フィールドに出ればそれなりに敵も出るわけで、

「しっかり守れよ!」

「言われなくとも!」

 どう動くか分からない子供を守りながらというのは気を使う。

 特に、多数出てくると。

 

 

 

 

「大気に宿る火の精霊よ 我が声に応えて御身の力をここに示せ

 灼熱の焔と化して 彼のものを灰燼と成せ!――――――ギラ!!」

 

「灼熱の炎と化して 彼のものを灰燼と成せ―――――ギラ!」

 

「焼き尽くせっ―――ギラ!」

 

 背に火を背負って転げ回る大猿―――マンドリルに鋼の剣を突き刺して振り返る。

 今回は、羽鳥がちょーこを守るため、後衛に徹している。

 よって、呪文を連発しているわけだが、

「最近、詠唱短くないか?」

「慣れたから」

 訝しげに問うたら、あっさり認められた。

「そういうものか?」

「制御するために唱えてるだけだから、コントロールできる自信があれば発動の声以外は省略できるんだ」

「へぇ・・・・・・儀式の時とか、やたら長いのはそれだけ大呪文ということか?」

「あれはパフォーマンス。八割方飾りだよ。ま、よっぽど才能無い人ならそれくらい必要かもだけど。

 司祭になるのに必要なのは、魔力よりコネだよね」

 ・・・・・・・・・裏事情を知ってしまった気がする。もしかして、常識だったらどうしよう。

 世間知らずっぷりについては自覚があるので、そんな事を考えていたら、注意力が散漫になっていたらしい。

 

 

 気配に反応する前に、羽鳥に突き飛ばされた。

 ・・・・・・・・・奴はちょーこを抱えていたので『蹴り倒された』が正しいかもしれない。

 ともあれその背に、熱気が通過する。

「リザードフライ!」

 それも、四匹も。

 まずい、囲まれた。

 飛び掛ってきた一匹を切り捨てるが、数が多い。

 

「熱っ!」

「羽鳥!?」

 火球を避け損ねたらしい羽鳥が、足を押さえて蹲る。

「ちょーこ走って!」

 羽鳥はその場で槍を構えて叫ぶが、しかし。

「・・・・・・ヤ」

「ちょーこ!?」

 ちょーこを取り巻く大気が、揺らめいた。

 

 

「っヤァーーーー!!!

 

 ゴォッ!

 ちょーこを中心に、風が逆巻いた。

 荒れ狂う、暴力的なまでのそれに、思わず目を庇って手を翳し、

 

 降ろした時には、すべて終わっていた。

 

 

 呆然としている羽鳥と、キョトンとしているちょーこと、いつの間にかその頭上に出現した角のある青い獣。

 

 そして、原型を留めぬほど切り刻まれたリザードフライの残骸。

 

 

 

 

 

「ハーゴンに脅威とされる事はある」

 しばしして、羽鳥がぼそりと呟いた。

「今の、お前じゃあ・・・・・・」

「ないよ。末恐ろしいね」

「だって、発動の声は必要だって・・・・・」

「うん、それすら省略できるってのは初めて知ったよ。これが天才ってやつ?」

 言って、視線を流す。

 ガァと戯れている少女から、それを想像するのは難しかった。

 

「ちょっと、悔しいかな。お株奪われちゃった」

「回復はお前の仕事だろ。早く治せ」

「どーだか」

 一度肩を竦めた羽鳥が、集中に入る。

 

「全能なる精霊ルビスよ その力もて我の・・・・・・・・・」

 

「はどり、いたい?」

「へ?あ、うん痛いけど、大丈夫だよ。すぐ治すから」

 今にも泣きそうに瞳を潤ませたちょーこに覗き込まれ、面食らった羽鳥の詠唱が途切れた。

 

「いたいのいたいの とんでけー!」

「あー、ありがとねちょー、こ・・・・・・・お?」

 火傷に翳したちょーこの手から、光が溢れる。

 痛々しかった患部は、見る間に跡形も無くなった。

 

「・・・・・・・・・べホイミだ」

「は、羽鳥・・・・・?」

 先程、お株を取られたとか言っていたので、今のは追い討ちだったんじゃないかと危惧したが、

「ありがと、ちょーこ」

「えへへー」

 その笑顔に他意は無さそうだ。

 

「羽鳥?」

「大丈夫、あんまり微笑ましかったから、和んだ」

「そうか」

「うん。でも、確かにそろそろべホイミ欲しい所だね。僕も頑張るよ」

 楽しげに宣言するものだから、つられて小さく笑みが零れた。

 

「前向きな奴」

「長所ですから♪」

 きっと、その宣言が達成されるのも、そう遠くないだろうなと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

バギを覚えてからの王女は使えますよね。素早いし。最初からべホイミ使えるのも凄い。

でも打たれ弱いのでドッキドキです。