうとしていた…。  /  地下室――どこかにある地下室に二人の姿はあった。 「ごめんなさい…貴方」  彼の妻になる…ハズだった女性…志姫は青子に謝罪の言葉をかける  長くなった綺麗な黒髪…。  メガネをかけているため多少は幼くは見えているが、曇りきったその表情は皮 肉にも彼女がもつ美しくさを際立たせていた。  手足を鎖で拘束された赤い髪にハンサムな顔立ちをした青年――青崎青子(あ おし)はやるせない表情で青子は志姫を見つめる  目の前にいる志姫は何故か洋風のメイド服を纏っていた。 「志姫…目を覚ませ…」  月並みな青子の説得の言葉……そんなものでは今の志姫を取り戻せるはずはな かった。 「……ごめんなさい」 と、志姫はもう一度呟くと青子に背を向けてしまった。 「……ッ、志姫!!」  離れていく我妻…青子には絶望の波に晒される。  去り行く志姫の進行方向には鉄製のドア…  ガチャ…  その、重い鉄製のドアが開いた。 「……!!」  青子の表情は憎しみと恐怖が入り混じったなんとも形容しがたい表情を浮かべ る。  自分と似た顔立ちをした青年――  短くした水色の髪、スラリと伸びた男の体躯、志姫と同じようにメガネをかけ たその青年はニヤリ…と口元を歪ませた―――。 「……――さま、こ、これは」  志姫は突然ここに来訪した人物にあたふたといいわけを始めた。  その慌てる彼女をみながらその青年は 「別に責めるつもりはない…お別れをしに来たのだろう?」 と、優しく微笑んだ。 「は、はい…申し訳ありません――様」 と、志姫は静々と青年に頭を下げる。 「様付けをやめろとは言わなかったか?志姫」  青年は近づいて志姫の綺麗な髪を撫でた。  それをされて志姫は俯きながらボソボソと答える。 「その、…――様は私の主人ですから」 「!!!…」  この二人の主従関係を目の当たりにして、青子は手首が血に滲むのも構わず暴 れる。  肉を裂いてでも、この拘束を引き千切りたかった  引き千切ってでも志姫を…愛する妻を救いたかった。  青年は青子の暴れる姿を見て、笑う 「いいザマだな愚弟?」 「くぅ……――っ!!」  己が一番憎む兄の名を叫び青子は暴れる。  その様を志姫は見かねて近寄る。 「やめてください、先生…」  先生――それはとても懐かしい呼び方だ、と青子は思った  だが、今「先生」という言葉は皮肉にも青子と志姫の距離を示していた。 「貴方」と呼ばれるのと「先生」と呼ばれること…過去、愛し合った二人にはこ の呼び方の溝はあまりにも深すぎた。 「志姫、この手枷を外してくれ!!」 「……そ、それは、私にはできません」  志姫は今にも泣きそうな顔で青子を見つめる。  まるであの頃の志姫にもどってしまったようだ 「なんでだ…なんで――なんかに従うんだ!?」 「そ、それは…」  志姫が顔を朱に染めて青子の追究の視線から反らしてしまった。 「く、くくく…」  その二人を青年は嘲笑う…嘲笑って志姫の後ろに立つ。 「決まっているだろう…志姫はお前じゃなく、私を選んだからさ」  そういって、メガネをかけた青年は洋服越しに志姫の二つのふくらみを鷲掴み にした。 「あん…!!」  突然のことに志姫は身を固くする。 「!!…貴様っ!!」 「フフフ…」  青年の瞳はメガネ越しに妖しい光を放ち、洋服越しに志姫の胸を揉みしだく。 「ん、…あっ…ふ…や、やめてください…――様」  力なく嫌々をする志姫だがそこは青年も心得ているのか、 志姫の顔をこちらに向かせ、強引に唇を奪って見せた。 「やぁ…ん、あふん…ク…」  志姫の口から唾液が零れる、それすらも青年は丹念に嘗めとる。 「し、志姫…!!」  