「式――し、き……!」
「ん、ッ……!」

 口の中で、ペニスが大きく脈打った。
 ……ああ、アレが来るんだ。
 白くて、糸を引いて、どろどろと粘る。
 ハレツしそうな心臓が、私そのものが、揺
れるように高鳴る。

「ふむ――ぅっ、ンぁ……んっ、むッ……!」

 目の前に迫った射精。
 それが怖いどころか、唇も舌も吐き出され
るものを待ち構えるように熱っぽく動く。
 もちろん、彼らが勝手に動き回るはずはな
いから、私自身が紛れもなく望んでいるのだ。
 兄貴の白い粘りが、注がれる瞬間を。
 鮮花に追いつくため?
 幹也への復讐のため?
 それとも、ただ淫らな欲望を満たすため?
 どれも正解。
 優先順位はつけられないけど、
 ――今は、少しでも早くあの白濁を注がれ
てみたい。
 むせ返るほど兄貴のもので満たされた、こ
の口の中に。

「ん――っ、ふぅ、んっ、ふぁっ……!」

 亀頭だけじゃおさまらなくなって、突き出
した唇で竿の半ばまでを包む。そのままじゅ
るじゅると吸い立てて、根本を無心に上下に
摩擦する。
 ずる、ずる、ずる
 緊張しきったペニスの肌と、ぬるぬるに汚
れた私の指が擦れ合う音。
 もう、はっきりと感じられる痙攣。
 来る。もうすぐ、弾ける――
 汗のように流れて、口内を汚す先走り。
 塩辛い味を舌で舐って、濃厚なディープキ
スで続きをねだる。
 強く、強く、吸い立てながら誘う。
 ――早く。
 全部、もらってあげるから――

「式……! も、うっ……!」

 遥か上で、兄貴の首が、状態が仰け反る。
 逞しい手が伸びてきて、縋るように私の髪
をくしゃくしゃと撫でる。
 その、最後の一線を千切るように、手の中
でペニスを滅茶苦茶に弄ぶ。
 どく、どくと、波打つ姿はまるで心臓。
 私は吸血鬼のように、その熱いポンプに唇
を寄せる。

「んぅ……んッ、あンんっ……!」

 口の中で反り返るペニス。
 焼けついて蠢く、ピンク色の亀頭。
 その先にあるものを、喉奥に熱く求める。

「う、あ、あっ……く、」

 身体ばかりか声まで震わせて、兄貴が私を
見た。その瞳から投げられたコトバは、
 “もうやめて?”
 “もう、我慢できない?”
 いいよ、兄貴。我慢なんてしないで。
 ペニスを咥え、舌をくゆらせながら、私も
ゆるゆると兄貴を見上げる。
 そして、同じように瞳に言葉を託し、訴え
た。
 ――全部、オレに出して、兄貴。
 瞳の奥まで透かすように、熱をこめて眼刺
(マナザ)す。
 それだけで充分。
 答えは、こうやって確かめる。

「ん、っ――」

 亀頭から付け根まで、爪を立てるくらいに
握った指を滑らせる。その後を追って、窄め
た唇でペニスを包み、
 最後に――ぺろり、と一舐め。

「――出、るっ……!」

 答える代わりに、喉奥まで滑り込んでくる
熱い肉棒。そして、もっと熱いマグマがいっ
ぱいに弾けた。

「んん、ンっ……!」

 一瞬、亀頭が風船みたいに膨らんで、次の
瞬間には喉に熱いモノが浴びせかけられる。
 どく、どく、どく。
 舌の上に、いくつもの塊が降り注ぐ。
 熱くて、ぬるぬると絡みついて。

「んふ……ぁっ、ン、むっ――」

 凄い。匂いも、味も、塩辛くて生臭くて、
そして――どろりと濃い。
 これが、兄貴の、精液。

「っ、は……っ、かはっ……!」
「ンぅ……っ」

 乱暴に、兄貴の指が頭を後ろから押しつけ
る。喉につかえそうになる肉棒を頬へと逸ら
して、果てのない射精を受け入れる。
 びゅくびゅくと溢れる白濁は、もう口の中
をいっぱいに満たして、ゼリーみたいにあち
こちへこびりつく。

「は……ンっ、んく……」

 唇でペニスを押さえながら、少しずつ精液
を喉に零していく。感触はゼリーだけど、粘
りはまるでジャムみたい。
 なかなか落ちていかずに、喉の中でねろね
ろと絡んで糸を引く。
 ……すごい、味。
 鮮花、こんなの、飲んでたんだ。
 でも――幹也のは、やっぱり兄貴とは違う
味なの、かな。

「んっ、んっ……ン――ふっ……」

 口腔をぐちゃぐちゃに汚した粘液。
 息苦しいくらいに満たされた兄貴の精を、
鼻を鳴らしながら喉に通す。
 飲んでも飲んでも、兄貴はまた次々と新し
い粘りを弾けさせる。
 そういえば、橙子が言っていた。
 射精は放尿と同じ生理現象の一種だから、
一度始まってしまえば自力での制止は難しい。
 ――でも、機構的ゆえに他人が止めてしま
うのは簡単なんだ、って。
 栗の花みたいな匂いに蕩けた頭で、私はち
ょっとした趣向を思いつく。
 教わった悪戯を、試してみよう。

「ふぁ……あっ、んっ、ン……ぷっ」

 歯茎や舌まで白濁の粘りを絡めたまま、緩
慢に口を開いていく。
 激しく樹液を放ちつづけるペニスの先端に
手を伸ばして、苦しげに震える亀頭に触れる。
 そして、親指の腹で裏筋の腺を圧迫する。

