もぞもぞと毛布の中で動き位置を変える。
 もうそろそろ眠ろうかなと思っていた。
 少しばかり、頭の芯がぼんやりとしている。

 このままの体勢だと眠る事なんて出来ない。
 さっきから、やたらと意識しているんだから。
 ちょっと足や手が触れただけで。
 よし、こうして少し離れてしまえば……。

「だーめ」

 もう安らかにお眠りかと思ったのに。
 強引に寝返りをさせられた。
 おまけに柔らかい体が寄り添い、脚と手を絡めてくる。
 鼻腔をどこか甘い香りが撫ぜる。
 さっきまでの頭の芯を熱くさせて、狂わせるオンナのそれとはまた違う香り。
 口当たりは良いがいつの間にか口にしたものを酔わせてしまう美酒にも似て
いる。
 顔を押し当てて、その匂いに包まれたくなる。 

「一子さん、まだ眠ってなかったんですか」
「有間こそ」
「だって、こんな状態じゃ眠れないですよ」

 こんな格好……、俺はパンツ一丁で、一子さんはショーツとワイシャツだけ。
 くっついて寝ていると胸だのお腹だの腿だのが、直接肌を合わせる事となる。
 もぞもぞと少し腰を離す。
 でも一子さんは逃さないとばかりに、脚を動かす。
 少し反応してしまう。
 今更ではあるけど、こう節操無い処を見られる、いや触れられるのは……。

「さっきはもっと凄いこと平気でやっていただろ?」
「ええと」
「やめてって言っても離してくれなくて、あんなに……」
「そんな事言うけど、一子さんだって指を取って」

 思い出すと少しくらくらとする。
 一子さんも思い出したのか、心なしか恥ずかしげな顔をする。
 でも、体は離そうとしない。

「それに比べたら、寝る時にひっつくくらい何ともないだろう?」
「かえって今の方が気になりますよ」
「まあ、そうだろうな」
「え?」
「あたしも有間が横にいると思うとドキドキして眠れない」

 悪戯っぽい顔と、恥ずかしそうな顔を共存させて、囁くように一子さんが俺
に告白する。
 幾分からかっているのもあるだろうけど、その顔は本当だと告げている。
 手が背に触れた。
 今度は逃げないで、俺も一子さんに少しだけ体を近づけた。
 嬉しそうな一子さんの顔。

「お、赤くなってるよ、有間」
「誰のせいです」
「あたしはありのままの事実を述べただけだよ。本当に有間とこうしているだ
けでも嬉しいもの」
 
 その言葉は凄く……、頬を熱くさせる。
 でも年上の余裕か、俺が反応したのを見て、ふふふと上にたった笑みを浮か
べて、また体を摺り寄せてくる。
 いいです、もう好きにして下さい。
 いいように玩具にされてる気がする。
 指で俺の胸にのの字を書いてみたりしているし。

「有間って年上に好かれるタイプだよな」
「そうですか」
「ああ。一見おとなしい良い子そうで、よく見ると壊れている処とか、自分も
どこかおかしいのかなと思ってる女を惹き付けて、保護欲を掻き立てる」

 そう言って一子さんはぎゅっと俺を抱き締めた。
 頬と頬が合わさり、柔らかく胸が形を変える。
 胸の先が少し……。
 うーん、と猫が喜んでいる時のような声を洩らす。
 もう、抗えない。
 一子さんが一しきり俺との抱きごこちを確かめ、ようやく少しだけ体を離し
て貰えた。
 と言っても、ぴたっと体が密着している事には違いは無い。
 
 このままだと、またなし崩しに……、それもいいかな。
 そう思いつつ、一子さんの言葉をちらと考えていた。
 年上の人か。
 当然、嫌いではないし、と言うか嫌なら一子さんとこういう事をしていない
わけで。
 でも過去の事でなら、どうなんだろう……。

「有間?」
「……」 
「うん? 何か思い出しているな?」
「え? いえ、そ、そんな事ありませんよ」

 俺の眼を至近距離で見つめて、一子さんは高い洞察力の一端を見せた。
 慌てて顔を逸らそうとしたが、頬を手で軽く押さえられてしまった。
 抗えず、正面から目と目が合う。

「ふうん、なるほどね」
「なにを納得しているんです」
「そうか、身に憶えがあるんだ」
「あ、イチゴさん、何か誤、むぐっっ」
「んんッッ これでも言わないかな?」

 体を動かし、胸の先が俺の胸板を擦る。
 さらにもう一度、唇を奪われた。

「な、なんでも無いですってば」

 ああ、また。
 でも一子さんの体から立ち上るオンナの匂いに、早くも俺は反応している。
 そんな嬉しい責めを受けつつ、俺は−−−−−


     1.シエル先輩の事を思い出していた。

     2.朱鷺恵さんの事を思い出していた。

     3.啓子さんの事を思い出していた。
      


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