ジャラジャラと鎖をならずだけしか出来ない青子… (いつもならこの鎖ぐらい、平気で引き千切れるのに…!!)  志姫はやがて疲れたようにぐったりとして、青年に身を預けてしまった。 「ハァ…ハァ……ン……ハァ…」  荒い呼吸をつく志姫その表情はこれから始まる何かを期待しているようなそん な表情ともとれた。 「……可愛いぞ、志姫」 と、青年は笑うと 「脱がすのが面倒だ…服を脱げ」 と、命令した。 「………くぅ!!!」   青子は悔しさで唇から血を流す。  志姫は1度そんな青子を見ていた。  その瞳は「タスケテ」と、求めていた。  だが、それは本当に一瞬で志姫は青年から身を離し、自分のメイド服を脱ぎ始 めてしまった。  青年の言葉に一言も否定の言葉を発さず、志姫はメイド服を脱いでいく。  それを青子は憎しみ、青年は愉悦に浸る瞳で見つめる。  シュル……。 と、最後の一枚を脱ぎ、ついに志姫は綺麗な肌を二人に晒した。  彫刻のような美しさ  白く、雪のような柔らかい肌…  脱いだメイド服を抱えて恥ずかしそうに俯く志姫  青年はそんな志姫を満足げに見つめるとどこから引っ張り出してきたのか革張 りのイスに座った。 「おいで、志姫…」 と、青年は志姫を招く 「……はい、――さま」  羞恥心を感じながらも、志姫はメイド服をその場に置き、青年に向かっていく 「……いくな…行くな志姫!!!!」  青子の必死の声にも志姫は振りかえらなかった。 「フフフ…残念だが、志姫はもう、私の者だよ…」 と、青年はメガネを外した。 「志姫……俺のペニスを嘗めろ」  一人称がかわる青年  志姫は椅子に座る青年にひざまずき、青年のズボンのチャックを開け、ペニス を取り出した。 「……やめてくれ、志姫」  青子は遂に目を伏せてしまった。  その様を見て青年が高らかに笑った。 「あははははは!!面白いよ青子!!そんなにこの女が愛しいのか!?」  志姫は取り出したペニスを口に含んで丹念に奉仕を始めた。 「くあ、んふ…――サマぁ…」  熱に浮かされたように志姫は自分の主の名を紡ぐ 「興奮するか?志姫…自分を救ってくれた…愛してくれた男の前で…」  青年は自分に奉仕する志姫に尋ねる。 「………!!」  その言葉に志姫の顔は一瞬凍りついた。 「フフフ…でもしょうがないよな?俺がその様にしてしまったのだから…」  青年は指先で志姫の髪を撫でながら青子を見る。 「どうだ…愚弟…悔しいか…悔しいだろうな…自分の女がよりにもよってこの俺 に奉仕しているんだからな?」  青子を嘲笑う青年の声、青子は歯をギシギシ鳴らした。 「……悔しいよナァ…青子?…じゃあ、少しサービスをしてやるよ」 と、青年は青子から志姫に視線をうつした。 「志姫…立って、俺を跨げ…」 「っ…ぅ!!!」  青子は歯が砕けんばかりに歯を軋ませた。 「はい…――様」  奉仕を途中で止めた志姫の頬は微かに紅潮していた。  志姫のなめらかな、汚れ一つない細い両腕は青年の首に回る。 「……フフ…奉仕して欲情したか?志姫…もうお前…濡れてるじゃないか…」 と、青年は志姫の濡れそぼった股間を撫でる 「ん!…んぁ…だって…」  切ない声をあげる志姫 「まあ、いい…見せてやれよ志姫…お前が今どんな女になったか あの愚弟に教えてやれ」  志姫はコク…と、頷いて青年のそそり立つペニスめがけてその身を沈めてしま った。 「志姫――――――ッ!!」 「さあ、腰を動かせ、あいつからもよく見えるように動かせ」  青年は一度腰を動かすだけであとは何もしなかった。  鞭で叩かれた馬のように、志姫は淫らに腰を動かし始めたから。 「んああ…ンフ…くああ…あん」  青子が後にいるのも構わず、志姫は青年との情事に溺れる。 