「う――!?」

 兄貴が、腿から頭までを打たれたようにび
くんと痙攣させる。滝のように打ち付けられ
ていた精液の放出が、止まった。
 代わりに、ペニスの震えが一段と強くなる。

「ふ――はぁぁっ……」

 舌と繋がって糸を引くペニスを引き抜いて、
溜まりに溜まった精液をすべて飲み乾す。

「ん……ぁッ、兄貴、すごいんだね……まだ、
口の中、どろどろだ……」

 舌で触れてみると、口の中にはまだところ
どころに精の残滓が付着して、蜂蜜を飲んだ
みたいに粘つく。
 兄貴は、私に何かを言い返すでもなく、苦
しげに顔を歪めたままじっと一点を見ている。
 私が指で抓んだペニス――その、圧迫され
た細い管を。

「へえ……こうすると本当に出せないんだ。
 面白いね、コレ」

 射精を無理矢理に抑え込まれて苦悶する男
根は、蛇の首みたいに暴れる。

「ん――っ……」

 さんざん苦味を吐き出された仕返しに、亀
頭を包んで思いっきり濃厚なキスをする。
 実際ならもう一度射精しているところだろ
う。でも、スイッチを無理矢理切られている
兄貴は、白ずんだ腺液を僅かに染みさせるこ
としかできない。
 指で押さえているだけなのに、本当、不思
議だ。

「し、式……はな、せっ……!」
「ん? どうしようかな……このまま破裂し
ちゃうまでいじめるのも楽しそうだし。
 今の兄貴の顔――かわいいから」

 これは本音。
 汗を浮かべて悶える兄貴は、女の子みたい
に艶っぽい。
 ずりゅ、と脈打つペニスを強く扱く。

「ぐ、あっ……!」
「出したい……? この、びくびく震えてる
の、全部オレに」
「っ……!」

 管を押す指へ、さらに力を込める。
 裏腹に、顔からは力を抜く。

「……ふふ、冗談だよ。実はね――兄貴にも、
ちょっとハライセさせてやろうかと思って」
「え……?」
「兄貴に味見させてあげるって言ったのに、
オレばっかりいい目を見ててむかつくよね。
 出せなくて苦しいのに、オレが気持ち良さ
そうな顔するのは気に食わないでしょ?
 だからさ、」

 つぷり、と尿道に伸ばした舌を差し込む。

「ぐ――!」

 兄貴の悲鳴もよそに、柔肉を揺らして粘膜
を愛撫する。滅茶苦茶に、壊れるくらいに。
 暴れる男根を押さえつけて、素早く唇を離
す。指の中で、兄貴のものはまた一回りくら
い膨れた。

「この顔が気に食わないんでしょ?
 だったら――兄貴、汚して……いいよ」

 言って、親指を離す。
 ぶるん、と手を弾かんばかりにペニスが跳
ねる。鼻先へそれを導いた時、兄貴がお腹の
底から悲鳴を吐き出した。

「あ……あぁぁぁっ――!」

 くびれた亀頭の先から、また白い雫が迸る。
 飛び散った粘液が、雨みたいに降り注ぐ。
 瞼に、鼻先に、頬に、唇に。
 顔じゅう、兄貴ので汚されていく。

「ふぁ……熱っ、あに、きっ……!」

 ――これは、私なりのサービスだ。
 兄貴の精液を飲み干して、私はようやく鮮
花に追いついた。
 でも、追いつくだけじゃ気に入らない。
 もう一歩抜かしてやるために、コレをした。
 鮮花でさえできなかったことを。

「ん……ふっ、いっぱい、垂れてくる……」

 顔を使って、男の液を受け止める。
 顔いちめんを、男の液で汚される。
 それは、なんてぞくぞくする、背徳。
 一瞬、鮮花も黒桐も、兄貴さえ忘れて、お
腹の底から込み上げる熱に震える。

「し――式……」

 ペニスを痙攣させたまま、兄貴が呆けたよ
うに私を見る。鼻の脇を流れ落ちる精液を舐
め取って、意地悪に答えてやった。

「いっぱい……顔じゅうどろどろだよ。
 兄貴に――汚されちゃった」

 顔だけじゃなく、髪にまで白濁を浴びせか
けられて、兄貴にたくさん汚された。
 でも――まだ足りない。
 私が、幹也にとっての別な私になる為に。
 あいつがまだ私を見ていてくれるなら、き
っと気づくはずだ。
 幹也が私にくれたもの――思っている人を、
誰かに奪われてしまう痛み。汚されてしまう
悔しさに。
 さあ、復讐も大詰めだ。
 顔を滴る精液さえ放ったまま、私は立ち上
がって腰帯を解く。肌蹴た胸元から、一息に
襦袢を脱ぎ捨てる。

「あ……」

 息を飲む兄貴に背を向けて、数歩下がる。
 裸のうなじに、背筋に、尻に、ねっとりと
絡みつく視線。
 ……そうだよ、見てほしいのはそこ。
 これから、あなたが犯す場所。
 暗い願望に身体が灼ける。
 胎の奥底から二つのいりぐちへ湧き上がる
感覚に震えながら、膝を折る。

「んっ……」

 肘を杖にして、丸まった猫のように畳の上
に伏せる。汗の浮いた乳房が畳に擦れて、く
すぐったく湿る。
 そうして私は、背中の兄を仰ぎながらじわ
じわと股を開き、尻を持ち上げて見せる。
 股間から尻の膨らみ、窄まりへ、熱い視線
が蛇のように伝う。さらに眼を引くように虚
空へ尻を振って、私は最後の呪いを口にする。