「フフフ…気持ちいいぞ志姫…」 「は、はい…わ、私も…ん…はう…気持ち……いいです」  ズチャ、ズチャと、志姫の愛液か淫らな音を奏でる。  それを見ていることが出来なかった青子だったが、その音を聞き完全に勃起し てしまったいた。 「青子…勃っているのか?」  それに感づいたのかそれともそろそろだと思ったのか青年は尋ねる。 「……………やめてくれ、志姫もう…」 「弱くなった者だな、お前も…」 「………。」  青子は睨もうと顔を上げるようとするが、その気力すら出ないのかまた俯いて しまった。 「なんだよ、つまらない…お前ほどの外道が」  本当につまらない…と、志姫の乳を弄びはじめる。  が、青子はなにも動こうともしなかった  弦の切れた人形のようだった。 「…………」 「ち……もう少し遊べると思っていたのにな…」  青年は面白くなさげに舌打ちすると  突如、志姫を抱きかかえ駅弁スタイルにシフトする。 「俺は志姫を気に入ったよ…美希弥も棄て難いんだけどな」 「………(ギリ…!)」 「志姫をここまで堕とすのは骨が折れたよ、最初は舌を噛もうともしたんだからな」  挑発……これは挑発だ。 「だから美希弥にも手伝ってもらってな、今はこの通り、俺のメイドさ」  志姫は青子を見ようともしない、いや、見れないもかもしれない  ――自分はかつての最愛の人の前で痴態を、あろうことか…彼の兄の前で晒し たのだから。 「――さま」 と、鉄製の入り口で青年の呼ぶ声がした。  青子は微かに顔を上げてその人物を伺う 「………!!」  青子の顔は微かに驚嘆の色に染まった  黒い割烹着を着込んだメガネの少女……  そして白いリボン 「驚いたか…?そっくりだろうお前の女だった志姫に」  容姿はたしかに似ている…ただ纏っている雰囲気が志姫より美希弥の方が大人 の雰囲気を強く出している。 「――さま、御食事の準備が整いました。」 「ああ、すぐ行く…志姫メイド服を着ろ」 と、青年は志姫を下ろす  志姫は…まだもの足りないといった顔をしていた。 「……フン、」  青年は嘲笑すると 「青子に続きをしてもらったらどうだ」 と、二人に背を向け、美希弥と呼ばれた待女と出ていったしまった。 「……」  欲情した志姫の瞳…その目はすでに青子をうつしていなかった 「……青子、さま…私を」 「……やめてくれ、志姫」  小声で弱弱しく拒絶する青子 「己が欲するままに貫いてください…」  /  KNIGHT2000車内…蒼崎青子は目を覚ました。  どうやら走行中に眠ってしまっていたらしい。  だが、車は公道を走っている。青子はガルウイングステアリングを握ってはい ない 「ああ、運転をお前に任せて眠ってしまったのだったな」  青子は軽く伸びをすると、ステアリングに手を伸ばそうとする、が 《マスター、お疲れのようなので私が運転します》  このトランザムのAI「KNIGHT INDUSTORY 2000」 通称「KITT」がそう言った。 「……そうかでは頼む」 《お任せください》 (……最悪な目覚め方だったな…ったく)  小さく舌打ちすると青子は少し夢の内容を思い出してみた。 「クソ…兄貴が出てくる夢なんて、何年ぶりだよ」 《……悪い夢を見たのですか?》 「……ああ、大っ嫌いな奴が出てくる奴な」 《青子…夢というモノは》 「お前の薀蓄は長ったらしいんだよ」 《申し訳ありません》 「怒ってねえから別に謝るな」  青子はあえてKITTに冷たい態度を取っている。  会話するようになったのは多少なりとも志姫の影響を受けてのことだ。  KITTを譲り受ける時、瞳が蒼い長身の男はこう言った。  ――KITTを頼む  男はKITTの前のマスターだった。  彼とKITTは三年間、犯罪者達と戦い続けた。  そこで芽生えた友情、KITTと彼には切ることができない  見えない絆があるのである。  そんな彼らを知っているからこそ、青子はKITTとの会話を拒絶していたのだ。  そしてKITTもどこかで青子を拒絶している。  ――もし、詳しく知りたいなら調べてみるといい…この二人の絆の話は決して 落胆させないすばらしいものだから… 《マスター、志姫さんから連絡です》  青子の顔がほんの少し朗らかになったのをKITTは見逃さなかった。 「繋げてくれ」  志姫と暮らし始めて半年、青子は自分が変わり始めていることを自覚していた。  青子の腕に戻ってきた志姫、それだけで青子の心に光が満ちた。  帰るところがなく、ただひたすら孤独な旅を続けた青年  彼は今、志姫との幸せな生活を送っている。 『ハ〜イ、貴方♪』  モニターに黒い絹のような髪の毛を綺麗に伸ばした美女の映像が映った。 「やあ、志姫」  志姫の姿を見て青子は微笑を浮かべる。心からの、愛情に満ちた笑みだ。  満面の笑みを浮かべる遠野…いや蒼崎志姫と呼ぶべきか、  青子の腕に抱かれた彼女は過去の傷からほぼ立ち直ったと言える。  とても、綺麗な笑顔以前の彼女では絶対お目にかかれない笑顔だった。 「どうした?何かあったのか?」 『何か起こらなきゃ連絡しちゃいけない?』 「……いや、そんなことはない」 『唯、貴方の顔が見たかっただけよ』 「!!!」  さり気無い一言…青子は全ての思考を停止させて志姫を見つめる。 『?』 と、志姫は無邪気に首を傾げる。 「すぐ、帰る…」 『?…え…うん、待ってるわ』 と、青子は通信を切った。 《手玉に取られていますね?》 「うるさい…」  だが、普段の刺々しさはなく青子の顔は幾分か晴れ渡っていた。 「KITT、ここから最速で志姫のところに戻るぞ…最短ルートを割り出せ」 《分かりました》  シャキーシャキー…!!  ナビゲーションシステムを起動させるKITT  モニターにはこの街の地図がうつっている。 《次の交差点を左です》 「分かった…」  アクセルを踏み込み加速するトランザム  他の車を器用にすり抜け、あっという間にKNIGHT2000は交差点を左折し、 消えていった。 / 「……まさか、貴方が」 と、シエルは驚きの声をあげる。  遠野家の屋敷(建て直した)の居間にはアルクェイド、シエル、秋葉、翡翠、 琥珀…ともう一人  水色の髪をに橙色のイヤリングをした美青年、メガネをかけているためなおさ らその端麗な容姿に磨きをかけている。 「青崎橙子(とうじ)…どうしてここに」 「この屋敷が倒壊したというからね、私なりに興味が沸いただけです」 と、橙子と呼ばれた青年は微笑んだ。 「この、遠野の屋敷を設計してくださったのも橙子さんなんだ」 と、秋葉は付け加える。 「なるほど、KARRをわたしとアルクで直している間に貴方は蒼崎橙子とコン タクトをとり、屋敷を再建していたわけですね」 「そういうことです」 上座に座る秋葉は自分の言葉を噛み締めながらいった。 「「そうすべては」」  翡翠と琥珀が声を揃える。 「志姫をあの蒼崎青子から取り戻すために…!!」  アルクェイドが声高らかに叫んだ。  橙子はそんな五人を愉快そうに見つめ  メガネを外した。 「遠野家当主」 「!!…はい」  秋葉の顔が幾分か緊張を帯びている。  他の4人も何事かと息を潜める。 「確認しておこう、俺からの要求は覚えているな?」 「……はい、「蒼崎の魔術」ですね」 「そうだ、俺はそれだけ手に入ればそれでいい、だからこれから話す俺の作戦は そのことだけを頭にいれた作戦だということを覚えていて欲しい」 「分かりました」 と、秋葉は頷く。