「……さあ、約束だよ兄貴。
 オレの味見、してくれるって言ったよね」

 よく見えるように持ち上げて、熱くなった
尻を兄貴へと向ける。
 ……早く、ここへきて。
 躊躇いながらも、兄貴がまるでおさまって
ないのは股間の剛直を見ればよくわかる。
 私だって、ここで足踏みなんて御免だ。
 今更、後戻りなんてできない。
 もう割り切ったと思いながら、心臓は嘲笑
うかのように鼓動を早める。
 はしたない姿で、自分を犯すものを待つ。
 犯してもらえなければ、私は本当にはした
なくて――馬鹿、みたいだから。

「――」

 静まった部屋に鳴ったのは、私と兄貴とど
ちらの喉か。

「あっ……!」

 前触れなく、持ち上げた尻から腰にかけて
を硬い指に撫でられて、身体が跳ねる。
 気付けば、もう触れるほど近くに兄貴の身
体があった。

「あ、兄貴……きゃっ!」
「は――ぁッ」

 尻の肉を擦っていた指が左右に伸びて、腰
をきつく捕らえる。驚くより早く、割られた
股の間で熱いものがぴくんと蠢いた。

「は……っぅ――ん、ッ……!」

 ペニスのくびれが、股間のスリットを戯れ
るようになぞる。触れられたばかりなのに、
フェラチオの興奮で肉の亀裂はもうすっかり
潤んでいる。
 いりぐちを熱いモノで擦られる。
 それだけで、頭がぼうっとするほど気持ち
が良くて、いやらしい気分になる。
 熱くて、とろけそう。だけど。
 ――そこは、ダメ。

「ふぁ……あっ」

 熱っぽい身体を振って、股間に蠢くものを
別の場所へ導く。

「いや――こっち、兄貴……」

 ペニスの先端を亀裂から逃がして、立たせ
たままつぅ、と股下を伝わせる。
 両手を後ろに下げて、鷲掴みにした尻の肉
を、その谷間を、ゆっくりと左右に広げる。
 弛んだ窄まりを曝け出して、筆のように伝
ってくる肉棒を、そこへと誘う。

「式……?」
「……オレ、こっちも自信ある。どうせなら
さ、美味しいほうでしようよ、兄貴」

 ごめん、兄貴。
 私は、半分だけ嘘をついている。
 私は誰かに汚されたいと願いながら、幹也
との繋がりを捨てきれずにいる。
 いつか、またあいつが触れてくれるなら、
あいつのためだけの場所を守りつづけたいな
んて、考えてる。
 だから――そこは、兄貴にはあげられない。
 でも、自信があるっていうのは本当だから。
 せめて巻き込んでしまった分だけは、思い
っきり楽しませてあげる。

「ね……あに、きっ……」

 自ら割った尻へ兄貴のペニスを導いて、柔
軟な肉の谷で挟みこむ。染みるような熱を間
近に感じながら、腰を緩やかに上下させる。

「ん……くっ、ふぁ……あっ」

 ずる、ずると、柔肉に挟まれたペニスが上
下に擦れる。竿には射精した白濁が残ってい
て、摩擦の度に私の肌へと塗りつけられる。
 頬が、頭が――ペニスの先にある菊座が、
熱くなる。
 このまま、何も考えられないうちに。

「う……」

 けれど、兄貴はいつかの私のように踏み出
しかねている。私だってさんざ逡巡したんだ
から、気持ちは分かるけど。
 でも――ここで逃げ出すなんて、許さない
から。

「んぁ……兄貴……はや、くぅっ……」

 腰を揺らしながら、するすると手を伸ばし
て、尻に触れたペニスを握る。
 ひくつく菊座へ亀頭を押し付けて、性器と
いりぐちを何度も擦りあわせる。
 
「っ……」

 この誘惑は効いたと見えて、私の指とは異
なる動きがペニスに加わり、尻の谷間をくす
ぐる。やや遅れて、腰を掴まえていた両手に
ぐっと力が篭る。

「あ――」

 振り返るより早く、灼熱が私を貫いた。

「んっ……! は、んっ……すご――熱いの、
入って、くるっ……!」 

 窄まりを押し広げて、身体の奥に入ってく
るのはホンモノの肉。
 本物のペニス。
 幹也じゃない男の人の、ペニス。
 ……ああ。私は今、あいつを裏切ったんだ。
 なんて深い虚無。嘘みたいに熱くて、
 誤魔化せないほど、キモチがいい。
 感覚に押し流されそうで、尻に添えていた
手で縋るように床を掴む。

「あ……はっ、ンぁぁっ……!」

 ゆっくりと、歩くように緩慢に、菊座の中
を熱い肉が進んでくる。
 ずぶずぶと、お腹まで響く。
 橙子に散々使われたおかげで息苦しさはな
いけど。
 ……やっぱり、直接に身体の奥を撫でまわ
されるようなこの感覚は、ガマンが、できな
い。ひくん、と弛んだ菊座が緊張する。

「……ほら、動いて。オレの中、感じてみて、
兄貴……」

 繋がりやすいように腰を浮かせて、兄貴を
促すように首を縦に振る。
 もう、ペニスは私に咥えられてる。
 ここまで来たら――
 私が鑑みるまでもなく、兄貴もそう思って
くれたのか。身体の中の熱が、ゆさゆさと自
ら動きはじめる。