話がよく分からない四人も同意の態度を取る。 「青子を捕らえれば芋蔓式にお前達が欲する女も吊り上げられる…  先ずは青子を捕らえること、それが第一目的だ」 「どんな作戦なんですか?ミスターブルーにはKITTがいます」 「……そのためにKARRを蘇らせたのだろう?」 「………それは、そうですが」  シエルとアルクェイドは微かに視線を泳がせた。  まあ、この二人を見れば自ずとKARRをわざわざ蘇らせた真意も見えてくる  ズバリ  ――KARRで志姫をゲット作戦  無論、蒼崎橙子が入ってくるなど鼻の先ほどにも思っていなかった二人なので まさか、KARRが橙子の策略の駒の一つになってしまうとは…  夢にも思わなかっただろう。 「さて、シエル、KARRとやらを見せてはくれないか?」 「それは構いませんが…」 「なに、ついでにあのKITTも破壊しておこうと思ってな…」 と、橙子はニヤリと唇を歪めた。 「……え?」 「お前さんたちにちょっとしたアドヴァイスをくれてやる」  /  そんな陰謀が動き始めた頃、KNIGHT2000は街を抜け対向車もない道路を 走っていた。 「美味しかったわ」  志姫は満足そうに微笑んだ。 「気に入ってくれて嬉しいよ志姫」  高級料理店での夕食を済まし、二人はKNIGHT2000で帰途についていた。  黒いドレスを纏った志姫はとても十代とは思えないほど大人びて見える。  青子はそんな磨けば磨くほど美しくなっていく志姫を見る  無論、運転はKITTに任せてある。 「やはりお前は美しいな…」 「え…?」  何気なく出てしまった青子の言葉  そのまま激情に流されるように志姫を抱きしめる。  青子の求愛に志姫はただ顔を赤くし、青子の胸に顔を埋める。  KITTはこういう雰囲気になると何も喋れなくなる。  いや、二人を邪魔するような無粋なことはしないということにしておこう。  だが、今日に限りKITTはその二人の雰囲気に割ってはいってしまった。 《マスター、久我峰さんから連絡です》 「……後で連絡すると伝えろ」 《火急の用だそうです。》 「……なんだよ…たく…繋いでくれ」 『やあ、青子、ご機嫌いかがかしら?』  モニターに現れたのは少し太った優しそうな中年女性だった。  名は久我峰留奈美 「ああ、最高に最低だ」 『それは結構…』  久我峰は青子の不満も意に介さず用件を述べ始めた。 『青子…明日の朝に三好町へ来てくれ』 「……三好…町…だと?」  志姫の顔が微かに曇る。  イヤでもあの男たちのことを思い出してしまったのだろう 『……うむ、三好町にある遠野家は覚えているな?』 「ああ、志姫が確か屋敷の点をついて壊した…」 『その遠野家の屋敷が一晩で復活したらしい』 「「なんだって(ですって)!?」」 『……まあ、今回のことは私も気になることがあってな…君に調査をしてもらい たい』 「……分かった明日だな」 『ええ、合流場所は現地で知らせる』 「了解した」  通信が終った後、志姫はブルッと、肩を震わせた。 「……志姫」  気遣うように青子は志姫を抱き寄せる。 「……大丈夫だ」  言い聞かせ志姫を慰める青子 「違うのよ…貴方」 「ん…?」 「イヤな予感がするの…」 「イヤな予感?」 「そう、…貴方が…」 「志姫…」  青子はさらに強く志姫を抱きしめた。 「私を誰だと思ってる?オーガと引き分けた男だぞ?」 「うん、分かってる…でも」 「心配するな…志姫」  結局、車内の雰囲気は重苦しいものに変わってしまった 「貴方…?」 「なんだ?」 「なんで、あんなすんなり依頼を引き受けたの?」 「……気になることが二つあったから」 「気になること…?」 「まあ、両方とも知っても鬱になることは変わりないがね…」 と、青子は苦笑した。  /  三好町の一角にナイト財団のトレーラーの姿があった。  はっきり言って滅茶苦茶目立つ  その内部… 「よく来てくれた、青子…おお、志姫さんも」 「挨拶はあとでやってくれ…それよりも話を」  財団のトレーラーの中には青子に志姫…久我峰の姿がありその後方にKITT が控えていた。 「うむ、この写真だ」 と、久我峰は二人に数枚の写真を見せた。 その写真は新しい遠野の屋敷が撮影されていた。 その写真を見て志姫は「?」を浮かべ、青子は眉をしかめた。 「ち……」  青子は写真を志姫に渡すとKITTに向かっていった。 「どこへ行く?」   久我峰が問う 「遠野の屋敷だが?」 「君とKITTだけでは危険だわ」 「……その台詞、何度聞いたことか」 「今回はそんな掛け合いで済む問題ではないの!」  久我峰が声を荒げる。 「君の兄、「蒼崎橙子(とうじ)」が関わっているのかもしれないのよ!?」 「……久我峰」  冷たさをもったナイフのような声 「そうそう、私の前で兄の名を出すな」  KITTに乗り込む青子 「貴方…!!」  志姫がKITTに乗り込んだ青子に駆け寄った。 「……やっぱりイヤな予感がするわ」  今にも泣きそうな顔を浮かべる志姫…青子はその泣き顔を見つめ 「大丈夫だ…ちゃんと帰ってくる」 と、彼女にしか見せない微笑を浮かべる。  何を言っても無駄だと判断した志姫は 「……気を、つけてね」 健気にも笑顔を無理矢理作る。  これ以上青子を困らせてはいけないと思ったからだ。 「ああ、いってくる」  チュ…  青子は軽く志姫と唇を合わせた。 「う、うん…い、いってらっしゃい」  志姫は頬を赤くしてうつむく 「久我峰…開けてくれ」 「……分かったわ」  後方のトレーラーのハッチが開く  バックで外に出るナイト2000  スピン・ターンを格好よく決め、走り去っていった。 「気をつけて…」  志姫の中の不安は募るばかりであった。 「行くぞ…遠野の屋敷だ」 《了解しました》  /  遠野家の一室…パソコンがずらりと並び、その中央で青崎橙子が連絡をとって いた。 『……こちらコードネーム「ユダ」…ナイト2000がトレーラーを出ました。』 「ご苦労…お姫様は?」 『トレーラーの中にいます』 「では、白馬の王子様を破壊したら丁重におで迎えするのだな…なあ、ナイト諸君?」 と、橙子は後に控えている男たちに目配せをした。 「……遠野の屋敷で迎え撃つのか?」  アルクェイドが問う 「いんや、目には目を…ドリームカーにはドリームカー…シエルとKARRに行 かせた」 「……もし、KARRが敗れたら…」  秋葉が問う 「うんにゃ、それはない」 「?……その自信はどこから来るのですか…?」  橙子は愚問だと言わんばかりに答えた。 「この俺が…あのKARRを強くしてやったからだ」 「「「「!?」」」」 「ジャガーに告ぐ、ナイト2000がK地点を通過したら完全に道を封鎖しろ、N地 点までおびき寄せるんだ…いいな決して悟られるな」 橙子は軍隊の司令官のようなたちぶるまいを見せる。 (主役取られちゃった…のかな?) と、アルクェイドはそう感じずにはいられなかった。  / 《マスター…》 「……なんだ?」 《出過ぎたことを聞きますがあともうひとつの「気になること」とは何ですか?》  KITTの問いに青子は少し眉をしかめる。 「……お前には関係ないから安心しろ」 《そうですか…申し訳ありません》 「……怒ってはいない」  青子はこの三好についてからずっと不機嫌だった。  