「う、くっ……!」

 狼みたいな唸り声を上げて、兄貴が動き出
す。汗の浮いた指が腰に絡んで、私をきつく
押さえつける。
 緩慢だった侵入が、勢いを増す。

「あ――ンんッ……!」

 張り詰めた亀頭が、内壁を広げて一気に奥
へ進んでくる。
 菊座にぴったりと絡みつくペニスの、いや
らしいくびれの形まではっきり感じられる。
 兄貴の、あの大きいのが、深く深く、私の
中に潜り込む。

「く……し、式っ、こんな……」

 淫らに作り変えられた肉の穴は、逞しい男
根を吐き出すどころか貪欲に飲み込み、激し
く締めつける。
 兄貴のものが進む度に、頭へ直接に快感が
走って、無意識に菊座が締まる。

「ん、くぅっ……ほら、兄貴、止まってる…
…!」

 弧を描くように尻を振ると、熱い肉と肉が
擦れ合って、中でペニスが魚みたいに跳ねた。

「う……くっ、はぁッ……!」

 両手を腰から尻に移動させて、兄貴もよう
やく能動的に動き出す。広く長いストローク
で、ペニスを私の中へ飲み込ませる。

「んぁ……あっ、は――ぁぁッ……!」

 肉壁をぐりぐりと抉りながら突き進む熱い
屹立。それは焦らすように鈍く、積み重ねる
ように速度を上げていく。
 突つくようだった動きが、時間をかけてス
ムーズに前後する。

「んく、ッあ……はぁッ、んんッ……! 兄
貴……もっと、つよくして、いいよ……!」
「こ――こう、か……?」
「んっ――!」

 数回に分けて、叩きつけるような強い律動
が襲ってくる。ペニスが深く沈んで、届きそ
うで届かなかった奥へと触れる。
 やや欲求が先走っていた身体は、それで少
し救われて、鼻にかかった悲鳴が漏れる。

「あ……ふっ、もっと、つよ、く――」

 自ら望んだとはいえ、この身体は少々淫ら
に育ちすぎた。おかげで、こんな緩い刺激じ
ゃ全然足りない。
 もっともっと、お腹まで突き抜けるような、
壊れるくらいに乱暴な攻めが欲しい。

「はぁ、はぁっ……!」

 兄貴は息を乱して、荒っぽく腰を打ちつけ
てくる。でも、どこか遠慮や加減が含まれて
いて、挿入そのものの激しさは殺されてしま
っている。
 明らかに、女性を抱くことに慣れていない
動きだった。

「ん――」

 私にしてみても、慣れるというほどの経験
は積んでいない。
 要は密度の問題だ。
 文字通り一日の長でも、なまじっかの恋人
以上の交わりを私は体験している。
 それに、出来る限り楽しませてあげる約束
だから。
 少し、覚えた手管を試してみよう。

「うぁ……んっ、く、ふっ……!」

 兄貴の律動を受け容れながら、少しずつ腰
を浮かせていく。浮いた腰とペニスがまっす
ぐに向かい合うまで動かして、二度、三度と
突き入れられるペニスを受け止める。

「あっ、あっ……あぁっ――!」

 肉とともに突き抜ける感覚に、ぶるぶると
両手が震える。緩やかに引き戻され、もう一
度進んでくる、いきり立った肉茎。
 その先端へ、私も自ら腰を打ち付ける。
 二人分の勢いを受けて、ペニスが深々と菊
座に飲み込まれる。

「うぁ……あっ、深、いっ……! んぁ……
あに、きっ……!」

 今までとは比較にならないほど強く深い快
楽。お尻の奥まで、兄貴の熱が貫いてくる。
 お腹まで、兄貴が届いてる。
 ――幹也じゃなくて、兄貴が。
 悲しいのに、身体は裏腹に熱く溶けそうに
なる。

「し、き……式っ……!」

 ぐにぐにと、兄貴の指が尻を揉みしだいて、
くすぐるような快感が走る。
 まだどこかぎこちなく、けれど力強く、ペ
ニスは菊座を広げ進む。

「あ……ぅんっ、そ――う、兄貴、もっと、
突い、てっ……!」

 兄貴の動きに合わせて、私も大きく腰を使
う。差し出された男根を導いて、弛んだ穴の
奥まで咥えこむ。
 液に潤って、いやらしく弛緩した菊座。
 それは、兄貴の張り詰めたものを、嬉しそ
うに頬張る唇。

「はぁっ、あぁ……っン、んぁ、あはぁぁッ
……!」

 根本まで飲み込んだペニスを、尻を窄めて
締めつける。
 震える竿を咥えたまま、兄貴へ密着するよ
うに何度も腰を前後に打ち振るう。
 腰を使う度に、ペニスが槍のように身体を
貫く。

「んん……っ、やっ、お腹に……ずん、ずん
っ、響いて――く、るっ……!」

 律動の味を覚えた尻は、理性を置き去りに
して激しく舞い踊る。全身を使って、結合を
さらに深く、淫靡なものに変えていく。
 ――もっと、もっと、気持ち良く。

「んっ、んっ、あぅっ、兄、きっ……!」

 お尻の中から灼けるように熱くなって、背
筋が反り返る。
 打ちつける腰が、次第に早くなる。
 後ろに、受け容れてるのに。
 なんで、こんなに、頭も身体もとろけそう
なくらい、気持ちが、いいんだろう。
 夢に落ちていくみたいに、快楽に支配され
た意識は、何も考えられなくなる。
 それでも、獣みたいに振り乱す腰だけは、
どうしても止まらなかった。

「く……し、締まる……式っ……!」

 兄貴も少しずつ慣れてきて、リズミカルな
腰使いで私を攻める。
 押しつけた尻に、体重を乗せてペニスが突
き出され、ぬらりと滑りながらまた私に入っ
てくる。
 熱い。熱くて、いやらしい気持ちになる。