志姫が三好という地名を聞けばあの五人を思い出すように青子もまた思い出す ことがあった。  一人は最悪の兄、唯一の身内、「蒼崎橙子」  そしてもう一人… 「……乾…一子(かずし)」  ステアリングを握る力を強めて、青子は強くアクセルを踏んだ。 《マスター、スピードの出し過ぎです車がいたらどうするのですか?》 「……その時はお前が教えてくれればいい…」  キュイイイン…  車通りの少ない道路を走るナイト2000を見送る者がいる。 「(ピーガチャ)こちらジャガー…“白馬の王子様”がK地点を通過した」 『(ピーガチャ)オーヴァ…道を封鎖してしまえ』 「了解」  ナイト2000が去っていったあと、道路の真中には立ち入り禁止の看板が立 てられた。 《マスター》 「今度はなんだ?」 《スキャナの調子がおかしいです》 「メカニック…えーと誰だったか…見てもらったのか?」 《見てもらいましたが…》 「じゃあ、お前の気の持ち様だ」 と、青子は会話を打ちきった。  KITTはそんじょそこいらの人間より上手く会話が出きる。  つまり、人間と会話しているのと大差はない。  青子も会話をすぐ打ちきりたがるのはなにもKITTが嫌いだからではない  KITTのマスターは青子ではないから…それを彼は自覚をしている。  ただ、自分は偶然に借りうけただけ、それだけである。  やがて、道路は何もない廃墟の広場へと差し掛かる。 「?……KITT、現在位置を調べてくれ」 青子の声が緊張したものへと変わる 《……分かりません》 「何だって…?」 《ジャミングがかけられていて現在位置を確認できません》 「……」  青子は目を細め前方を見ることに集中した。 「やられたな…いきなり仕掛けて来るかよ」  青子は舌打ちするとKITTに周囲の監視を怠るなと指示を出そうとした。  その――刹那!!  ボーーーーン!!  廃墟の壁がぶち壊れる音、その破片を纏い、もう一つのナイト2000が現れ た。 「!!?」  紺色とシルバーのツートンカラーのナイト2000は理不尽にも壁を突き破って登 場すると  ガシャーーーーン!! 「うわっ!?」  フロントから黒いナイト2000のリアに突撃をした。  激しく拉げる、ナイト2000の黒いボディー  一回転スピンし、黒いナイト2000は色違いの自分と見詰め合った。  フォンフォン……  ファンファン…… 《KARR…》  KITTはそう呟いた。 「……KARR…だと?」 《私の兄に当たるAIです》 「…兄、ねえ…」 【久しぶりだな】 《貴方は死んだはずです》 【初っ端の挨拶がそれか……まあいい、私は蘇ったのだ貴様に復讐するためにな】 「どこの誰だよ…こんな性格捻じ曲がってそうなAI蘇らせたのは」  通信が開き、スピーカーに馴染みのある声が響き渡る。 『私ですよ、ミスターブルー』 「……第七位…シエルか」 『そうです…半年ぶりですね』 「性懲りもなくまた来たな」 『ええ、私の志姫さんをかえしてもらうまでは…』 「……彼女をモノ扱いしているから振られたんだぜ?」 「【フン、無駄話はここまでです(だ)】」 「声なんて揃えるなよ気持ち悪い…行くぞ、KITT!!」 《パワーが出ません…出力が低下しています》 「なに!?…んなバカな話が」 《さっきの衝突でシステムの7割が使用不可になりました》 【なんだ、あれしきの攻撃で半死半生か?】 「自慢の分子結合殻はその程度ですか?」  二人はイタズラ好きの子供のようにKITTと青子を嘲笑う  そしてKARRは急発進し、KITTに迫る!! 「避けろ、KITT!!」 《無防備です、貴方だけでも逃げてください!!》  