「ん……ぁッ、じゃ、こんなのは……?」

 腰を思い切り引いて、兄貴に身体ごと擦り
寄っていく。ずぶずぶと、ペニスが根本まで
菊座へ埋没する。

「んく――ぅっ……」

 頭の中に、深い靄がかかる。
 炎みたいに熱くなった息を喉から逃がして、
床についた両手と膝に力を込める。

「んは……あっ、あぅ……あぁぁッ……!」

 ぐるん、と腰を捻って、飲み込んだペニス
で文字を描くように尻を虚空に揺らす。
 円を描いたり、直角の線を引いたり、唐突
に元のピストン運動に戻したり。
 その度にペニスと菊座の違う部分が擦れて、
いくつもの痺れが躰を走り抜ける。

「あ、ん、くぅっ……! 兄貴の、いっぱい、
あたってる、よぉっ……!」
「う……あ、くっ、式っ……!」

 兄貴は私にも増して興奮に浮かされている。
 私の背中に粘性の吐息を浴びせながら、何
度も何度も尻穴へペニスを穿つ。
 真っ直ぐに力強く打ち込まれる男根を、私
は腰をくねらせて受け止める。
 怒張したものがうねりながら狭い菊座を突
き抜けて、その感触を直腸にまで響かせる。

「あ……はっ、はぁッ……んっ、も……っ、
オレ、熱くて……頭、ヘンに、なりそうっ…
…!」

 頭だけじゃなく、身体じゅうが熱湯に使っ
たように火照っている。
 今も熱いペニスに貫かれる菊座は、染み出
した腸液で膣みたいにとろけてる。

「っ……!」
「ふあ、っ……!?」

 深々と突き立てられたペニスが、私の中で
小さく痙攣を始める。私と同じく、兄貴も随
分できあがってしまったようだ。
 もう少しで、あの熱い精液が、私の中に来
るんだ。
 ――兄貴が、私を汚すんだ。

「ね……もっと、もっと激しくして、兄貴…
…! 早く、オレの中――来てっ……!」

 濁った欲望に浮かされながら、四つん這い
で突き出した尻を振り乱す。
 ぐぷ、ぐぷ、と杭のように身体の中へ男を
飲みこんで、快楽を貪る。

「いい……気持ち、いいよぉっ……! だか
ら……もっと、兄貴っ……!」

 キモチイイ。
 すべてが吹き飛びそうなくらい、気持ちが
良いけど。
 本当に欲しいのは快楽じゃない。
 証が。黒桐幹也にとっての両儀式が、穢れ
てしまったという分かりやすい証が欲しいだ
け。
 そのためだけに、実の兄すら欺いて、ケダ
モノみたいに尻を見せつけ振っている。
 早く、早く。
 こんな気持ちさえ忘れてしまえるように、
 あの、熱くていやらしい粘りが欲しい。

「し……式、このまま、行くぞ……!」
「う――ん、来て、兄貴っ……!」

 兄貴が背中に覆い被さって、全身を蠢かせ
る。腰が何度も尻に打ちつけられて、その奥
でペニスが菊座を割り広げる。
 小刻みで早い律動が続く。
 私と兄貴の体液で濡れた男根が、ぬらぬら
滑りながら、菊座をしつこく蹂躙する。

「あっ、あっ、あっ……!」

 一度ごとに、お腹の奥へ響く刺激。
 ぬめった内壁が、苦しげに震えるペニスを
はっきりと感じ取る。
 私も、もう声を抑えきれない。
 ただ、熱くて、欲しくて、そのために動か
す尻を、止められない。
 突いて、ほぐして、貫いて。
 早く、たくさん、注いで――兄貴!

「ふぁ……擦って、とどい、てるっ……! 
すごい、こんな――ふか、いっ……!」

 ずちゅ、ずちゅ、と、自分の身体から発し
ているとは思えない卑猥な音が響く。
 肉と肉とが絡まるリズムが、蕩けた頭をさ
らにダメにする。
 欲しい。もっと、乱暴でいいから。
 兄貴の、熱くて大きくて、やらしい形のペ
ニス。
 そこから走る、熱い雫。
 だから早く。もっと強く――

「式、式……し、きっ……!」

 兄貴の両手が、乱暴に乳房を掴んでくじく。
 ペニスがさらに早く、私を掻き回す。

「んん――んっ、くぅ、あっ……!」

 ダメ、もう――力、入らない。
 膨らんだ亀頭がくりくりと尻奥を擦って、
糸が切れるような浮遊感が連続する。
 刺激に反応した筋肉が、逞しい侵入者を四
方から押さえつけ、締め上げる。

「ふぁ……ッ、たくさん、震えてる……来る
の、兄貴……?」

 締めつければ締めつけただけ、限界の迫っ
た兄貴の震えがよく解かる。
 でも、そろそろ私もそんなコトまで気にし
てられない。
 身体の中で爆発しそうな感覚。
 抑えることさえできず流されるだけ。
 でも、私は汚れていく自分を、誰よりはっ
きりと見届けなければならない。

「んぁ、あ、あっ……!」

 お尻の中で、まだペニスが大きく跳ねた。
 それは、口の中へ溢れるほど吐き出された
あの時の痙攣によく似ていて。
 ――来る。兄貴が、はじける。
 目の前に迫った射精を意識して、腰から下
の感覚が淡くなるのを感じる。

「んん、んっ……くぅ、んっ……!」

 左右にペニスを捻りながら、突き刺すよう
な律動をじっと受け容れる。
 一つ、二つ、頭に響く快楽の数を数えてい
ると、それは瞬く間に加速して。
 大きく引き戻された竿が、

「あ……にき、っ――」

 縋るように叫ぶ。
 声が届いたのか、背中から兄貴の手がすっ
ぽりと私を包んで、
 荒々しく一度、ペニスが私を貫いた。

「く、ぅっ……!」

 うなじのすぐ後ろで、兄貴の荒い唸り声。
 それを追うように、お尻の中で熱が弾けた。

「ふぁ、あ、あぁぁっ……!」

 マグマみたいに熱いものが、菊座の中を溢
れかえって流れる。勢いは収まらず、白い滝
は細い空洞を昇って直腸へ降り注ぐ。
 熱い。
 口や顔に浴びせられるのとは全然違う。

「うぁ、っ……! んん……あに、きっ――
出、てるっ……」

 自分の奥の奥で、何もかも弾けてる。
 これが、身体で誰かを受け容れる感覚。
 裏を返せば、誰かに身体を犯される感覚な
んだ。

「んく……あ、はっ、まだ、出、てっ……!」

 射精はまるで衰えずに、また二度、三度と
尻の中に熱い雨を降らせる。どろり、と、精
が塊になって内壁を奥まで滑り落ちていく。

「ん……ッ、ふぅっ……」

 お腹の底に集まっていく熱、精液の粘りを
感じながら、力が抜ける。お腹が、熱い。
 お尻には、まだ繋がったまま、兄貴のペニ
スが痙攣して精の残滓を零している。
 背中越しに、兄貴の重い呼吸が聞こえる。
 やっと、実感が湧いてくる。
 ――全部、終わったんだ。

「……オレ、兄貴としちゃった。でも、おま
えのせいなんだからな――コクトー」

 呟いたのは、誰にも聴こえないくらい小さ
な呪い。お尻で繋がったまま、二人とも横に
なる。
 ぴたりと触れ合った背中から、絡められた
腕から、兄貴の汗ばんだ肌の温もりが感じら
れる。
 本当なら、あいつとこんな時間を過ごして
いたかもしれない。
 でも、私は今、兄貴といる。
 幹也が手を引いてくれなかったから、私は
兄貴の手を引いて、すべてを触れさせた。
 あいつのものだった身体を、汚してやった。

「ん……っ」

 射精の衝撃は思ったよりずっと大きく、少
し身体が重い。このまま、朝まで兄貴にくっ
ついて眠ってしまおうかとも思ったけど。
 ……なにか、すっきりしない。
 射精を受けた菊座の奥が、ぴりぴりと疼く。

「――あ」

 そう、気づいてみれば。
 どこか迷走じみた復讐も終わって、終着の
安らぎと空っぽの自分を感じるだけの作業が
残ったはずなのに。

「……あ、つっ」

 私は、カラになっていない。
 まだ、なにかを感じている。
 ペニスを挟みこんだ尻、その更に奥。
 女の身体の底で、空疎な何かが疼いている。
 熱い。兄貴にいっぱい吐き出されて萎えた
はずの欲望が、また鎌首を擡げる。
 いやらしい気分に、なってくる。
 ――だって。
 兄貴は私の中に弾けたけど、私はまだ取り
残されてる。
 膨らんで、膨らんで、爆発する寸前でおあ
ずけを食わされたまま。
 だから、こんなに熱くて切ないんだ。
 いやらしい欲望が、煮えきらずに残ってい
る。兄貴の、逞しいままのペニスも。
 だったら――

「あに――き」
「ん……?」

 胸に添えられた手を握って、背中の兄貴へ
囁く。

「……オレ、まだ満足してない。一人だけす
っきりして終わりじゃないよね?
 最後まで――男らしい所、見せてよ」

 挑発代わりに、ペニスを飲み込んだままの
尻を兄貴の股間に摺り寄せる。
 私はまだいけるぞ、って見せつける。

「もうダメ、なんて言わないでしょ?
 ね……兄貴。ちゃんとオレのこと、やっつ
けてよ」

 妹に負けたままなんて情けないじゃない、
と暗に男心をくすぐってやる。
 いくら兄貴が男女のいろはに疎いとはいっ
ても、これは効いたみたいだった。

「どうする? もう一回、してくれるの?」

 首だけで振り返ると、兄貴は疲れを残しな
がらも険しい顔で頷いた。
 ……そうこなくっちゃ。

「じゃ……ね、早く、また来て――」

 身体を起こすと、まだ尻に入ったままのペ
ニスが抜けそうになる。
 危うい所で、起き上がった兄貴がまた背中
から深々と挿入してくれた。

「ん……あっ……!」

 下腹の熱が一気に膨れ上がる。
 やっぱり、まるで収まってなんかいない。
 ガマン、できない――
 くん、と貫かれたままの尻を持ち上げて、
兄貴に押しつける。両手の指が、蜘蛛のよう
にさわさわと尻の肉を弄ぶ。 
 ――さあ。今度こそ、一緒に連れて行って、
兄貴。