ドガシャアアンン!!  激しい衝突で揺れる車内、KARRが左サイドに突撃したのだ。 《〜☆、□…○×…!!?@@!?》  モニターにが砂嵐になり、コンソール・パネルの電飾が激しく狂う  狂う…KITTが狂う回路が激しくショートする。 「……ッ!なんでこっちが傷ついてるのにあっちは平気なんだよ!?」  青子がオーバーヘッドコンソロールのスイッチをいじりながらぼやく  ニ撃目……はフロントノーズだった。  初撃で動くことが出来なくなったKITTはその攻撃を逃れる術を持たない。  どごっ!! 「ぐわっ!!」  その衝撃で青子はKITTの心臓ともいえるコンソールパネルに頭をぶつけて しまう  レーザーシートベルトなるものが装備されているのだが、もはや、その機能す ら望めない。 「〜〜……くぅ…」 意識を失いかける青子 「……し、姫…」  青子の脳裏に無邪気に笑う少女の姿が浮かんで消えた。  はげしく拉げてしまったフロントノーズかつて紅い残光を残し、往復していた ナイトフラッシャーは一個の残光を残すのみとなった。 【トドメだ…】  KARRがKITTとの距離を数十メートル離すと、また急発進、急加速する!!  そのまま自分だけにある、KITTにはない装甲の特性を活かして跳ね飛ばそ うというのである。 《バチ…ア、オ…シ…ニゲテ…》  KITTはかすれた声でそういうと、最後の力を振り絞るように一個のボタン だけを点灯させた。  ――AUTO・ROOF・RIGHT――  バシュッ!!  青子の生身がサンルーフから排出された。  だが、KITTの願いも虚しく、青子はKITTから数十メートル離れた地点 に落下してしまった。  そして、迫る――KARR 【消えろ――】  ドガシャアアアアアアアアン!!  跳ね飛ばされ、宙を舞うKITT  ぐわしゃん!!!!  一回転し、KITTは無様に着地した。  微かに残っていたナイトフラッシャーの残光も遂に消えてしまった。 「う……クゥ……あ…」  微かなうめき声をあげ、青子は起きあがろうとした。  が、腕に力が入らず、その場に崩れ落ちる。 「……く、くそ…」  額から流れる血にも構わず、青子は立ち上がろうとする。  その姿を嘲笑う青年の姿があった。 「無様だな…愚弟」 「!!……」  その青年を見て青子の中からふつふつと怒りのマグマが涌き出てきた。 「橙子ィ!!!!」  満身創痍とは言えない体で青子は自分の兄に殴りかかる…が 「うぐ……」 「そんな体で俺を殴り飛ばせるわけがないだろう?」  弟の腹にめり込む兄の拳  見下した笑みを浮かべる兄  それを悔しげな眼差しでみることしか出来ない弟  青子の意識は闇に溺れていった。 (志姫………。)  愛しい、この世の何にも変えがたい、愛しい女を思いながら…                            暗躍編へつづく あとがき/  アゲハチョウを書いたとき私は幾つか気をつけたことがありました。  KITTを喋らせないことや、あえてナイト2000と表現しなかったりナイ トライダーを隠すような小細工(?)をしました。  しかし…「サナギノショウジョ」を読んだ時…私は後悔しました 「ヤバイ…もっと暴走すればよかった」  んなわけで破壊編を書いたわけです。橙子(とうじ)さんに久我峰… を出したわけですが…やばい…全然キャラが違う…  自分の技術力のなさに嘆くばかりなのですが…  うーん…悩んでばかりで鬱な毎日を送っている天戯恭介でした。(汗)  追伸…しにをさん開設1周年おめでとうございます
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