「動くぞ、式……」

 今度は振り向かずに頷くと、尻に添えられ
た手にぎゅっと力が篭って、ペニスが勢いよ
く沈んだ。遠慮も何もなしに、一気に根本ま
で尻へ咥えさせる。

「きゃ……んっ、くぅっ……! あ、兄貴、
いきなり……! 奥、にっ……!」

 一度目とは打って変わって性急な律動に、
ちょっと動転する。
 兄貴は私の悲鳴を無視して、抉るように激
しいピストン運動を繰り返す。

「ふぁ……あっ、はっ、んんッ……!」

 自尊心を傷つけられたのか、兄貴の攻めは
豹変したように暴力的だった。
 昂ぶりはペニスにも如実に現れて、萎える
前よりも硬く反り返っている。
 そして――

「や……んっ、当たって――んっ、おなかに、
とどい、てるッ……ひぁ、兄、貴っ……!」

 私を襲う快楽も、極めつけに高まる。
 いや、むしろ高まっているのはこの身体か。
 焦らしに焦らされた牝の肉は、刻まれたし
たたかさなどかなぐり捨てて快楽に隷属する。
 反撃しようと思っても、貫かれる悦びに震
える身体は思惑通りに動いてくれない。
 ただ、四つに這ったまま、兄貴の荒々しい
挿入を従順に受け容れるだけ。

「んく、あっ、あぁっ……!」

 壊れんばかりに貫きながら、兄貴が背筋に
舌を這わせてくる。それこそ、フェラチオの
返礼と言わんばかりの執拗さで。
 溢れた唾液が、反った背筋を垂れ落ちる。

「……どうした、さっきの威勢は……!」

 得意げに上擦った兄貴の声。
 ペニスも、張り詰めた我が身でぬかるんだ
菊座を掻き回す。
 仕返し、したいけど。
 膝が笑ってしまって、気を抜いたら身体ご
と床にキスしてしまいそうで。
 ぎゅっと両手を支えにして、弄ばれるしか
ない。

「あン、んぅっ……! なんだよ、兄貴って
ば……急に……んっ、元気に、なって……!」

 こんな憎まれ口が関の山。
 ……くそ、あんなに橙子の玩具にされたの
に、肝心な時に骨抜きなんて聞いてない。
 感じる時だけ人一倍じゃ、武器にならない
じゃないか。

「あっ、あっ――んっ、くぁ……やっ、痺れ、
てっ……!」

 背中の柔らかい舌と、暴れ狂う硬いペニス。
 二つの相反する感触で、私の中の快楽は際
限なく膨張する。
 元から弾けかけていたところへ、熱い飴の
ような炎で身を炙られる。

「くっ……随分、大人しく――なったじゃな
いか、式……?」
「……全然、おとなしくなんか、ない。
 兄貴こそ――油断、してると……んっ、ま
た、オレが勝っちゃう、からっ……!」

 このまま逆転されるなんて、冗談。
 力が抜けきる前に、一矢でも二矢でも報い
てやる。

「んん、ッ……!」

 最後の支え、真っ直ぐに床へついた両手に
バランスを託して、反撃開始。快楽を押し切
って、兄貴の玩具になっていた尻をゆっくり
と動かす。
 テンポよく進んでくるペニスへ、不意打ち
で強かに捻りを加える。

「く、ッ……!」

 内壁で亀頭を強かに擦られて、兄貴が軽く
仰け反る。その隙を逃さずに、勢いをつけて
律動する。

「あっ、くっ、ふぁぁッ……! んっ、あ…
…当たって、震えてる、兄貴のっ……!」

 熱く張り詰めた肉茎が、ぬかるんだ菊座を
ぐりぐりと擦りつける。
 でも、流されていられない。
 こうなったら、もう一度兄貴を叩き伏せて
やる。

「こ……のっ……!」

 倒れないように注意しながら、体重を後ろ
に傾けて何度も腰を兄貴にぶつける。
 くの字を描いて躍る尻に、はちきれそうに
滾ったペニスが食い込む。
 
「う……くっ、くぅっ……!」

 熟れた内壁に男根を絞られながら、兄貴は
なかなか揺るがない。さらに強く、深く、何
度も何度も腰を使ってくる。
 それが――いけない。

「ンぁ―――あっ、や……だ、めっ……! 
 んく、ひび、くっ……!」

 まだ一度目の精液がお腹に残っていて、律
動の度に身体の奥がじんと痺れる。
 おまけに、兄貴のペニスは衰えを知らずに
攻め込んでくる。丸太みたいな肉棒に中を擦
られると、抑えきれない快感が背中を突き抜
ける。

「はぁ……はぁ、あんっ……!」

 ガマン、できない。どんどん流されていく。
 でも――このまま押し切られたら、兄貴じ
ゃなくて私がやられっぱなしだ。

「くぅ――んっ……! ぁっ、うぁ、あはぁ
っ……!」

 抵抗、しなきゃ。
 考えている間にも、弛緩しきった菊座へ熱
した肉槍が押し込まれる。
 膝からどっと力が抜けていく。
 ダメだ、動かなきゃ何もできない――

「んん……ッ、あ、くふっ……! まだ、ま
だぁ……!」

 兄貴の胸板を背中で伝いながら、小刻みに
尻を振ってペニスを絡め取る。
 下腹を貫く熱に意識を持っていかれそうに
なるのを、負けたくない一心で堪える。

「う……く、式ぃっ……!」

 ようやく猛攻に僅かな隙が生まれた。
 柔肉にペニスを挟まれたまま、兄貴の身体
がくの字に仰け反る。
 またとない逆転のチャンス。
 もう、私の中から逃がすもんか。

「ふぁ、はぅっ……んっ! この、ままっ―
―!」

 あとは形振り構わずに、あらん限りの強さ
でお尻から兄貴に絡みつく。膨らんだ亀頭も、
硬く脈打つ竿も、根本まで全部包んで搾る。
 ペニスを引き抜くような激しさで、結合し
た部分を擦り、ぶつけて、撫で合わせる。

「ああ、今度、こそっ……!」

 兄貴もまるで退かずに、貪欲な腰使いで勝
負をかけてくる。
 いや、退かないどころじゃない、
 さっきより、強くなってる――?

「きゃ……うっ!」

 兄貴の吐き出す息がぐっと近付いて、無駄
のない肉づきの裸が背中に密着する。
 そうして、私のお腹を抱え込むようにして
捕えると、獣のように腰を使い出す。

「あ……っ、きゃ、あっ、ふぁぁぁッ……!」

 ぱん、ぱん、と肉同士が乾いた音を立てて
弾ける。
 真後ろからだった律動はいつのまにか斜め
に抉りこむような姿勢に変わって、兄貴のペ
ニスが床に私を縫いとめようとするかのよう
に突き刺さる。

「あ……兄、貴っ、つよ――すぎ、っ……!」

 ここに来て、兄貴は思った以上の腕力を見
せつけた。
 縫いとめられるというのが冗談に思えない
くらい、圧倒的な力で床に組み伏せられる。
 そして、上から尻を弄ぶ、杭のような屹立。

「う……んっ、あっ、あに、きぃっ……!」

 腕から、力が抜けてしまう。
 もう、自分の重みを支えていられない。
 傾いた身体を、なんとか肘をついて堪える。

「式、式っ……!」

 背中に投げかけられる、熱を帯びた声。
 身体を突き崩す激しい衝撃。

「あ……はっ、んんッ、あぁぁッ……!」

 兄貴が動くたび、私もぎしぎしと揺れる。
 もう、反撃なんてできそうになかった。
 ずぐ、ずぐ、とお尻の奥まで貫かれる。
 激しすぎる結合で、畳に這った身体が次第
に前に押される。

「あ……つっ、んぁ……!」

 豆みたいに膨れ上がった乳首が、ペニスを
打ち込まれるのに合わせて畳で擦れる。
 痛み混じりの灼熱が、そこからも私を焦が
していく。
 もう――なにも、考え、られない。

「あ――にき、もっと、つよくっ……最後、
までぇっ……!」

 畳を掴むことさえ忘れて、後ろから突き寄
せる快楽の波へ身を投げる。
 一つ、二つ、確実に強くなる律動を余さず
感じ取る。股間を、いやらしい雫が伝う。

「んっ、んっ、あぅっ、も、っ――カラダ、
熱くて……とまら、ないっ……!」

 兄貴が姿勢を変えて、また後ろから直線的
な軌道で激しく腰を使う。
 突かれて、押されて、気づけば私は床の間
の柱へ跪くようにして兄貴に責められていた。

「はぁっ、はぁっ――はぁっ……」

 もう、自分の力では四つに這うこともまま
ならなくて、逞しい柱に両手を絡める。
 溢れる唾液と吐息をその肌に塗りこめて、
残り少ない理性を総動員して構える。
 その姿を、兄貴はどう受け取ったのか。
 半ば立つようにして逃げる私へ背中から包
んで、抉り上げるように何度も貫いてきた。

「うぁ、あっ、ぁっ――!」

 天井まで飛んでいってしまいそうな、打ち
上げる衝撃。
 弛みきった菊座はそれでも律儀に収縮して、
とどめに来た兄貴のペニスを滅茶苦茶に締め
付ける。
 電気を流されたみたいに膝が震える。

「……兄、貴っ、オレ……もう、溶け、そう
っ……来て、また……オレの、なか――」

 足の先から頭の芯まで、緩やかに毒素のよ
うに熱が巡る。
 意識も、感覚も、何もかもこそげとられる。
 何かが――細い糸のような、淡い均衡が、
無音で崩れていく。

「いく、ぞ、式――!」
「ん――!」

 頷いた瞬間、
 一際大きなうねりが尻の奥まではっきりと
届く。
 頭の中がすっと白くなって、身体の奥でペ
ニスがすっと膨れるのを感じたのが、最後だ
った。

「うくっ……!」
「ふ……ぁ、あぁぁぁぁっ――!」

 私の緊張が弾けるのに重なって、兄貴も激
しくペニスから精を吐き出した。
 直腸を、二度目の白濁が駆け上がる。
 今度は、耐え切れない。
 身体に残ったすべてを押し流されて、私は
真っ白に溶け落ちた。
 菊座を駆け上る熱い飛沫を感じて、最後の
糸が千切れる。

「――あ……」

 木偶のように脱力して、ずるずると柱を伝
いながら床へくずおれる。
 緊張が根こそぎ途切れてしまったからか、
不意に頬を一筋の雫が伝った。
 その熱が、何故か閉じた瞼の奥に幹也を浮
かび上がらせた。
 私は、あいつを裏切って兄貴に抱かれた。
 腹癒せのつもりで、どこか自棄のままで、
 でも、最後はこんなに、空っぽになるまで
愉しんで。
 はしたない女だって、幹也は思うだろうか。
 でも、最初に裏切ったのはそっちだ。
 私をはしたなくしたのは、幹也なんだから。
 胸にある傷はまだ癒えていない。
 あいつが振り向いて、変わった私を見てく
れるまで。
 どんな顔をするのかはわからないけど、そ
れを見届けてやるまでは、復讐は終わらない。
 ――でも。
 本当は向かい合って笑っていたかった。
 ぬくもりを感じてみたかった。
 きっと、疑いもなく何もかも分かち合える
って、信じていたのに。
 ……私達は、どうしてこうなってしまった
んだろう。ね、幹也。

 返らない問い。
 還らない時間。
 帰れない、私。

 歩いていく先を考えるのは怖いから、少し
だけ、今は少しだけ眠ろう。
 この涙が乾いて、空っぽの自分がその温も
りさえ忘れてしまう前に――


           【情、猥ラニ歪ム】




 前頁へ  次頁へ 二次創作頁へ TOPへ